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#12 望まぬ決闘

 凍りつくギルド内。フィリアは野次の大声に体を震わせ、ティアナの腕をつかんでいる。


 俺は野次を無視して、書類に筆を走らせ続けた。


「オイ。テメェ聞いてんのか」


 俺は声のした方へ振り向くと、見えたのは筋骨隆々の大男だった。

 背中には両手で持つのが精いっぱいであろう大剣を背負っている。


 できれば争いごとは避けたいんだけどな。


 仕方ないので受け応えする。


「だとしたら、何か」


「何か、じゃねえんだよ。お前みないなのがいると士気に関わんだよ」


 言いがかりをつけたいだけかよ……。

 俺は受付嬢に向き直り、登録の制限について確認した。


「特にございません。年齢が15歳以上であれば、どなたでも登録が可能です」


 それを聞いた俺は、大男の方に向き直った。


「問題ないそうだが」


「舐めたことぬかしてんじゃねえぞ!!」


 ギルド内に響く怒号に、フィリアは肩をびくっとさせた。

 一方、ティアナは大男に全くひるまず、凛とした姿勢を崩さない。


「ちょっと! あたしの妹を怖がらせるのは辞めてもらえるかしら」


「てめえ、死にてえのか」


 大男は拳を右手に打ち付けて威嚇している。


「それに、誰が冒険者登録しようと、あんたには関係ないじゃん」


 ティアナは強いな。大男相手に全く動じてない。


「いや、こいつにその実力があるか見てやろうじゃねえか」


 大男は大剣に手をかけた。


 えっ。俺、こいつと戦うの?


「いいと思うわよ。どうせあんたじゃ敵わないし」


 勝手に決めるな。おまけに火に油を注ぐようなことを言わないでくれ……。


「舐めやがってェ――!」


 大男は顔面を真っ赤に染めた。




「受付嬢さん。訓練場貸してください」


 ティアナのお願いに、受付嬢はため息をついた。


「はいはい、わかりました。ですが、命に関わりそうなら、すぐ中断しますからね」



 * ――――――



 俺と大男はギルドの裏にある訓練場に来た。屋外になっていて、上からはじりじりと日差しが全体を照り付けている。


 訓練場に、三人くらいの知らない男が入って来た。その数は次第に増えていき、十人、二十人。いや、三十人以上いる。


 ちょっとした騒ぎになっていて、中にはどちらが勝つか賭けをしている人さえいた。


 フィリアは不安そうに手を胸の前でぎゅっと握っている。

 一方でティアナはノリノリだった。


「アルト、やっちゃえー!」


 まじかよ……。勘弁してくれ。




「それでは、始めてください」


 合図ともに、大男は大剣を構え、こちらへ走ってくる。


 仕方ないので杖を構えた。


「オーラショット」


 大男は攻撃をひらりとかわすと、大剣を地面に叩きつけた。

 振り下ろされた大剣が地面を抉り、砂埃が舞い上がっている。


 当たってたら洒落にならんぞ。


 接近戦は不利だ。こいつに力で勝てる自信は無い。

 俺はこの隙に男からできるだけ距離を取った。


 今度はこちらが攻撃の番だ。


 しかし、もう一度オーラショットで攻撃しても、さっきのようにかわされるだろう。


 さて、どうするべきか。


 俺はフィリアが使っていた氷魔法のことを思い出し、同じように杖を光らせた。


「アイスニードル」


 大男は目の前の氷を叩き折った。だが、この魔法は氷を同時に3発放つ魔法だ。剣を振り終えたばかりの大男に残りの2発を外せるわけもなく……。


 大男に命中。


 氷の槍に吹き飛ばされた大男は仰向けになって倒れた。


「勝負あり」


 ティアナが決着の合図をする。


「ふざけるな!」


 大男は立ち上がって大剣を構え直した。


「まだ終わってねェ!」


 ええ……。痛い目見ないとわからないの?


 生半可な攻撃じゃダメということか。


 仕方ない。昨日たまたま思いついた「あれ」やるか。




 大男はもう一度俺めがけて大剣を振り下ろした。

 この男は、一撃が重く、隙が多い。俺はその間に大男から距離を取り、杖を構える。


 魔法陣二重展開。詠唱準備。


 俺は魔法陣を二つ同時に展開した。アルカギアを同時に起動させることを応用してみたが、上手くいった。


 片方は水色の魔法陣。さっきと同じ氷魔法だ。

 もう片方は緑の魔法陣を展開した。これは風の魔法。


 本来風の魔法はアルカディアで空中を移動したり、清掃に使ったりするためのものだ。


 風の魔法に氷の槍を乗せれば、動きを複雑にできる分、さらに強力なものになるのではないか。という思いつきだった。


「アイスニードル、サイクロン――スタンバイ」


 青の魔法陣からは氷の槍が具現化する。

 緑と魔法陣からは風の渦を展開するが、出力高すぎる!


 そして、それぞれの魔法陣を重ねて――


「トルネード・サルヴェッテ」


 氷の槍を風の渦で加速させる、即興の複合魔法だ。




 風の渦、もとい竜巻が氷の槍をまとい、大男に襲い掛かる。


 男は逃げようとするが、竜巻の空気を裂くような速さに対応できず――


 男は渦に吸い込まれた。同時に、氷の槍がターゲットを発見したとばかりに襲い掛かる。


 宙に打ち上げられた時には、すでに意識を失っていた。


 やばい。やりすぎた。


 絡んできたのはこの大男からとはいえ、人であり冒険者だ。


 何かしらの処分を食らうかもしれない。




 ふと、周りを見回す。

 すると、驚くことに拍手をしている人さえいた。


 この大男、普段から威張り散らしていて人望が無かったのだろうか。

 そう思わざるを得ない。


 フィリアが俺に駆け寄ってきた。


「もう……。二度とこんな無茶しないでね?」


 させたのは俺じゃなくてティアナなんだけどな。

 でも、触れたらいけない気がして言葉を呑み込んだ。



 * ――――――



 受付に戻る最中、なぜか俺に人だかりができていた。


「すげー、今のどうやってやったんだ?」


「わたしも、どうして魔法陣が二つ出て来たのか気になるわあ」


 待って。一斉に言われても困る。


「二重詠唱ってそんなに珍しいことなのか?」


 俺の発言に、フィリアが呆れたように返す。


「魔法を同時に発動させるなんて発想、誰も思いつかないよ」


「魔法陣を展開したあと、スタンバイして次の魔法陣を展開するだろ?」


「無理だよ。普通は一つの魔法陣を出してる間に、別の魔法陣なんて展開できないもん」


 そうだったのか。アルカディアでは二重詠唱どころか、四重詠唱もメジャーだったのに。



 * ――――――



「それでは気を取り直して、冒険者の説明を始めます」


 受付嬢はこのギルドの仕組みについて説明を始めた。


 端的に説明すると、こんな感じだ。


 ランク別で壁に張り出された依頼のうち一つをはがして受付に提出し、依頼を遂行する。

 依頼を達成したり、キャンセルしたりするときは受付に報告する。

 達成したら報酬を受け取る。


 この流れが基本だ。


 また、ギルドには冒険者のランク・スコア制度が存在する。依頼を成否によってスコアが上下し、一定のラインに到達するとランクが上がったり下がったりする仕組みだ。

 さらに、依頼にもランクがあり、自分の冒険者ランクより高いランクの依頼は受けられない。ランクの高い依頼はその分報酬が段違いなのだが、無計画に受けて死人が多数出たためこの規定が定められたらしい。


 こうして詳細に教わると「よく考えられた仕組みだ」と思わせられる制度だ。


「それでは説明は以上になります。早速依頼を受けますか?」


「はーい。これでお願いします」


 ティアナがいつの間にか依頼書を剥がしていて、俺の横から受付嬢に提出した。


「すみませんが、ティアナさんは受諾中の依頼がありますのでまずは報告してください」


 すでに依頼を受けていたのかよ。


「ごめーん。忘れてた」


 ティアナは荷物をほどき、薬草を大量に取り出した。


「――19、20。はい、依頼達成です。お疲れ様でした。報酬をお持ちしますのでこのままお待ちください」


 受付嬢が踵を返した。




 数秒後、受付嬢が戻って来た。


 はい。こちらが報酬になります。なお、現在の冒険者ランクより低いランクの依頼となりますので、スコアの増加はありません。ご了承ください。


「あたしが寝坊しちゃったのが悪いからいいよ。報酬ありがとっ」


 なんか、宿での生活を見たら想像できちゃったよ。うん。


「さて、今回の引き受ける依頼は、村に現れたゴブリン20匹ほどの討伐。こちらでよろしいでしょうか?」


 受付嬢は依頼書を見ながらティアナに確認を取る。冒険者自ら依頼書を持ってきているのにわざわざ読み上げるのは、規則だからだろうか。


「うん。みんなもいいよね?」


 ティアナは振り向いて俺たちに確認した。


 ゴブリンって、商会長の幌馬車を襲っていたあいつだよな。


 これなら、俺にもできそうかな。


 俺とフィリアは顔を合わせ、頷いた。


「かしこまりました。それでは、よろしくお願いします」



 * ――――――


 よし、これから俺の初依頼が始まる。


 俺たちは気を引き締めて、町の外に出た。


多数ある作品の中から、この作品をお読みいただきありがとうございます。

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「面白かったです」の一文だけでもすごく嬉しいです。


次の更新は決まった日程のお約束ができません!

楽しみにしてくれている方には申し訳ありませんが

11月13日か14日のどちらかに更新予定とだけお伝えします。

時間はいずれの場合も21時頃です。

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