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#25 脅威から獲物へ

 俺たちはゴブリンの肝を入手するため、集落へ向かっている。今までは身を守るためにゴブリンと戦ってきたが、今回は違う。

 明確な目的を持ち、自分から“狩る”ために動いている。とはいえ、やることは変わらない。


「なかなか見つからないね」


 ティアナがぽつりとつぶやく。

 実際、こちらから探すとなると大変だ。


 空はまだ青く、太陽の光が直接こちらを照らしてくる。できれば、日の高いうちに終わらせたい。


「ミドルサーチ」


 フィリアが杖を前に出し、魔法を発動させた。


「あっちの方にたくさんいる。行こう」


 フィリアが示した場所に向かって歩いていると、ちょっとした木々の先に、木でできたやぐらを見つけた。その上にゴブリンたちがくつろいでいるのが見える。


 俺たちは、こいつらをまとめて仕留める。


「作戦は、この前と一緒でいいか? 俺とフィリアの魔法で先に殲滅して、狩り残しをティアナにお願いする」


 俺の確認に、二人は頷いた。


「えっと、魔法を発動するときは、祝詞を言えばいいんだよね?」


 よく覚えている。フィリアの勤勉さには感心するよ。


 俺は頷き、杖を前に掲げた。


「魔法陣を展開。これでよし」



 冷酷なる氷の精霊よ、か弱き我に力を――

「れいこくなるこおりのせいれいよ、かよわきわれにちからを」



 氷よ来たれ。氷葬の弾丸――

「こおりよきたれ。ひょうそうのだんがん」



「コールドバルカン」


 魔法陣から無数の氷がゴブリンめがけて降り注いだ。油断していたゴブリンたちは突如現れた氷の弾丸を防ぐことなどできるはずもなく――全滅した。




「やったね」


 フィリアは俺とハイタッチを交わした。

 一方ティアナは剣を地面に突き刺して唖然としている。


「あたし何もしてない……」



「これからしてもらうから大丈夫、解体は俺にはできないから」


「おっけー、任せて」


 ティアナは剣を鞘に納め、手袋をつけて解体の準備を始めた。

 切り替え早いなあ。



 * ――――――



 俺はティアナに呼ばれて解体現場まで来た。

 どうやらゴブリンの解体が全て完了したらしく、角と爪は剥ぎ取られ、肝がむき出しになっていた。


 ここからは俺の出番だ。


「ストレージ」


 俺はゴブリンの肝を回収した。

 1つ、2つ……。

 あれ、おかしい。3つめの肝が入らない。


 ――あっ。


 露天市場で買った大量のパンをしまったままだった。


「ごめん。露天市場で買った美味しいパンそのままだった」


 俺は正直に伝えると、ティアナは軽そうなノリで人差し指を上に向けた。


「じゃあ、ここで食べちゃえ」


「ちょっとちょっと! 魔物の死体を前にパンを食べるのはさすがに無理があるって」


「そう? あたしは平気だけど」


 むしろ平気なティアナの神経の図太さを尊敬するよ。

 パンの扱いに困っていると、フィリアは自分の荷物をほどき、手の幅ほどの大きなケースを取り出した。


「アルトくん。パンをこっちに入れたらどうかな。ちゃんと洗ってるから綺麗だし、蓋をしめれば平気かなって」


 俺はフィリアの気遣いに感謝しつつ、ストレージにしまっていたパンをケースにしまう。すると、ティアナは俺の手からパンを取り上げ、自分の口の中に放り込んだ。


「うーん、やっぱり美味しいね。これ」


「おいっ! 人のパン勝手に食べるな!」


「いいじゃんいいじゃん」


「よくねえ!」


「ごめんって。これで許して」


 ティアナは自分の懐から100リルを出し、俺の手のひらに置いて指をたたんだ。

 結局、ティアナの食欲には誰も勝てないのだった。



 * ――――――



 フィリアに借りたケースにパンを一通り入れ終えた俺は、本題のゴブリンの肝回収を再開した。


 無事に全部回収することができたので、ミッションコンプリートだ。


 まだ日は完全に傾いていないので、目線を西に向けると眩しい。気温は心なしか涼しくなり始めた気がする。


 今から戻っても夜前に帰れるだろう。


「お姉ちゃん、アルトくん。早めに終わってよかったね」


「ああ。みんなが頑張ってくれたおかげだ」


 俺は依頼達成の喜びを分かち合いながら、帰路についていた。



 * ――――――



 町に到着した俺はすぐにギルドへと向かい、扉を開ける。


 夜のギルドは昼間とはまるで違う空気だった。隅のバーでは、剣を背負った冒険者たちが酒を手に楽しげに語り合っている。

 だが、受付自体はまだやっているようで、受付嬢は酒を片手に談笑している冒険者たちを見ながら、デスク前で作業をしている。


「ここのバーって、ギルドの直営なのよ。知ってた?」


 ティアナは自慢げに知識をひけらかした。

 だが、ティアナということもあり不思議と不快感が無い。


「そうだったのか。けど、まあそうだよな」


 俺は当たり障りのない返事をしながら受付に向かい、依頼達成の報告とゴブリンの肝の納品をした。


「10個確認しました。こちらが報酬の3万リルです。なお、素材の買い取りは本日営業時間外ですので、明日以降また来てくださいね」


 受付嬢は黒のトレーにお金を乗せて差し出した。


 俺は一人1万リルずつに分けた。

 まずはティアナに渡す。次にフィリアに渡すが――俺にお金を戻してきた。


「これも使って」


「ありがとう。フィリアには助けてもらってばかりだな」


「ううん、そんなことないよ。私もこうしてるうちに、あの本のことが気になってきちゃった」


 フィリアの気遣いに感謝しながら、俺は1万リルを受け取った。




 俺たち3人が受付から離れようとしたところで、受付嬢に呼び止められた。


「あの、アルトさんにお話があるのですが」


「俺、ですか?」


「はい。なんと、アルトさんは今回の依頼達成により、GランクからFランクに昇格となりました」


 いきなり言われても実感が無い。


「アルト、よかったじゃん。おめでとう」


「アルトくん、おめでとう」


 二人の祝福でようやく状況を掴めた。


「ありがとう。二人のおかげだよ」




「ふふっ。良いパーティですね。見てるこっちまで嬉しくなります」


 受付嬢は目を細めた。


 俺は受付嬢に一礼し、ギルドを後にした。



 * ――――――



 ギルドから宿屋に直行した俺たちは、お風呂をすぐに済ませ、部屋でくつろいでいる。

 今日一日で依頼と臨時収入で良い感じに稼げている。


 俺はお金を数えていると、あることに気付いた。


 食費はどうしようか。


 カノンへと繋がる日記はすぐにほしいが、食事をおろそかにすると依頼の成否にかかわる。


 俺は二人に相談することにした。

 が、ティアナは即答だった。


「ご飯は絶対に欠かしちゃダメ。冒険者は命かかってるから」


 普段とは違う低く、鋭い声に俺ははっとした。

 実際、空腹で判断力が鈍ったことは過去に何度かある。


「わかった」


 食事はちゃんと摂るとして、どうやって40万リル稼ごう?


 1ヶ月のうち1日が終わった。現在は約17万8千リルだ。


 今回は臨時収入で一気に稼げたが、今後は期待できない。


 俺は残りの一日、計画を練り続けていた。


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