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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第五章~星読み祭~
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第74話:星読み祭 ‐開幕‐

『我ら、エーラを代表する平和の使徒が誓う!! 安寧を!! 平穏を!! 幸福を!! 平等を!!』


『我ら、エーラを代表する平和の使徒が誓う!! 繁栄を!! 進展を!! 継続を!! 復興を!!』


『我ら、エーラを代表する平和の使徒が誓う!! 秩序を!! 法治を!! 自由を!! 正義を!!』


『我ら、エーラを代表する平和の使徒達が誓う!! 共に手を取り!! 星の下!! 永遠の平和を作り上げる事を!!』


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!


 会場が、揺れた。


 熱狂と言うに相応しいそこは、今世界で最も平和に近い場所の筈だ。星読み祭用に用意されたドーム会場のVIPルームで、司羽達は開会式の様子を見下ろしていた。対魔導防弾ガラス越しの光景だったが、その迫力は充分に伝わってくる。


「凄いな……音がここまでビリビリと響いてくる。対魔導防弾ガラスとやらの性能を人の熱狂が越えた瞬間だな。やっぱりこういうのはライブに限るぜ。」


「ほへー、私もこんなに近くで見たのは初めてです。いつもは魔導器の映像でしたが、本物は違いますねー。」


「おお……花火がきれーなのじゃ。」


「本当だ。あの花火は魔法じゃないみたいだし、やっぱ凝ってるんだなあ。」


 開会式は盛大に、閉会式も盛大に、祭りの内容も盛大に、そんな事を前にルーンが言っていたのを思い出す。ユーリアとトワも釘付けになっているし、司羽も開会式の様子には興味深々だった。


「はぁっ……のんきですねぇ……これから蒼き鷹の、いえ、共和国のVIPの護衛を控えてるっていうのに。」


「それはそれですよ。うーん、やっぱりルーンとミシュも連れてくるんだったなあ。」


「司羽君らしいですが流石に無理ですよ。そんなにほいほい人を入れたらVIPルームの意味がないじゃないですか。」


「まあそれもそうなんだけど。滅多に見れないですし?」


「そうですね、世界各国を順番に開催国にしてますから。次にここで星読み祭が開かれる時には、司羽君もお爺ちゃんです。」


「だよなあ。まあ開催国に旅行に行くって手もあるけど。」


司羽はそんな事を言いながら再びガラス越しに開会式を眺めた。今日の護衛対照であるセイル=クロイツとの待ち合わせ時間まではまだ少し余裕があるが、これを見るために早めに来た甲斐はあったと言うものだ。


「さーて、それでは私はそろそろ行きますよ。護衛の方も国際問題にならない程度によろしくお願いしますねー?」


「あれ、開会式見ていかないんですか?」


「見たいのは山々なんですけどねー? 私も忙しいんですよ、今もシノハちゃんに仕事押し付けて無理矢理ここに居るだけですし。」


「……なんて不憫なシノハ先生……。」


 しれっと酷い事を言うミリク。膨大な仕事量に追われてミリクへ恨み言を言うシノハの姿が容易に想像出来てしまう。安眠グッズ収集が趣味だと最近知ったが……疲れてるんだろうなあ。


「それでは失礼しますね。トワちゃん、行きましょうか。」


「了解したのじゃ。ユーリア、主を頼む。」


「はい、任されました。」


「トワ、見たい場所があったら遠慮しないで言って良いからな。」


「うむ!!」


 トワの元気の良い返事と共に、トワはミリクと一緒に部屋を出て行った。トワはこれからミリクの手伝いがある為、行動を別にする予定だからだ。

 そして、広い部屋にはユーリアと司羽の二人だけが残された。二人で並びながら、今まで通りに開会式の様子を眺める。


「やっぱり便利ですね、司羽様とトワさんで見てるものを共有出来るなんて……プライバシーも何もない気がしますが。」


「まあな、だから視覚共有は普段使ってないよ。トワは気にしてないみたいだけど……トワと一緒に寝てるミシュ辺りが怖いからな。」


「あー……そりゃあそうですよね。寧ろ気にしないトワさんが特殊ですから。」


 もしも視覚共有でミシュの寝顔や裸なんかを見た日には……この前偶然で裸を見た時の比ではないだろう。言わなければバレないようにも思えるが、この力を使っている時はトワの瞳が司羽と同じく赤く染まる為、一瞬でバレてしまうと言う弊害がある。


「……セイル=クロイツ、か。どんな奴なんだろうな。」


「私も直接あった事はないんですよね。通信機越しに事務的な会話を数回しただけですし、その時も一言二言で終わりでした。基本秘書の方が動き回っているみたいですよ、一度会った事がありますが有能そうな方でした。」


「共和国大統領の息子にして、共和国有数の大企業である蒼き鷹の敏腕社長。更に反政府レジスタンスのリーダーか。大層な肩書きのバーゲンセールだな。」


「んー、私のイメージだといつも難しい事考えてそうな感じですね。ガッチガチの理詰めで物事を考えそうな……。」


 ユーリアのイメージは司羽も同意出来る。革命家、特に大統領の息子なんて言われたら余計にそういうイメージになると言うものだ。


「さてさて、その実態は……。」





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「いやーっ、ごめんごめん!! ほら、こういうお祭りに来たらさ、ついつい屋台に足が向くって言うか……ねっ?」


「ねっ? じゃねーんですよ、クソが。可愛くねーから、二十代も半ば過ぎたいい年した男が言っても可愛くねーから。」


「「…………。」」


「ちょっとメリッサ。何だか二人の視線が冷たいんだけど? お前口悪すぎだよ、ゲストの前だぞ、弁えろ。」


「いや、てめーのせいですから。護衛を頼んでおきながら待ち合わせ場所に三十分も遅れるVIPとか、護衛する側からしたらサイテーの客だから。」


「あー、うん。気にしないで良いですよ、何事も無かった様ですし。」


 予定の時間から三十分を過ぎてようやく顔を見せた護衛対象、セイル=クロイツは司羽とユーリアの予想とは掛け離れた存在であるようだった。司羽はセイルの見た目を観察した。二十代後半と言っていたが、それにしても若い。細身で長身、身長は180センチを超えている。そこに質の良さそうなスーツを完璧に着こなしている銀髪の二枚目。これで金持ち、家柄良しも付くのだからそれはもうモテるだろう。しかし、先程から同じくスーツの女性と会話をする様子がそんな彼のビジュアルを上回って印象をダメ男に固定している。何にしろ頭ガチガチの論理派からは遠く離れた存在であることは確かだ。


「甘やかしてはいけません。甘やかしたら困るのは秘書の私とボディーガードの貴方ですから。」


「ちょっとちょっと、一応僕って君の雇用者なんだけど!? いやもうそれはいつもの事だから良いけどさ、今日は司羽君との初顔合わせなんだから、そんなダメな子認定しちゃってますみたいな扱い止めない!?」


「はぁっ……いや、もうおせーですから。三十分遅刻して両手にタコ焼きやらお好み焼きやら抱えてる時点でもう印象最悪、ダメ野郎の烙印が全身に刺青みたいにもう取り返しがつかないレベルで刻まれてますからね?」


 メリッサと呼ばれた女性は、セイルの両手に吊る下げた袋と、両手に直接持ったそれらの食べ物を見てウンザリした様に表情を歪ませ、遠慮も何もない溜息を吐いた。こっちの女性も随分とまあ……随分とキャラクターが濃い。セイルが秘書と言っていたから先程のユーリアの話に出た秘書なのだろうが、セイルに向かって敬意の欠片も見せない。スーツを隙なく着こなし、ボブカットにされた黒髪にカチューシャをしている。スレンダーで長身、モデル体型と言えばいいだろうか。見た目から少なくともユーリアよりも年上なのは間違いないだろうが、セイルと同じくらいだとしたらこちらも随分と若々しい。しかし何よりも特徴的なのは、その射る様な目付きだ。そこに整った顔立ちが合わさって、その鋭さは留まるところを知らない。あんな風に睨まれてヘラヘラしていられるセイルは大物なのか、それともただの鈍感なのか。何にしろ、色々と普通ではない二人であることは確かだ。……勿論、肩書きからして普通でない事は最初から司羽も理解していたが。何にせよ、自己紹介が先だろう。


「萩野司羽と申します。セイル=クロイツ代表、メリッサ=アート代表補佐。今日は護衛に御指名頂き、光栄至極に存じます。」


「おっと、これは御丁寧に。遅れて本当に申し訳ない。僕はセイル=クロイツ、今回の共和国側の代表を務めることになったんだが……これは頭の隅にやって構わない。どうでもいい事だ。もう開会式での役目は果たしたわけだしね。」


「………は?」


「改めて、『蒼き鷹』代表取締役社長兼、反政府レジスタンス『蒼き鷹』リーダーのセイル=クロイツだ。堅苦しいのはなしだ、よろしく頼むよ、司羽君。」


「…………。」


 驚いた、と言うよりも呆れた。ここは重要人物が集まるVIPルームの一室だ。ガラス以外防音性に優れた素材が使われているとは言え、あまりにもあからさま過ぎる物言いだ。しかし、セイルはそれを気にした様子もない。そんなセイルに続くように、隣に居たメリッサもしっかりとこっちを向き直し……恭しく頭を下げた。


「メリッサ=アートです。この馬鹿の秘書を勤めています。お二人共、どうかメリッサと気軽にお呼びください。後、このくらいの事はこの馬鹿は気にしないので司羽さんも気にされない方が良いですよ。無駄に心労が溜まります。ユーリアさんも、そう緊張しないでください。我らは既に同志ではないにせよ、敵ではないのですから……そうでしょう?」


「……はい、そう言って頂けると私も心の荷が下ります。改めまして、司羽様の侍従、アルゼルハント=ユーリアと申します。主共々、どうぞよしなに。」


 メリッサに続きユーリアも頭を下げ、これで四人が各々自己紹介を終えた。事務的な自己紹介をした司羽達に対し、向こう方のなんと個性的な事か。こういう部分一つ取っても、社会経験値の差が如実に現れる。セイルとメリッサの自己紹介にはグレーゾーンどころか完全にアウトな内容もあったが、それはこちらを信用するという意思表示だ。少なくとも、こちらがそう取ると判断してのあの自己紹介なのだろう。飄々としているが、やはり二人共やり手である様だ。


「話には聞いていましたが、すっかり司羽さんの侍従なのですね。以前会った時よりも生き生きと仕事をしていらっしゃるようで、羨ましい限りです。さぞ、ステキなご主人様なのでしょうね……はぁっ。」


「メリッサ、何故そこで溜息を吐いて僕を見るのかな? それよりも社長であり雇用者である僕に向かって暴言吐き過ぎじゃね? と思うんだよ僕は。言うなれば君も僕の侍従に近い仕事をしているんだから、もう少し敬意とか誠意とか、そういう主に対する暖かい感情を持って欲しいのだけれどね?」


「寝言は寝て言え。もしくは墓標に刻め。恐らく私の目に触れる機会はないでしょうけど。」


「墓参りにも来ないつもりか!? 司羽くん、これとそっちのユーリアちゃん交換しない? お願い、結構切実に。」


「残念ですがユーリアは他所へは出しません。それにメリッサさんに相応しい仕事なんて自分の傍にはありませんよ? 仕事なんて精々家事をやってもらったりするくらいです。宝の持ち腐れもいいところでしょう。」


「ああ、確かにそれは駄目だな。家事は駄目だ。こいつ壊滅的なんだよ。そんなんだからこの年になっても結婚できなひぎゃああああああっ!?!?!?」


「あー、早く死なねーかなこのクソ社長。そうしたら蒼き鷹は私の物、営業部のイケメンも私の物。」


 グリグリグリグリ


「や、やめっ、痛い痛い痛いっ!!!」


 メリッサのハイヒールが思いっ切りセイルの足を穿つ様を、司羽とユーリアは半笑いで見ていた。演技の可能性も考えたが……どうやら、これが二人の日常的な光景であるらしい。少なくともその場に蹲って……果ては床に転がって、ヒールで踏まれた足を抱えて転げまわるセイルの痛みだけは本物だろう。見ているこっちが痛くなる。本当にこの秘書さんは遠慮と言うものがないらしい。司羽とユーリアが大分引き気味にその様子を眺めているのに気付いたのか、メリッサはコホンと一つ咳払いをして場を仕切りなおした。


「んんっ、何はともあれ、こんな約束の時間も守れない馬鹿の護衛なんて死ぬほどの苦痛だとは私も理解しています。ですのでストレス解消にぶん殴るくらいはして構いませんので、どうか見捨てないでやってください。」


「ちょっ、ヤだよ!! そんな唐突な暴力なんて受け続けたら僕ハゲるよ!? メリッサはハゲの秘書をしたいのかい?」


「貴方の秘書をしたくありません。」


「ああ、うん、ハゲとか関係ないのね。そっか、もう良いよ。そこまで言うなら今日限りで君は……あれ、何それ……『退職届』? ええっ、冗談だよね!? 何でそんな物持ち歩いてるのさ!!」


「そんなのいつでも出せるように持ち歩いているに決まっているじゃないですか。私の心もとっくに決まっています。」


「分かった、僕が悪かったから考え直してくれお願いっ!!」


 ギャーギャー、ワーワー


 セイルとメリッサは、司羽達の前でも騒がしい漫才の様な会話を続けている。それを見ながら、ユーリアは正直判断に困っていた。どうやら相手は好意的で、こちらには大分フランクなスタンスでいる事を望んでいるようにも思える。信用……していいのだろうか? 敵ではないとメリッサは言っていたが、裏切り者である自分や、前回妨害した司羽に対してここまで好意的なのは何か裏があるのではないのか。態々司羽を護衛に指名した理由はリアとの関係の確認だと司羽は言っていたが、個別に呼び出しての報復の可能性もあるとユーリアは考えていた。見掛けと言葉だけで相手を信用し過ぎるのは、何か大きなリスクを伴うのではないだろうか。……そこまで考えて、ユーリアは意見を求めるべく司羽に視線を送る。


「司羽様……あの……。」


「ぷっ、ははっ、あははっ。」


「………司羽、様?」


「「…………。」」


 部屋に響いた突然の短い笑い声に、その他の音がピッタリと止む。そしてそれと同時に、セイルとメリッサの視線も真っ直ぐに司羽へと向けられていた。それは、ユーリアが二人に向けていた視線と良く似たものだった。


「どうしたんだい? いきなり笑って……僕ら、そんなにおかしかったかい?」


「すみません司羽さん。こいつ、頭おかしいんですよね。」


「ちょっと、今そう言う事言うタイミングじゃなくない!?」


「ははっ、すいません。失礼ですが、面白かったです。」


 司羽はそう言うと、一歩前に出る。……そして、セイルに向かって右手をスッと差し出した。司羽側からの友好の意思。


「お祭り、好きなんですよね? だったら楽しみましょう。大丈夫です、護衛の任務は全うしますから安心してください。」


「ああ、頼りにしているよ、司羽君。」


 司羽の言葉と差し出された手に対して、セイルは迷うことなく自身の手を前に差し出し、司羽と固く握手を結んだ。がっしりと、確かな信頼を互いに向け合う為に。それは一種の儀式の様であった。そしてその隣で、メリッサもまた、ユーリアへと手を差し出す。


「ユーリアさん、短い間ですが、またお力をお借り致します。」


「はい、こちらこそ。メリッサさん、宜しくお願い致します。」


 秘書と侍従。二人もまた、各々の主がそうするように手を取り合って微笑み合う。ユーリアは既に、先程の悩みを吹き飛ばしていた。司羽がそうしたのなら、そのように。何よりも優先すべきはもう間違えない。


「それでは、三十分程遅れましたが、萩野司羽、護衛の任務を開始させて頂きます。」


 今この時、始まった。


 盛大なる開会式が終わり、星読み祭の幕が開く。





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