#20 魔物素材
俺たちは魔物の素材を換金するため、ギルドに戻った。
扉を開けると、土の匂いが鼻をついた。依頼から帰って来た冒険者のものだろうか。
他の冒険者からちらりと視線を感じたが、すぐになくなり、それぞれのやるべきことを進めていた。
あたりの様子を見ると、他の冒険者たちが依頼をはがして仲間に相談している姿、カウンターの横には素材を抱えた冒険者が並んでおり、受付嬢が書類を確認している姿が目に入った。
相変わらず冒険者の話し声が絶えないギルドは、今日も忙しそうに運営されている。
俺たちは壁や柱にランク別で貼られている依頼を無視して、空いているカウンターまで向かった。
そこには茶髪の女性が受付嬢をしていたので声をかけると、笑顔で対応してくれた。今まで真面目な印象を受けたギルドの受付だったので、こういう愛想ある女性は新鮮な気持ちになる。
「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」
「すみませーん、素材の換金に来ました」
ティアナは荷袋から素材を出し、受付台に広げた。ゴブリンの角や爪はもちろん、タイガーウルフの毛皮も一緒に出す。素材の数が多いせいでゴブリンの角は転がっていき、ぽろぽろ受付台からこぼれ落ちている。
「ゴブリンの角、爪、それと――これ、タイガーウルフの毛皮ですよ!? どこで見つけたのですか?」
「うーん、近くの森です」
「近くの森、と言いますと、このあたりですか?」
受付嬢は茶色の地図を広げた。
「そうだったと思います。そうだよね、アルト」
おいおい。俺この地理のこと何も知らないんだけど。
「俺は知らんぞ。このあたりのこと詳しくないし」
そう伝えるとティアナは右手を握り、左の手のひらを軽くたたいた。
「そうだったね、ごめんごめん」
てへっと言わんばかりの軽い態度だ。それでも、不思議といらつくことがない。
これが信頼というものか。
話が進んでいないので、フィリアが説明に入ってくれた。
「はい。そのあたりで間違いありません。私はタイガーウルフの攻撃を受けたのもあり、あまり記憶はありません。ですが、私たちがこの森に入ったことは覚えています」
「そうでしたか。ご無事でなによりでした」
フィリアのフォローにより、受付嬢におおよその位置を伝えることができた。
「ご報告ありがとうございます。こちらの情報をギルド内で共有させていただきますので、このままお待ちいただけませんか?」
受付嬢が裏口へ戻り、そう時間のたたない間に戻って来た。
俺たちは受付嬢から今後の計画について聞かされた。
どうやら、その区域は低ランク冒険者の立入を制限するようだ。こんなことなら、もっと早く報告した方がよかったかもしれない。
「それでは、タイガーウルフの毛皮、ゴブリンの角や爪、ゴブリンキングの素材一式。そして、タイガーウルフに関する情報料。合わせて6万8千リルになります。以上でよろしいでしょうか?」
この前フィリアに買ってもらった杖のことを思い出しながら、報酬の多さに驚いた。
「そんなにもらえるんですか」
「タイガーウルフの毛皮は防具の材料になります。また、ゴブリンの素材も含め、状態が良かったため、適正な値段をお付けしています」
「えっへん。あたしの解体スキル舐めてもらっちゃ困るわよ」
ティアナが俺に思いっきりどや顔をした。
「へえ、すげえんだな」
普段はだらしないティアナも、依頼中はきちんとしているなと改めて感心した。
素材の売却料を受け取っている間に、俺は重要なことを思い出した。
「すみません、まだあります」
俺は杖を出し、魔法陣を展開する。
「ちょっとちょっと、ギルド内で魔法はお控えください」
受付嬢は慌てて俺を止めようとした。
「すみません。こうしないと素材を出せないんです」
俺は魔法陣を消さず、そのまま杖を軽く回す。
「ストレージ」
俺の詠唱に反応して、杖から亜空間が出現した。
亜空間は俺の意思に従い、受付嬢の前にはゴブリンの肝が大量に出てくる。
受付嬢は珍しいものを見るような眼でこちらを見つめている。
「あの、一体何をされたのですか?」
俺はその疑問に答える。
「小さなものを亜空間に収納する魔法を使いました。あらかじめ外でとった素材を収納して、必要な時にだす魔法です」
「亜空間……収納……?」
受付嬢は情報を整理できていないようで、俺が説明しても、言葉を失うばかりだった。
フィリアですら驚いたのだから、受付嬢はもっと受け入れられないのだろう。
自作魔法だから、この世界では「本来存在しないもの」だった可能性すらある。
あまり目立ちすぎるのも良くないから、次からは気を付けよう。
「とにかく、これも一緒に換金をお願いします」
「かっ、かしこまりました。少々……お待ちくださ――ゲホッ」
受付嬢は素材を引き取り、むせながら裏口へ向かっていた。
ゴブリンの肝が20個以上。肝はねっとりと濡れた紫色の光沢を放ち、時々どくどくと動いていて非常にグロテスクだ。加えて、その臭いは尋常ではなく、受付嬢が回収してからもなお臭いが残り続けている。近くを通りかかった冒険者たちもむせ返り、露骨に足を速めていた。
「お待たせいたしました。肝は合計で1万リルでの買い取りとなります」
受付嬢は仕事の表情に戻り、紙幣をトレーの上に乗せて差し出した。
収納魔法に驚き、さらにゴブリンの肝の臭気にも耐えた末に、すぐ仕事モードに戻る受付嬢には感心した。
フィリアは目を見開き、小さく息をのんだ。
そして、目の前に差し出された紙幣をまじまじと見つめている。
「いつも回収してない素材が、こんな高値で売れるとは思わなかったよ」
「ゴブリンの肝は臭いが強すぎて、回収率が低い素材ですからね。でも錬金術師にはそこそこ人気なので、値段も高めなんですよ」
なるほど。確かにあの臭いじゃ、回収されないのも納得だ。
――でも、あんなものに需要があるなんて、正直驚いた。
* ――――――
俺たちはギルドから出た。まだ日は高く、地面に敷き詰められたレンガを燦燦と照らしている。
美味しそうな香りを風に乗せていたパン屋はいつの間にか行列を作っていて、鉢巻を巻いた男性たちや、ワンピースを着こなした女性たちがそれぞれ待っている間に会話をしていた。
依頼を受けていないので完全にオフの日となる。
宿もとっているし、久々のオフは楽しみでいっぱいだった。
町についてから宿やら依頼やらでまだちゃんと観光というものをしていなかったので、今のうちにしっかり町を見て回りたい。
「俺、まだちゃんと町のこと良く知らないから、見て回りたい」
俺は二人に提案をする。
フィリアは姉のティアナと目を合わせ、うなずいた。
「うん、いいよ。せっかくだし、今日と明日は町を見て回ろう? いいよね、お姉ちゃん」
「あたしも賛成。ここ最近どたばたしてたから丁度ゆっくりしたかったのよね」
みんなが賛成してくれて胸が温かくなる。
この町に来たのは二回目だけど、まだちゃんと見てなかった。
ちょっとの間だけアルカディアのことを忘れて、観光を楽しもう。そう思った昼過ぎのことだった。
次の更新は 11月24日 の予定です。




