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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第五章~星読み祭~
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第80話:蒼き鷹の見る夢 -上空からのゴング-

次回の投稿は三日後です。その後は毎月26日に投稿する予定です。今回は文量が少ないですが、三日後に投稿する文はやたらと長いので文量調整と思って頂ければ幸いです。

「ふふっ、やっぱり此処からなら良く見えますね。」


「ああ……だが、良くこんな場所を知っていたな。」


「この公園には何度も来てますから、とは言ってもこの場所を思いついたのは偶然ですけどね。」


 アレン達と別れたジナスとナナは、先回りして自然公園の待ち合わせ場所が見渡せる、小さな丘の上に来ていた。ナナに取ってはミシュナと何度か通った所で、自然と記憶に残っていた場所だ。ここからなら自然公園の開けた場所は見渡せるし、向こう側からはまさかこんな場所に人がいるとは思わないであろう森の中。まさに見張りにはうってつけの場所だった。


「良く来ていると言っても殆んど森の中じゃないか。自然公園の中ならともかく、こんな外れに何の用があってくるんだ?」


「………え、えっと、一応あの森から繋がっていますし、訓練がてらに遊歩道の方にランニングしに行ったりとか……。」


「………そうか、ならこれ以上は詮索はしない。」


「あ、あはははは……。」


 ナナは未だ、ミシュナの事は誰にも話していなかった。ミシュナとの約束は『誰にも』話すなと言う事だったし、ナナはそれを破るつもりは毛頭ない。それで姉や仲間に心配をかけていることも分かってはいたし、毎回誤魔化すのも楽ではなかったが、それでも、ミシュナとの約束は大事にしたかった。


「まあ、なんだ。お前も、もう立派な家臣だ。フィリア様を始め、皆そう思っている。」


「ジナスさん……。」


「だが皆が妹の様に思っていたお前が、戦いに参加する事は内心反対したい奴らもいるだろう。お前の姉の様にな。だから、あまり無理はするな。ただそこに居るだけで意味のある事もある。戦いの訓練も大切だが、それは忘れるな。自分の周りにいる人の事はちゃんと見ておけ。」


「……はい、分かりました。」


 やはり、今まで心配をかけてしまっていたようだ。司羽が行ってくれていた訓練の内容のせいもあるだろうし、自分が度々行き先も告げずに消えてしまっていたせいもあるだろう。


「これからは大丈夫です。外出する理由も、もうなくなりますから。」


「……そうか。無理はするな、色々とな。」


 寂しくないと言えば嘘になる。こうして森の匂いを嗅いでいるだけでも、鮮明に思い出せる大切な思い出がナナにはある。師匠の様であり、姉の様であり、そしてきっとナナに初めて出来た友人であった一人の女の子。歳は少し離れていたけれど、自分の事はいつも対等に扱ってくれた。こんな生活を送っている以上、自分はすることはないと思っていた恋の話をしてくれた。時間にしてみれば短い間だったけれど、きっとこれからもナナの中で大きな支えになってくれる素敵な時間だった。


「……私は、大丈夫です。誇るものも、夢も見つかりました。」


「強いな、お前は。」


「そりゃあ、私よりもずっと強い人が目標ですから。」


「ふっ、そうか。」


 そうだ、あの人は強い。ミシュナは強くて、何よりも優しい心を持った自分の目標だ。いつか本当に対等になって此処に戻ってくるのだ。その時はきっと、ミシュナの夢も叶っているはずだから。だから振り返らない、二度と会えなくなる訳ではないのだから。


「うー……よしっ!!」 


パシンッ


「なんだ、いきなり。」


「気合を入れたんです。今はとにかく、フィリア様をお守りする事に集中しないと!!」


「ふっ、……そうだな。ナナの言う通りだ。」


 ジナスはナナの言葉に頷くと、再び双眼鏡を片手に自然公園の全体を見渡すように視線を走らせ始めた。ナナも、それに続いて同じ様に双眼鏡で辺りを見回す。二人は暫くの間じっと監視を続けていたが、フィリアの姿は中々見えない。


「……おかしい。」


「えっ、でもまだ時間には大分早いですよ? 確かに、フィリア様が自分から約束に遅れることはないと思いますから、早めには来るでしょうけど。私達が急いで早く来すぎただけでは?」


「そうじゃない。……見ろ、さっきまで居た人が全員居なくなった。」


「…………。」


 日は徐々に落ち始めている。元々、公園にはそれ程人が居たわけではなかったが、それでも全くの無人であった訳ではない。……偶然か、それとも……。


「偶然じゃないって……ジナスさんは思うんですか?」


「分からん、だがさっきまで十人前後はいたはずだ。この短時間で全員が帰り、誰も来ないというのは……。」


「じゃあ人払い……フィリア様がって言うなら分かりますけど……。」


「いや、フィリア様の魔法であればこの距離だろうと俺が気付く。」


「じゃあ……まさか。」


 嫌な予感がナナの脳裏を過ぎる。『敵』の存在がナナの思考を不安で埋め尽くしていく。


「でも、それならなんで人払いなんて!! そもそもこの場所がバレてるなんておかしいですよ!! 知ってるのは私達だけの筈じゃ……。」


「落ち着け。バレていたとして、フィリア様を此処で待ち伏せする為に人払いをしたならまだ猶予がある。お前は急いでアレン達を呼ん……っ!?」


「えっ?」


「くそっ、罠だ!!」


「きゃあ!?」


 突如、ナナは自身の頭上に巨大な魔力を感じた。そして、それを確認しようと頭上を見上げる前に、ジナスが叫びを上げ、ナナを抱えるように横に飛び去った。そして、次の瞬間、


グゴオオオオオオオッ!!!!


「ま、魔法……。」


「狙撃だ!! こちらの位置がバレている!!」


 轟音が響き、ナナとジナスがいた場所が大きく抉り取られていた。呆然とするナナの傍ら、ジナスは瞬時に状況を分析し、敵の位置を探る。


「狙撃!? ど、どうしたら……。」


「……魔法を撃ってきた敵の位置が分からん、恐らくこの森の中だろう。この人払いも俺達の居場所を炙り出す為のものだろうな。こっちは相手から丸見えだと思っていい……。」


 この自然公園の森はいつも訓練している森に繋がっていて、慣れているジナス達でも気配や感覚が微妙に狂ってしまう。恐らく相手もそれを利用したのだろう。何にせよ、この状況が相手の位置は森の中だと言っている。


「じゃ、じゃあ……えっと……。」


「二擊目が来ると同時に森の中に入る。フィリア様が来るまでにあいつらの注目を此処から引き離すんだ。この森の中で動き回れば容易く狙撃も出来ないだろう。こちらも相手を炙り出すぞ。」


「わ、分かりました!!」


 ジナスの冷静な分析と作戦に、ナナも混乱する頭の中を少しずつ整理しながら頷いた。奇襲性の薄い二発目なら、自分にも回避出来るはずだ。


「ナナ、あまり緊張するな。ここはお前の庭だろう……相手の気配を探るんだ。俺に出来なくともお前になら出来るはずだ。」


「け、気配を……私がですか? 私は、まだそこまでは……。」


「そう難しく考えずに、普段と違う部分を探せ。この森で直接的な探知は難しい。だが、普段の雰囲気と違う何かを感じる事なら出来るはずだ。落ち着いて、違和感を探せ。」


「……分かりました、やってみます。」


 ナナが頷くと同時に、二人の上空に魔力が集まる。二発目が……来る!! それを確認する前に、ナナは身を翻して駆け出した。ジナスもまた、それに続く。


「かく乱するぞ、ナナっ!!」


「はいっ!!」


ゴオオオオオオオオンッ!!!


 二人の背後で爆音が鳴った。慣れ親しんだ森が戦場に変わる、戦いのゴングとして。そして、その瞬間から、ナナとジナスの戦争が始まった。





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