表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/46

#3 再スタート

 小鳥の歌声と朝日の照り付けで目が覚めた。

 そよそよと吹く風がクロスをかすかに揺らし、草の匂いが鼻をかすめる。


 視線を移動させると、ティアナはすでに体を起こしているのが見えた。


 そういえば、あの後フィリアと一緒に寝たんだっけ。

 俺は隣にいるフィリアをちらりと見た。


 ――寝てる。


 昨日のことを思えば、それも無理はない。起こすには気が引ける。


 俺はそっと腰を上げ、ティアナの隣へ移動する。


 朝の光の中で見る彼女は、昨夜よりもずっとはっきりしていた。


 エメラルドのように澄んだ瞳。荒れを知らない綺麗な肌。

 金木犀を夜露で薄めたような、淡く透けるような金色で耳が隠れるほどの短い髪が風に揺れ、貴族のお屋敷に敷かれたカーペットのような深紅のカチューシャが額の上で光を弾いている。


 ティアナに声をかけようとした。昨日フィリアに教わったはずだ。

 こういうとき、何て言うんだっけ……。


 そうだ。“おはよう”だ。

 アルカディアでも朝の挨拶は一般的だったので、なじみがある。


 けど、普段使っている言葉とは別の言葉を話すのは、なんだか慣れない感じがして恥ずかしい。


「……オハヨウ」


 喋ることを覚えたばかりの子どものような慣れない言葉で、俺はティアナに挨拶した。ティアナは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつも通りの表情に戻った。


「おはよう」


 ティアナが挨拶を返してくれた。それだけのことだが、俺とティアナに繋がりができたみたいで胸が温かくなった。


 しかし、その後の言葉がつっかえて出てこない。

 それはティアナも同じだったようで――


 ひと時の沈黙。


 聞こえてくる小鳥の歌声が、二人の気まずさを和らげているように感じた。


 話したいことはいくらでもあるのにな。

 これは、もう一度勉強が必要だなと自嘲する。




 そんな空気を破るように、俺の腹の虫が鳴った。


 それを聞いたティアナは「ふふっ」と微笑みをうかべて、荷物からブロック状の棒を俺に差し出した。


 ――これは何だろう?


 俺は差し出されたものをじっと見つめていると、ティアナは何かに気付いたような顔を浮かべて、手を引っ込めると、棒を折ってみせた。

 そして、そのまま口に運ぶ。


 これは食べ物だったのか。彼女の意図がようやく理解できた。

 もう一度差し出されたブロック棒を受け取り、俺も同じように口に運んだ。


 すると、ほんのりとした甘みと、メロンのようなフルーツ系の香りがふわりと鼻を抜けた。

 噛んだ瞬間、歯に当たったところから崩れていき、中は妙に密度があって、噛むたびにじわじわと口の中の水分を奪っていくような乾いた感触があった。


 派手な美味しさではない。でも、どこかクセになる。ふとしたときにまた食べたくなる、そんな食べ物だった。


「美味しい」


 心の中でつぶやきながら、腹におさめた。




「アリガトウ」


 ティアナに感謝の言葉を伝える。昨日教わった言葉を選択したが、ちゃんと伝わらない可能性も考慮して、手を合わせて“ごちそうさま”の表現もした。



 * ――――――



 食べ物を頂いて十分ほどたった頃、野営キャンプで使用していたクロスの方向からカサカサとこすれる音が聞こえた。


 フィリアが目をこすって、こちらを見つめている。

 夜明けの光を受けた彼女の髪は、姉と同じ色に輝いていた。


 フィリアは自分の髪を金糸のように束ね、左右に結んでいる。結び目には、これまたティアナのカチューシャと同じ色をした、深紅の細いリボンが揺れていた。


 それに気づいたティアナはフィリアの元に駆け寄り、話し始めた。


 ――何を言っているのかはわからなかったが。


 俺は空を見上げた。浮かんでいるものは太陽くらいで、雲一つない晴天だった。もちろん浮遊庭園などありゃしない。


(アルカディアなら、空を見上げれば必ずあったのにな――)


 改めてここがアルカディアとは全く違うところであると再認識した。


 カノンは、無事だろうか。

 大災害に巻き込まれて離れ離れになってしまった、たった一人の理解者。

 会いたいな――




 二人の会話が終わったようなので、俺はフィリアに尋ねた。


「俺の 他に もう一人 いなかったか」


「ううん いたのは アルトさんだけだったよ」


 即答だった。とすると、別のところに行ったのだろうか。


「まちに いけば わかるかも。よければ いっしょに こない?」


 フィリアが提案してきた。


「いいのか?」


「いいよ お姉ちゃんと お話してたの いったん まちに もどろうって」


 二人の優しさをかみしめながら、俺は二つ返事で了承し、すくっとその場から立ち上がった。



 * ――――――



 俺たち3人は町へ向かうため、森の中を歩いている。

 ティアナが先陣を切って進み、フィリアと俺は後ろからついていく格好だ。


 フィリアによると、ティアナは剣士をしているから、前にいると都合がいいそうだ。


 払われた蔦を踏みつけてザッザッと音を鳴らしながら前へ進む。

 すると、突然上からどろっとしたものが落ちて来た。


 なんだこいつは――


 俺がびっくりして後ろに下がると、そいつはティアナめがけて突っ込んだ。


 ティアナは右手に持った剣で応戦する。


 そいつは瞬く間に真っ二つになり、程なくして動かなくなった。


 ティアナは躊躇なくそいつにの中に手を入れ、中心にあるコアのようなものを取り出した。

 俺はフィリアに今何が起こったのかの説明を求める。



 * ――――――



 今落ちて来たものはスライムという魔物らしい。


 魔物は人を襲うため、恐れられてはいるが

 スライムという魔物は魔物の中でもかなり弱い部類だったらしく、剣でコアにダメージを与えればさっきのように簡単に倒せてしまうそうだ。


 弱い“部類”ということは他にも魔物がいるのだろうかという疑問が出たので素直に尋ねてみる。


 獣型の魔物はウルフや角ウサギなど。

 人型のゴブリンやオークというのもいるそうだ。


 どれも人間には脅威となる存在だが、ウルフや角ウサギは食材にもなり、町では頻繁に取引されているらしい。

 話はそれるがティアナはウルフのステーキが大好物だそうだ。




 また、魔物は強さごとにランク付けされているらしい。

 情報の共有も盛んで、誰がどんな魔物を倒したか、どのくらい危険かといった情報が町中に流通しているそうだ。


 ランクはGからA、そしてその上にSが存在し、ランクA以上となると国が討伐隊を組むほどの脅威となる。


 なるほど。なんとなく理解した。脅威となる魔物をランク付けすることで、人数の規模を調整して被害を減らす仕組みになっているのか。


 ふむ……。これだけ細かく魔物がランク分けされてるなら、それに対抗する側――人間にも、何かしらの仕組みがあるんじゃないか? 


 そう思ってフィリアに尋ねてみると、案の定だった。いわゆる「冒険者」とよばれるらしい。

 町の「ギルド」と呼ばれるところから依頼を受注し、こなす。依頼の中には魔物の討伐依頼も存在し、町の秩序を保っている。


 冒険者にも実績に応じてGからA、そしてSとランク分けがされる仕組みとなっており、駆け出し冒険者が高いランクの魔物討伐依頼を受けないよう線引きしている。


 彼女たちも冒険者の一人であり、今はEランクだそうだ。


 なるほど。

 俺は魔物がいる場所に来てしまったわけか。


 最初こそびっくりしたものの、もう怖さは感じていなかった。ティアナが片手間に倒しているのを見たせいかもしれない。




 しかし、その油断が、3人の命運を左右することになるとは、この時はまだ知らなかった……。



次の更新は 11月2日 23時10分頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ