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2物乞い(ホームレス)

 大通りへは下町から入ることができる道がついていた。その道をとおり、ダラムは大通りに入り込んでいった。

 大通りはコロダ国の城に向かう道になっていた。城そばには貴族や城勤めが住む上町があり、その手前には商店街がつらなっていたのだ。商店街では、赤死病の流行っていたことなどなかったかのように人通りが途絶えることはなかった。

 その訳は二つあった。

 その一つは、赤死病に効く薬を国王や貴族たちがゼノン国から輸入をして、その薬のおかげで、王や貴族たちは病気にかかった者も直り、また病気にならずにすむ者たちがいた。その薬の効き目を知った薬屋たちは、王たちに薬を運んでいたゼノン国の商人たちに近づき高額で赤死病に効く薬を買い取り出した。薬を手に入れた薬屋たちは、さらに裕福な商人たちや金を払っても生きていたい者たちにもっと高額で売ったのだ。そのおかげで大通りにある薬屋に薬を買う人たちがやってくるようになっていた。

 もう一つは、高額の金を手に入れた薬屋たちとそこで雇われた使用人たちは多額の金を持つようになったことだ。また買った薬を飲んで命を取り戻した者たちは命のあるうちに生を楽しみたいと思い出す者も出てきた。そんな彼らは大金を使うことができる。そうなると大金でさらに儲けることができると思える場所が生れていったのだ。それは賭博場だった。賭博場がいくつも大通り沿いにできていったのだ。

 賭博場には、ダイスをのせ、カードを囲む円形のテーブルがいくつもおかれていた。気前よくさせるためには、店主は強い酒や値の張る食べ物をやってきた者たちに出していた。

 だから賭博場で大儲けをした者、大金を使うことに慣れてしまった人たちが大通りを歩いていたのだった。そんな人たちを前に親を亡くした子供らはカップなどの入れ物を前において、通りのふちにすわっていた。物乞いをしていたのだ。

 

 ダラムが大通りにやってきた時には。すでにそんな子供たちがたむろしていた。

「旦那、恵んでくださいよ」

 声をあげた少年のカップに「ここにいると言うことは赤死病がかからなかったということだな」と言った男は銅貨を投げ込んでくれていた。

「旦那も、幸運を手にされておられるんでしょう」

 恵みを受けた少年は、おべんちゃらを言っていた。それを受けて男は笑い、少年から離れていった。そばにいた別の少年が「旦那、私らにも、お恵みを」と言って、陶器で作られたお椀を持ち上げて、男を追っていった。

 あきができたので、ダラムはそこに入ろうとした。すると、肩をつかまれたのだ。思わず、肩に手をかけている男の方に顔を向けた。男は若いのに髭が濃く成り出している。自分よりは年上だろう。だが、四つ以上の差はないはずだ。

「勝手な場所に入られては困るな。所場代を持ってきているんだろうな?」

「そんなものはありません」

「じゃ、そこはだめだ」

「どこかに入れさせてくださいよ」

「だったら、あそこしかないな。変えて欲しければ、金を貯めて、俺に渡しな」

「あんたは?」

「俺はベン、ここを仕切っているんだよ。たまった金を俺に手渡せば、パンや肉に変えてやるぜ。あんたらが、直接パン屋に行ったら、追い出されるだけだ。それから、その家は誰も住んでいない家だが、庭には井戸がある。そこからは水を汲んで飲むことだけはゆるしてやるぜ。水があれば、人間は生きていけるからね。いい情報だろう」

 しかたなく、ダラムは、男の指さした場所に行った。そこは街角のへこんだ場所にできた中通りだった。ダラムはカップや陶器のお椀などを持ってきてはいない。腰に下げてきた手拭いを丸めて、入れ物風な器に作った。それを前において、ダラムは、その後ろに腰をおろしたのだった。

 大通りを通っていく人たちの話し声や物音が聞こえてくる。だが、ダラムがすわっている中通りにまで入ってくる人はいなかった。空腹がひどくなると、ベンが教えてくれた家に行って、井戸から水を汲んで飲んでいた。だが、再び通りにすわりなおしても、誰もダラムが作って布の器に硬貨を投げてくれる者はいなかったのだ。

 夜がきても、行くところがないダラムは寒さに震えながら、そこで眠りにつくしかなかった。だが、熟睡はできない。それは寒さのせいだけでない。空腹が続き、そのことが常に脳裏をよぎるからだった。

 そんな夜が二晩も過ぎてしまっていた。

 目の前においていた布の器から物音が聞こえてきた。ダラムは目を見開いて、それを見つめた。銀貨が投げ込まれていたのだ。入れ物の前には、足元まで伸びた白いケーブが見えた。思わず、ダラムは顔をあげた。そこには髭だけではなく、頭髪や眉毛も白くなっている老人がたっていた。

「銀貨よりも、パンの方がよかったかのう」

「パンがあるのか?」

「あるぞ。パンをあげてもいいが、その代わり、わしの願いを聞いてもらえるかな?」

 すぐにダラムはうなずいていた。いま思えば、その時のダラムは、食べることができれば、どんなことでも言うことを聞いてしまう気になっていたのだ。



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