11多衆襲撃
ダラムが修道院に戻っていくと、ナヨがミーシャを連れて門の前まで出てきていた。
ミーシャはダラムに涙目をむけてきた。三人の刺客を前にして戦うダラムをはらはらしながら見ていたからだ。
もちろん、ナヨは、ダラムに何かありそうになった時には、自分が出ていかないとならないと思っていたのだ。だが、その前に終えることができていた。
「また、襲ってくるな。今度はたくさんの敵を連れてくる」
「そうだろうな」
ダラムの中に多数の敵と戦っていた前世の記憶が蘇ってきていた。戦いをしていた場所には火がつけられ燃える中にいたのだ。確かにその時とは違っている。それでも、やってくる敵は修道院に火を放つかもしれない。ナヨも同じことを考え出していたのだろう。ナヨも強張った顔をしていた。
すると、修道院の出入口から修道女のリンダが笑顔で出てきたのだ。
「院長が、たまに皆さまと茶会をしたいと申しております」
「こんな時に、ですか?」
「ダラムさま、さようでございます。どうぞご一緒に」
リンダは先に立って歩き出した。三人は後に続くしかない。修道院の中に入ると、三人を院長室に連れて行った。
院長室は、片壁が本棚になっていて、そこにおかれた本は背表紙を見ただけで、見知らぬ文字で書かれていることがわかる。窓際におかれた古い木の机の上には、筆記用具のペンとインクがおかれ、白とじのファイルに文字を院長が書きこんでいた。日々の出来事を記録していたようだった。
また、部屋の真中には円形のテーブルが置かれ、その周りには椅子がすでに四つおかれていて、その一つに院長がすわっていた。
「なかなか、そなたたちと話をすることもない。たまには、お茶でもどうかのう」
「いただきます」
そう言ってナヨは先にテーブルをはさんで院長を前にした椅子にすわった。ミーシャとダラムはナヨの左右にある椅子にそれぞれ腰をおろした。
院長が手をあげると、リンダがティーカップとお茶を入れたポットを平たいお盆の上にのせて持ってきた。
リンダはテーブルの上にお盆をおくと、カップを並べ出し、そのカップにポットを傾けてお茶を注いでいた。先に砂糖を盛った小皿をテーブルの真ん中においていた。
「スプーンが付いていますから、好きなだけ、砂糖をお茶に入れてください」
リンダは笑い、頭を下げて、引きさがっていった。院長は一番先にスプーンをとると、それで自分のカップに五つもスプーンで砂糖を入れていた。
「年をとると、砂糖をたくさん入れないと、甘さを感じることができないのでな」
次に、ミーシャがスプーンで砂糖を三つ入れていた。
「わしは、砂糖はいらんよ」と、ナヨが言うとダラムも「俺もいらない」と言って自分の前においたカップに口をつけていた。
やがて部屋中に紅茶の芳しい匂いが漂い出していた。
「前と同じことが、また起きるのかもしれない。そうなることを含めて、覚悟しておかなければならないな」
「院長、前と同じこととは修道院が焼けたことですか」
「そうじゃ、残っている古い記録誌を見ると、ここも他国から攻められて兵士たちがやってきて、火を放たれたことがあったと書かれている。殺された者もでていたそうじゃ」
「そんなことは、させませんよ」
ダラムは声をあげた。前世で、火で死んでいった人たちを思い出していたからだ。今度はそんな事態を見たくはない。
院長は笑っていた。
「心強い。ダラムさまはすでに戦っているようだ。私らにない何かが見えている。神が見せているのかもしれん」
「建物に火をつけるとしたら、弓で火矢を放つ方法だ。火のついた矢を剣ではらうしかない」
「ほほう、そうじゃな。火矢が飛んで来たら、わしも杖で叩き落すしかないか?」と言って、ナヨが首をふっていた。
「みんなが戦っているのに、私だけが守られる者になっていたくありません。火を払うことは私もいたします」と、ミーシャも声をあげた。
「これは頼もしいことじゃ」
院長は、声をあげて笑った。
「だが、修道院の建物を守るために、人の命を無くしたくはない。修道院には、すでに地下室が作られている。いざとなれば、ミーシャさまを始め修道女たちには、そこにいてもらうつもりじゃ。そこにいれば、外からは人がどこにいるかわからなくなる。前も同じようにして、修道院にいる者たちを守ったことがあった」
院長の言葉を聞いて、一番ほっとしていたのはダラムだった。ミーシャを守り続けていたら、敵との戦に専念できないと思っていたからだ。そこで敵が修道院にきたことをすぐに知ることができるように、塔の最上階に修道僧をおいて見張りをしてくれるように院長に頼見込んだのだった。
塔の最上階に修道僧を置き出してから、七日目のことだった。中庭で剣の素振りをしていたダラムのところに修道僧が小走りでやってきた。
「ダラムさま、見張り役が叫んで知らせてくれました。南東からたくさんの兵士たちがこちらに向かってきます。百人くらいはいそうです」
ダラムは中庭から一度回廊にでて出入口にむかい、そこから修道院の外へ飛び出していった。
たしかに、多人数の兵士たちが、こちらに向かってくる。彼らは、二十メートル先に塀のように立ち並び弓で矢をひき放ってきたのだ。飛んでくる矢のすべてをダラムは素早く動き剣で叩き落した。それを見た敵兵たち.は、すぐに火矢を放ち出した。だが、ダラムにとっては矢に火がついていても、何の意味もなかった。飛んできた矢を地面の上にむかってはじいていくだけだった。
弓打ちたちは二手に別れてダラムがいる所から左に向かって走り出した。残った者たちは、飽きずにダラムにむかって矢を放ってくる。ダラムから離れた位置に行った者たちは、そこから火矢を建物に放ち出した。だが、その場所にはナヨが待機していた。前もって畳と同じ大きさの板に縄を結んで持てるようにしておいた物を手にしていたのだ。その板には水を含ませたカーテンをはっておいてある。火矢が飛んでくるとその板をナヨは持って走り、板で火矢を受けとめていたのだった。
その間にダラムは走り、敵の兵の中に飛び込んでいった。
兵士たちは、人殺しや強盗を行って刑務所にいた者たちばかりでゼノン国がご赦免を条件に参加させていた者たちなのだ。
だが腕に自信があるからなのか、戦う男たちの顔からは不安も迷いも感じられない。そう言う者たちの方が、ダラムにとってありがたかった。何も考えずに相手を剣で切ることができるからだ。
ダラムの左右に切られた兵士は倒れ積まれていった。自分の周りに敵兵がいなくなると、走り出し、左に固まっている敵兵の中にダラムは飛び込んでいったのだ。再びダラムの左右に切られた敵兵たちが積まれていった。やがてダラムの周りに立っている者は誰もいなくなっていた。
「アーサーが剣聖と呼ばれた頃に、ダラムは近づきましたな」
ナヨはダラムを見つめながら大きくうなずいていた。




