【1987年11月上旬】
ブラックマンデーから半月ほどが経過した。日経平均株価は大きく下落したものの、市場の混乱は早くも収束していた。
街には浮き立つような空気が漂っている。投資話が日常の風景に溶け込み、テレビやCMも妙に派手さを増してきていた。
そして、西城高校の学園祭にも、その空気は色濃く反映されていた。
体育館のステージには、カラフルな衣装を着た男子生徒たちが現れた。足にはローラースケート、頭にはキラキラした布で縁取られたバンダナ。観客の女子らの黄色い歓声の中、光GENJIの「パラダイス銀河」が流れ出す。
ローラースケートで滑走しながら踊る彼らは眩しく、青春の祭典と括ってしまえば、それなりの絵にはなっていた。
この高校でも学園祭の方向性には、上級生の意向が強く出る傾向にある。冷戦も少し落ち着き、学園紛争も歴史になったこの時代、浮かれて悪いこともない。けれど、俺の心には引っかかるものがあった。
あまりにもキラキラしすぎた幻のような時代。明るすぎる光は、影を深くする。
校内を歩きながら周囲に視線を巡らせていると、歩み寄ってきたのは久世だった。
「……どう思う?」
校庭脇の木陰、喧騒から少し離れた場所。彼もまた、浮かれた空気にうまく馴染めていないように見える。
「ステージのことか? それとも、全体的に?」
「全部、だな」
ポケットに手を突っ込んだ久世が、視線を滑らせながら言った。パネル展示のコーナーですらゴテゴテとした装飾が施され、模擬店でも不要なはずの飾りや仕掛けが施されている。
「あのステージの連中は、昨日からずっと練習してたらしい。打ち込んではいるんだろうが」
「まあ、向いてないんだろうな。こういう空気は」
頷いた久世だけでなく、俺の知己には、あまり空騒ぎを好む人物ではなさそうでもある。
浮かれた時代の空気感というのは、こういうものなのか。前世では、デフレと不況とに埋もれ、そういった世界に憧れたことすらなかった。居心地が悪いのも仕方ないだろう。
「エルさまはどうしておられるんだ?」
「展示を仕上げてる頃だと思う」
我が一年B組は、小規模な紛糾を経て展示でお茶を濁すこととなり、龍栖神社の起源についての発表が予定されている。内容について前日まで詰めていた結果、清書が夜中までかかり、先ほど茜音さんと持ち込んだところである。雑な俺は、展示局面ではむしろ邪魔になるからと、お暇を頂戴した流れだった。
「提案していたエルさま、楽しそうだったらしいな」
展示のテーマも、まともなものが出てこなかったので、それならとエルリアが趣味に走った提案をしたのだった。上級生の茜音さんの協力も得て、なかなかにまとまった内容となっている。
そして、群を抜いて飾り気のない展示となっていた。もしも、エルリアの舞う姿を映像で流したなら、なかなかに派手な展示になっていただろう。蒼衣さんがビデオを撮っていたようだったが、公開する話は出ていなかった。
「周囲からは自己満足映るだろうけれど、機会を利用する決断は見事だな」
「ああ。文句ばかり言っていないで、素直に受け入れられる人の方が、強いんだろうな」
久世の言葉には、やや疎外感が漂うようでもあった。
「まあ、あれだ。同じアホなら踊らにゃ損、ってやつだな。せめて、楽しもうや」
「だな。……B組の展示、見せてもらっていいかな?」
「そろそろ準備が済む頃だろう。人手がいるかもしれないし、行ってみるか」
俺たちは喧騒の中を、校舎棟に向かって歩いたのだった。




