#16 新しい魔法
なんとかゴブリンキングを倒した洞窟の中は異様な空気が残っていた。
岩や瓦礫、動物の骨まで巻き込んだことにより空気が循環し、鼻につく臭いがあたりに充満する。
できることなら今すぐ帰りたいのだが、俺たちにはやることが残っている。
ゴブリンキングから素材を回収することだ。
討伐依頼は、依頼完了証とともに素材を見せることで完了することになるらしいので、剥ぎ取りは避けては通れないのだ。
洞窟に静けさが戻った。俺たちはしばらくその場に座り込み、呼吸を整えていた。
そんな中、ティアナがゆっくりと身体を起こした。服にはところどころ汚れが残っているが、身体はすっかり回復しきった様子だ。
無事でよかった。そう思う間もなく、ティアナは周囲の状況に目を向けていた。
「うーん、どうしよう」
瓦礫の山の中にはゴブリンキングが埋まっているので、素材を回収するためには瓦礫をなんとかする必要がある。
「一つずつどかすしかないわね。二人とも、手伝える?」
俺とフィリアはうなずき、瓦礫に手を掛けるが――
重い。重すぎて両手で一つずつ持ち運ぶのが精いっぱいだ。
フィリアに至っては全く持ちあげられないでいる。
「おっ、重い。無理だよ、お姉ちゃん」
「うーん、仕方ないわね。あたしがやるわ」
ティアナは左手と右手それぞれ瓦礫を掴み、腕を回すようにして運んでいる。
回復したとはいえゴブリンキングに蹴りを食らっている身体で、よくそこまで動けるものだ。
* ――――――
瓦礫運びが中盤まで差し掛かった。
すでに俺の腕は限界寸前まで消耗していて、休みながら運んでいる。
「もう無理……。魔法で運べたらいいのに」
そうか、魔法でどうにかする方法があったか。
俺はどうすればこの瓦礫を魔法でどかせるかを考えることにした。
風魔法だと素材が大きく損傷するかもしれない。最悪、飛んでいった瓦礫が俺たちにぶつかるかもしれない。
物理的にどかすのはよそう。どかすんじゃなくて、運ぶ魔法は――
そうだ。いったん収納して、後で取り出すような仕組みはどうだろうか。
それなら腕が疲れることがないし、素材を傷つけることもない。
俺は今ある知識を使い、魔法陣の組み方を考えた。
うーん、これだと術に問題が出るから、あれをこうして――
一時的に保管するようにしたいから、魔法名は「ストレージ」にしよう。これなら制約は多いけど、俺でも簡単に持ち運べる。
今までアドリブで魔法名をつけていた。それでも十分な効果が得られたからだ。だが、今回の魔法は異次元空間に物を収納するという高度な効果を持つ性質上、ちゃんとした名前をつけて意味も正確に把握していないと、狙った効果が期待できない。
一度試してみよう。
俺は杖を構え、魔法陣を展開する。
「ストレージ」
杖の先に小さな穴ができた。上手く行ったようだ。俺は瓦礫を亜空間へと押し込む。しかし、すぐに容量がいっぱいになる。今は困らないだろうけど、後で改良が必要になりそうだ。
出した瓦礫は洞窟の端に積み上げて、再び空間を空ける。その作業を何度も繰り返しをしているうちに、あれよあれよという間に瓦礫が片付いた。
ティアナたちはこちらの様子を見るや否や、唖然とした表情を浮かべている。
「アルト、何してるの!?」
「腕が限界だから、魔法で瓦礫を運ぶことにした」
「運んでないよね? 消してるよね?」
「いや、物を収納して運ぶ魔法だよ。ほら」
俺は端に集めていた瓦礫の山を見せた。
「うそ、そんなのありなの!?」
「休んでる間魔法陣考えてて、試してみたら上手くできた。もっと早く気付いていればよかったよ」
「なんか腑に落ちない……。フィリア、どう思う?」
「私も、こんなすごい魔法初めて知ったよ。私もできるようになりたいな」
ものすごく持ち上げるなあ。
「てことはもしかして、魔物もそのまま収納できちゃうのかな? 沼にでも落とせば簡単に倒せたりして」
ティアナがとんでもないことを思いついていた。
確かにそれができたら便利だ。
だが、この魔法ではそれができない。
自作魔法だからわかるのだが、生き物は収納できない。魔法陣を展開するにあたって生き物の収納まで可能にするには膨大な魔力を必要とし、俺程度の魔力では魔法陣を維持できないからだ。
「残念だけど、生き物は収納できないんだ」
俺は素直にできないことを説明したが、フィリアたちはあまりがっかりした様子を見せなかった。
「ううん、物を収納できること自体がすごいことだよ」
思った以上に好評だったことが嬉しくて、俺はひたすら瓦礫を運ぶ作業を続けた。
* ――――――
「さて、こんなものかな」
瓦礫の山がどけられてゴブリンキングの死体があらわになった。
「アルト、ありがとう。ここからはあたしの出番ね」
ティアナは腰回りからナイフを取り出し、ゴブリンキングの素材を回収する。
「うわあ。派手にやったね、これ」
解体中にティアナは声を漏らした。余程痛めつけたのだろう。
一方でフィリアというと、ゴブリンキングではなく俺が積み上げた瓦礫のそばに立っている。そして、杖を取り出したかと思えば動かして魔法陣を描いた。
「ストレージ」
魔法の詠唱をした。しかし、何も起こらない。
「うーん、やっぱりできない」
そりゃそうだ。魔法陣の仕様が他の攻撃魔法とは根本的に異なるものだ。じっくり教えないと身につかないだろう。
しかし、彼女が眉を下げ、エメラルドに輝く瞳を曇らせていたことに気付いた俺は、一つ提案をする
。
「町に戻ったら、教えるよ」
「ほんと? 約束っ。約束だからね」
フィリアの瞳がぱあっと明るくなり、小指を差し出した。俺は小指を重ね、固く結んだ。
ティアナの素材回収は手際よく進んでいた。さすが先輩冒険者だけある。
俺はというとそもそも冒険者になりたてだし、解体作業なんてアルカディアでもしたことが無い。
ティアナはゴブリンキングから、どくどくと動く得体のしれない物体を取り出した。
「うえっ。肝動いてる。キモい」
「肝だけに?」
俺が冗談交じりに呟くと、フィリアがくすっと笑いをこぼした。
「えっ、あたし全然面白いと思わなかったんだけど。フィリアは面白かったの?」
「うん、ふふっ。アルトくんも冗談言うんだって思って」
俺がどんなイメージを持たれているのか疑問に思ったが、あえて触れないことにした。
「ふう、こんな感じかな」
ティアナの解体作業が終わったようだ。
目の前にはゴブリンキングの角、爪、肝、あとは何かよくわからないものがある。
「ティアナ、これはなんだ?」
俺はこのよくわからない何かを指さし、尋ねた。
「アルト、これは牙よ」
「牙?」
「そう。ゴブリンキングは普通のゴブリンと違って体が大きいから、その分牙も大きくて価値があるの。加工すれば武器になるんだよ」
「そうなんだ」
「で、頼みがあるんだけど」
「なんだ?」
「ゴブリンキングの肝、ものすごく貴重なんだよね」
「うん」
「何とかして持ち帰りたいんだけど、臭すぎて悩んでるんだよね」
「ストレージで持っていけないかってこと?」
「ご明察~。アルト、お願い」
ティアナが手を合わせて可愛くねだっている。
俺はストレージの仕組みを思い返した。
生き物は無理でも、死体なら生きてないので運べる。容量制限はあるが、物自体は独立して管理されており、臭い移りの心配はない。
よし、大丈夫そうだ。
俺は杖を構え、魔法陣を展開する。
「ストレージ」
俺はゴブリンキングの肝を亜空間に押しこんだ。ついでに、角や牙、爪も入れておこう。
それを見た二人は口角を上げ、拍手をした。
「これで荷物の臭い移りから解放されるね、お姉ちゃん」
「すごいわ。そうだ、あたしの荷物も一緒に入れられない?」
ティアナが荷物を差し出してきたので、亜空間に入れようとするが――入らない。
「あれ、入っていかないよ。どうしたんだろう」
ティアナが不思議に思っているようだったが、俺は原因が何となくわかっていた。
容量オーバーだ。
「容量オーバーっぽい。荷物の一部だけなら入りそう」
「それでも助かる~」
ティアナは荷物から、タイガーウルフの毛皮を取り出した。
「まだ換金してなかったのかよ」
「忘れてた、てへっ」
締まらないなと思いつつ毛皮を亜空間に入れる。今度は上手くいった。
自作魔法は、欠陥が多いものだったけど
二人が喜んでくれたならそれだけで十分かな。
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