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【1987年12月】


 浅い眠りの中で訪れた、むずがゆいようで存在が揺らぎかねない感覚は、どうやら初期微動だったようだ。寝静まった家が、ごく短い振動で揺れ動く。家鳴りの音とも違う、ギシギシとした音が鳴った。ただ、倒壊するような勢いではなさそうである。


 扉を開けて廊下に顔を出すと、エルリアが部屋から出て、廊下の電話台にしがみついていた。


「大地震ではなさそうだ。念のため、気を付けて」


「どうしてわかるのです」


 その言葉には、はっきりとした怯えの響きがあった。


「初期微動から多少の時間差があったから、震源はすぐ近くではないと推測できる」


「そう言われましても……。こんなにも頻繁に、大地が揺れるものなのですの?」


「この国は、まあ……、地震大国だからな」


 エルリアは押し黙った。小刻みに震える指先を握りしめるのが見えた。


 かつて彼女のいた世界に、地震という現象は存在しなかったらしい。地盤が安定していたのか、それとも、神の怒り的な役割を担っていたのか。


「ここはすぐに崩れたりしないし、ばあちゃんも無事だろうし」


 そう言っても、エルリアの瞳はどこか遠くを見ていた。


「……噴火の時にも驚きましたが、これがこの世界の普通なのですね」


「そうだな。でも、規模によっては大きな厄災となる場合もある」


 1995年の阪神淡路大震災で、多くの命が失われ、防災の必要性が強く意識された。


 2011年の東日本大震災では、津波によってさらに多くの命と暮らしが一瞬で消えた。そこに、原発事故が畳み掛ける形となった。特に後者は、スマホ普及後だったこともあり、多くの生々しい映像が胸に焼き付いていた。


 今の俺には、未来が見えてしまっている。けれど、被害を防止すること……、直接的な人命への加害の回避は、女神のルールで禁止されている。


 裏を返せば災害が起きた後の「救難」は、その限りではないはずだ。


 ならば、やるべきことは見えている。


 1995年の神戸に間に合わせるように、防災体制を。


 2011年の東北に備えて、災害対策を制度として整えておく。


 訓練としてではなく、実際の運用として行い、そこで得た経験を2011年で深化、また標準化できれば、以後の災害へのモデルケースが築けるはずだ。


 テストのために、予想される災害を待つわけではない。だが、救える命があるのなら、備えに意味はある。


 エルリアが、ようやく震えを鎮めるように、膝を抱えながら口を開いた。


「……あなたは、大地の揺れに意味を見出だしているように映ります。違いますか?」


「違わない。怖いものだからこそ、どうにかしなきゃと思うんだ。何度でも、何十年かけてでも」


「わたくしも……、そのように捉えることができるでしょうか?」


 その目に宿った光を、俺は見逃さなかった。


 「もちろん。君の力は、俺の知らない誰かの希望になるかもしれない」


 居間に向かってテレビをつけると、引き続き現役のブラウン管テレビが、小さくノイズを混じえながら、ニュースを流していた。


「……本日未明、千葉東方沖を震源とする地震がありました。各地の震度は次の通りです」


 最大震度は5で、東京の震度は4だった。緊急対応であるが、淡々とした報じようではある。大地震でもなければ、それがこの国の普通であった。



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