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【1988年4月上旬】


 年度が変わり、俺は高校二年生になった。


 校舎の色は同じなのに、教室の空気がどこか違って感じられるのは、クラス替えのせいか、それとも自分の心の距離感が微妙にずれたからなのか。二年生からは、文系か理系かでクラスが分かれる。俺は文系、久世とエルリアは理系に進んでいた。教室の距離が遠くなるわけではないが、日々の授業での交差は少なくなる。


 散り遅れ気味の桜の花びらが、歩き慣れた道を足跡のように彩っていた。


 この時期、バブルの空気感を抜きにしても、世相は華やかだった。青函トンネルが開業し、瀬戸大橋によって四国とも陸路が繋がった。


 テレビからは、リゲインの広告が「二十四時間戦えますか」と問い詰めてくる。前回のこの時代、威勢がいいなと捉えていた自分がいたことに、今は少しだけ苦笑するしかない。結局のところ、バブルの徒花だったのだろう。


 加熱気味の景気に、まだ崩壊の兆しはなかった。ただ、高校生活にそれほど直接的な影響はない。


 と、新一年生らしき集団に、見慣れた姿を見つけた。


 ゲームセンターでのにぎやかな振る舞いからは想像できないほど、落ち着いた様子である。視線に気付かれたようで、小走りにやってきた。


「新入生の中に異物を見つけたように思ったんだが、瑠夏だったか。ぜんぜんフレッシュ感ないな」


 俺がそう言うと、彼女は薄く笑って答えた。


「そっちこそ、さっさと卒業でもしててくれたらよかったのに。いや、飛び級するようなタイプじゃないから放校か」


 鋭く返された俺は、肩を竦めて笑うしかない。なんだかんだで交流は重なっており、腐れ縁という言葉が、妙にしっくりくる。


「今は、立川のゲーセン中心なの?」


「いや、フラッシュに行く時間の方が多い。付き合いがあれば、寄ることはあるけどな」


「ふーん」


 この人物は、元々よそのゲーセンも行っていたようだから、一通りは回ってみるつもりかもしれない。ただ、ガイドして回るような関係性でもない。


「小金井翠中出身は、そんなに多くないよね?」


「新二年で交流あるのは、久世くらいだな」


「ちょっとぉ、肝心のエルちゃんを忘れてない?」


「ああ、エルリアもだな。……一年はどうなんだ? あの澄って子とか」


「澄ちゃんは北小金井高だし、仲のいい子は来ていないかな。……久世って、あのお調子者っぽい人でしょ?」


「ああ見えて、わりと堅実なんだが……。そっか、そこは交流なかったか。どこかのタイミングで繋いでみるよ。あいつも理系だから」


「あたしは……、やっぱり理系なのかな?」


「情報系だとしたら、文理どちらもありうるがな」


 そう考えれば、市川にも繋いでおくとよいのかもしれない。


 と、エルリアと茜音さんが広場の向こうで連れ立って歩いているのが見えた。俺は親指で指し示して、瑠夏をそちらへと向かわせたのだった。




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