【1986年10月上旬】
秋になって、ゲーセンでのお気に入りのゲームに「バブルンボブルン」が加わっていた。
二頭身の恐竜キャラを操作して泡で敵を閉じ込めて倒していくこのゲームは、コミカルな音楽も心地よいが、意外と歯ごたえがある構成となっていた。
ただ、俺は一日ワンプレイ縛りをしているのと、そもそも技量がさほどでもないので、攻略状況はそこそこといったところであった。たまに瑠夏がプレイしているのを見かけて、参考にさせてもらっている状態だった。
ゲーセン内での交流として、誰かのプレイを背後で邪魔しないように見学するのは、少なくともこの「プレイタウン・フラッシュ」では許容されている。まあ、俺が無遠慮に瑠夏のプレイを見物しつつ、さほど言葉を交わさないので、周囲に知らぬ同士だと認識され、倣われている可能性もあるけれど、悪いことではなさそうだ。まずい事態になれば、店員が介入してくるだろう。
そして、この日は瑠夏がきっちりと仕上げていて、ステージ数が三桁に近づいていた。俺は途中から張り付いているし、他の常連も、バイト君も含めて観戦モードとなっている。
そして、最下層の100面がクリアされ、瑠夏が小さく握りこぶしを作った。……のだが、表示された英語のメッセージは、微妙なものだった。1プレイヤーだけでのクリアなので、最終面で待っていたお姫様的存在のうちの一頭だけしか助けらておらず、トゥルーエンディングへと至らなかったというのである。友達を連れてこい! というのは、なかなかの仕掛けである。
瑠夏が、めずらしくやや肩を落としたようにも見えた。
「きっついな」
呟いた俺の方に目線を向けると、ふっと笑って腕をガシっと掴まれた。椅子に座らされ、そのまま百円硬貨が二枚投入される。
「えーと、俺の腕じゃ、ノンコンティニューでのクリアはきついかも」
「あの仕打ちで、負けてられないって。さすがに、ワンコインクリアまでは求められてないでしょ。お金なら出すから」
「いや、別に無いわけじゃないからな。……ベストを尽くす、それでいいか?」
頷いた瑠夏は、機嫌よく操作を始めていた。
スコア差がだいぶついたのは、俺の危難をだいぶ瑠夏が救ってくれたからだった。100面ノンコンティニュークリアをした直後だけに、ゲーム世界を牛耳っているようでもある。
ただ、後半に入って、俺の残機は数を減らしていた。
「ちょっと、厳しいかもな」
ステージ終わりの俺の呟きに、瑠夏が唐突に立ち上がった。手振りで、俺にも立つように求めてくる。
「あ……、そういうことか」
1プレイヤー席に座ったことで、ノーミス状態での継続となる。確かに、この配置の方が可能性は高いだろう。
瑠夏のプレイは引き続き鮮やかで、ついに最終面にたどり着いた。
先程の彼女の初見クリアは俺も目撃しており、雷を使ってのラスボスへの攻撃を二人で繰り返す。俺は残機を減らしながらも、ようやくその時が訪れた。
モニターの中では、二頭の恐竜が元の姿に戻り、救われた恋人たちと手を取り合っている。
瑠夏の方に手を向けると、へにゃっとした笑みを漏らしている。
右手を上げると、彼女もそれに倣った。パチリと手と手を打ち鳴らすと、周囲の人の輪……というほどの人数ではないが、拍手もなく解散となった。ここでいきなり対話を始めたりはしないというのが、ゲーセン常連同士の付き合いの作法というものなのだろう。
「……ありがと」
ぽつりと、絞り出したような瑠夏の言葉には、気恥ずかしさが含まれているようだった。




