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【1988年10月下旬】



 二年次の学園祭は、エルリアと久世のクラスでの展示発表に参加する流れとなった。


 ただ、黒幕として参加しているのは一学年先輩である桐島茜音嬢で、龍栖神社の巫女舞に特化した再興の経緯が、映像や写真も含めて活写される形となった。


 模造紙に手書き文字で書き込まれた内容は、なかなかのまとまり具合で評判を呼んだ。清書も担当した茜音さんは、だいぶへばっていたようだったが。


 そして、展示中にずっと読み耽っていたのは、かつて接触してそのままになっていた、高梨澄嬢だった。創作の題材にするため、俺の生物学上の父が起こした事件を取材しに来て、断念した人物である。


「そんなに気に入ったのかい?」


「ええ。これは……、まるでひとつの叙事詩ね。神話の世界から、中世の前史、江戸期の神社としての成立、衰退からの復活、ですもの」


「題材になるかい?」


「もしかすると」


 そうは言っても、彼女の実際の創作の技量はわからないから、茜音さんに繋ぐべきかどうかの判断はつかなかった。瑠夏経由で確認してみるとしよう。




 そして、今年もバブル景気の影響があるだろう浮かれた感じは続いていた。その中で、久世は科学系部活の展示や演し物に横断的に携わったようだし、市川は実行委員会の下働きをこなしたようだ。どちらも、着々と存在感を増しているようだった。


 時折、どうしても思ってしまう。この二人のどちらかが、記憶を持った転生者だったら……、俺よりももっと有効に社会を改革できるだろうに。


 展示を見て回って、龍栖神社の展示をしている教室に戻ろうとしたところで、エルリアが小走りにやって来た。


「榊木さんがお待ちよ」


「え? なんか揉め事あったっけ?」


「和装じゃないのかって話は出てたけど……」


 慌てて戻ると、今日も和装の老紳士は、観覧席で湯呑みを手に座っておられた。


「ようこそお越しくださいました」


「おお、悠真。……なかなかよい展示だが、巫女舞の復活よりも、神社自体の復興の方が重要度は段違いだろうに」


「主導した者が、巫女舞に強く興味を持っていまして。高校生の発表ですので、テーマは絞る必要がある、との事情も絡んでいます」


「お主が仕切ったわけではないのか」


「はい、中心はエルリアで、実際の展示は一学年上の桐島茜音という者が担当しました。俺は、手伝いをしたに過ぎません」


「そうか……。だが、もったいない気もするな。より劇的であろうに」


「そうなんですかっ?」


 声を上げたのは、何巡目かの舞の映像に見入っていた高梨澄嬢である。


「ああ、神社は社会の中の装置であった。それが失われ、いまここに再興されつつある流れは、背景にある歴史を絡めれば大きな物語となるだろう」


「そこをもうちょっと詳しく……」


 榊木氏はやや戸惑ったようでもあったが、熱心な聞き手を得て悪い気はしなかったようだ。地域社会の基盤だった祭祀が神社仏閣として整理され、社会の変革に対応していく過程についての長時間の講義が行われ、俺も含めた面々がありがたく聞き入ることになった。澄嬢は、スケッチブックに細密な文字でメモを書き連ねている。


 伸びやかな声で社会の変遷が紡がれる中で、廊下からは笑声の欠片が漏れ聞こえていた。



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