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【1988年12月】



 冬の風が頬に触れると、街の空気が少しずつ年の瀬へと向かっていくのが感じられる。この時期になると、どうしても身が竦んでしまう感覚があるが、まあ、致し方あるまい。


 今上陛下の容態は引き続き思わしくないようで、駅前のイルミネーションもやや控えめに映るが、それでもどこか浮き足立った気配も漂っている。


 リクルーティング事件の余波は続いており、宮川蔵相が辞任を表明していた。報じるキャスターの声は落ち着いていたが、政界の動揺が透けて見えるようだった。


「結局、誰も本当の意味での責任を取らないのが、この国の政治ってことかね」


 沢渡家の応接間の片隅で、食器を片づけながらそう呟いたのは久世だった。神社での祭りの後、ここの活動が露見してしまって、暇なときには寄ってくれるようになっていた。


「責任は取るけど、痛くない責任の取り方、って感じかな」


 俺の返しに、久世は皮肉っぽく笑った。


 室内の空気がやや重くなったところで、特に誰も見ていなかったテレビから、不意に山下達郎の「クリスマス・イブ」が流れ出した。


 今日は雨が降っていないので、雪には変わらないだろう。まあ、クリスマス・イブはまだ先なのだが。


「あ、これ。新幹線のCMよね」


 雨宮瑠夏が、新顔の男の子に食事を配膳したところで、声をかけてきた。


「……ああ、そうだね。この曲がクリスマスソングのド定番になっていくんだなあ」


「なにそれ」


 瑠夏が苦笑してくれたので、未来知識の披露は無かったことになった。


 エルリアは私服姿の紗良ちゃんと一緒に、小さなクリスマスツリーに飾りつけをしていた。金と赤のリボン、紙細工のオーナメント。二人が手に取る飾りは、どれもどこか繊細で、優しげな気配を纏っている。


 ニュースは、この11月のアメリカ大統領選で副大統領として勝利を収めたボッシュ氏の動静が伝えられていた。ボッシュの父親の方……、と言っても、この時点ではもちろん息子が大統領になるとは確定していない。


 この人物の任期中には、冷戦が終結し、日米貿易交渉でのスーパー301条が発動され、自動車輸出規制、米と牛肉の輸入自由化などが実行に移される。前世での俺の最後の時期に二度目の就任をしていたトライアンフ大統領と、どこか通ずるところもあるかもしれない。


 冷戦の集結に立ち会い、湾岸戦争へと向かうボッシュ政権は、揺れ動く時代の舵取りを託された形である。対して、世界をかき回しているようでもあったトライアンフ政権はどうなっただろう。俺はあの時点で死んだわけだが、その後も世界は続いたと思われる。どうか、あの世界がいい状態になりますように。


 そういえば、2025年の参院選で国民民本党と政参党が躍進した後、日本の政界はどう動いたかも気になるところである。衆参両院で事理民本党と光明党による事光政権は過半数を失ったはずだが、野党が揃って共闘できたとも思えない。さらなる混乱の時代となっていたのだとしたら、嘆かわしいことではある。



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