6追手
荷馬車はコロダ国とラゾム国との国境ぞいにある森に向かっていた。背後から馬を走らせている足音が聞こえてきた。思わず、ダラムは後ろを振り返った。そこには、馬にのった一団が追ってきていたのだ。馬にのった男たちの動きはすばやい。手に持つ剣をふり上げて近づいてくる。それに気づいたミーシャはすぐに鞘から剣を抜き手にしていた。ナヨは、荷馬車にのせていた剣をダラムに向かって投げてよこした。それはナヨが使っていた剣だった。それを受け取ったダラムは、意識することなく、アーサーになっていた。鞘から剣を出して、ミーシャに向かって振り下ろしてくる剣をミーシャに代わって受けていた。敵の剣をダラムの剣ははじいていたのだ。
荷馬車の反対側から襲ってきた敵兵に対しては、ナヨは長杖を手にすると、それをつき出した。敵兵を馬から落としていた。
だが、他の敵兵たちは、馬を走らせ、荷馬車の前にでると、馬を反転させて隊列を作ったのだ。彼らは再び馬を走らせると荷馬車にむかってきた。彼らは当然のように剣をふってくる。
ダラムは怒りに燃えたせいか、敵兵たちの動きはまるでスピードを失っているかのように、ゆっくりと動いて見え出したのだ。だから、彼らの剣の間に、自分の体を入れることができ、使い慣れていない剣をふっても、次から次へと敵兵を倒すことができたのだ。
突然、敵兵の動きがとまった。敵兵の中にいた髪が黒く眉の太い男が片手をあげていたからだ。
「剣をつかえる者がいるとは、そんな話は聞いていなかったな」
そう言った男は、ゆっくりと馬からおりてきた。どうやら、この男が敵兵たちの頭だったのだ。男は荷馬車の前に立ち、右手を挙げて、印を結び、呪文を唱え出したのだ。すると、突然、ダラムは体が重くなっていた。剣を持っているだけで、辛くなり出していた。残っていた敵兵が馬を走らせダラムに襲いかかってくる。ダラムは必死の思いで、剣をふり廻し、そのおかげで切られた敵兵を馬から落ちっていった。ダラムの力が弱くなっていると見た呪文を唱えていた頭はニヤリと笑っていた。その後、自分の腰にさげていた短剣をつかむと、ダラムにむかって投げてきたのだ。このままでは、ダラムの胸に短剣が突き刺さってしまうと思われた時だった。ダラムの剣を持つ手が軽くなり、短剣をはじき飛ばすことができたのだ。
それは、ナヨが呪文を唱えたからだ。その呪文は敵兵の頭の呪文を打ち消すことができるものだったのだ。ダラムはすぐに荷馬車から飛びおり、すばやく剣をふって頭を切り倒していた。
頭が倒れてしまったのを見た敵兵たちは馬の向きを変え、尻に鞭をふっていた。そして逃げ出したのだった。
「ダラム、彼らを生きて返すな」
ナヨの叫びを聞いて、ダラムは剣をふって、馬にのって逃げていく敵兵を追い出した。ここから敵兵を逃がしてしまっては、ミーシャたちが生きていることを敵国に知られてしまうからだ。必死に走って剣をふったおかげで、ダラムは残っていた敵兵をすべて切り馬から落とすことができた。主を失った馬は軽くなったためか、勢いをつけて走り去っていた。
逃げていく馬を見て、ナヨは眉間に深い縦じわを作っていた。
「馬を逃がしたことは、まずかったかもしれんな」
「そうですか?」
「馬だけが戻っただけで、誰かと戦い負けたことがわかってしまう」
「なるほど、馬ごと切り捨てればよかったのか」
そう言ったダラムは、手にしていた剣をナヨに渡そうとした。
「それは、どうしたことかな?」
「これはナヨのだ」
「いや、違うぞ。そなたが使う剣として、わしが用意していたものじゃ」
「じゃ、これは」
「ダラムが使わなければならない剣じゃ」
何も言えずにいるダラムにナヨは笑いかけていた。
「ともかく、急ごう」
ナヨは、再び荷馬車の御者席にすわった。青い顔をしているミーシャと目があったナヨは、「修道院まで、もう半時もあれば、行くことができますぞ」と言って、力づけていた。ナヨの後を追うように荷馬車に飛びのったダラムは、ミーシャに王の剣を鞘に戻させ、ミーシャの肩を軽く抱いて、うなずいてみせた。
ナヨはムチをふり、再び馬を走らせ出していた。




