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【1989年5月】



 放課後。俺は武蔵小金井のゲームセンター、プレイタウン・フラッシュに顔を出していた。立ち寄りペースは、週に二回程度となっている。


 照明の抑えられた空間に、電子音が重なって跳ね回る。ほとんどの筐体から、プレイ待ちの間は無限ループで決まった音が流れるが、それぞれのサイクルが異なるため、毎度重なり具合は変わってくるのだった。


 筐体の光が集まる一角に、三人の知己の姿があった。雨宮瑠夏と島崎結菜はこの店の常連だが、ここで早乙女航……、一個下のゲーム同好会メンバーの顔を見るのは初めてだった。


「今日はまた、めずらしい取り合わせだな」


 俺がそう言うと、首を傾げた結菜嬢は無言のままピンボール台に歩み寄り、調整を始めた。対して、瑠夏は一歩こちらに寄ってきた。


「毎日来てるわけじゃないんだけどね。確かに、この四人が揃うのは珍しいかも」


「ああ。……航くんは、国分寺から通ってたんじゃなかったっけか」


「そーなんです。でも、このへんの雰囲気が好きで」


 早乙女航は朗らかな笑みを崩さず、余裕ありそうな風情である。そうして見る限り、真面目そうな好青年ではある。だが、瑠夏の表情はどこか複雑な色合いとなっている。


 彼が手洗いに立ったタイミングで、俺は口を開いた。


「まっとうそうな人物じゃないか」


 曖昧に話を向けると、瑠夏は小さく溜め息を吐いた。この人物にしてはめずらしい反応である。


「それがねえ……」


「なにかあるのか?」


「ちょっと……、アダルトゲームが好きみたいなのよ。すごく」


「あー……」


 苦笑いするしかなかった。パソコンゲームの黎明期であるこの時代、アダルトゲームが市場拡大の牽引役になったと耳にしたことはあったが。


「成人向けゲーム、だいぶ発売されているみたいだな」


「レンタルビデオも、それ目当てで普及したって言うし、牽引役なのはわかるんだけど……」


「けど、それ自体は個人の趣味だし、一概に否定されるものでもないだろ? パッケージを見せびらかすとかなら、話は変わってくるが」


「うん、そこは節度あるの。だけどね……あの子も、恵里菜ちゃんも」


「山原さんも、そっちが好きなのか?」


「少なくとも作り手としては、ね。多分、二人はアダルトゲームを作りたいんだと思う。あたしが苦手なのは察してるみたいで、参加してくれとかは言ってこないんだけど……、隠されるのも、それはそれで、なんかもやっとするのよ」


「仲間外れ感?」


「どうなのかな。一緒に笑えない感じ? 対話した上で、棲み分けができればよかったのかも」


「なるほど。距離感が難しいんだな。……すると、こないだ相談された、あのゲームは?」


「現状は同好会といいつつ、学校非公認なんだけど、表に出して問題ない作品を一つ残しておきたい、って事情があってね。伝えるつもりだったんだけど、悠真っちがあんまり楽しそうだったんで言いそびれて」


「そういうことか。テキストノベルにRPG要素を絡める想定だったんだが、それならテキストノベルまででいいかな」


「うん、形になりさえすればいいの。ゴメンね」


「かまわんさ。どんな取り組みも、同床異夢的な要素があるのは、むしろ必然だし」


 俺の言葉に、瑠夏がジト目を向けてきた。


「悠真っちは、たまに妙に達観してるよね」


「そうかもしれん」


 まあ、傍観者的な立場ながら、多くの職場を観察してきたからなあ……。


「もしかして、深く関わらないように裏方に回ってたのか? 本来は、ベーシックでのプログラムなんて軽いよな」


「ばれてたか」


「なら、興味を示しそうな奴を紹介しようか? 別の高校だが」


「それはぜひ。懇切丁寧に指導しちゃうよ」


 夏目兄弟の弟、康隆がパソコンのプログラミングに興味を示しているとの話は聞こえてきていた。ゲーム制作の道に進みたいわけでもないようだが、触れてみたいというところか。アダルト方面への警告をした上でなら、おそらく問題ないだろう。


「まさか、学校でアダルトゲームの開発はしないよな?」


「あたしがいれば、たぶん。その人が来てくれるとしたら、必ず同席するようにする」


「ん。打診してみる」


 久世は中神さんと交流があるようなので、そこから話を繋いでもらえるだろう。


 戻ってきた早乙女は、朗らかな笑みを浮かべて、ちょっと奥まった位置にあるテーブルゲーム系が集められた一角に向かっていた。


 そちらには、アーケードゲームの人気ジャンルの一つである脱衣麻雀の「スーパーリアル麻雀」シリーズが並んで置かれているが、激しいものではないし、目くじらを立てる必要はないだろう。


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