夜、二人、なんかエモいやつ
深夜、日付を跨ぐ頃。住宅街の中にある公園のブランコが揺れている。
その公園にはスーツを着た男二人組の姿があった。
ブランコに乗り気怠そうにしている男と、近くの手すりに腰を預けながら煙草を吸っている男の様子は、この時間帯からしても違和感を感じさせている。
「アイザワ先輩って、なんでこの仕事してんすか?」
「あ? 成り行きだよ、成り行き。つかタカハシ、お前はもうちょっと真面目に働け」
「えぇ~? 自分、結構やってますけどね」
アイザワと呼ばれた男は、煙草の煙を夜空に向けて吐いた。それをタカハシが煙たそうにしながらアイザワに話しかけている。
「特に最近は仕事の数も多い。一歩間違えれば人を見殺しにしてしまうようなことだってある。だからこう……もうちょっとシャキッとしろシャキッと」
「でも自分、絶対ミスらないんで」
タカハシの言葉に、思わずアイザワは溜め息をつく。
「”夢を喰う悪魔を退治する”仕事なんて、普通オモテに出てきませんよ。先輩がなんでこんな仕事をしているのか、気になっただけっすよ」
「――家族が被害に遭ったからさ。そこで知った」
二本目の煙草を咥え、ライターで先端部分を灯す。
それをゆっくり吸って、深呼吸をするように時間をかけて味わう。この時間だけが、今の彼を支えているようだ。
「お前はどうなんだ。どこでこの仕事を知った」
「ハローワークっすね」
「ハロワの守備範囲広すぎるだろ」
「今は令和っすよ先輩、多種多様な働き方が認められつつある現代社会なんすから、たまにこういうのもあるんですって」
ブランコは次第に大きく揺れ出す。全身を使って屈伸運動を繰り返し、ブランコの動きが加速していく。
「……おい、危ねえぞ。ガキじゃねえんだから大人しくしてろ」
「――――そいっ!」
「どわっ!?」
タカハシが思い切りブランコから空目がけて飛び出した。
地上から三メートル程の高さで落下を始め、そのまま見事なバランスで着地する。
「――――大丈夫ですよ先輩。自分、絶対ミスらないんで」
「ったく……いつか痛い目見るぞ」
ケロっとした表情で話すタカハシに、思わず二度目の溜め息をしてしまうアイザワだった。
アイザワが腰掛ける手すりの隣に来たタカハシは、左胸ポケットに右手の指を入れる。
「お、おい。お前……」
「ん? どうしたんすか先輩」
出てきたのは、一つの箱とIQOS。普段煙草を吸うどころか、アイザワが喫煙をしているといつも煙たそうにしていた彼がそれらを所持していることに驚く。
加熱式煙草の喫煙具に差し込み、少しの時間を置いてタカハシも吸い始めたのだ。
「煙草、ダメだったんじゃねえのか」
「え? 自分、一言もそんなこと言って無いっすよ?」
アイザワの驚いた表情がそれほど面白かったのか、タカハシは口角を上げて笑顔でそう話した。
「……それなら早く言えよ」
「確かに、それもそうっすね。でも自分、煙草の匂いで吸いたくなっちゃうんで」
「そーかよ。――そろそろ行くぞ」
アイザワが二本目の煙草を吸いきると、手すりに立て掛けていた竹刀袋のような物を二つ手に取り、内一つをタカハシに手渡した。
「やっとっすね。じゃあ行きましょう先輩」
「勝手に仕切るな。お前はあくまでも俺のサポートだ」
「わかってますって」
スーツ姿で竹刀袋を肩に提げ公園を出て行こうとする二人の様子は、この時間帯からしても違和感を感じさせている。
「――――改めて、今日からよろしく。相棒」
「――――よろしくっす! アイザワ先輩っ!」
今日の朝からの関係である彼らの繋がりは、一本の煙草でより深くなった。
吸い殻から立ち昇る煙のように小さな狼煙を上げる人々の為、彼らは夜空瞬く夜に出動するのである。