#27 常識のズレ
俺たち6人は休憩をはさみつつ、山岳部を目指して歩き続けた。
出発する頃は明るかった空も、今はすっかり暗くなり、上を見上げると小さな星が控えめに煌めいていた。
右手にある森からは虫の声が響き始め、そよ風は冷たいものに変わっている。
「今日はこのあたりで野営しよう」
エドはみんなに提案をした。俺たちも承諾し、荷物からクロスを取り出して野営の準備を始める。
いつものように森から薪を集め、魔法で火をつけた。そして、ティアナは携帯鍋を火にかざすと――
「ねえ、あなたたち何をしているの?」
声をかけたのはカルラだった。
「何って、料理ですけど」
ティアナは当たり前のことをどうしてと言わんばかりの様子だ。
「料理って……。食材ないじゃない」
カルラは疑問をぶつけると、ティアナは荷物から冷凍されたタイガーウルフの肉を見せつけた。
「あっ、ありえない……。魔道具なしに食品を凍らせるなんて」
「あたしたちにはできるんですよ、よかったら一緒に食べます? 遠慮しないでいいっすよ。みんなで食べた方が美味しいんで」
ティアナは携帯鍋に仕込みを始めた。
「お姉ちゃん。肉を解凍するね」
フィリアは杖を構え、タイガーウルフの冷凍状態を解除した。
* ――――――
ティアナはタイガーウルフの肉を6人均等に切り分けた。
――と思ったら、やはりティアナの分は大きくないか? もう慣れたけど。
「できましたよー。みんな食べて食べて」
俺は盛られた肉を一口サイズに切って口に運ぶ。
「うん。相変わらず美味しいよ」
俺はティアナに率直な感想を伝えた。
一方、Cランク冒険者たちはタイガーウルフの肉を見て唖然としている。
「すごい……。野営中に調理済みのものを食べられるなんて」
「いつもの乾パンとは大違いだ」
エドとカルラの話では、普段は野営する際乾パンを携帯しているらしい。他の冒険者とも一時的に依頼をともにすることはあったが、調理済みのものが出てきたのは今回が初めてだと言う。
フィリアの氷魔法での保存と、ティアナの調理。これらは他の冒険者にとっては珍しいことだと再認識し、俺は二人に改めて感謝をした。
「これ、マジで食っていいのか」
ダッカスは肉とティアナを交互に視線を向けて、おそるおそる聞いた。ティアナは頷くと、彼は一口で肉を頬張った。
背中に斧を背負う程の屈強な肉体に似合う、豪快すぎる食べ方だった。だが、調理済みだから熱いはず。大丈夫だろうか。
「アァー! うめえ!」
俺の心配は杞憂だったようで、ご満悦の様子。
「ちょっと! 他人の前でそんな食べ方やめなさいよ」
カルラは凛とした声色でびしっとダッカスを注意したが、ダッカスは気にとめない。
「すみませんね」
カルラは頭を下げたが、俺は全く気にしてない。
「大丈夫ですよ。満足いただけて何よりです」
肉を焼いた本人のティアナを見ると、二人の様子にくすくすと笑っているだけだ。
その表情からは嫌そうな気持ちは全く感じられない。
続いて、エドとカルラも肉を口に運ぶが、二人ともその味に感動していた。
「私の行きつけのステーキ屋に匹敵するわ」
カルラの軽口に、ティアナは頬を赤らめる。
「そんな。褒めてもステーキしか出ないっすよ」
冗談に冗談で返したティアナに、ふふっと笑みを浮かべるフィリア。
いつもは3人だったけど、大人数での野営も悪くないな。そう思った。
* ――――――
すでに夕食を終えた6人は見張りの当番を話し合っていた。その結果、俺とフィリア、ダッカスとエド、ティアナとカルラの順番だ。
見張りの真ん中は一番つらいところなのでできれば避けたかったが、エドとダッカスが自主的に引き受けてくれたので甘えることにした。
4人が寝静まり、見張りをしていると、フィリアがそっと隣に座ってきた。
「よかったね、アルトくん」
「何が?」
俺はその意味がわからなくて、思わず聞き返した。
「3人が優しい人で。私、声をかけられたときちょっぴり不安だったの。冒険者って、荒っぽい人がたくさんいるから」
俺は冒険者登録のときに絡まれたことを思い出しながら、頷いた。
「そういえば、ワイバーンってどんな魔物だ?」
フィリアに聞くと、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻る。
「ワイバーンは、空を飛ぶ大きな翼をした魔物だよ」
「空を飛ぶ? それって――」
「うん。魔法で撃ち落とす必要があるから、私たちを誘ったんだと思う。アーチャーはいるけど、対抗できるのが一人だけだと危ないんじゃないかな」
それを聞いてようやく俺たちを依頼に誘った本当の意図が理解できた気がした。確かに魔法使いがいないと大変な相手だろう。
「ゴブリン討伐とは全然違うことになると思う。1体でもゴブリンキングと同じくらい危険な魔物だよ。中堅冒険者が命を落とした噂を聞いたことがあるから、絶対に油断しないでね」
ゴブリンキング級の危険な魔物が4体か……。
俺は明日のことを想い、気合を入れ直した。
「頑張ろうな」
そういうとフィリアは目を細めて頷いてくれた。
* ――――――
見張りを始めてどれくらい時間がたっただろう。
虫のさざめきはいつの間にか消え、ちりちりとたき火が燃える音だけが響いていた。
程なくして、エドとダッカスが同じタイミングで起き上がる。
「見張り代わるから、今のうちに休んでおいで」
俺たちはエドに促され、クロスの上で横になった。空はすっかり真っ黒に染まり、星がきらきらと輝いている。
明日はワイバーン討伐だ。Cランクの依頼だ。仲間は多いとはいえ、本来俺たちにとっては危険な依頼だ。
「せめて足を引っ張らないようにしないとな」
俺は周りに聞こえないよう小さく呟き、瞳をゆっくりと閉じた。
* ――――――
「……て」
誰かの声が耳に入り、思わず目を開けた。青い空に小さな雲がいくつかある。鼻を抜ける草の香りが俺の鼻を擽り、ぽかぽかと温かい光は朝がきたことを表していた。
金木犀を思わせる金色の短い髪にカチューシャをつけた人がこちらを覗き込んでいる。
「ティアナか」
寝起きだからか、目の前の人物を認識するのに少し時間がかかった。
「アルト、よく眠れた?」
「ああ、なんとかな」
俺はティアナの問いに、横になりながら答える。
ふと横に目をやると、フィリアはいなかった。
身体をおこすと、10歩くらい先まで離れたところでフィリアが杖を構えているのが見える。
「エドさん。魔物の反応があるのは森だけです。山岳部までは大丈夫だと思います」
フィリアはエドに報告をする。
「ありがとう。しかし、フィリア君はすごいな。君さえいれば不意打ちのリスクは大きく下がるだろう」
「ありがとうございます。お役に立てて何よりです」
フィリアはエドに微笑みかけたが、それは姉のティアナをはじめとした他の人に向けるものと同じで、俺に向ける微笑みとは別の物だった。
朝食を済ませた俺たちは、そのまま山岳部まで向かった。
ちなみに朝食は露天市場で買ってきたパンだ。フィリアがちゃんと空気に触れないよう保存してくれたおかげで、冷めている以外は特に気にならず、美味しく食べることができた。
「ワイバーン討伐の作戦を共有する。相手は空を飛ぶ魔物のため、安全に戦うためにはこちらの足場確保が第一だ。だが、ワイバーンは高所をうろうろする習性があるため、ふもとでの遭遇は期待できない」
ワイバーンを見たことが無い俺にとってエドの説明はとてもありがたい。
俺もアルカギアさえあれば、ある程度の高さまでは空を飛べたんだけどな。
「そのため、安全に戦える洞窟内に誘い込み、戦う。そのためには風魔法を放ってワイバーンを怒らせる必要がある。我慢が必要な作戦になるが、これでいいかい」
エドの作戦に、俺は感心するほかなかった。俺たちであれば、とにかく強い魔法を放って一撃で仕留めようとするだろう。
先輩冒険者としての知識と威厳は、俺たちが彼らに任せたいと思うには十分すぎるものだった。
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次の更新は 12月7日 の予定です。




