【1989年9月上旬】
夏目兄弟の弟、康隆から相談を持ちかけられた。内容は、西城高校ゲーム同好会の活動についてだった。
「すまんな、バッサリ断ってくれ」
「うん。さすがにちょっと、内容的にな……。当初の作品のデバッグはやるからさ」
夏目に依頼するのは同好会での今回のゲームづくり限定としていたはずだが、早乙女、山原コンビから内々に別のアダルトゲーム作りへの参加を持ちかけられたそうだ。利益を三等分しようというからには、騙すような話ではない。だが、夏目にしてみれば、抵抗がある話だったのだろう。
俺は、早乙女航を部室代わりの空き教室へと呼び出した。瑠夏にも同席してもらっている。
「夏目康隆から連絡を受けてな。新作への参加を打診したと聞いている」
「早耳ですね。同好会の作品はきちっと仕上げますが……」
「夏目は、アダルトゲームへの参加は見合わせたいと言っていた」
「そうなんだ……。直接言ってくれりゃいいのに」
悪いとは思っていなさそうだが、不貞腐れているわけでもない。
「あんたねえ。同好会活動の助力のために呼んだ校外の人に、なにしてくれてるのよ」
「友好関係を充分に築いた相手に、正当な仕事の話を打診しただけ、という認識ですけど」
「だって、アダルトよ」
「違法ではありません」
「あのねえ……」
いきり立つ瑠夏を制して、俺は口を開いた。
「違法ではないけど、アダルトと言うからには、おそらく成人向けだよな?」
「それは、はい」
「高校生が作る以上は、やっぱり一線は意識してほしい。具体的には、打診すること自体は構わないが、シナリオやイラストを見せるのではなく、まず興味があるかを確認するのと、あとは、紹介している手前、俺にも一言かけてほしかった、というくらいだな」
「なるほど……、それは思慮が足りていませんでした」
「アダルトゲームづくりを制止する気はないし、むしろ応援している。あとは、同好会としてのゲームも楽しみにさせてもらいたい」
「はい、同好会の方は、学園祭で発表して、無料頒布する想定です」
不満げだった表情が、少し柔らかなものへと置き換わっていた。
「新作の方は、計画は固まっているのかい?」
「年末は間に合わなさそうなので、次を狙います」
やる気を見せて、後輩は去っていった。
「悠真っち、甘すぎだって」
「いやぁ、でも、同好会の外の活動は、縛れないだろうに」
「だからってさあ」
「まあ、あの絵の腕前を活かしたいというのは、わからなくもない」
「ま、恵里菜ちゃんの技量は認めるけれど」
山原さんが描く本気モードのイラストはなかなか美麗で、アダルトゲームのグラフィックとしてもかなりのものだった。裸体の画像は見ていないが、ゲームの看板になるのは確かだろう。
即売会で頒布するのかもと思うと、関心が先に立つ。あまりにもヤバい内容で摘発されるのでもなければ、商行為の一つと考えてよさそうだった。まったくホワイトだとまでは言わないが、俺はそこを論評できる立場にはない。
「そう言えば、ゲーム同好会に一年生は入ってきてるのか?」
俺の問いに、瑠夏は首を振った。
「何人かが入ってきたんだけど、辞めちゃってね。今にして思うと……」
「アダルトゲーム制作への参加を持ちかけられて、去っていった?」
「そこまではしてないと思うんだけど、それとなく探りをいれるくらいはしてるんじゃないかと。もう、いっそ割り切ってエロゲー同好会とかにしてくれたら、話が早そうなのに」
「せめてエロゲー制作同好会にしておけって」
「いったん解散して、あの二人に再結成してもらおうかなあ」
その言葉は、苦笑しつつ発せられた。創設者なだけに、瑠夏としても悩ましいところのようだった。




