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#32 異変

 翌日、俺たちはギルドへと向かうため、宿を出た。


 いつも布団と一体化しているティアナも今日に限っては早起きだ。

 彼女は稽古をつけてもらうんだと意気込んでいる。


 宿から出ると、空は灰色が広がっていて、心なしかどんよりとしている。


 風がいつもより強く、細い路地に置き捨てられていた紙袋が、風に巻かれて空へと舞い上がっていく。


 朝なのに朝じゃないような感じがして、なんだかとても不思議だった。




「風強っ!」


 身体に服がぱたぱたと打ち付けられる。天候すら操作できたアルカディアではこんなに強い風が吹くことはなかった。気を付けないと転んでしまいそうだ。


「ここまで風が強いの、久しぶり」


 フィリアが身につけている深紅のリボンは激しく揺れている。


「何かの前触れかもね」


 ティアナが冗談っぽくつぶやく。

 おいおい、物騒なこと言わないでくれよ……。




 向かい風を受け、右腕を額の前に持っていき、目を守りながら進んでいく。


 ギルドの扉を開けて中に入ると、建物が風から守ってくれるかのように服や髪の激しい揺れはおさまった。


 目線を送り、エドたちを探す。

 しかし、依頼を見ていたりパーティ同士で話し合いしていたりする冒険者はいても、エドの姿は見られない。


 俺はカウンターまで足を運び、受付嬢に尋ねる。


「エドさん達は依頼で明日まで町を離れるそうですよ。ワイバーンを討伐したばかりなのに――無理をしていないといいのですが」


 受付嬢は眉を下げた。依頼中というなら仕方ない。


 俺はワイバーンの肝を取り出し、換金をお願いした。


 ――ついでに、今まで忘れていたゴブリンの素材も。


「ワイバーンの肝は共同討伐で得たものなので、換金額の半分はエドさんたちにお願いします」


「かしこまりました」


 受付嬢はワイバーンの肝を受け取り、査定を始めた。



 * ――――――



「こちらの肝は非常に状態がよいため、合計66000リルで買い取らせていただきます。半分はエドさん達にお渡しするという話でしたので、33000リルのお渡しとなります。なお、ゴブリンの素材は3000リルになります」


 俺は報酬を受け取り、お金それぞれに分配した後、自分の手持ちを計算した。

 手元のお金は24万リル。カノンの日記まではまだ少し必要だ。




「アルトくん。お金が足りなくなりそうで、今はこれしか……」


 フィリアは申し訳なさそうに2万リルを差し出した。


 それでも、カノンの日記のために協力してくれる。その事実に俺は感謝の気持ちがこみ上げてきた。


「ありがとう。俺にとっては十分すぎるくらいだよ」


 俺は本心を伝えると、フィリアはホッとしたように視線を落とした。



 * ――――――



 お金の計算を終えた俺は今日も壁に貼られた数えきれないほどの依頼の中から、条件の良さそうなものを探していた。


「おっ。この依頼良さそうかも」


 たまたま目に入ったものは、薬の原料になる薬草「ツルハ」の採取依頼だった。依頼には絵も描かれていて、くるくると渦巻き状に伸ばす茎が特徴だそうだ。


 俺は依頼書をとるために右腕を上に伸ばしたその時――


「うっ」


 右肩に強い痛みが襲った。思わず左手で右肩をかばう。


「アルトくん、大丈夫?」


 フィリアは眉を下げて、じっと俺の肩を見つめていた。声の調子は変わらないのに、その視線にはどこか焦りが滲んでいる。


「ちょっと痛んだだけだ。大丈夫だよ」


 俺は肩をおさえていた左手を戻し、なんでもないようなふりをして見せた。


「アルトくん。あまり調子良くなそうだし、今日は休まない?」


 まだ少し痛むが、これくらい平気だ。

 俺は左手で依頼をはがす。


「平気だよ」


 俺は依頼書を左手に持ち、そのまま受付に提出した。


「アルト、辛かったらちゃんと言ってね」


 一瞬だけ真剣な顔をしたかと思えば、すぐに穏やかな笑顔に戻っていた。

 ティアナなりに、俺のことを気にかけてくれているのが伝わってくる。



 * ――――――



 ギルドから出た俺は急に吹き荒れる風に、思わずよろめいた。

 風は強いが、歩けないほどではない。

 採取依頼のために、俺たちは町の外に出た。


 採取依頼のため、町を出てしばらく歩いたところで――

 群生地を目指して歩きながら、薬草「ツルハ」を探していた。


 依頼によると、町の近くに群生地があるそうで、探せばすぐに見つかるとの事だ。


「さーてっ、依頼を確認するよ。必要な数は30本。そんなに難しくないと思うし、すぐ集めて早く帰ろうね」


 ティアナによって俺たちの気持ちが引き締まる。


 この依頼、さっさと終わらせよう。




 群生地に到着した俺は、依頼書に書かれた絵と同じ形をした植物を見つけた。


「これがツルハか。妙な形だな」


 実際に見ると、独特な形がより鮮明に映る。


「くるくるしてて、可愛いかも」


 フィリアはくすくすと笑ってツルハに手を伸ばした。


 俺も足を曲げ、左手を伸ばした。右手を動かすと肩に痛みが走るからだ。


 3人で協力した俺たちは、あっという間に目標数に到達していた。


「ふぅ、集め終えたわね。それじゃ、帰ろっか」


 ティアナは立ち上がったのに合わせて俺とフィリアも立ち上がり、町へと戻るために足を動かした。




 数十歩歩いたところでティアナは突然立ち止まり、剣を抜いて体を守るようにして横に構える。


 刹那、剣に何かが当たったような音がした。


「木の上から不意打ちしようとしたんでしょうけど、甘いわね」


 目の前にいたのは、ゴブリンだった。


 ティアナはまるでゴブリンの攻撃を予知していたかのように防御姿勢に入ったと思えば、そのまま剣がゴブリンの胴を斬り裂いた。


 瞬く間にゴブリンにトドメを刺し、解体までも終わらせたティアナは、達成感に満ちたのか涼しい顔をしている。


「よし、おーわりっ」


 俺たちは気を取り直して、町へと向かった。




 町に戻るころには、強かった風も少し落ち着いていた。空は灰色のままだったが、風が落ち着いたぶん少しだけ歩きやすくなっている。

 町を歩く人も朝よりは多くなっていて、遠くで店に出入りしているのが見えた。



 ギルドに到着した俺は、依頼の達成と納品、ついでに倒したゴブリンの素材買い取りを済ませた。俺の取り分は合わせて5千リルだ。


 報酬を受け取った俺たちは、そのままギルドを後にした。



 いつもの宿に到着した俺は椅子に座り、両腕を上に伸ばす。


 すると、右肩から強い刺激を感じた。

 あまりの痛みに俺はそのまま机に額をつけた。額からは玉のような汗が噴き出るのを感じる。


「ぐっ。いてえ――」


「アルト、今日はしっかり休むこと」


 ティアナの声が少しだけ低く感じた。


「わかった。依頼漬けで限界だったのかもしれない」


 俺はその場でしばらく休憩した。



 * ――――――



 しばらくして痛みが落ち着いた俺は、お風呂に入るため浴場へと向かった。


 脱衣所は土足禁止なので、脱いだ靴を手に持ち、奥に進んでいく。


 靴をホルダーの上に置き、盗難防止にチェーンをつける。

 すぐそばに銀色の四角くて縦長の形をした衣類洗浄の魔道具に服を預けようとした――その時だった。


「――!?」


 叫びは声にならず、代わりに目が自然と大きく広がる。



 肩が――紫色に変わっていた。

 あまりにも異様で、現実感がなかった。


ついに……。

ついに!!!!

10万文字突破しました!!

新人がエタらずここまで書ける割合は少ないと聞きます。

達成できて本当に嬉しいです。

これも、多数ある作品の中からうちの作品を読んでくださる皆さまのおかげです。

本当にありがとうございます。これからも頑張ります。


次の更新はおそらく12月27日になると思います。

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