第79話:蒼き鷹の見る夢 -光輝より速き信頼-
「ふっ、はぁっ!!」
「ちっ、そらよっ!!」
キンッガギィッ
アレンの剣とジークのサーベルが何度も鍔迫り合いを繰り返しては離れ、また鋭い音を静かな森へと響かせる。互いに牽制を入れながら、未だに一撃も入らないままだ。いや、たった一撃入ればそれはそのまま死に繋がる致命打となるだろう。それが魔法と違い軽減の利かない物理攻撃の怖い部分である。互いに剣の実力者である二人も、それは承知の上だった。
「おいおい坊ちゃん剣士と思いきや中々どうしてやるじゃねえか!!」
「貴様も良くぞペラペラと舌が回る事だ。精々舌を噛んで絶命しないようにな。」
「はっ、そういうお前は随分と堅物だなあ!! おっと……!?」
キィィィィン!!
アレンがジークの呼吸の隙を付き、一瞬で間合いを詰めて振り上げる。アレンの得意とする瞬間的な魔法を使っての高速移動。大きな集中力と時間を要さない簡易魔法の為に効果は一瞬、それ故に直線運動になりやすく読まれやすいが、僅かな隙すら相手に与えない怒涛の攻めを繰り出す事が出来ていた。
「くそっ、こいつ詠唱なしで魔法まで使えるのかよ!!」
「どいてジーク!!」
ダンッ、ダンッ!!
「くっ……、銃器で援護とは面倒な。」
劣勢になりかかるジークをフォローする様に、すかさずネリンが魔力の弾をアレンに向かって発射する。最低限の魔力だけ込めた簡易な魔弾は、それ自体にはそれ程大きな威力はないが、いつも的確なタイミングでアレンの攻撃を妨害していた。アレンはそれを飛び去って避けながら、自分のパートナーの方に気を向けた。
「大丈夫か?」
「ごめん、アレン。あいつ……強い。」
「ああ、あの剣士も中々厄介だ。そちらのフォローに回れない様に計算された攻撃をしてくる。」
「へっ、お褒めに預かり光栄だナイトさんよ。もうちっと加減してくれても良いんだぜ?」
「悪いが、どんな相手にも全力を尽くすのが騎士道だと思っているのでな。」
ジークの軽口を適当にあしらい、先程まで劣勢を強いられていたネネの方に目を向けると、どうやら外傷は無いようだが悔しそうに唇を噛んでいた。無理もない。ジークと呼ばれる男もそうだが、あのネリンと言う女も大分戦い慣れている。ネネは戦闘訓練も多少は受けているとは言え、実戦経験に差が有りすぎる。
「ジーク、無理しないで。アレンって言えば昔の騎士団長候補よ。」
「ああ、そうみたいだな。どうやらハズレを引かされたみたいだ。」
「ハズレ……か。大当たりはフィリア様と言ったところかしら、ふざけてるわね。」
そう言いながらネネは体制を立て直して杖を構え直す。ジークとネリン、傭兵なのか蒼き鷹の正規メンバーなのかは分からないが、兎に角戦い慣れている。くすんだ銀髪で軽鎧の上に深緑のマントを羽織ったジークは、粗野な印象だが冷静な男の様で、先程から的確にアレンの剣技を捌き、隙を縫うように剣撃を繰り返していた。一方明るい栗色のショートヘアーで、機動力に特化したレザー素材の軽装備を付けているネリンは、素早い銃撃でアレン、ネネ双方の行動を妨害しつつ、魔法詠唱の隙を狙っているようだった。ネネがアレンの傍で、小声になって話しかける。
「アレン、どうする?」
「とにかく、あの女に強力な魔法を撃たせるのは不味いな。こちらも牽制出来るか?」
「やってみる、でも……こっちも集中出来る時間がないから致命打は厳しいわ。」
「分かってる。あの銃撃をなんとかするか、もしくは男の方を潰さないことにはな。」
何にせよ、相手の連携は熟練の戦士の物だ。まずはそれを崩さなくてはならない、ネネとアレンの急造のコンビネーションで。可能かどうかは二の次だ、成さねば死ぬ。覚悟だけは既にアレンもネネも完了していた。
「へっ、腹は決まったかいお二人さん。」
「待っていてくれるなんて、随分と優しいじゃない? 粗暴な身なりで、実は紳士なのかしら。」
「あらジーク、褒められてるわよ。良かったわね?」
「なんだそりゃ、褒められてる気がしねーよっとぉ!?」
軽口に気を取られる一瞬、高速で近づいたアレンとジークの間で、ギィィィ!! と鈍い金属音が鳴り響く。やはり反応が早い。あの軽口はジークと言う男の戦闘スタイルなのだとアレンは分析していた。少しでも自分のペースで戦う。軽口を言い合いながら戦ったことがある人間がどれだけいるだろう。普段と違った行動が戦闘では命取りになる。ジークのスタイルは決してフザケてなどいない。ならば、態々相手のペースに乗る必要はない。
「見切ったか、やはりやる。」
「おいおいなんだよ、お前高潔なナイト様だろうが!! 不意打ちかよ!!」
「死ね。」
「ちぃっ……こいつ……。」
何度も何度も鈍い音が響く、アレンの剣撃は一部の隙もなくジークに叩き込まれていく。その全てが防がれようと関係ない、いつかチャンスが来るなら、永遠にこの攻撃を続けてやればいい。体を切れないなら剣を折る、剣が折れないなら心を折る。しかし、鈍い音の合間に別の音が混じってくる。
ダダンッ!!
「ジーク、無理しないで!!」
「すまんっ!!」
「私がこいつを殺るまで耐えなさい!!」
何度も何度も銃声が響く。魔弾が発射され、それはアレンの元へ直線的に叩き込まれていった。そしてその一方でネリンの銃弾は別方向へも向けられる。
「うっ、この女っ!!」
「ただの女従者にしては中々動きがいいじゃない、片手間に倒すのは面倒ね。」
「舐めるな!!」
木の影へ転がるようにして飛び、魔弾を何とか躱す。そしてその影から現れると同時に、ネネは高速の雷を放った。大した集中も魔力の練りも要らない簡易な一撃が、それでもまともに当たれば痛いでは済まない一撃が、杖を振ると同時に打ち出される。それはネネが木の影から出ると同時にネリンから放たれた次の魔弾に当たり、お互いに炸裂する。
「無駄よ。」
「くっ、速すぎる……!!」
「いい加減寝てなさい? 邪魔なのよ!!」
「悪いけどゴメンだわ!!」
ネネが杖に魔力を込めるよりも早く、魔導器である銃は魔力を取り込み魔弾を生み出す。そのスピードは杖での魔法とは比較にならない速さだった。そんな高速の攻撃に対して、ネネは咄嗟に手を全面に突き出して障壁を展開し、魔弾の威力を軽減する。
「うぐっ……威力は大したことなさそうね。」
「……なるほどね、やっぱり防御に関してはそこそこ練度があるわ。流石は王女付きね。」
ネネの作り出した魔力の壁に魔弾が当たり、弾ける。一撃に留まらず、二度三度の攻撃にも障壁はその力を発揮し耐え続ける。だが、その衝撃は障壁に魔力を供給し続けるネネにも、確かに痺れと負荷を伴って伝わっていた。
(くっ、隙がなくて攻撃に移れない!! アレンは?)
止むことのない魔弾の連射に耐えながら横目にアレンを見る。どうやら向こうもこちらを助けるまでには手が及ばないらしい。やはり先程の話通り、せめて女の援護だけでも止めなくては事態は好転しない。だが、どうする? そんな、敵の攻撃を防ぎながら必死に打開策を思案するネネの耳に、不吉な声が刺すように響いた。
『射手の願い、逃げ出す獲物に罠はなくとも不幸のあらんことを。』
「詠唱!?」
それはアレンと、現状の打開に思考を取られた一瞬のことだった。継続する魔弾の単調な……それでも圧倒的だった攻撃が一瞬止み、ネリンの口から『何かの意味』を持つ言葉が紡がれる。銃を持つ手を空へと掲げ、その手に、銃に、魔力が凝縮していく。ネネもその結果は分からずとも意味は分かる。集中と魔力の精錬を要する規模の、魔法の詠唱だ。
「させない!!」
自身の障壁を払い、咄嗟に攻勢に出る。そうでなくては次の瞬間には魔法によって殺されるかも知れない。ネネの作る障壁によって耐えられるかは分からないが、その程度の魔法を態々リスクを負って打つとも思えない。だからこそネネは、自分の最も速い雷撃の魔法を相手に放った。
「それはもう見たわ。」
ネリンはそれを避けようともしなかった。自分に向かってくる雷撃の軌道を正確に読み、銃を雷撃に向けて構える。そしてネネの雷撃がネリンの銃に直撃し……消え去った。
「っ!? な、何で!!」
『切り株の幸運は狩り人にこそあれ。』
ネリンの魔法が完成した瞬間にネネは悟った。恐らく、自分の攻撃こそが何かの発動キーだった。ネネの魔法はかき消されたのではなく、あの銃へと『供給』されたのだ。完全に読み負け、利用された。ネリンの銃がそのままネネの方へと向けられ、照準が合う。咄嗟に真横に飛び去るも、ネリンの銃口は後を追うようにネネへと真っ直ぐに向けられていた。そして、躊躇なく引き金が引かれる。
「あ……。」
「避けろ!! くっ!!」
「ぐぁっ!?」
「消えなさい!!」
瞬間、アレンは剣をジークのサーベルに叩きつけるように振るい、両足に魔力を集中させてネネの方に弾丸の如く突進した。同時に、ネリンの銃から魔弾と言うよりも雷を纏ったビームに近い魔法が放たれる。それ程大規模な魔法ではない。しかし、ネネの簡易障壁を容易く貫通し、その内側まで破壊するには充分な威力を持つ計算された魔法だった。当たれば絶命、障壁を貼ろうと致命傷は避けられない。
「ネネ!!」
「なっ!?」
アレンの叫びが響き、一瞬の差でアレンの体が射線上を通過する。その後には、ネネの姿も消えていた。そして雷を纏った魔力の暴風と化した魔弾は僅かに遅れてアレン達の影を飲み込んで消えていく。
「あ、アレン……ごめん、結局助けられちゃったわ。」
「構わん、気を抜くな。仕切り直しだ。」
アレンは抱き上げていたネネの体を離すと、直ぐに二人に向けて剣を構え直す。どう考えてもネネの力量だけでネリンと呼ばれる女の相手は厳しい。何よりも戦闘経験の差が有りすぎる。読み合いでも単純な力比べでも圧倒されているのだ。
「……あいつ……あんな一瞬で。」
「ネリン、奴に主導権を握られると不味い。コンバットパターンW。」
「了解、頼むわよ。」
敵もまた、アレンを警戒し作戦の変更を余儀なくされていた。その作戦の意味は分からずとも、分かることがある。相手が自分達に合わせて作戦を変えてきたのなら、自分達もまたこのままでは不利になると言う事。しかし……。
「ネネ、いけるか?」
「大丈夫よ……へばってなんかないわ。」
「無理はするな。」
「っ……うん。」
ネネには、この状況を打開する方法が分からなかった。歯痒い、悔しい、情けない。この戦場で一人欠ける事の重大さはネネにも分かる。だが、果たして自分はアレンの役に立っているのか? いたずらに心配を掛けているだけではないのか? ……自分自信、弱いつもりはなかった。侍従の基本訓練だって受けているし、魔法の練度に関しても努力を続けて来た。なのに……目の前の敵に余りにも届かない。
「あいつの……司羽の言う通り……だったのね。」
「何がだ?」
「戦いは、私が思うほど甘くなかった……。」
ネネもただの凡人ではない。少なくとも魔法では、アレンやジナスよりも上を行っている自信があったし、そういう評価を受けていた。現実、それはアレンもジナスも認めている事だった。だから、せめてアレンのサポートくらいは出来ると思っていたのに……。
「泣き言も反省も後だ……行くぞ。」
「……ええ。」
「はぁっ!!」
そうだ、今はせめて足でまといにならないようにしなければ。そうでなければ二人共死ぬ。悔やむことももう出来ない。ネネが自分を奮い立て、再び瞳に闘士を燃やす。それと同時に、アレンは地を蹴って敵へと飛びかかった。高速の一閃が再びジークへと薙ぎ払われ、ジークの剣がそれを受ける。
「へっ、アンタは確かに強いが、パートナーは腑抜けてるみたいだな。」
「ほざけ。そういうお前は攻めないのか? 俺は休むつもりはないぞ?」
「ははっ、流石の堅物も仲間を貶されちゃ乗ってくるわけか!!」
ガキンガキンと剣撃がぶつかり合い、アレンが間合いを詰めればジークはその分だけ引き下がる。文字通り一進一退の攻防が再び繰り広げられていた。その一方で、ネリンはネネへと照準をあわせて牽制を繰り返す。ネネは再び防戦へと追い込まれていた。
「何とか……隙を……。」
「悪いけど、ちまちまやるのはもう止めよ。」
「きゃあっ!?」
何度も叩き込まれる魔弾を防ぎながら隙を伺っていたネネの障壁が、一瞬で破壊される。気付いた時には、ネネの目の前に女の姿があった。
「はあっ!!」
「くっ、アレンと同じ魔法!?」
「こんなの魔法の初歩でしょう!!」
障壁が砕かれ動揺しているネネの体に、ネリンの鋭い蹴りが襲いかかる。ネネはそれを体を捻って避けると、体制を立て直すべく一瞬の身体強化で後ろに飛び去った。確かにこの類の魔法は自分だって使える基本的なものだ、ネリン程の魔道士なら自分やアレン以上の精度で使えても何もおかしくはない。ネネは自身の読みの浅さに内心舌打ちをしつつ反撃に出ようとするも、そこにまた魔弾の連撃が飛んできて最初の防戦状態に戻ってしまう。
「近距離も遠距離もこなせるなんて……!!」
「こなせるって程じゃないわ、貴方が弱いのよ!!」
再び、接近。ネネの障壁はいとも容易くネリンの左の拳に破壊される。
だが、今度はネネも敵の動きを正確に見る事が出来た。アレンが使っているのと同じ魔法で集中的な身体強化を施し、直線的な高速接近を可能にしている。そして魔法の力の殆んど籠っていない物理攻撃でネネの障壁を破壊したのだ。だがそれが分かっても、攻撃のタイミングも、魔法とのコンビネーションの正確さも完璧だ。こちらの攻撃を挟む余地がない。
「っ!!」
「おっと!! ここからは暫くサシの勝負といこうや!!」
「何!?」
ネネの方へフォローへ回ろうとしたアレンに対してジークが素早く回り込む。そして今度はジークの方から素早い剣撃が放たれた。それは先程とは違う、魔力の乗った重い斬撃。その斬撃の速度も先程とは明らかに違う。剣で受けるアレンの両手にも、先程とは比較にならない重みが伝わってきていた。
「貴様、戦闘魔法が使えるのか!!」
「あんたも使えるじゃねえか!! だが、切り札はとっとくもんさ。なあナイトさんよ!?」
「ちっ。」
相手の力を見誤った。アレンは舌打ちを漏らしながらその事実に歯噛みした。先程までこの魔法を使った攻撃をしなかったのは、その必要がなかったからだと気付いたのだ。アレンが使う魔法や、ジークの魔法は、乱戦や接近戦闘用に無駄を省き調整された類の魔法だ。発動が早く、魔力の使用による疲労も少ない為、極めて効率的な魔法であり、それこそが戦闘魔法と呼ばれる所以だった。その効果とリスクの少なさ故に、アレンは常にこれを使っていたのだが……ジークもまた、歴戦の強者である事を考えれば使えて当然の技術。そんな単純な隠蔽に引っかかってしまった。
「さて、こっちも攻めさせてもらうぜ?」
「貴様、舐めた真似を。」
「勘違いするな、お前が馬鹿正直なのさ!!」
「くっ、ネネ!!」
もう一つ、失態を犯した。ジークに攻める際に少しずつネネとネリンの戦闘位置から離されていたのだ。大した距離ではない、だがこの距離があれば、隙をついてフォローに回っても途中でジークに回り込まれて妨害される可能性が高い。この敵はそれを見越して、このタイミングで仕掛けてきたのだ。一枚も二枚も、アレンより戦闘が上手い。単純な剣術や身体能力では上回っていても、本物の戦闘経験の差は、それだけ大きな差となってアレンの首を絞め始めていた。
「どんどん行くわよ!!」
「っ!!」
魔弾が降り注ぎ、防戦一方のネネにネリンの高速の蹴りが飛んでくる。それを何とか避けるも続く連撃に全く攻撃の隙が作れず、結局また距離を取る。遠距離も近距離も、どちらも完全に向こうの技術が上手だった。
「しぶとい……わねっ!!」
「ぐっ!!」
ネリンに再び接近されてからのインファイト、脅威はそれだけじゃない、牽制の魔弾の威力、連射力にしても最初と比較して更に強くなっていた。ネリンも、ジークと同じ様に様子見の為に実力を抑えて戦っていたのかも知れない。そして、全く逆転の目が見えないネネの視界の端に、ジークに苦戦を強いられるアレンの姿が映る。
「アレン……!!」
「仲間の心配をしてられるのかしら!?」
「しまっ!?」
距離を取りつつアレンへと視線を移したのを見計らい、ネリンがネネに合わせて突っ込んで来る。咄嗟に障壁を展開しても、間に合わない。一瞬の判断だった、ネネは腕に魔力を込めて体を守る姿勢を取る。
「はあぁっ!!」
「うっ、あああああぁっ。」
ネネの左腕を、ネリンの右足が回し蹴りで蹴り払った。それは魔力で強化された重い一撃。左腕が軋む音がネネの頭の中に響き、鈍い痛みが走る。そして次の瞬間、ネネの体は蹴りの衝撃で吹き飛ばされて地を転がった。その姿と悲鳴は、一方のアレンにも届いていた。
「そこを退け!!」
「退いてやるかよ!!」
激しい剣撃の音が響く。アレンの激しい剣舞の如き連撃に、ジークは防戦に回りながらも道を開けない。アレンもジリジリと前に進めはするが、決定的に距離が有りすぎる。ジークはその距離的な余裕も上手く使い、重い一撃を避けて時間を稼いでいた。
「早くしろ、ネリン!!」
ジークの声に応えるように、ネリンが素早い動きで銃を、地に転がったネネへと向ける。そして確実に止めを指すべく、銃へと魔力を込めていく……そんな時だった。
『宮殿に仕える者の修練は忠誠!!』
「なっ!?」
ネリンの詠唱より早く、地に転がっていたネネの声が戦場へ響く。叫び声を上げるような詠唱。銃を突き付けられたままの状態で、何とか身を起こしながら。
「馬鹿な!! くっ!!」
予想外の事態に一瞬反応が遅れたものの、ネリンはそれを聞きながらも冷静さを欠かず、方針転換。直様魔力を通常の魔弾用に流用し連続でネネに叩き込む。詠唱へと集中していたネネは、それに反応することすら出来ない。
「きゃあああああっ!!」
「ネネっ!!」
「はっ、根性は対したもんだが血迷ったな!!」
「………本当に。」
ネリンが放った魔弾はネネに直撃し、ネネは再び地に伏せた。詠唱は止まり、ネネが練った魔力も散り去っている。
だがネリンにしてみれば、詠唱に移れるほど集中力があった事が驚きだった。ネリンの蹴りは確実に左腕の骨にヒビくらいは入れている筈だ。魔力で咄嗟に強化していた様だが、それは間違いないだろう。その痛みだけでなく、吹き飛ばされた衝撃や、銃を突き付けられた事への心理的な焦り、それらが重なれば到底詠唱など出来ないと思っていた。
「確実に仕留める。」
「うっ……う……。」
『手負いの獣の爪は届かず、乞う獣への慈悲はなし』
再び銃に魔力を込める。魔弾は殺傷力こそないものの、あれだけまともに当たったのならその衝撃はかなりの物だ。恐らく暫くは立てない、更に言えばその前に蹴りも一撃入っている。だから、仕留める事だけに集中する。アレンからの妨害は、ジークがなんとか止めてくれている。
だが、ネリンの声に対する様に声が上がる。
『主に仇なす者へ、怒りではなく主の意思を……』
「っ!? 『糧となるべき者への手向け、ただ安らかなる事と知れ』」
(……この、ゾンビめ!!)
素人だと思っていた。だが、根性だけでは説明がつかない。少なくともそこだけは読み違えていた。だが、既に彼女は何も出来ないだろう。こちらの方がずっと魔法の完成は早く、そして強い。
『一撃の下に逝け!!』
轟音が響く。先程よりも強大な魔力の渦が放たれる。そしてそれは、ネリンの前方の物を全て、ネネをも一瞬で飲み込んで行く。
『愛する者の意思を……成せ』
ネネはポツリと、その魔法に向かって、呟く様に唱えた。
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「ネネええええええええええっ!!」
アレンの目の前で、魔力の渦が放たれた。飲み込まれていくネネを視界に捉えながら、アレンは結局、ジークの壁を抜くことは出来なかった。吹き飛ばされ、近くの岩に叩きつけられて止まったネネは、ぐったりと地に伏せて、ピクリとも動かない。
「ネリン、コンバットパターンT!!」
「了解!!」
そしてジーク達の動きは素早く、再びネリンの魔弾がアレンの動きを縛り始める。ジークへの攻勢は、一瞬の間に逆転していた。
「くっ、貴様らあああああああああああああっ!!」
「はっ、どうしたどうしたあ!! こっからが本番だぜえええ!!」
「二人がかりならっ、勝てると思うなよ!!」
「くっ、こいつ。」
アレンは攻勢には出れなくなったものの、ジークの剣とネリンの魔弾、その双方を避け、捌き、隙を見ては切り込んでいく。ジークとネリンのコンビネーションの隙を縫い、アレンはネリンへと斬りかかった。
「させねーよ!!」
「貴様は邪魔だ!! あいつから殺させてもらうぞ!!」
「仇討ちか!! 戦闘中に余計な事を考える余裕があるとはな!!」
しかし、ネリンに達するより前にジークがアレンの前に立ち塞がる。ジークは攻めに回っても直ぐに守りに回れる柔軟性と速さを持っていた。そしてそれ合わせるように放たれる魔弾が、ジークへ攻めに転ずるチャンスを与える。
「舐めるな!!」
「おっと、化け物め!!」
「くっ、強いっ!? こんな奴とジークは!!」
それでも未だにお互い致命打は出ていない。ジークとネリンを相手にしながら、アレンが攻撃の手を入れることで、二人もまた攻めきれない。剣撃と銃弾の音だけが響き、一進一退の攻防が続く。
「はっ、今頃は王女様もあの女と同じ様になってるかもなあ!!」
「何っ!!」
「なんだ、何の為に俺らがここに居るのか分かってなかったのかい、仏頂面のナイトさん!! いや……それとも、死んだ女の事を言われてカンに触ったか!! 随分クールなツラの皮が剥がれてきたじゃないか!! なあネリン!!」
「っ!!」
「貴様、その口を!!」
アレンはジークの発言を押さえ込む様に一気に突っ込んだ、そこから繰り出される一撃がジークに打ち込まれ、それを防いだサーベルに重い衝撃が伝わる。そして立て続けに責め立て、ジークを防戦に追い込んでいく。……だが、アレンが予想していたネリンからのフォローはない。
『猛き良き隣人よ、共に駆ける我が友よ』
「何!?」
「馬鹿が、突っ込み過ぎだ!!」
アレンの攻撃のタイミングを読んでのネリンの詠唱。恐らく先程のジークの発言がその合図だったのだろうとアレンは気付いた。ジークは詠唱中もアレンに切りかかり、ネリンを警戒するアレンが逆に防戦になる。最悪のタイミングだった。
『共に追う獣の幾数百、共に負う傷の幾数千、共に手にする勝利の祝福を』
「貴様、何のつもりだ。巻き込まれるぞ!!」
「さてな!! 半分位死ぬだけで済むかも知れねえぜ!?」
「くっ、こいつら!!」
ネリンの銃に魔力が集まる。だがアレンはそれはないだろうと思っていた。ジークとアレンは常に剣を打ち合っている、アレンを撃てばジークにも確実に当たる。だが、それは奴らの勝利でもある。先程の威力の魔法をまともに受けてしまえば、多少は軽減出来たとしてもかなりのダメージを受ける。運良く即死はせずとも、動けなくなってしまえばネリンに止めを刺されて終わりだ。自ら危険を冒してでも確実な勝利、それがジークの出した結論だった。
「……わ、『我が一撃を持って導く!!』」
「躊躇うな!! 集中しろ!!」
「っ…………。」
魔力が練り込まれ、先程と同じかそれ以上の力が魔導器に集まっていく。ネリンの躊躇いも仕方のない事だった。味方ごと殺すわけじゃない、ジークもまた熟練の戦士であり、この程度の攻撃なら動けなくなっても直ぐに死ぬことはない。アレンを殺した後に自分が治療をすればいい、そのくらいの知識はある。だからネリンは迷いを振り切り、魔法を完成させた。
『閃光の前に散……!!』
『主に仇なす者に粛清を、愚かな反逆者に鉄槌を』
「何っ!?」
「えっ!?」
引き金をジークの背中に向けて撃つ直前、その場に有り得ない声が響く。その場所は先程、ネリンの魔法が炸裂した場所。土が抉り取られ、木を薙ぎ倒し、あらゆる物を吹き飛ばした場所。岩に打ち付けられた死体が一つあるだけの場所だった。
『許されざる者を裁くのは主が意思、ただこの場に置いて代行する力を』
「馬鹿な!! くそっ!!」
その声はネリンの真後ろから聞こえた。一瞬の硬直の後、ネリンは素早く背後を振り向き、銃を構える。その相手は……ネネはまだ地に伏せたまま、杖を持った手だけをネリンに向けていた。見るからに満身創痍、とても集中なんて出来る状態じゃないはずなのに。予想外の事にネリンは焦りながらも、ネネに照準を合わせる。距離はあるが、この程度ならば外さない。今からじゃ詠唱を止められないが、先程までの魔法と相殺させる!!
「やめろ、ネリン!!」
「っ!!」
そこで気付いた。ネネの魔法の大きさに。自分が魔力を練った時間よりも遥かに長い時間を掛けて作られた魔法だと分かる。あの辺りには自分が撃った魔力の残滓が残っていて、今までネネが魔力を練っていた事に気が付かなかっただけで、最初から……あの魔法の完成を狙っていたのだろう。自分の攻撃では相殺どころか僅かに威力を削り落とすのが精一杯、間違いなく競り負ける。
『我が主と騎士に勝利を!!』
「あっ……。」
「くそっ。邪魔だ!!」
「ぐっ!?」
ネリンが全てを察すると同時に、ネネの魔法が一直線に放たれる、巨大な高速の雷が塊のようになってネリンへと襲いかかる。飛び去って避けようにも、相殺するべく銃を構えていたネリンには、とても避けられない。
「やらせるかっ!!」
「あっ!?」
魔法が当たる直前で、ネリンは体当たりをされた様な衝撃を感じていた。そしてそのまま地面へと倒れこむ。衝撃に目を閉じてしまい、ハッとなって目を開けると、ジークが冷や汗を流してそこに居た。どうやら、アレンを振り払って助けてくれたらしい。
「ジーク!! ごめん、助かった。」
「くそ、味方ごとかよ……!!」
ジークの言葉にネリンは気付く。そうだ、あの直線上にはあのアレンも居たはずだ。そう思って直ぐに敵を探し、見付けた。
……先程と変わらず、同じ場所で。
「くっ、手荒い援護だ!!」
「何っ、あれは……!!」
ネネの魔法は、アレンの剣によって受け止められていた。本来ならば有り得ない光景にジークの思考が一時混乱し、それでも直ぐに熟練の経験が答えを導き出す。
「しまった、攻撃じゃない!!」
ジークが気付くと同時に、ネネの放った雷は全てアレンの剣へと吸収されていく。その魔力の全てが、アレンの剣に宿って再びジークとネリンに向けられた。
「他人の力で戦うのは初めてだが、悪くはないな。」
「エンチャントだと!! あの女はただの従者じゃ!?」
「終わりにするぞ。」
「ネリン、離れろ!!」
アレンは最初の頃と変わらない冷静さで、倒れこむジークとネリンに対して一気に詰め寄る。そして、無慈悲な一撃を振り下ろした。ジークはそれに反応し、素早く身を起こしながら自身のサーベルでそれを受け止める。それしか方法がなかった。
「甘いな。」
「がっ、ぐああああああああああああっ!!!!」
「ジークっ!!!」
二人の剣が打ち合うその瞬間、剣を伝ってジークの体にまとわりつく様に電気が走り抜けた。ジークの全身の筋肉が痺れ、握力がなくなり、意識さえも刈り取って行く。ネネの魔法を、ジークはモロに受ける格好になってしまっていた。
「く……そが……。」
剣が落ち、ジークが地面に倒れて動かなくなる。身体強化を掛けて抵抗をしようとした様だったが、それも些細な抵抗であった。今のネネの魔法は、その程度の付け焼刃で防げる規模の魔法ではない。
「よくも、よくもジークを!!」
「そうだな、お前が居なければ負けていたかも知れないな……。」
「くっ、舐めるなああああ!!」
アレンの言葉に、ネリンは魔弾の連射で応えた。まだ、負けたわけじゃない。だが何にせよ時間は充分に稼いだ。今はもう引き時だ。魔弾に対して後ろに下がりながら避けたアレンと、倒れているジークの間に入りながらネリンはそう考えていた。なんとかジークを運び出さなければと。
『主の法を遂行する者に、刑を行使する力を』
「っ!?」
だが事態はもう、そんな地点にはなかった。先程とは違う、優勢はない、1対1ですらない。
『炎の加護を受け入れ、その身を清めよ』
「魔法っ、避けたらジークが……。」
反対側から再び詠唱の声が聞こえる、自分は避けられる。でもそうなれば間違いなくジークが死ぬ。こんな状態では何も抵抗なんて出来ない筈だ。なら、止めなければ。
「そうはいかないな。」
「うっ……。」
銃をネネに向けると同時に、その間にアレンが割り込んで来る。もう打つ手がない、仲間を、ジークを見捨てるか、此処で心中するか。……そんなもの、最初から決まっている。
『浄化の炎よ、主への悪を焼き払え!!』
「っ、きゃああああああああああ!!!!」
魔法が完成し障壁を張って防御するネリン達の下へ、ネネの魔法が作る炎の渦が上空より降り注いだ。
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「……無理はするな。」
「うん、ありがとう、アレン。……でも、早くしないと。」
「そんな状態で焦っても逆効果だ、今は少し休め。」
未だに立ち上がることが出来ずに岩に背を預けるネネをの隣に腰掛けながら、アレンは倒れている二人に視線を向けた。意識がないのは確認しているが、どうやら死んではいないようだ。手加減をしたつもりはなかったが、そこは向こうもプロだと言う事なのだろう。念のため、今はネネに魔法で束縛してもらっている。
「……はあ、まさか司羽の訓練に感謝する時が本当に来るなんて。」
「あいつの言っている事は大体正しい。特に戦闘に関しては嘘は言わないだろう。」
「そういう意味じゃないわ。……まあ、そういう意味もなくはないけど。」
ネネもまさか本当に、極限状態で集中する訓練が役に立つとは思わなかった。あんなにボロ雑巾の様になるまで走り続けた挙句、意味の分からない体罰混じりの魔法ゲームに付き合った甲斐があったと言うものだ。
「おかげで、あのギリギリの状態でも自分に防御魔法をかけられて。気絶してた時間も少しで済んだんだもの……もう何なのかしらねこれ、自分の体が痛めつけられたり酷使されるのに慣れちゃってるんだわ。」
「良い事じゃないか。」
「良くないわよ!!」
「……………?」
ネネが何に怒っているのか、単純ではない乙女心をアレンは当然理解など出来る訳が無い。それはアレンの顔を見れば良く分かると言うものだ。だが、それも今日は許そう。
「もう良いわ、ちゃんと、分かってくれたみたいだし。」
「……ああ、あの最初の呪文か。聞いた事がない魔法だったから何事かと思ったぞ。」
「『宮殿に仕える者の修練は忠誠』、まあ私も咄嗟に出たんだけどね。」
それは魔弾の雨の中、無謀に唱えられた言葉。アレンとネネ以外は詠唱だと思って疑わないそのフレーズ。
「昔、俺が良く使っていた言い訳だな。」
「そうよ。私が心配する度にそう言って無茶して……。」
「心配するなと……そういう意味で言っていたのだが。」
「ええ、分かってるわよ。分かってるから言ったんじゃない。」
自分に何があっても心配をするな、信じて欲しいと、あの言葉はそれを伝える為だけの言葉だった。訓練でナナがやった事を思い出し、起死回生の一撃となるべく自分の存在をこの世から消すための演技。あの場面で相手にそれを悟られない為に、あえて危険を犯した。
「だが、無茶が過ぎる。死んでもおかしくないぞ。」
「……アレンがそれを言うの?」
「………? 何故だ。」
「………いや、もう良いわ。私も疲れたし。」
この際いつも心配をさせられる自分の気持ちを分からせてやろうとも思ったが、もう今日はそんな気分にはなれない。それに、なんだか無茶をするアレンの気持ちも分かる気がするから。
「さて、そろそろ行きましょうか。」
「もう良いのか?」
「ええ、それよりフィリア様やナナ達が心配よ。」
「そうだな、だが向こうにはジナスさんもいる。俺達よりフィリア様に近い場所に居る事だし、任せよう。俺達は他の皆にこの事を伝えに行くべきだ。」
「……そうね、ナナの事はやっぱり心配だけど。」
司羽に気術を習い強くなろうとしているとは言え、ナナはまだ子供だ。戦いになればどれだけ戦えるかは疑問だし、精神的にもまだ人を相手にするだけの覚悟があるとはネネには思えなかった。方針が決まり、アレンが立ち上がる。
「とにかく、そうと決まれば急ぐぞ。マルサとルークだけであの人数を守るのは無茶だ。」
「ええ。……ねえアレン、もう一つだけ聞いていい?」
「なんだ?」
「最後に、私の魔法がエンチャントだってなんで分かったの? あれは最近出来る様になったばっかりで、一度も見せたことなかったのに。」
最後の攻撃は、ハッキリ言って賭けだった。何かを仕掛ける事だけは伝わっていたとは言え、使えるようになった事すら、まだ話していなかったのだ。流石に魔力を隠しながら練るには限度があったし、奇襲とは言え、魔力が感じられた時点で、あの二人なら避けられるリスクは大きかった。だが、それがいきなりエンチャントに結びつく訳ではない。
「昔から、練習していたのを知っていたからな。俺が騎士団に志願した頃からだったか。言っていたじゃないか、いつか使えるようになって見せると。」
「そ、それはそうだけど……あれからもう何年も。」
「何年も練習したから使えるようになったんだろう。それにお前が、俺に当たる攻撃をするとは思えない。」
「……………。」
死ぬ、死なないに関わらず、味方を撃つのは、敵を撃つよりもずっと難しい。あのネリンと言う女でさえ躊躇った。アレンはネネの甘さを知っている。だからこそ魔法が自分に向けられている時点で、それはただ攻撃するだけの魔法ではないと信じていた。
「行くぞ。」
「うっ、うん……。」
何故か俯くネネを急かし、立ち上がらせる。この辺りの地理は、目を瞑って居ても分かる。アレンは自分の位置を確認すると、ネネを連れて皆の待つ方へと駆けていった。
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「ちっ……まーだ痺れてやがるな。」
「仕方ないでしょ、あんなのまともに喰らったら普通は一日以上は動けないわよ。生きてるだけありがたいくらいなんだから。」
アレンとネネが去った後、暫くしてネリンとジークがもぞもぞと動き始めた。二人を縛っていた魔法の縄が切れ、自由に身動きが出来る様になる。とは言っても、ジークの方はまだまだ痺れが抜けきれない様子だったが。
「分かってるさ。こりゃあ追撃は無理だな、大将には離脱するって言っといてくれ。」
「それなんだけど……ほら、通信機駄目になっちゃってるのよ。」
「……何? こいつは抵抗魔法を異常なくらいかけてあっただろうが。この森でも使える筈だぜ?」
「そうなんだけど……。」
カチカチとネリンが魔導器を弄るが、聞こえるのはノイズだけ。繋がる様子もない。
「こりゃあ駄目だな。」
「どうする? まだ動けないでしょ? 他の皆もまだ近くにいる筈だし、加勢がてら伝えに行こうか?」
「そうだな、それしかないか。」
ジークがそう言うと、ネリンは立ち上がって服の埃を払った。
「じゃあ、大人しくしてるのよ?」
「へいへい、言われなくても動けないから安心しろ。」
「……全く、生きてただけ運がいいって本当に分かってるのかしら。」
「お前こそ、一仕事終えたんだから無理するなよ。」
「はいはい、ジークもね。」
ネリンは暇そうに地面に寝っ転がるジークに向かって溜息をつくと、味方のいる方へと走り出した。直ぐに足音が途絶えて見えなくなり、急に静かになってしまう。
「……静かだなあ。あんだけ騒いだってのに……何の音も聞こえねえ……。」
静かに眼を閉じる。森の空気の中、静寂が支配していた。
風の音も、鳥の声も、動物の足音もない静寂の世界で、ジークは一人、眠りについた。