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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第一章~隠れんぼ~
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第7話:初めて泊まった日の話

「あ、頭痛い………ここは……。」


 司羽にルーンの家まで連れて来られてから、ミシュナは直ぐに眠ってしまった為に、今自分がどこにいるのか完全に把握出来ていなかった。まだ覚醒しきっていない意識の中、ミシュナはズキズキする頭を押さえながらベッドから起きた。


「……えーっと……ここは確か、首席と司羽の……。」


 ミシュナはそう言って記憶を確かめながら辺りを見回す。ただ広い。豪邸と言うべき建物だと言うのは一瞬で分かった。まぁそれより何より、今は何も考えたくないくらいに頭が痛い。


「うう……頭いたー……。もう絶対お酒なんて飲まないんだから……。」


 ミシュナは頭痛に頭を抑え、そう呟きながら部屋を出た。とにかく先ずはこの頭痛をどうにかしたい。


「………司羽は何処かしら……?」


 ミシュナはそう言って建物の中を暫く歩きまわると、半開きになっている部屋を見つけて中を覗いて見た。中から人の気配がする。恐らくルーンか司羽がいるのだろうとミシュナは予測して中へ入り………眼を疑った。


「………二日酔いって、幻覚とか見えるのかしら……?」


 ミシュナはズキズキする頭に再び手を当てて考える。……ミシュナとしても、司羽の布団の中にルーンが入っていると言う光景を見る事になるとは思っていなかった。予想外のシーンに多少頭痛が強くなった気がする。あくまで気がするだけだが。


「やっぱり幻覚じゃないみたいね……。ここはさりげなーく起こして頭痛薬を貰うのがベスト………よし。」


 ミシュナは誰に言うわけでもなくそう言って、寝ている司羽を揺すり起こす為に近付いた。


「……んっ……? ああ、おはようミシュ。一杯だったが随分酔ってたみたいだし、二日酔いとかは大丈夫か?」


 ゆさゆさと体を揺すられて、司羽が薄く眼を開けるとミシュが少し顔を赤くして目の前にいた。そういえば、昨日はミシュが泊まったんだったと司羽は思い出し、身を起こした。


「おはよう。ええ、少し頭が痛くて……だから頭痛薬とかないかなぁと思っていたのよ。」


 なんかミシュの様子がおかしいな……? なんか出来るだけルーンを見ない様に話をしている様な……って。


「おいこらっ、ルーン!! お前、昨日学院で噂になったばっかりだろうが!!」


「ふにゃぁっ!?」


 俺がルーンの耳元で叫ぶと、悲鳴(?)の様な声を上げて飛び起きた。それを見てミシュナは司羽を心底疑う様な表情になった。司羽は何故か、ミシュナの中での司羽像が少し修正された様な気配を感じ取った。言うまでもなく悪い方向へ。


「ううっ……耳がジンジンするよ……。司羽、いきなり何するのっ!?」


「何するのはこっちのセリフなんだが……。」


 ルーンはまるでここに一緒にいるのが当然だとでも言う様に怒るな。駄目だ、このままだとルーンが居るのに違和感を感じなくなってしまいそうだ。今だってミシュがいなければ気付かなかったし……。ルーンはなんでこんなに自然に入って来るんだろう? これでも気配には敏い方なんだが。そんな事を考えている司羽の態度をどう捕えたのか、ルーンはやたらと嬉しそうに司羽に抱きついた。


「司羽は周りの人を気にし過ぎだよ? 大体誰も見てないんだから良いじゃない。」


「……いや、今回に限っては見てる人がいるんだが……。」


 そう言って俺がミシュの方を向くと、ルーンもやっとミシュナに気付いた。……何と言うか、気付くのが遅すぎる。司羽が疲れた様に項垂れるが、ルーンは全く気にした様子もなくミシュナに笑顔を向けた。


「あ、ミシュナちゃん早起きだね? おはよ♪」


「……あ、ええ、おはよう……。」


 ルーンがミシュに気付いて挨拶をすると、ミシュもなんだか圧倒された様に挨拶を返した。そしてルーンは再び俺の方を向いて言った。


「ミシュナちゃんも司羽が大きな声だすからびっくりしてるよ? ダメだよ司羽。」


「……はぁっ、もういい……。」


 俺が嘆息すると、ルーンは何か満足気に頷く。ああ、うん、もう本当にどうでもいいや……なんかルーンに何言っても意味ない気がするし。だからミシュはその蔑むような眼を止めろって。絶対分かってやってるだろう、お前。


「ふふっ、朝から良いもの見せて貰ったわ……それはまぁいいとして、頭痛薬を貰えないかしら……?」


「頭痛薬? 頭痛いの? ちょっと待ってて、今持ってくるから♪」


 そう言うとルーンはベッドから飛び降りて、部屋を出てリビングの方へ向かった。……うん。しかしまぁルーンも荒らすだけ荒らしてくれたな……。


「何か聞いてたより凄い子ね、色々な意味で。毎朝こうなのかしら?」


「ははは……まぁな……。」


 俺は渇いた笑みで同意する。それを見てミシュはニヤリと妖しく笑った。……いや、こうなると予想はしてたけども。


「でもまさか首席と司羽がアレでコレな関係だったなんて知らなかったわ……。私ったらうっかり人の愛の巣に入ってしまうなんて……ごめんなさいね……。ああ、私を気にせずいつも通りにしていいわよ。」


「………おい、ミシュ……。」


「大丈夫よ、誰にも言わない様に気をつけるから。でも、私たま〜に独り言を喋る癖があるのよねぇ……ふふふっ。あ、でも司羽がたまに私の言うことを聞いてくれたりすれば独り言もなくなる気がするわ。」


「…………。」


 ミシュが最後にクスッと微笑んで、俺の背筋ゾクッと震えた。あーもー、何か一番知られちゃいけない人に知られた様な気がするな……。


「ミシュナちゃーん、頭痛薬あったよー。」


「え? ああ、ありがとう。」


 いきなり戻ってきたルーンにミシュナがビクッと反応する。うーん、からかいモードが四散したのは嬉しいが、どうもルーンが苦手らしいな。というより、今のルーンと昨日のマスターと話すミシュを見てて思ったが、元々ちょっと人見知りなんだろうな……。


「さてっ、ほら司羽。ニ度寝だよ、ニ度寝。」


「……は? 学園は?」


「……司羽、今日は休みよ。ちゃんとそれくらい確認しておいたら?」


 ミシュが言うと、俺もああ、なるほどと納得した。そういえば昨日学園でそんな事を言っていた気がする。ミシュの件で、すっかり忘れていたが。


「ほらほら司羽っ、一緒にニ度寝ぇー。」


「いや、休みだからって真っ先にニ度寝ってのはどうなのだよ。それと、寝るなら自分の部屋に行け。」


「良いでしょぉー、それくらい。ただの家族のスキンシップと同じだよ?」


 そう言ってルーンは俺の手を取りブンブン振り回す。ああ、もう駄々っ子モードに入ってしまった。痛い、主に真横から向けられる視線が。そして後で恐らくそれを使って色々と言われるのだろう。


「朝っぱらから見てらんないわね、ご馳走様でした。」


「そんな事言ってないで助けろ……。」


 溜息をつく俺と、それを見て楽しんでいるミシュ。結局それはルーンが空腹を感じるまで続いた。










「へーっ、ミシュナちゃんはあの幽霊屋敷に住んでるの?」


 ルーンは満腹になると直ぐにミシュナに質問を始めた。しかし幽霊屋敷って、本人の居る前で……。俺が窘めるような視線を送ると。ミシュは気にしないとでも言うように苦笑した。


「ああ、そう言えばそんな風に呼ばれてたわね。ちゃんと掃除したりもしてるのに、幽霊屋敷なんて失礼しちゃうけど。」


 ……そう言えば子供の頃にはそう言う場所が家の近くにもあったなぁ……。実際は普通のお爺さんとお婆さんが仲良く住んでたりしただけだったけど。


「でも町外れにあるし、私が見た時に人が住んでる感じがしなかったから驚きだよ。ミシュナちゃんが住んでたんだね。」


「まぁ、寝て起きるだけの家よ。それに、私もこんな所に大豪邸があるなんて想像もつかなかったわ。周りは森だし……もしかして一人………ふふっ、二人暮らしなのかしら?」


 ミシュは一人暮らし、と言いかけて、あからさまにこっちを見て妖しく微笑んだ。勘弁してほしい。もやもやした気持ちで俺の心を圧迫するのはやめてほしいんだけどな? それはそうと、ミシュはルーンを自分の家の話題から早く離そうとしている様に見えるな。何か事情があるのかもしれない、でもまぁ俺も訳あり具合では人の事言えないからなぁ。


「うーん、でもちょっと行って見たいなぁ……。」


「……別に面白い場所じゃないわよ? 本当に寝具くらいしか置いてないもの。余計な物を買うの嫌いだから。」


 ミシュはそういいながら俺の方に眼を向けて何やら視線で合図を送ってきた。……つまり、会話を締めてルーンから解放しろという感じだな。やっぱり予想通り、ミシュナはあんまりルーンが得意じゃないらしい。


「……まぁ、そうだな。機会があれば行ってみても良いかもしれないけど……それはまた今度だな。」


「……さてと、それじゃあ私はそろそろ帰るわ。」


「えー、もう帰っちゃうの? 折角のお休みなのに。」


 ミシュが席を立つと、ルーンが不満そうに言った。俺としてもちょっと心配だな。一杯のみとはいえ、昨日はぶっ倒れたんだし。


「二日酔いなんだから寝てたらどうだ? まだ頭痛はするんだろ?」


「ふふふっ、そんなことしたら司羽がベッドの中に忍び込んで来るかも知れないじゃない? さっきのを見る限り安心出来ないわね。起きてみたらシーツに私の血が染みてたりしたら洒落にならないし。」


「……あのなぁ……。」


 ミシュがクスリと笑う。全く何を考えているんだか分からない。いや、俺をからかって遊ぶ事を考えてるんだろうけど。


「半分冗談よ。まぁ、そうね………ルーンさん? 司羽を借りて行っても良いかしら? 家の近くまで背負って貰うから。」


「うん、良いよ♪」


「………俺の意思なんて考慮されないわけね……。」


 いやまぁ、俺も送っていくつもりだったけどさ。この便利屋さん的な立ち位置はどうにかした方がいいかもしれない。そんな事を考えながら、司羽は溜息をついて、ミシュナを睨んだ。


「ほら、行くわよ。」


「はいはい……。」










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「うん、なかなかの乗り心地ね。悪くないわ。」


「……ミシュの性格が昨日今日で分かってきたよ……。」


 しかし、街中を女の子一人背負って歩く恥ずかしさにも段々慣れて来たな……。ミシュの容姿は何だかんだでやっぱり目立つし。あの初めて会った時は気配でも消していたんだろうな。今も気配はかなり薄くしている様だが。


「別に良いじゃない。こんな美少女の感触を味わいながら街中を歩けるのよ? 男にとっては最高クラスの幸福だと思うけど?」


「はぁっ……本当に良い性格してるよな。」


 美少女とかに関しては否定できないから質が悪いな。それと……歩きながら一つ思った事がある。


「そう言えば、魔法で空って飛べるのか? ルーンが飛んでるのは見たことないけど。」


 まぁ、ミシュが飛べたとしてもフラフラな状態の今、それをやれとは言わないけどな。


「はぁ……? 魔法で空を飛ぶのはそんなに難しくないわよ。使い魔や魔法具に乗ったり、自分自身に魔法を掛けたり。魔法具なしで飛べる人は本当に少ないけどね。それって結構高度な技になってくるし。………でも司羽、なんでそんなことも知らないの?」


「えっ? ……ああ、いや。今まで魔法とは縁のない場所で暮らしてたからな。」


「……でも、そんな場所この世界で聞いた事もないわ。武術にも全く魔法を使ってないし……どこから来たのよ、あんたは。」


「はははっ……まぁ、地図上には無いかも知れないな……。」


「……そこはどんな辺境よ……。」


 ……無いかもじゃなくて、確実にあるわけないんだけどな。でも本当にこの世界では魔法が当たり前なんだな……。魔法なしじゃ困る事がそのうちあるんだろうか。


「………でも、なんだか不思議ね……。」


「はい? なんか言ったか?」


「いいえ、なんでもないわよ。あ、今お尻撫でたでしょ?」


「……何の脈絡もなく、いきなり濡れ衣を着せないで貰えるか?」


 ……周りの人に聞こえただろ確実に……。何人かおばさんが今こっち見たし。取り合えず、何とか送り届けるまでミシュには大人しくしててもらおう……。



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