7新たな追手
荷馬車を走らせていると、再びひづめの足音が聞こえてきた。すぐにダラムは後ろをむいた。そこには前と同じぐらいの敵兵が馬にのりやってきたのだ。違いはある。彼らは馬にのったままで弓を手にして矢を放ってきた。
「ミーシャさま、あぶない」とダラムは叫んだ。ミーシャが屈みこむ前に矢の一本が左腕にかすり傷をつけていた。傷は赤い筋を白い肌に印したのだ。
「荷台にある板を立てるんだ」
ナヨが声をあげ、荷台におかれていた板をダラムは馬車の隙間に立てていた。その板に飛んできた矢が次々と刺さり音がしていた。
「ダラム、御者はしたことがあるか」
すぐにダラムはうなずいた。父が生きていた頃、父が仕立てた衣服を借りた馬車に積んで、他の家に運んだことがあったからだ。
「じゃ、代われや」
そう言ったナヨは、御者席から立ちあがった。すぐに空いた御者席にダラムは腰をおろし、手綱を手に取ると、馬を走らせ続けた。ナヨは荷車に積んでいた小麦が入った袋をナイフで切り裂き、袋を敵兵に向かってふり廻し出したのだ。袋から小麦の粉がまき散らされていく。走る馬が起す風に、麦粉は舞い上がり、辺りを白い霧の中にして見え無くしていった。麦粉の霧に、敵兵がのる馬はたじろぎ、動かなくなっていたのだった。
やがて、道は三つに分かれている場所にやってきた。
それを見たナヨはダラムと代わり御者席に戻り、馬の手綱をひいて左端の道に馬車をすすめたのだった。
「この道でいいのか?」
「他の道は他国へ向かう道だからね。しかし、これから行く道は森の中にある場所で行き止まりだ。そんな所に行くとは誰も思わないだろう」
話をしながらも、ナヨは馬を走らせ続けていた。
「でも、なぜ、ミーシャさまを、こんなにも狙うのだろう? 王女が兵をひきいたりはしない」
「それはゼノン国にも国家占い師がいるからだよ。その名はゴーギャン。彼の占いで、ミーシャが生きていれば、コロダ国がゼノン国を滅ぼすことになるとでているのだよ」
「ナヨは、どうして、そのことを知っているんだ?」
「わしも占い師。いつも水晶球を使って占っている。ゴーギャンが占っている姿を水晶球に映し出して見ることができたのだよ」
「ミーシャさまを守るには、俺よりも能力のある者がいるだろうに」
「いや、わしの占いでは、そうではない。ダラム、あんたがいないとだめなんだ。そのことを、まだゴーギャンは気づいてはいない」
「ナヨのほうが、予言者として優秀だということかい?」
「いや、そうとは言えん。ダラムの中にある魔王と戦っていたアーサーをこの時代に呼び戻すことができたのは、数日前のことだからな。ゴーギャンが見た水晶球には、ダラムの影さえも現れてもいなかったに違いない」
すると、ダラムの脳裏に転生前のことが、浮かび上がってきた。
ここに来る前は、剣など持たない生活をしていた。真守と言う名前で高校に通っていたのだ。そこの世界でも悪い奴がいる。彼らは真守が通っている高校の生徒から、持っている金を脅しとりあげようとしていたのだ。そう恐喝だ。眞守はそれを止めようとしたのだが、彼らの独りが持っていたナイフで真守は腹を刺されてしまっていた。だが、その後の記憶はたちまち薄れ出し、脳裏から消えていった。
次に、その前の記憶がダラムの脳裏に蘇ってきた。それはアーサーとして、剣を使っていた頃のものだ。
最後の決戦で、魔王リンドラは呪文をかけてアーサーを別世界に飛ばそうとしていた。だが、そのことを知ったアーサーは自分がこの世界から転生させられる前に消滅呪文をかけてリンドラを粉砕していたのだった。
アーサーがいなくなったこの世界で、粉になっていたリンドラは長い時間をかけて粉を集め出し、自分の体の修復をはかってきたのだ。まだ完全な復活ができたわけではないのだが、リンドラはこの世界を支配することしか考えてはいない。そのために各国の王たちを操って争いを起こさせ、そこに新たに生み出した魔人たちを送り込んでいたのだ。アーサーだった者でなければ、魔人たちの力を粉砕することはできない。
だが、平民として生まれ、国の戦いの外にいたダラムは、そのことを知るはずもなかった。アーサーだった頃の記憶と力は、ダラムの中にまだわずかしか取り戻してはいない。それでもダラムは戦っていかなければならないのだ。
「少しだが、自分が何者なのか、分かり出してきたよ」
「そうか、よかった」と、ナヨは、片ほほだけで笑っていた。
再び、背後に馬たちの足音が近づいてきた。馬にのっている者たちは見ただけで人とは思えなかった。
「また、敵兵ですよ。それも今度の敵は耳が左右に飛び出ている者や、緑色のはだを持っている者たちもいる」
「彼らは魔人。人とは違って鼻がきく。だから、わしらが選んだ道を見つけて追ってくることができたのだ」
荷馬車においついた魔人は剣をふってミーシャに傷をつけようとしてくる。ほとんどの剣をダラムがすばやい剣で阻止していった。だが、魔人の一体だけは手を倍に延ばすことができたのだ。その者の剣だけは、ミーシャの所まで届き、胸を突き刺そうとした。だが、ミーシャも戦とはどんなものなのか、分かり出していた。すばやく、父の持っていた剣をふって、突き出された敵剣をはじいていた。
ナヨは、荷馬車を走らせながら、呪文を唱え続けていた。それはミーシャやダラムに対して魔人たちがかけてきた呪文を解く呪文だった。魔人たちがかけてきたのは、呼吸が止まり、胸が苦しくなる死の呪いだったのだ。魔人たちは自分がかけている死の呪文が効かないのを知ると、道に落ちている小石を飛ばす魔法をかけてきたのだ。それは嵐のようにダラムとミーシャを襲い出していった。だが、その魔法に対してもナヨはそれを封じる呪文を唱えていたのだ。




