#17 依頼達成報告とそのお礼で
ゴブリンキングの他に、五十体ほどのゴブリンの素材も回収する。
手袋にべっとりと血を染み込ませたティアナが作業しながらぽそりとつぶやいた。
「あたし、気づいちゃった……。くっさいゴブリンの肝をストレージで保管して、そのまま運べるタイガーウルフの毛皮はそのまま持って行ったほうが良いってことに」
「確かに」
俺は杖を振り、ストレージからタイガーウルフの毛皮を取り出した。ついでにゴブリンキングの角と爪も出しておこう。
「アルト、よろしくね」
臭いものを押し付けられているみたいだったが、現実的に肝を持ち運べるのは俺しかいないし、お金になるならいいか。
肝の買い取り分は俺が少しだけ多めにもらっていいよな。後で交渉しておこう。
* ――――――
俺たちは洞窟から出た。外はすっかり日が沈んでいて、星空が散らばっていた。
虫の声もけたたましく響いていて、急に生ぬるい温度に当てられた俺は額に汗がにじむのを感じる。
時々吹いてくる風はひんやりしていて、額を伝う汗がやけに冷たく感じた。
ゴブリンの素材回収を終えたが、俺のストレージは途中で容量が足りなくなり、半分ほどの肝は持ち帰ることができなかった。それでも、姉妹二人は今までゴブリンの肝を置き去りにしていたため、買い取り額の上乗せを期待してとても喜んでいた。
ストレージの容量を増やせるように、もっと練習しないとな。
* ――――――
村に到着したとき、あたりは明かりが灯っていた。
まだみんなが起きている時間だったようだ。
俺はそれを見て安心していたが、フィリアは違ったようだ。
「ここの村、夜になると明かりがつくんだね」
夜になると明かりがつくのは当然だろう?
俺は率直に疑問をぶつけると、返って来たのは意外な話だった。
「村って、町と違って明かりの魔道具を持っていないところが結構あるの。だから、明かりがつくってことは、行商人さんが休憩に使うことが多いのかも」
言われて気付く。確かに、そのあたりは流通によって分かれるところだ。
村長の家の前に行くと、村長自ら顔を出してきた。
「そんちょーさん、依頼、ばっちり完了してきました」
ティアナは荷物から凄まじい量のゴブリンの素材を出した。
「なんと!? この数、20体以上おったのではないか?」
「はい。50体いましたが全て倒したので安心してください」
「50体も!?」
村長が驚き、のけぞった時――部屋全体に、腰の悲鳴が鳴り響いた。
「のおおおおおおおおおおおおおっ!」
フィリアは慌てて村長に駆け寄った。
「大丈夫ですか。すぐ回復しますね」
そして、杖を出して、魔法陣を展開した。
「ヒール」
杖を村長に向けると、淡い光が村長の腰を包み込んだ。痛みで疼き苦しんでいた村長の表情は、少しずつ穏やかなものに変わっていく。
「ゴブリンを退治しただけでなく、腰までも治してくれるとは。そなたらは村の民、そして儂の命の恩人じゃ」
「いえ、完全には治せませんので応急処置だけしました。お大事にしてくださいね」
微笑みを浮かべるフィリア。光を操り、人を癒すそれは天使という言葉がぴったりだった。
「そうじゃ、皆さん方。ゴブリン退治でお疲れでしょう。すぐに宿を用意させますのでお待ちください」
「そんちょーさん、ありがとーございます」
ここから歩いて町に戻るのはしんどいし、宿を用意してくれるのは助かるな。
村長は、依頼完了証と共に宿への地図を俺たちに手渡した。
* ――――――
俺たちは村長に紹介された宿に到着した。
「いらっしゃ――あっ、ゴブリンを討伐してくださった方ですね。本日は本当にありがとうございました。すぐにお部屋をご案内しますね」
受付の若い女性は部屋のカギを確認している。
俺はというと、気になることが一つあった。そう、宿代だ。姉妹はともかく、これが初依頼となる俺は、とにかく持ち合わせがない。ゴブリンの素材はあるが、買い取ってくれるギルドがないので、最悪野宿することになる。
「すみません、お代はいくらですか?」
「えっと、そうですね」
受付の女性が答えようとしたそのとき、カウンターの奥からご年配のお婆さんが裏口から出てきた。この感じ、宿のマスターだろうか。
「あなたたちは村の救世主様。お金をいただくなんてとんでもありませんよ。きちんと一人一部屋ご用意します」
持ち合わせの無い俺にとっては非常にありがたいお言葉だったので、素直に受け取ろうとするが、フィリアは違った。
「そんな、悪いですよ」
「いえいえ。あのゴブリンは私たちにはとてもどうにかできるものではありませんでした。村は荒らされ、特に家畜の被害は大きいです。また、残念なことに家が壊された人もいます。村の代わりに退治してくれた、そのお礼です」
「でも……」
こういうところ、フィリアは真面目だな。
「せっかくだし、好意を受け取ってもいいんじゃないか? ティアナはどう思う?」
「あたしも。せっかく用意するって言ってくれてるんだし、甘えていいと思うわ」
こうして、俺たちは宿屋の好意で無償の施しを受けることになった。
* ――――――
宿の中は思った以上にしっかりとしていた。一晩泊まるのに必要なものは全て揃っているし、何よりご飯はとても美味しかった。部屋は一人一部屋用意してくれていて、快適に過ごせている。
部屋の中はベッドとチェスト、その上にランプが置いてあるだけで、町にいたときの宿と比べたら少しだけ質素ではあるが、町と村を比べるのはさすがに酷だろう。
俺はベッドの前に靴を並べ、くつろいでいると――
コンコンと、ノックの音が聞こえた。
返事をする。
「アルトくん。今、いいかな?」
フィリアの声だ。
「今出るよ」
俺は靴を履き、ベッドから出た。
扉を開けると、フィリアが立っていた。
お風呂からあがったばかりだからか、リボンが取られた髪はつやつやとしていて、廊下に取りつけられた光を弾いていた。
身体からはほんのり甘く、清潔感のある香りがした。これは石鹸だろう。
「どうした?」
「えっと――」
フィリアが言い淀んでいる。普段しっかりしている分、珍しいな。どうしたんだろう。
「わ、私の部屋に、来てもらえるかな」
「部屋に!?」
フィリアはまっすぐ俺のことを見つめて、うなずいた。
宿とはいえ一応、女の子の部屋だ。
「ダメ、かな?」
そこまで言われたら断るのも申し訳ない。
「いいよ」
俺はフィリアの部屋へと入った。
フィリアの部屋はまるで清掃したばかりのように片付いていた。荷物は部屋の隅に固めて置かれていて、ベッドもメイキングしたばかりのように整っている。
部屋に入ったフィリアは靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。ここは土足でもよかったはずだが、彼女の性格がそれを許さなかったのだろうか。
俺もフィリアに合わせてスリッパを履き替え、後ろをついていく。
フィリアは綺麗に整えられたベッドの上にちょこんと座ると、隣をぽんぽんと叩き、隣に座るよう促してきた。
俺はそこに座るとフィリアはエメラルド色の瞳で俺を見つめてくる。
「ねえ、アルトくん。お願いがあるの」
「なっ、何だ?」
あまりにも様子がおかしいので、俺は思わずどもってしまった。
一体、何を言い出すんだろう。
「アルトくん。私に、す――」
俺は考えを巡らせるが、何の心当たりもなかった。
「ストレージのやり方を教えてほしいの!」
フィリアから出た言葉は想像つかないものだった。
「本当は町で教えてもらう約束だったのに、私、我慢できなくて。でっ、でも、すぐに使えるようになりたいから。ダメ、かな?」
そういうことか。あの魔法にそこまで食いつくとは。だったら、断る理由は無い。
「いいよ。杖は持ってる?」
「うん。今から出すね」
こうして、二人ぼっちの“ストレージ”練習会が始まった。
なんと、前回分で50000文字突破したらしいです。
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