【1987年8月中旬】
夏の盛りの時期にゲームセンターへ向かうと、雨宮瑠夏の姿があった。一学年下で、まだ翠中に在学中の彼女は、夏休みに入り浸っているのだろうか? まあ、ゲーセンは、意外とお金を使わずに過ごせる空間なので、そうであっても問題はなさそうだ。
場末と呼んでよさそうな小金井のゲームセンターにも、「アウトドライブ」の派手な筐体が導入されていた。自動車を模した座席がハンドル操作によって動く様子は、大迫力ではある。
デモ画面を覗いていると、瑠夏が寄ってきた。
「こういうの、やるの?」
「いや、レースゲームには興味ないな。運転してみたい人からすれば、楽しめるんだろうが。瑠夏はやるのか?」
「ううん。邪魔だなー、と思っている」
まあ、昼間の中高生向けというよりは、夜の成人層向けなのかも。
「自動車全般に興味なし?」
「実用としての意味はあると思うけど、F1とかはどこが面白いのか分かんないや。なんか、ただグルグル回ってるだけっていうか」
「いやいや、けっこうドラマあるんだけどな。タイヤの摩耗とか、ピットインの駆け引きとか。車やタイヤの開発競争とか、なんというか、血統に似た流れもあるし」
「血統……、って競馬とかの?」
「そうそう。長期的に見る面白さもある感じだな」
「うーん……、たぶん、その長期的な流れみたいなのは、私には合わないんだと思う。結果がすぐ出る方が、好き」
まあ、格ゲーの反応速度勝負とか、パズル要素のあるゲームの緊張感の方が、彼女にはしっくりくるのだろう。
「筐体もでかいしな」
「でも、「エアダンサー」なら、ちょっとやってみたいかも」
エアダンサーとは、ジェット戦闘機を操ってミッションをこなす、こちらも乗り込み型筐体のゲームである。
「あれ? そっちは気になるんだ?」
「映画のトップガンを見たんだ。あれ、かっこよかった。「アウトドライブ」よりは、邪魔にならないと思うし」
まあ、形からして、そうかもしれない。
「導入はしないのかな」
「聞いてみようか。……ねーねー、「エアダンサー」は入れないの?」
いきなり瑠夏に問い掛けられて、顔馴染みの店員は驚いたようだったが、苦笑を浮かべて首を振った。
「オーナーの趣味に合わないらしくてね」
「……趣味で決めてるの? でも、筐体の派手さなら、「アウトドライブ」の方が邪魔くさくない?」
「あ、いや、そういう観点じゃなくて……、どうも、飛行機が苦手らしいんだよ。機銃掃射っていうのかな? 戦時中の、軍用機が低空で飛んでくる音が、今でも耳に残ってるんだとか」
「実体験からか……。今も、身近な感覚なんだね。オーナーは、この辺の出身なの?」
「そうらしい」
「多摩、武蔵野の辺りは、軍需工場が多かったからな。立川には航空機関連の部品工場もあったって聞くし」
「立川には飛行場もあったんだよね?」
「そうそう。だから、軍事施設扱いはしょうがないよな。東京大空襲は、町と住民が標的だったんだろうけど、この辺りはまた違ったんだろう」
「それは……、やっぱり、怖かったよね。空から撃たれるって」
雨宮の声は、どこか沈んだものになっていた。
「テーブルゲームで戦闘機が出る分には、気にならないらしいんだけど、「エアダンサー」ははっきり飛行機を連想させるからなあ」
「ん、諦める」
「お、いさぎよいな。東小金井のゲーセンには、入ってるはずだぜ」
「そこまでやりたいわけでもないからね」
瑠夏の言葉に、バイトの青年はにやりと笑った。
「まあ、リクエストがあれば言ってくれ。必ず入れられるとは限らないが」
話が締めくくられて、俺達は店員と客との関係性に戻っていった。




