【1989年2月】
冬の冷気がまだ街を包み込む中、ニュースは淡々と、けれど否応なく重みを持って報じられた。
「本日、リクルーティング社の創業者である江福浩氏が、東京地検特捜部によって逮捕されました」
テレビ画面の向こうでは、深刻な表情のキャスターが、リクルーティングコスモ株の未公開譲渡による贈収賄の構図を語っている。政界、官界、財界の名だたる人物たちが、次々と芋づる式に浮かび上がっていた。
金は天下の回り物というが、政治家のところに集中して回っているようだ。金に応じた利権も巡っていたわけだが、これは特殊事例なのだろうか。それとも、新興企業であるリクルーティング社のやり方が拙かっただけで、数多ある同様の事象が表に出ていないだけなのか。
登校すると、教室では金田龍二が新聞に読み耽っていた。
「すごいことになってるな」
市川がそちらを見やりながら声をかけてきた。首席の彼とでは順位がかけ離れているのだが、時事ネタ辺りの話は俺に振られることが多い。
「なんとゆーか……、そのへんにいる生徒会長にでも任せたほうが、少なくとも清廉さでは国会議員よりいい気がしてくるよな」
「辛辣だな。まあ、だが、その通りなんだろう。実際には、政策は官僚が中心になって立案しているんだろうし」
市川の声には、歯痒さのようなものが感じられる。この人物が国政に出てくれたら、心から応援するのだが、本人にその気はなさそうでもある。
「ただ……、どうして漏れたんだろうな。俺はてっきり、政官財に加えて、メディアもずぶずぶなのかと思っていた」
この時代には、オールドメディアという言葉はまだなく、新聞がやや勢いを失い、テレビが伸びている状態である。そして、競い合いながら第四の権力として君臨していた。それらがまとめてネットメディアに駆逐されそうになるとは、時代の流れは恐ろしい。
「日本景気新聞の社長が受け取っていて、辞職したんだったか。そう考えると、完全に一体ではないということなんだろうな」
「この話題が最初に、この教室で出たのはいつだったかな?」
「半年くらい前かなあ。長くかかったような、一気に進んだような」
「このままじゃ、収まらないよなあ」
「ああ、政治も変わるだろうな」
今年の参議院選挙では、確かソーシャル党が勢力を伸ばし、「山が動いた」と称される状況になるはずだ。
事理民本党は過半数割れとなるが、光明党と民本ソーシャル党の、いわゆる事光民路線で乗り切るんだったか。
ただ、このときの動きが、のちのヤマト新党を核とした細海政権や、事理民本党・ソーシャル党・新党はやがけが組み、ソーシャル党から総理大臣が誕生する事ソは政権成立といった混乱の時代に繋がるわけだ。
その間も、官僚機構さえ大局観を持ってまともに動いてくれていれば、失われた三十年は到来しなかったはずなのだが……、無理な相談なのかもしれない。




