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8修道院到着

 ナヨは荷馬車を走らせ続け森を抜けでた。すると石作りの塀でかこまれた修道院が見えてきたのだ。ナヨはムチを何度もふって、馬を走らせ門の間を通り抜けて塀の中に入り込むことができた。

 ダラムは荷馬車から飛びおり、両手で剣を握っていた。塀の中に入り込んでくる魔人たちを迎え撃とうと思ったからだ。だが、魔人たちは馬にのったままで門の前に並び、塀の中に入ってはこなかった。ただ憎悪の目をダラムにむけてくるだけだった。

 その間にナヨは修道院からでてきた修道女のリンダにミーシャを引き渡していた。リンダはミーシャの手をひいて修道院の建物の中に連れていき、出入口ドアを閉めていた。ミーシャが保護されたのを知ると、ナヨはダラムの隣に並んだ。

「どうして、かれらは、攻めてこない?」

「かれらは魔人だからね。魔人は、神の領域に入ってこられない」 

「修道院は神の領域なのか?」

 耳がウサギのように上に伸びた魔人は馬からおり地面に落ちていた石を拾って、ダラムの方に投げてよこした。その石は、ダラムに向かって飛んできたのだが、体を右に傾けるだけで簡単に避けることができた。魔法を使えないので、それ以外の方法で攻めてきたというわけだ。だが、その後に投げ込まれた石は、ナヨが長杖で叩き落し、ダラムの前で落ちていた。やがて魔人たちは石を投げ入れることもしなくなった。

 やがて、修道院の塔についている銀色の十字架に夕日が当たり、その反射光が魔人たちを照らし出した。すると、魔人の一人は「うわぁ」と声をあげた。それが合図のように、魔人たちは、馬を反転させると逃げ出していったのだった。

「これは」

「神が、魔人たちを追い払ったのじゃ」

 ダラムは、思わず十字架をみつめた。神のウイズが、自分を助けてくれた。そう感じることができたのだ。だが、その十字架は自分が知っていたのと、形が少し違うようなきがした。なぜ、そんなこと思うのか、まるで分からなかった。

「これで敵がやってこなくなるのでしょうか?」

「そうはならんな。魔人はゼノン国からミーシャさまの殺害を全面的にひき受けている。そのためか、魔人の数も多かった。だから、修道院には別の方法で入りこもうとするに違いない」

「別の方法とは?」

「魔人でない者を送り込んでくることが考えられるな」

 二人が話し込んでいると修道院から男が出てきた。ナヨと同じケープを着ているが、その色は紫で位が高いのだろう。ナヨよりも年上であるに違いなかった。頭にはまったく毛がなく、胸までたれた白い髭をはやしていた。

「院長、ご無沙汰をいたしておりました。お元気そうですな」

 ナヨはその男に軽く頭をさげていた。この男が修道院の院長ドレールだった。

「そちも、相変わらずの健在ぶりじゃな。リンダが連れてきた少女はミーシャ王女さまですな?」

「ご推察のとおりでございます」

「それに、もしかしたら、そこにいる者がアーサーの再来かもしれないと言っていた若者かな?」

「はい、そのとおりですよ」

 ダラムは頭を下げて院長のドレ―ルに挨拶をしようとした。だが、よろけてしまったのだ。理由はすぐにわかった。空腹のために、足に力がなくなっていたからだ。

「もしや、空腹なのでは?」

「院長。たしかに、わたしどもは、朝から何も食べてはいない」

「そうでござろう。さきに建物の中に入ったミーシャさまには、すでに食事をお出ししておりますぞ。あなたがたにも、ありきたりの物だが、食べていただこう。だが、その前に礼拝堂にお連れ致しますぞ。まずはウイズさまにお祈りをしていただなければ」

 院長は、笑顔になり、先に立って歩き出した。ナヨはダラムと並んで院長の後について修道院の出入口にむかった。

 出入口には、左右に白い大理石の柱があり上部に半円の飾り窓がついている。

ドアを開けて中に入ると、長い通路があって、通路の突き当りで右に曲がっていた。そこから回廊になっていて、中庭が左に見える。そこには薬草が栽培されていたのだ。

 回廊の奥が礼拝堂になっていた。そこには、大学の講堂のように机と椅子が神像に向かって並べられている。院長は神像の真ん前にいき、ダラムが訪ねてくれたことを報告していた。ダラムは院長の後ろにいて、神像を見あげた。

 神像は男女が肩を組み、組んでいない手を左右にあげていた。そして、見あげるダラムにむかって、二つの顔は微笑みかけてくれていたのだ。いつまでも、その顔に見られていたい。そう思ったダラムは動けないでいた。

「そろそろ参りませんかな」

 院長はダラムに声をかけてきた。

「神に祈ることは、われら修道士の仕事ですので、お任せをいただきたい」

 院長は先に立って歩き礼拝堂を出ると回廊を戻り出した。回廊の長い通路を歩いて院長は二人を食堂室に連れていった。そこで、たくさんの人たちがすわれる長いテーブルを見ることになった。だが、そこにいて食事をしていたのはミーシャ独りだけだった。

 ミーシャの前には、うずらの燻製、ライ麦パンが皿にのせられ、香草の野菜にヨーグルトをかけられた物が白い陶器皿に盛られていた。

 ミーシャはうずらをフォークでおさえナイフで切り、小さくしたものを口に運んでいた。

 ダラムはミーシャの真正面にすわらせられ、ナヨはその横にすわった。

「リンダ、これはご馳走じゃないか。ともかく、すぐに食べたいな」

 ナヨの声を聞いて、調理場から、前掛けをつけたリンダがでてきた。湯気のでているうずらの燻製をせた皿を二つ両手にのせて持ってきて、ナヨとダラムの前においていた。

「ちょうど、ようございました。保存食としてうずらの燻製を作っておりましたので、それをお出ししますよ」

「それはいい。わしもご相伴をさせていただけるかな」と、院長も空いている席にすわっていた。

「もちろんですよ、院長。パンも新たに焼いていますので、それをお持ちしますよ」

 その後、リンダはもう一皿、うずらの燻製とライ麦パンを載せて持ってくると、院長の前においていた。

 また若い修道女は山羊の乳を陶器の瓶に入れたものと、素焼きのカップを四つ持ってきたのだ。カップをみんなの前に置くと、瓶から羊の乳をそそいでいた。

 ダラムはカップを手にとると、喉に乳をすぐに流し込んでいた。ウズラの肉で喉を詰まらせそうになっていたからだ。

 ダラムは、食べ続けた。

 これまで、貧しい食事しかしてこなかった分をここで取り戻そうと思っているかのようだった。


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