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#28 連携の極意

 俺たちはワイバーンがいる山に到着した。


「ここからが勝負どころだ。全員、準備はいいかい」


 エドの確認に俺は無言でうなずく。


「まずは僕、カルラ、ダッカスが先導する。君たちは後ろからついてきてくれ」


 先輩冒険者3人は山を登り始めた。俺たちもそれに続く。

 とはいえ、道なき道というわけではなく、人が通れる導線は確保されているようだ。


 先導する先輩冒険者3人の後ろ姿を目に焼き付ける。

 登り始めたばかりの坂道はまだ穏やかで、俺たちも余裕を持ってついていけた。




 登り始めてから20分ほどたったあたりから、斜面は徐々に険しさを増していった。


 岩場では手をつかってよじ登る場面さえあり、呼吸が浅くなり、口の中が苦味で満たされる。


 次第に先輩冒険者の背中は遠くなり、追いつくのがやっとだった。


 照り付ける日差し。風を遮る岩肌の数々。額から滴る汗。ふと隣に目をやると、フィリアが息を切らしていた。金木犀の色をした髪につけられた深紅のリボンからは雫がぽたぽたと滴っている。


「大丈夫か?」


 俺は声をかける。とはいえ、俺も限界に近い。


「だ、大丈夫だよ」


 フィリアはそう言うが、歯を食いしばっているのは見ればわかる。一方ティアナは涼しい顔をしており、俺たちにペースを合わせてくれている。


「フィリア、荷物持とうかしら?」


「ううん平気。ありがとう、お姉ちゃん」


 フィリアは断ったが、顔を赤くしていて今にも倒れそうだった。


「こういうときくらい頼りなさいよねっ」


 そんな様子を見かねたのか、ティアナはお構いなしといった態度でフィリアの荷物の一部を預かった。

 荷物が軽くなったフィリアの表情は、険しさが心なしか和らいでいた。



 * ――――――



 山を登り始めてからしばらくして、先輩冒険者たちは頭上に岩棚が点在する場所で立ち止まった。


 いくつもの岩が空を覆うように突き出しており、上空からは死角になる地形だ。


 先輩冒険者たちは姿勢を崩さずに立っていた。日陰に入ったとはいえ、急な斜面を登ったとは思えないほどに。


 俺たちがようやくそこにたどり着くと、エドが上を指さした。




「見えるかい? あれがワイバーンだよ」


 岩の隙間から見上げると、大きな翼を持った魔物が空高くから旋回しているのが見えた。


「ここから先は奴らに見つかる可能性もある。休憩をはさんだら、一気に洞窟まで進もうと思う」


 エドはそう言うが、俺はもう限界だった。


 だが、素直に伝えたらがっかりされるかもしれない――とは思ったが、これから行うのはランクC相当の極めて危険な依頼だ。一応、距離を確認しておこう。


「すみません。あとどれくらいでつきますか?」


「ここからだと、あと5分ほどかかるかな」


 5分か。とは言え、急いで抜けるには足が持たなかった。


「疲れてるよね。よければ、僕が荷物を持つよ」


 エドはこちらの様子を見て察したのか、両手を出して荷物を受け取ろうとしてくれた。俺は頭を下げ、荷物を預ける。


 荷物が軽くなった俺たちは、少しだけ息を整えることができた。

 フィリアも先ほどより表情に余裕が戻ってきている。




 俺は移動を始めたエドの後ろへついていった。エドたち先輩冒険者の移動ペースは上がっている。それでも何とかついてこられたのは、荷物を代わりに持ってもらっているからだ。


 ――創作魔法「ストレージ」の容量を増やすことができれば、こんな苦労はしなくていいのだろうな。


 落ち着いたら、魔法の練習をしたい。そう思った。



 * ――――――



「あそこだ。全員この中に入ってくれ」


 エドが指をさした、数十メートルほど先に洞窟があった。


 穴は大きく、俺達5人が同時に入っても風が抜けるくらいには横幅がある。思っていた以上に広い。これなら、ワイバーンが入り込んでも不思議じゃない――そう感じさせるほどだった。


 エドら先輩冒険者の後ろに続き、俺達3人も洞窟の中へと足を進めたその時――


 空から、鳴き声がけたたましく響いた。


「ワイバーンだ! 急げ!」


 エドの叫びに反応し、俺は最後の力を振り絞って洞窟に向かって走る。


 幸い、洞窟までの距離はさほど離れていなかったため、俺とティアナはワイバーンに何もされることなく、洞窟内に入ることができた。


 一方、逃げ遅れたフィリアの後ろには猛スピードで接近してくるワイバーンが見える。


 このままでは、フィリアが危ない!


 俺はすぐに杖を構え、魔法陣を展開した。


 しかし、魔法発動よりも早く、ワイバーンの奇声が響き渡る。直後、ワイバーンは勢い余って岩肌に叩きつけられた。


「矢で仕留めたわ。すぐに追撃に向かってちょうだい」


 フィリアを守ったのは俺ではなく――カルラだった。


 エドはワイバーンが再度飛行する間もなく、華麗に剣技を放っている。


 ――速い。敵に攻撃の隙を一切与えていない。


 俺は予め展開しておいた魔法陣を使い、氷魔法でワイバーンに追撃した。エドの動きが速いので、味方打ちにならないように気を付けながら。


 それでもワイバーンはすくっと立ち上がる。あれだけ攻撃を食らいながら立ち上がれるとは……。


 ワイバーンは翼を広げ、突風を起こした。風に飛ばされたエドはワイバーンから引き離される。エドは空中で体勢を変え、足から着地した。

 たとえ反撃されても身体のダメージを最小限に抑えるその身のこなしは、彼が知識だけではなく技能でも高い実力を持った冒険者であることが伝わる。


 エドとワイバーンはお互いを視界に捉え続けている。

 だが、ワイバーンも上に気を配る余裕まではなかったようで――


 ワイバーンの頭目がけて斧を振るうダッカス。重力と遠心力を活かした重い一撃は、ワイバーンの頭蓋骨を真っ二つに砕き、その場に横たわらせた。


「すげえ。あれが本物の冒険者か」


 それぞれの得意分野を活かした連携攻撃、ミスをカバーする適応力、そして圧倒的な戦闘力を有していた先輩冒険者に、俺は言葉を失った。




「大丈夫か?」


 エドはフィリアに駆け寄った。ティアナに身体を支えてもらいながら呼吸を整えている。


「はい。ありがとうございました……。次はちゃんとします。すみませんでした」


 少しずつ呼吸が安定したフィリアは杖を取り出し、両手で構えた。




「さっきは予定が狂ってしまったけど、これからは計画通りに進める。上空にワイバーンが全部で3体見えるだろう」


 上空のワイバーンはこちらの様子をうかがいながら、空を旋回している。同胞がやられているのだから、やすやすと見逃しはしないだろう。


「風魔法で挑発ですね」


 俺は杖を構え、魔法陣を展開した。慣れない風魔法は暴発により味方を巻き込む危険性を孕んでいる。祝詞は――やめておこう。


 杖先が緑色に光る。風を司る魔法陣は、俺の服や髪、空色のペンダントを激しく揺らしていた。


「サイクロン」


 魔法陣から目で見える程高速回転した風の渦を発射する。それがワイバーンの1体にかすった。ワイバーンは空中でバランスを崩したが、すぐに体制を整える。


 そいつは一度、空高く舞い上がり、他の二体を回るように動いた。そして、三体が一斉に攻撃した先――俺に向かって急降下した。


「コールドバルカン」


 フィリアの詠唱と同時に、空気が凍りつくような音が響き、鋭く尖った大量の氷の槍が魔法陣から空気を裂くような速さでワイバーンに突き抜ける。それらの一部がワイバーンの翼を貫き、3体のワイバーンは鳴き声と共に散り散りになった。


 この速度や品質、間違いなく祝詞によるものだ。


「はあ、はあ。アルトくんの真似をしたよ。粗削りなのは許してね」


 フィリアの呼吸が荒くなっている。さっきは安定していたのに、どうして。

 もしかして、あの時は無理をしていたのか。

 仲間なのに、気付けないなんて。


「ごめん。無理をさせて」


 フィリアは荷物から回復薬を取り出し、一気に口へ流し込んだ。


「ううん、私だって守られるだけにはなりたくない。一緒に戦うよ」


 彼女は再度杖を構え、魔法陣を展開した。


 散り散りになったワイバーンは咆哮と共に、3体一斉に急降下した。さっきの攻撃で翼を裂かれているにも関わらず、それを感じさせない飛行能力に俺は思考をショートさせられそうになる。


 できるだけ冷静ならなくては。俺はワイバーンの一体に風魔法を放つ。こいつはフィリアめがけて接近しているから、ターゲットを俺に引きつけたい。


「サイクロン」


 奴は魔法を大きく進路を変えてかわした。だが、これでいい。奴は俺に向かってくるだろう。


 しかし、奴は俺の予想を大きく裏切った。


 進路を変えた先には――ダッカスがいる。


「危ない!」


 俺が叫ぶ前にダッカスはワイバーンを見据え、斧を横に構えて突進をガードしていた。


「でっけえコウモリよ、この時を待ってたぜ」


 ダッカスの渋い声と共に巨大な斧が軽々しく振り下ろされる。ワイバーンは咄嗟に避けたが、そこは洞窟の中。つまり空の広い場所と違って、こちらに地の利がある。


「氷魔法でワイバーンを右に移動させます」


「任せたぜ、上から一撃お見舞いしてやろう」


「はい、奴らに見せてやりましょう。俺たちの“連携の極意”を」


 パーティは別々だけど、俺とダッカス。二人には確かに気持ちを一つにしていた。



お読みいただきありがとうございます。


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次の更新は 12月12日の夜を予定しております。

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