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#19 依頼報告

「コケコッコ―!」


 爆音で鳴り響くニワトリの声に起こされた。この村の家畜だろう。


 ゴブリンに襲われたと聞いたが、生き残っているのもいたのは不幸中の幸いといったところか。


 まだ日は顔を出したばかりのようで、部屋の中はひんやりしている。眠い目をこすりながらゆっくり窓を開けると、涼しく心地のよい風が俺の頬を優しくなぞった。




「さて、支度しないとな」


 俺は開けた窓を閉め、着替えて部屋の扉を開けると、そこにはフィリアもいた。どうやら、同じタイミングで出てきたようだ。


 俺は目を合わせられずにいた。絶対に隠し通そうと思っていたことが、昨日ついにばれてしまったからだ。


 そんな俺の気持ちを無視して、フィリアがこちらに寄って来た。


「アルトくん、おはよ」


 ただの挨拶のはずなのに、気まずくて言葉がつっかえる。


「お、おはよう」


「どうしたの? 元気ないよ。もしかして、昨日のことを気にしてるの?」


 フィリアには何でもお見通しだな。


「大丈夫。絶対言わない。この杖に誓うから安心して」


 フィリアは手元の杖をぎゅっと握りしめた。


「わかった。信用する」


 俺はフィリアの優しさに感謝した。




 朝の出発時間前にフィリアと少し雑談を交わした。


 魔法技士のことや、ペンダントのこと。


 ――そして、カノンのことも。


 だが、フィリアは決してアルカディアの話について深くは踏み込まなかった。この前の商会長の言葉が本当なら、本来であればアルカディアのことを細かく質問してくるはずだ。あえて細かく聞いてないのは、俺に対して気を遣っているのだろう。


 それから結構な時間が経過したと思う。


 だが、ティアナは起きてくる気配がない。

 待ちくたびれた様子のフィリアは、姉の部屋の扉をノックした。


「お姉ちゃん、起きて。出発するよ」


 フィリアの声が響くも反応がない。もしかして、まだ寝ているのか。

 今度は小さくため息をついてから扉を引くと、なんと開いてしまった。


 ――どんだけ不用心なんだよ。


 フィリアと一緒に部屋に入ると、ティアナはまだ眠っていた。

 身体はお布団からはみ出ていて、服の隙間からお腹が出ているのが見える。

 病気になるぞ。俺はティアナのことが少し心配になった。


「っ――!!」


 お腹とズボンの隙間から、ちらりと下着が見えてしまい、慌てて目をそらす。


 その先にはフィリアがいて、思わず目があってしまった。


「あっ」


 フィリアはすぐに目をそらし、ティアナに向かい合う。そして力強く身体をゆすり始めた。


「お姉ちゃん、いつまで寝てるの?」


「うーん、あと5分……」


「バカ言わないで。もう行くよ」


 手を引っ張り、無理矢理起こした。

 俺もこうならないように気を付けよう。少しだけ顔が引きつった気がした。



 * ――――――



 俺たちは荷物を持って部屋から出て、廊下を抜けた。

 コンコンと木特有の足音が妙に耳に残る。


 ロビーに到着し、カギを返却するために受付に声をかけた。


「すみません。部屋のカギを返します」


 俺は受付の女性にカギを返し、宿屋を後にした。その時だった。


 入口のドアを開けた先に村の住民たちが整列している。その数、30人以上だ。


「冒険者さま。我々はあなた様にしてくださったこと、決して忘れません。遠方からゴブリンを退治してくださり、誠にありがとうございました!」


 そこまでするのか。村民の温かさが沁みる。

 俺たちは手を振って村とお別れをした。



 * ―――――――



 村からポルトマーレの町に丸一日かけて戻ってきた。

 建物の中からする香ばしい花の香りや、レンガでできた地面、規則的に建ち並ぶ建物や子供の笑い声がなんだかポルトマーレの懐かしさを感じさせられる。


 俺たちは以前と同じ宿を取り、入浴を済ませてから、ギルドへと達成報告に戻る。


 依頼完了証と、証拠としてゴブリンの角を提出した。


「おつかれさまで――あの、ティアナさん。ゴブリンの数が依頼書より多いのですが」


「50体くらいいましたよ。ゴブリンキングもいました」


 ティアナが報告した瞬間、ロビーにいた冒険者たちの手が止まり、誰かが椅子を倒す音が響いた。ざわめきが波のように広がり、視線が一斉にこちらに向けられる。


「ゴブリンキング!? よくぞご無事で……! すぐにDランクの依頼書を作成しますので、場所の詳細を教えてください」


「大丈夫ですよ。あたしたちで倒してきたので」


 ティアナが討伐報告した瞬間、ギルド内がどよめき始めた。


「えっ。冗談ですよね!?」


 受付嬢は信用していないようだ。


「本当ですよ、これが証拠の素材です」


 素材をひらひらと見せると、ギルド内はちょっとした騒ぎになり始めた。


「ゴブリンキングを、たった三人で?」


「いや、でもDランク魔物モンスターだぞ……」


「いや、普通に考えて無理だろ……」


「いったいどうやって……?」


 外の声が聞こえる中、受付嬢は「少々お待ちください」と言い残し、裏口へ抜けていった。




 しばらくすると、受付嬢と共に、もう一人の女性が出てきた。

 制服にしわが無く、きちんと着こなしている。それでいてまとめられた黒い髪に眼鏡をくいっと上げるしぐさは、その人が「仕事ができる人」と感じるには十分だった。


「こちらの手配ミスで、依頼ランクの情報が不正確でした。大変申し訳ありません」


 女性は、俺たちの前で深々と頭を下げた。それを見たフィリアがすかさずフォローをする。


「いえいえ、お気になさらないでください。ミスは誰でもあることですから」


 言葉だけではなくジェスチャーでも大丈夫だと示し、責める意思は無いことを伝えた。だが、女性は表情を崩さなかった。


「本来ギルドは、冒険者様の命を預かる役割をしています。ですが、今回ゴブリンキングというDランク相当の魔物の出現がありました。しかも、その可能性を示唆するような情報を伝達されていたにも関わらず、ギルド側が事態を把握せず、依頼ランクを設定しておりました。あなたたちが命を落とせば、当ギルドは重い処分は避けられない事態となります。今回の事態を重く受け止め、ギルドとして報酬を上乗せさせていただきます」


 女性は黒の革でできたトレーの上に報酬の硬貨と紙幣を乗せて、差し出した。


「こちらが報酬です。改めまして、この度は大変申し訳ございませんでした」


 謝罪と報酬を受け取った俺たちは、ギルドを後にした。

 ここまで頭を下げられるのは居心地が悪い。



 * ――――――



 俺たちは宿に向かっている。町はまだ日が高く、外で遊んでいる子どもや雑談をしている女性もいて活気があった。美味しそうなパンの匂いがパン屋から風を伝って、俺の鼻を優しくくすぐる。


「そういえば、今回の報酬はいくらだったんだ?」


 俺は何気なくティアナに聞く。


「えっと、本来より多かったのは間違いないけど、まだちゃんと数えてないわね。宿でちゃんと分けるから安心して」


 依頼料はちゃんと分けるんだな。ティアナのことだから適当に済ませるのかと思ったが、さすがにフィリアが許さないか。


「お姉ちゃん。魔物の素材はちゃんと換金した?」


「あっ」


 ティアナは完全に忘れていると言わんばかりに声を漏らした。大丈夫だ。俺も忘れていたから。


「お姉ちゃん」


「ごめーん!!」


 俺たちは、ダッシュでギルドに引き返した。



多数ある作品の中から、この作品をお読みいただきありがとうございます。

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