表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/88

【1989年7月】



「事民党が、参議院で過半数割れの情勢だってよ」


 一時限目終わりの休み時間に、今日も綺麗に折りたたまれた新聞を手にした金田が、やや驚いた声を発した。


「朝のニュースによれば、ねじれ状態が確定したみたいだな」


 応じた俺の言葉に、市川が続く。


「小野総理は、醜聞と大敗が重なっては、政権を維持できないだろうな」


「ねじれってのは……、どうなるんだ?」


「まあ、野党の主張を一部取り入れながら、進めていくんだろうなあ」


 記憶では、海野氏が首相となり、苦しい政権運営を余儀なくされたはずだ。そして、彼が非事民連立のキーマンの一人となっていく。


「しかし……、マドンナ旋風って言うけどよぉ」


「それ以上は言うなよ」


「言わないけどさぁ……。ちょっと、なんてゆーか」


 昭和ならいざ知らず、令和のコンプライアンス基準に照らすと、マドンナという表現の疑義表明は避けてほしいものである。


「都議選では「山が動いた」なんてコメントもあったらしいな」


「まあ、でも、本番は次の衆院選だよな」


 市川の冷静さはさすがである。


「いや、俺にとっての本番は学期末テストだ。甲子園の予選で東亜細亜高校との事実上の決勝戦だし、どうすりゃいいんだ……」


 我が都立西城高校野球部は、夏の高校野球選手権の一回戦を勝ち上がったものの、次戦で優勝候補との対戦が決まっていた。もしも実力で打ち破るようなら、長い夏になるだろう。


 四番打者は、頭を抱えている。


「金田は、進学するんだったか?」


「いや、甲子園で大活躍してプロから声がかかるとかじゃなきゃ、消防志望だ。となれば、卒業はせにゃならんし、試験はあるし。……大一番を前に現実に引き戻すなよ」


 甲子園出場は夢の域だとの自覚はあるようだ。


「まあ、夢破れた場合のことも考えておこうや、ここは、沢渡の出番かな。久世と一緒に、エルリアさんへの詰め込み勉強をしたんだろう?」


「まあ、それはかまわんが……。優秀さでは、市川の方が段違いだろうに」


「教えることのうまさは、別モノだろう。手伝うからさ」


「そりゃどうも。……なら、押さえるべき単元の洗い出しを頼めるか」


「ああ、もちろん」


「うむ。俺に教えられることを誇りに思い、成長の糧にするがよいぞ」


 うんうんと頷きながら、金田が嘯く。


「一気にやる気がなくなったな」


「だなあ」


 市川の言葉に賛同すると、慌てた様子で新聞が振り回された。


「冗談だって。頼むぜ、我が友よ」


 ……この人物は、俺の友人と言ってよい間柄なのだろうか。言葉を交わせば友人認定する向きもあると聞くが、そこの距離感は俺にはよくわからなかった。他愛もないやりとりができる相手なのは、間違いないのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


【友野ハチ作品(電子書籍@Amazon)】
友野ハチのインディーズ形式での電子書籍がアマゾンにて販売中です。
2025/08/04~08/09の16時まで、全作品無料キャンペーン中です。よかったらお試しください。 「月降る世界の救いかた」「転生魔王渡世録」「戦国統一オフライン」「時限式平成転生」の各シリーズ全作品は「Kindle Unlimited」対象ですので、ご利用の方はいつでも追加費用無しでお読みになれます。

   
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ