#14 想定外
村長の家に招かれた。中は古びており、隙間風が入っている。
よく見ると、壁にひびが入っている箇所があった。ゴブリンにやられたのだろう。
ティアナは早速という感じで切り出す。
「そんで、ゴブリンはどこにいるんですか?」
「ゴブリンはこの奥の山に群れを作っておる。朝になると餌を求めて家畜を襲い、畑を荒らすのじゃ。村の民の犠牲が出る前に、お願いできんかの」
「おっけーです。あたしに任せてください」
馴れ馴れしい気はするが、大丈夫だろうか?
* ――――――
俺たちは村長に言われたゴブリンの群れへと向かっている。
山というだけあって、上り坂が膝に負担をかける。
フィリアは杖を構えて、魔法陣を展開した。
「ミドルサーチ」
これは探知魔法で、発動している間魔力を消費し続ける代わりに 魔物や人の大まかな位置がわかるという。
これでゴブリンの群れを特定するという戦法だ。
「ここから5分くらい歩いたところにありそう、慎重に行こう」
もちろんだ。俺たちは木の死角を利用してゴブリンの群れへと向かった。
ゴブリンの群れを見つけた。そこはゴブリンたちがたき火を囲んでくつろいでいる。たき火の奥にある洞窟には、入口が動物の骨で装飾されていて、左右には頭蓋骨のような骨が丁寧に並べられていた。
両方とも正面を向いており、こちらのことを見張っているかのようだった。
「これ、群れというより巣じゃないか」
「近くまで来て気付いたけど、20匹より多いよ。50匹は絶対いる」
数が倍以上となると、思ったよりきつそうだな。打ち漏らしが多かったらどうしよう。
ただのゴブリン相手でも、50体を相手に作戦が通用する保証なんて、どこにもないのだから。
しかし、ティアナは報告を聞いても平然としていた。
「20も50も一緒よ。みんな」
ティアナのテンションのおかげで俺は落ち着きを取り戻した。
士気をあげてくれた彼女には感謝だな。
俺は杖を構えて確認する。
「フィリア、準備はいいか」
「うん。いつでも大丈夫」
これは不意打ちだ。時間はたっぷりある。
俺は魔法の詠唱前に祝詞を乗せた。魔法の効果を最大限に高めることができるからだ。
冷酷なる氷の精霊よ、か弱き我に力を――
「待って! それ何!?」
詠唱の最中、フィリアが俺を遮った。
そういえば、フィリアが魔法に祝詞を乗せているところを見たことが無いな。
「祝詞だけど」
「祝詞って、なに?」
知らなかったか。だとすると、これはアルカディア特有のものなのかもしれないな。
「魔法って、発動前に祝詞を乗せると品質を上げられるんだ」
「すごい……。知らなかったよ」
「ところが、祝詞を乗せるとその分集中力がいるし、何より時間がかかる。今は不意打ちだから、時間はとれるってこと」
「だとすると、絶対祝詞を乗せた方がいいってことじゃないんだね。」
説明を済ませた俺は気を取り直して、もう一度杖を構え直した。
冷酷なる氷の精霊よ、か弱き我に力を――
「れいこくなるこおりのせいれいよ、かよわきわれにちからを」
隣でフィリアも慣れないアルカディア語で同じことを言っていた。それを聞いた俺は思わず吹き出してしまう。
「ええーっ!? 私、真面目にやってるのに、アルトくんひどいよ……」
フィリアが眉を下げて、瞳を曇らせている。
「ごめんごめん。悪かった」
「うわー、アルト最低」
ティアナにまで軽蔑の眼差しを向けられた。
本当に申し訳ない。
冷酷なる氷の精霊よ、か弱き我に力を――
「れいこくなるこおりのせいれいよ、かよわきわれにちからを」
氷よ来たれ。氷葬の弾丸――
「こおりよきたれ。ひょうそうのだんがん」
「コールドバルカン」
詠唱完了。魔法名を聞いたフィリアもすかさず詠唱する。
「コールドバルカン」
刹那、青の魔法陣からおびただしい数の氷の弾丸がゴブリンめがけて降り注いだ。そして、氷の弾丸は洞窟内まで入っていき――あたりはゴブリンたちの断末魔が響き渡った。
「やった、上手く行ったよ」
俺は思わずフィリアとハイタッチを交わした。
「いえーい。二人ともすごいよ」
ティアナも一緒になる。
「にしても、アルトくんの魔法すごいね。とても速くてまっすぐ飛んだもん。わたしのはちょっと曲がっちゃったのもあったのに」
えっと、それはアルカディア語の慣れの差だと思う。
だから、練習すればすぐに上達するはずだ。
「フィリアは頑張り屋さんだから絶対上手くできるようになるって。あたしが保証する」
「えへへ。ありがとう、お姉ちゃん」
二人ともとても仲が良くて、俺まで気持ちが温まるよ。
* ――――――
俺たちはゴブリンたちの屍を超え、洞窟内へと侵入した。
中は思っている以上に広く、三人が両手を広げてもスペースが余るほどの幅の広さだ。ところどころにある岩でできた柱が俺たちの視界を寸断しており、邪魔で仕方ない。大空洞を抜けると、幅3メートルほどの狭い道が曲がりくねっており、そこを抜けるとまた次の大空洞といった構造になっている。
俺たちの魔法のせいもあるのか、中はとてもひんやりとしていた。中は吹き抜けになっていないのか、俺たちの足音が耳に強く響き渡る。そのたびに、ゴブリンたちがこちらの気配をうかがっているような気がしてならない。奥に進むごとに強くなる何とも形容しがたい独特な臭いは、この洞窟がゴブリンの巣であることを証明しているようだった。
「ミドルサーチ」
フィリアが探知魔法をかける。
「この先にあと4体いる。けど、おかしい。魔力の反応が違う魔物が1体いる」
魔力の反応が違う? どういうことだ?
「なんだろう。わかんない。ミドルサーチは魔物の簡単な位置を知るための魔法で、魔物の種類まではわからないから。けど、何か嫌な予感がする」
「フィリアがこう言うんだ。もしかしたら知能が高いゴブリンかもしれない。気を引き締めよう」
俺は姉妹に警戒するよう呼びかけ、この先を慎重に進んでいった。
* ――――――
「ギー!」
曲がり角からゴブリンが3体現れた。走ってくるゴブリンをティアナが剣を使って牽制する。
ゴブリンはこの洞窟の全てを知り尽くしているかのように、四方八方から攻めてくる。
それでもティアナもゴブリン相手には後れを取らないようで、相手の攻撃を軽くいなしながら、一体ずつ剣を振った。
その時だった。
洞窟の奥から、今まで聞いたことのないほど重い足音――いや、地響きが聞こえてきた。
それは「ズシン」という到底ゴブリンとは思えないほどに重い足音だった。
一方、ティアナはというとゴブリン相手に無傷のまま、三体とも薙ぎ払っていた。
「よーし。先に進もう」
ティアナはこちらに振り返った。
だが、次第に足音が大きくなっていく。ティアナもさすがに気付いたようで、足音の先を見つめながら、次第に三人とも後ずさりをする。
足音の間隔はだんだん短くなっていた。次第に、足音の主が姿を現し始める。
音の正体が姿を現した瞬間、洞窟全体の空気が一変した。足音の主はゴブリンの数倍、それこそ俺たちならのしかかればつぶされてしまう程に大きい、鬼のような形相をした肥満体型の魔物がこちらを睨みつけていたのだ。
赤黒く濁った目は怒りに燃え、握り拳ほどの牙をむき出しにしながら、足元の骨を踏み砕く。
「ゴブリンキングよ」
ティアナは魔物をまっすぐ見据えている。
「よく聞いて。あたしが時間稼ぎをするから、二人は今すぐ町に戻って、ランクの高い冒険者を集めて。今すぐ!」
鋭い声で俺とフィリアに指示を出した。
次の更新は 11月15日 10時頃の予定です。




