#21 初めての観光 食事
素材を売却して荷物が軽くなった俺たちは、この町――ポルトマーレを観光することにした。
俺は素朴な疑問を口に出した。
「そういえば、この町って何があるんだ?」
ティアナは目を細めて答える。
「海! ここは港町になってるの。ビーチもあるから、泳いでる人もいるわね」
海……か。
アルカディアでのこともあって海にはいい思い出が無いな。
俺は幼馴染のカノンを思い浮かべ、胸がちくりとする感覚を覚えた。
そんな思いを見透かすかのようにフィリアは人差し指を遠くに向けて口を開いた。
「そうだ。そこにある海鮮料理屋さん、とっても美味しいんだよ。みんなで行かない?」
「さんせーい。あたし、お腹空いちゃった。アルトもどう?」
ティアナも乗り気で良かった。俺は頷き、三人で料理屋へと足を運んだ。
* ――――――
そこは、壁の一面がガラス張りになっていて、店内の解放感を演出していた。テラス席がいくつかあり、テラスの床と仕切りを彩るこげ茶の木の板は、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
昼食時を過ぎている今でも、お客さんがまばらに座っているのが見えた。
提供済の料理の数々から漂ってくる塩の香りからは、この店が「当たり」であることは食べなくても伝わってくる。
俺は目の前に料理が運ばれる前からすでに感動していた。
「すごく、美味しそうだ」
俺はフィリアに思ったことを率直に伝える。
「まだまだ驚くのは早いよ。注文は自分で決めたい? もしよければ、私がおすすめを頼んであげる」
俺は迷って決められないことが目に見えたので、この店のおすすめをフィリアに委ねた。
フィリアはお店のウエイターを呼び、慣れた様子で料理を注文している。
最初に運ばれてきたのは、香草で包んで焼かれた白身魚だった。
薄く切れ目が入れられ、焼き色のついた皮の下からは湯気が立ち上る。鼻を近づけると、どこか懐かしいような香りがして、シンプルながらも食欲をそそられる。
「白身魚の香草焼きだ。昔はよく食べてたな」
俺はアルカディアにいた頃を反芻した。
次に、器の中でとろりとした白い何かにエビと貝が浮かんでいる料理が3つ運ばれてきた。
焼き色のついた表面からは、香ばしいにおいが漂ってくる。
中身はどうなっているんだろう。
「これは、エビと貝を煮た――それとも、焼いてあるのか?」
俺の戸惑いに、フィリアが答えてくれた。
「グラタンっていうの。まろやかでとってもおいしいんだよ」
最後に出てきた皿からは、ピリッとした刺激的な香りが漂ってきた。
何かの肉のようなものと野菜が小さく刻まれて盛られていて、上に小さな赤い輪のようなものがいくつも散りばめられていた。
「これは、何だろう」
何なのかは全くわからないが、この料理も俺の空腹感を刺激してくる。
俺たちはこれらの料理を均等にとりわけ、順番に口に運んだ。
まずは香草焼き。身はとても柔らかく、噛むたびにじんわり旨みが広がってくる。絶妙な塩加減も見事なもので、俺は思わず一口、また一口と手を進めていった。
次に、グラタンと呼ばれる料理。
熱々で、中からはエビと貝の旨味がしみ出た白いソースがとろりとあふれ、濃厚なのにくどくない。
「すごくまろやかで、優しい味がする」
俺が感想を伝えると、フィリアは微笑みを浮かべた。
最後に、肉と野菜と赤い輪の刺激的な香りがするもの。
一口食べてみると、じんわりと舌がしびれるような辛さと、肉のコリっとした独特の食感が広がった。
辛いんだけど、やみつきになりそうだ。
ティアナも同じものを口に運ぶ。
「あたし、このクセになる辛さ好きなんだよね」
そう言うのもわかる気がする。
「確かに絶妙な辛さだ。この丸い輪からする。なんだろう?」
俺が聞くと、フィリアが答えてくれた。
「唐辛子って言うんだよ。これが料理の味を引き立てているの」
俺が肉と野菜の料理に夢中になっていると、ティアナが自分のグラタンに手をつけた。そして一通り味を堪能したその後――
なんと、手に持った器に躊躇なくかぶりついた。
「えっ、器って食べられるのか?」
俺はあまりの驚きで思わず声が上ずった。
ティアナは笑って頷く。
「そーだよ、グラタンを知らないとびっくりしちゃうかな」
「ああ、驚いたよ」
「あたしも初めて食べたときはそんな感じだったわね。けど、器がパンになってて、ちゃんと食べれるものだよ。ね、フィリア」
「そうだね、お姉ちゃん。外はカリッとしてて、中はほんのり甘いの。だからアルトくんも、最後まで残さず食べてね」
今まで食べたことないような美味しさに思わず舌鼓を打つ。
この店を教えてもらえたことに感謝しないとな。
* ――――――
食事を終えた俺たちは、会計を済ませ、お店を後にした。
日はすっかり赤く染まり、じりじりと光を反射していたレンガの地面も、すっかり落ち着いている。
辺りを見回すと、ところどころに屋台を組み立てている人がいた。すでに組み立て終えているところは無人になっており、何かの準備をしているように見えた。お祭りだろうか。
「そういえば、明日は土の日だったね」
「土の日?」
フィリアが呟いた聞き慣れない単語に、思わず聞き返した。
「うーん。土の日を説明するのは難しいなあ。えっと、一日ごとに変わっていって、一周したら元通りになるものって言ったら分かるかな」
「曜日のこと?」
俺は思ったことをそのままに聞いた。
「曜日が何なのかはわからないけど、今日は雷の日だから、明日は土の日。次が風、氷、火、水、雷って続いて、また風に戻るんだよ」
やはり曜日だった。アルカディアでも似たようなものがあるので馴染みがある。でも、この世界では曜日って呼び方はされていないらしい。
「土の日は露天市場がたくさん出てるの。町でお仕事する人も土の日はお休みだからね。たくさんお客さんが来るんだよ。お店で中々見つからない物が置いてあったりするから、いつも楽しみにしてるんだ」
フィリアが少し誇らしげに胸を張って、わかりやすく説明してくれた。
「フィリア、嘘言わないの。たまに土の日忘れてるでしょ」
ティアナがおもいっきり水を差すように、ぴしゃりと窘める。
「はい。お姉ちゃんに引っ張られることもあります……」
フィリアはバツの悪そうな顔で謝罪した。
しっかりしてるように見えても抜けてるところがあるんだな。
彼女の意外な一面を知れた気がする。そんなやりとりだった。
「アルトくん、明日の露天市場に3人で見て回りたいんだけど、いいかな」
フィリアは俺たちに向き直り、提案をした。
エメラルド色の瞳をきらきらと輝かせるフィリアの誘いに断る理由が無いので、もちろん了承する。
「もちろん。明日、楽しみだな」
明日はどんな一日になるのか、とても期待している自分がいた。




