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#26 アライアンス

 俺はベッドから体を起こした。

 窓から漏れ出る光は部屋の中を明るく照らしている。


 窓は閉め切ったままで、こもった空気に微かに木の香りが混じっていた。


 そういえば、昨日お金を稼ぐ計画で詰めすぎて、フィリアに寝るよう促されたっけ。


 一カ月のうち一日が終わってしまったのだ。まだ余裕がある時間とは裏腹に、俺はひどく焦っていた。




 あたりを見回すと、フィリアが自分の髪に深紅の細いリボンを結んでいるのが見えた。金木犀を思わせる淡い金色の髪が、窓から差し込む光を眩く反射している。

 結ばれたリボンは光を遮って、俺の目を優しく守るようだった。


 フィリアはリボンを結び終えたあと、こちらに振り返った。俺が起きたことに気付き、優しく微笑む。


「アルトくん。おはよう」


「ああ、おはよう」


 朝の挨拶を交わす。そういえば、俺もここの言語に慣れ、流暢に話せている。フィリアの協力がなければあり得なかったことだ。


「アルトくん。今日のことなんだけど」


「どうした?」


「お姉ちゃんを寝かせたまま、ギルドに行くのはどうかな? 起こすの大変だし、私たち二人で依頼を選んで、帰ってきたらお姉ちゃんを起こすほうがいいと思って」


「いいと思うけど、ティアナはそのままでいいのか?」


「お姉ちゃんのことだからたぶん起きないと思うよ」


 フィリアの辛辣な言葉に笑いをこらえきれず、くすっと声を漏らした。


「確かに」


 俺はフィリアと一緒にギルドへ向かうため、支度を始めた。



 * ――――――



 ギルドの中は相変わらず冒険者たちの声がいたるところで響いている。それらを無視して依頼を見ていると――


「あれ? この前の二重詠唱の人じゃない?」


 一人の冒険者から発せられた言葉に、他の冒険者も会話を止めてこちらを見つめてくる。


 今は急いでいる。無用な会話で時間を取られるのは避けたい――そう思いながらフィリアと一緒に依頼を見ていると、冒険者の一人が俺たちに話しかけてきた。


「悩んでいるのかい?」


 無視するのも申し訳ないので、俺は声がした方に目を向けた。そこには、銀色の短い髪を刺々しく立たせて、細い剣を携えた男性が立っていた。

 敵意を感じなかったので、俺は今の状況を説明した。


「はい。できるだけ報酬がよくて、できそうな依頼を探してるんですが」


 すると、男性はにっこりと微笑みながら提案をした。


「それなら、僕たちと一緒にこの依頼を受けてくれないかい。僕のパーティの魔法使いが、急に行けなくなってしまってね。代わりを探していたんだよ」


 僕たち?

 俺は戸惑っていると、男性の近くにいた冒険者二人がこちらに来た。一人はスキンヘッドをした斧を持っている筋骨隆々で色黒の男だ。


「俺からも頼む。あんた、二重詠唱の人だろ。実力は十分だ」


 もう一人に目をやると、その人は細身で羽のついた帽子と革でできた鎧を身につけている女性だった。


「私からもお願いするわ。よかったら、一緒に来てくれないかしら?」


 俺は男性から依頼書を受け取り、内容を確認する。


 依頼ランクは、C!? 俺はFランクだぞ。


 山岳部に現れたワイバーン4体の討伐。報酬は、24万リル!?


 Cランクの報酬額に俺は思わず引いてしまった。


 だが、依頼ランクは本来駆け出し冒険者が命を落とさないように導入されたシステムのはず。


「俺はまだFランクです。そもそも受けられるのですか?」


「ああ、それなら大丈夫。依頼を受けるメンバーの半分以上が条件を満たしていれば受けられるんだ。僕らは全員Cランクだから、君たちは気にしなくていいよ」


 彼は問題ないと言うが、Fランクの俺がCランクの依頼を受けるのはあまりに危険すぎる。


 命あっての物種。制度としては認められていても、無理をしないのが大前提だ。


 報酬は魅力的だが、リスクが高い分俺はどうしても尻込みしてしまう。


「受けたいのは山々ですが、俺が足を引っ張りそうなので、遠慮します」


 俺は断ることにした。しかし男性は引き下がらなかった。


「そこを何とかお願い。もし危ないと感じたら僕たちを置いて、ギルドに応援を求めてくれればいい。君の仲間も一緒なら、心強いだろう」


 男性はフィリアを一瞥した。すると、フィリアは軽く頷き――


「わかりました。お受けしたいのですが、私の姉も一緒していいですか?」


 フィリアの言葉に、男性はにっと笑みを浮かべた。


「もちろん。人は多い方が心強いしね。助かるよ」


 予想もしなかった展開に、俺の胸は戸惑いとわずかな期待でざわついていた。



 * ――――――



 俺たちはティアナを起こし、先ほどのパーティと合流した。


「すみません、連れてきました」


 フィリアは3人に頭を下げた。




「全員そろったね。じゃあ、自己紹介しておくよ。僕はエド。剣士だ」


 銀髪の男性、エドは右手をこちらに差し出した。


「アルトです。よろしくお願いします」


 俺も同じように右手を出し、堅く握った。




 羽のついた帽子をかぶった細身の女性からも挨拶される。


「私はカルラ。アーチャーをしているわ」


 アーチャー? 俺は思わず聞き返した。


「アーチャーは弓使いのことよ」


 カルラは笑みを浮かべ、俺の疑問に先生のように答えてくれた。

 だったら最初から弓使いでよくないか。


「今、弓使いでよくないかと思ったわね」


 俺は心を読まれた気がして一歩引いてしまった。


「ふふっ。アーチャーと呼んだ方がかっこいいじゃない」


 観察眼が優れているのか子どもっぽいのか、カルラの性格が俺にはいまいちピンとこなかった。




 最後に、スキンヘッドの男が口を開く。


「俺はダッカス。見ての通り戦士だ」


 背中に背負った大きな斧を、ごつい右腕で軽々しく持ち上げた。


「ダッカス、やめなさい。怖がるでしょ」


 カルラが注意する。


「しかしよぉ、こうでもして見せねえと、頼られねえだろ」


 ダッカスはそう言って首の後ろをぼりぼりと掻いているが、全員Cランク冒険者だし、俺からしたら頼れる人たちだよ……。




 最後に姉妹二人が自己紹介を済ませ、ワイバーンがいる山岳部に向かった。


 ティアナにとってはあまりに唐突な展開であることは間違いない。

 実際ワイバーンの討伐の話をしたとき、釣り合っていない依頼にちょっとだけ注意を受けたのだが、「これも冒険者の面白いところよね」と笑って承諾した。


「そういえば、依頼は全員同じ額の山分けでいいかい」


 エドの提案はきちんとしたものだった。ランクが高い人は多めに報酬を受け取るんじゃないんだ。


「はい、それでお願いします」


 良心的な提案を受けた俺は迷うことなく承諾した。


 一人あたり4万リル。かかる日数を考えても充分な金額だ。

 カノンの日記に一歩近づく。はぐれてしまった彼女を探すための手がかりを掴めると思うと、思わず浮かれてしまいそうになる。


 そういえば、3人はカノンについて何か知っているだろうか。

 少しでも彼女を探す手掛かりになるものがあれば聞いておきたかった。


 ――いや、今は依頼中だ。やめておこう。




「これだけあればほしかった服が買えるわね」


 俺は我慢しているのにティアナは浮かれている!


 ワイバーンの討伐で注意をしていた姿は何だったのか。


 それでも、目を細めてるんるん気分でいる彼女は、なんだか憎めなかった。



次の更新は 12月6日 の予定です。

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