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4殺害遭遇(そうぐう)

 明るい光を感じて、ダラムは目を覚ました。すぐに目に入ってきたのは、モザイク模様のタイルをはった天井だった。

 ここはどこだろうか?

 住んでいた家ではないし、下町の家でこんな天井がある家に行ったことはない。そんな時に、顔が現れた。見知らぬ女が自分をみつめていた。顔に白粉をぬっているようだが、その下にある皺を隠すことができないでいた。

「お目覚めになられましたか」

「ここはどこです?」

「コロダ国の宮殿、ここは客間用の寝室でございますよ。そして、私は王女のそば仕えをしているリンダともうします」 

「俺が寝てから、どのくらい経っているのだろうか?」

「ここに、ナヨさまがあなたをお連れになられましたのは昨日の昼下がり、今日も同じ頃になりますので、ほぼ一日は寝ておられたと思いますよ」

「ナヨはどこに、それにミーシャさまはどこにおられる?」

「親睦を結んでいるゼノン国との対談が謁見の間で行われることになっております。その場にはミーシャさまも列席をすることになっていますので、その場におられるかと思います」

「では、ナヨはどうしているんだ?」

「ナヨさまも同席をしております。ナヨさまは、ミーシャさまをお守りしなければなりませんので、一時もミーシャさまから離れることはありませんよ」

 ダラムの頭の中に、ナヨの言葉が浮かび上がってきた。

 ミーシャさまを守っていただこう。

 パン一つを手に入れただけで、王女警護の手伝いをさせられることになっている。空腹という弱みにつけこんで、そんな約束をさせたナヨであったが、ダラムはなぜか敵意を感じることはできなかった。自分の知らない自分のことを知っていて、自分を変えようとしてくれる。その変化は自分が望んでいたものだったからだ。

 それにミーシャを守ってあげたいと、ダラムも思い出していた。それは王女でありながら、高い所から人をみようとしてはいない。どこか控えめで可憐ささえ感じてしまうのだ。 

「どうぞ、これをお飲みくだされ」

 リンダが、白い陶器の中に入れた物を差し出してきた。確かに喉が渇いていて、どんな水でも飲みたくなっていた。

「これは、なんですか?」

「活生水ですよ」

「活生水?」

「体に溜まっている疲労をとり、生命力を培うことができます。ナヨさまがいろいろな薬草を加えて調合して作られたものですよ」

 それを聞いたダラムは陶器に口をつけて一気に飲み込んでいた。味は少し酸っぱくヨーグルトのようだった。

 ナヨの作った活生水を飲んだおかげだろうか。ダラムの体からそれまで感じ続けていた怠さと疲労が消え出していた。さらに、自分でも信じられないくらいに、体の中から、活力が吹き出してくるのを覚えた。

 そんな時に謁見の間から、「何をするのだ」と大声が聞こえてきた。すぐに、ダラムはベッドから跳ね起き寝室から飛び出し、声のした謁見の間に行った。

 そこには、背後に四人の兵士をひきつれた銀の王冠をかぶった男が血をしたたらせた剣を手にたっていた。その男の前には床に崩れるように倒れたナタリー王妃を抱いたマドラス王が腰を落としていた。

 コロダ国王夫妻の顔は、数年前の開国記念パレードの日に、幌なし馬車にのって大通りを通った時に、他の人々にまじってダラムは見ていたのだ。

「リューム、わしらは、親善を誓い合った国同士ではなかったのか?」

 リュームと呼ばれた男は笑い声をあげた。マドラスの言葉で、リユームはゼノン国の王であるのを知ることができた。

「戦乱の世に油断は大敵。バーゼル王子と共にすべての兵団をウトロ国にむかわせたのは間違いでござったな」

「ウトロ国に行くことにしたのは、あんたらの要望を受けたからだろう」

 怒りに満ちたマドラスは王妃から手を離したち上がると、腰にある剣をとりリユームに切りかかっていた。だが、リュームのそばには、ゼノン国の兵士たちがいる。その一人がマドラスの剣をうけ、他の者がマドラスを肩から胸にむけて剣をふりおろしていた。

 ゼノン国の者たちは、ここにいる王家族全部を殺す気でいたのだ。すぐに兵士たちはミーシャの方にむかってきた。すると、ミーシャのそばにいたナヨはミーシャを自分のケープの中に入れて隠し、呪文を唱え出していた。

 兵士たちはナヨの前を通り過ぎ、「向こうに逃げていったぞ」と言って、走り出していった。それを聞いたリュームも彼らの後を追って大広間から出ていった。

 敵の姿が完全に見えなくなると、ミーシャはナヨのケープの間から飛び出し王夫妻の元に走っていた。

「お父さま」

 マドラスは顔をあげて、ミーシャに笑って見せた。ミーシャの後に続いて王の前にきたナヨの方に目をむけた。

「ナヨ、頼むぞ。ミーシャを守ってくれ」

「王よ。命を懸けてお守りをいたします。それに転生していたアーサーを見つけることができましたぞ」

「そうか、この若者が、そうなのか。アーサー、ミーシャを守ってくだされ」

 マドラスは、しばらくの間、ダラムを見つめた後、眠りに入るように目を閉じていた。だが、ダラムはその願いに顔を強張らせていた。その願いにこたえるだけの力があるのだろうか。自問をしていたからだ。まだダラムはアーサーに戻り切ってはいない。


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