第71話:開祭準備 (騒乱)
「だ、誰か来てくれっ、男女間のトラブルだ!!」
「ひゃっはーっ!! 爆竹だあっ!!」
「おい、喧嘩しろよ。」
「はいはい、今行きまーす!! それとそこの二人、祭りだからって爆竹鳴らしたり喧嘩売って歩くんじゃねえ!! 祭り終わるまで入院してえのか!?」
「………慣れたわね、司羽。」
「まあな、って早く行くぞミシュ!!」
怒号と喧騒と若気の至り。星読み祭の準備も進み、そんな言葉が似合うような雰囲気になってきた。街全体の雰囲気や外装も完成形に近づいてきていて、その華やかさが街や人々の活気に拍車をかけているようだ。勿論、街が活気付けば良い方向にばかり物事が動くとは限らない。事実として当の司羽とミシュナは、浮き足立った人々の起こす増え続けるトラブルの対処に追われていた。
「ア、アキ……これはその……誤解なんだ。俺は本当にお前の事を!!」
「ふっざけんなっ!! 何が誤解よっ、私の事は遊び……ううん、それ以下だったのね!? 死んでやる……お前を殺して私も死んでやるううううううううっ!!!」
「ま、待て!? お前の魔法は流石にぎゃあああああああああああっ!?」
ドカーンッ!!
司羽とミシュナが現場に到着した瞬間、男の断末魔にも似た悲鳴が木霊した。幸い魔法は男には当たらず逸れていったようだ。しかし周りへの被害はない。もう数日前から街全体がこんな感じなので、街の人々も慣れっこになってしまい、皆が協力して周りの建造物へ被害が掛からないようレジスト魔法を発動していた。
「うわぁっ、ヒートアップしてるわね。周りへの被害は食い止められたみたいだけど……司羽、取り敢えず取り押さえる?」
「うーん……まあ相手は女の子だし、頼むわ。」
「了解。」
司羽とミシュナは互いに頷き合うと、その修羅場へと走りよった。そして魔法の第二射を放とうとしている女と、一射目で既に腰が抜けている男との間に司羽が割って入る。ミシュナの方は女の横から近寄り、腕のリング型魔道具に集中していた魔力を気術で直接打ち消した。そんな気軽に攻撃魔法を連発されたのでは周りで必死にフォローしてくれている人達にまで危害が及んでしまう。
「警備班の者だ、取り敢えず落ち着け!!」
「これが落ち着けるわけないじゃない!! あーもうっ、男なんて皆死ねええええっ!!!」
「あ、こら止めなさい!! その腕のリング没収するわよ?」
叫び声を上げながら再び女のリングに集まりだした魔力をミシュナが散らす。女はそれで観念したのか、今度は膝をついてわんわんと泣き出してしまった。
「うわーんっ!! 邪魔しないでよ、あいつを殺して死ぬんだからあっ!!」
「取り敢えず落ち着きなさい。男なんて星の数程居るんだから、浮気か何か知らないけどそんな簡単に死ぬなんて……。」
「何よっ!! アンタだってずっと一人の男の事を想い続けてストーカーして、挙句の果てにその男に女が出来てもズルズル引きずって、結局諦めきれないで想い続けてそうな顔してるじゃないっ!!!」
「んなっ!? わ、私はストーカーじゃっ……じゃなくて、まずは深呼吸しなさい。騙されたと思って、ほら。」
「うううーっ……。」
興奮状態の女性の扱いは司羽には難しい。それは今までの経験で良く分かっているのでミシュナに任せているのだが、流石はミシュナだと司羽は思った。今もなんだかんだで女の思考を男から逸らして落ち着くきっかけを作っている。……何故か頬が引きつっているのが気になるけど。
「……それで、どうしたの? まさか本当に浮気?」
(……コクン)
「ち、違う、それは誤……。」
「何が誤解なのよ!! あんなに仲良く……手なんか繋いで……。」
「うぐっ……そ、そこまで見てたのか……。」
「浮気、ねえ。こんなにかわいい彼女が居るのに、俺には考えられないけどな。」
「司羽、それあんまり外で……知り合いがいる場所で言わない方がいいわよ?」
あれ、なんで俺が駄目出し食らったんだ? なんだかミシュからの視線が怖いし………何はともあれ、これで少しはまともに話が出来そうだ。
「彼氏くん。なんで浮気なんてしたんだ? それに誤魔化したいのは分からなくもないけど、それじゃあ彼女さんがあまりにも可哀想だろう。多夫多妻だからって開き直るよりは、いくらかマシだけどさ。」
「………それは……。」
「ううっ……あんなの見せつけられたら……女のプライドも何もかもズタボロよ。」
嗚咽混じりに女がそう言ったのを最後に、二人共に口を閉ざしてしまった。やはりトラブルの中でも男女間の色恋沙汰は飛び抜けて厄介だ。何分司羽もミシュナも経験値が足りなすぎて何ら具体的なアドバイスも気の利いた言葉も言えないのだ。そもそもこういうのは他人が口を出しても中々収束しないパターンが多い。……正直、街に被害が出るのでないなら放って置いた方が良いとも思うのだが、実際被害が出る可能性がある以上放っておけないが辛いところだ。
「……ねえ、彼氏さんを独り占めしたいのは分かるけど、この国は多夫多妻が認められてる訳だし、彼氏さんとしても騙そうとした訳じゃないんじゃない? 貴女の事も大事だけど、他にも大事な人が居て、それを中々貴女に言い出せなかったのかも知れないわ。兎に角、一度ゆっくり話あって決めた方が良いと思うけど?」
「そうだな、価値観の違いって凄く難しいと思うけど、どういう決断をするにしろ後悔だけはしたくないだろう? 別に、彼女さんが一方的に合わせる必要はないんだ。彼氏くんだって、きみが居なくなるくらいなら浮気なんてしないって思ってるかも知れないぞ?」
多夫多妻のこの国だが、案外それが原因になる男女間のトラブルも多いことが今回の警備の仕事で分かった。誰にだって独占欲や支配欲があって、そのバランスの違いがすれ違いを生んでしまうのだ。事実ルーンと司羽の間でも多夫多妻に関しては価値観の違いがある。尤も、ルーンは司羽に無理矢理の変化を望んでいないし、自分の価値基準もハッキリと明示している。そういう価値観を話し合うことはこの二人にとってもプラスになるはずだ。
「ほら、彼氏くんは黙ってないでさ。自分が何考えてたのかしっかり彼女さんに伝えないと。悪かったと思うなら謝ればいいし、何か考えがあったならそれを伝えればいいだろ?」
「……アキ、俺……。」
「…………。」
……取り敢えず、これでこの二人は大丈夫だろう。結果的に破局したとしても、先程のような大事に発展することはない筈だ。司羽はそう判断してミシュナに視線を送ると、ミシュナの方も同意見のようだった。後は二人の邪魔にならないようにと、司羽とミシュナは揃ってその場を立ち去ろうとして……その間際に、男の魂の叫びを聞く事になった。
「俺は……アキラが男として好きなんだああああああああっ!!!!!」
「認めるかホモやろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
「ぐえあああああああああああああっ!?!?!?」
「「………え?」」
予想外過ぎるカミングアウトに数秒遅れて司羽とミシュナが振り返ると、そこにはスッキリした顔で舞い上がる男と、鬼の形相で華麗なハイキックを決める女の姿があった。
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「……つ、疲れたわ……。」
「ああ、なんか精神がすり減る音を聞いた気がする……。」
あの後も男女の言い合いは続き、暴力こそなくなったものの、男が次から次へと浮気相手(男)の素晴らしいところ、好きなところを暴露するという言葉の暴力が飛び交った。物質的な損害はなさそうなので放っておいても良かったが、周りの人達(主に男)の精神に異常を来たす恐れがあった為に放置する訳にもいかず……。
「男に口説かれたの初めてかも知れない……おえっ……。」
「凄かったわね、色々……。男の胸筋とか腹筋とかの良さを、男に語られるとは思ってなかったわ。」
「ああ……、彼女の方が呆れて彼氏を連れて行ってくれてなかったら、あの一帯は死屍累々の惨状と化してたかもな。」
あまりに酷いので司羽も実力行使を抑える限界だった。本当に、限界だった。
「なんかキャーキャー言って煽る女の子もいたし……はあっ、本当に疲れたわ。」
「……そうだな、少し休憩するか。あそこの公園なら、ベンチくらいあるだろうし。」
「賛成よ。」
こんな状態で警備を続けても、咄嗟の時に判断をミスしてしまう危険性がある。ミシュナも司羽の提案には全面的に賛成だった。そして公園に入ってすぐに空いているベンチを見付る。
「おっ、あそこ空いてるな。んじゃあミシュは先行っててくれ。」
「えっ、どうして?」
「何か飲み物と食えるもん買ってくるよ。」
「……そう言えば、もうとっくにお昼過ぎてるわね。」
時計を見ると、もう時刻は二時を回っていた。朝から働き詰めで時間など見ていなかったが、遅めのお昼を摂るには良いタイミングだろう。
「じゃあ私が行くわ。司羽はもろに精神攻撃食らってたんだから、先に休憩してて。」
「いいから行ってろって、初日にアイス奢ってくれたお返しみたいなもんだ、ゆっくり休憩してろ。」
「……そ、そう、じゃあ御願いするわね。」
「ああ、それじゃあ行ってくる。」
司羽は一言そう言うと、食べ物と飲み物のある屋台へと足早に駆けていった。そんな司羽を見送りながら、ミシュナはそっと自分の口元に手を当てて、自分の顔が熱くなっているのを感じていた。
「……思い出しちゃったじゃないの、もう……。」
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「ったく、やっと買えた。なんで店先で喧嘩始めるかなあ……。」
屋台に群がる人の列に並び、目の前で喧嘩を始めた男達を宥め、やっとの事ドリンクと軽食を確保することが出来た。エーラと言っても祭りは祭り、元より似たような食事の多いこの星だったこともあり、祭りで売り出される物もおおよそ司羽の世界と変わりのないものだった。その中でも今回はホットドッグと焼きそばを確保出来て司羽的には満足だ。尤も、似たような物だというだけで材料まで全く一緒という訳ではないようだが。何よりミシュナを待たせてしまっている、早く戻らなくては。
「………ん?」
『……だから、私には連れが居るって何度も言っていますよね? それに仕事中ですから。』
『でも中々戻って来ないよね? 本当は連れなんか居なくて、ただ休憩してるだけなんじゃないの?』
『その腕章してるってことは警備班なんだろ? 休憩ならさ、俺らと一緒にどっかの店入ろうぜ。連れが居るにしても後で合流すればいいじゃん。』
『すいません。休憩しているのは確かですけど、それも含めて仕事中なので。』
「あー……なるほど、ルーンの言う通りだな。まさか十分かそこらでナンパされるとは……ミシュに声をかける気持ちは分からなくもないけど。」
司羽が溜息をつきながら声のする方を見れば、どうやら待ち合わせをしていたベンチでミシュナが男二人組に言い寄られているようだった。そういえばこの数日、ミシュナとは離れて行動した事がなかった。だからミシュナが少し放って置けばナンパされるくらいに目立つ存在だと言う事も忘れていた。しかし時間がかかったとは言え、こんなにも直ぐに男が二人も寄ってくるとは……恐るべし。何にせよ、早く助けに入った方がいいだろう。
「よう、戻ったぞ。」
「あ、司羽!!」
「……ちっ、余計な奴が。」
「……司羽?」
ミシュナの安心したような笑顔に迎えられ……たのは良いんだけど、まさかナンパ野郎に露骨に舌打ちされるとは思っていなかった。流石にイラっとくるなこれは。とは言え、こっちも警備班として動いている身だし揉め事は避けたいのが正直な気持ちだ。無視するに限る。
「悪いな、遅くなっちまった。」
「別に構わないわ。他に女の子を連れてないところは褒めてあげる。」
「……俺をそんなナンパ師みたいに言うなよ……。」
「冗談よ、冗談っ。」
ミシュナの軽い冗談に司羽が嫌な表情をすると、ミシュナはクスクスと微笑を浮かべてベンチを立った。そしてそのまま素早く司羽の隣へと移動し、腕を取った。
「ほら、行きましょう?」
「ああ。」
「おい、何無視してんだよっ!!」
ミシュナに腕を引かれて司羽が男達に背を向けると、先程舌打ちをしていた男にガシッと強い力で肩を掴まれた。全くもって面倒な事に、男達は諦めていないらしい。とは言え、暴力で無理矢理黙らせるのも立場上宜しくない。何より、隣で面倒臭そうな表情をしているミシュナ自身がそれを嫌がるだろう。ミシュナがそういう性格である事は、この半年以上の同居生活で良く理解しているつもりだ。
「すいませんね、仕事があるので。」
「仕事ぉ? その手に持ってるのはなんだよ。休憩中なんじゃなかったのか?」
「……休憩も仕事の内ですから。」
気分と場所を変えてゆっくり休憩を取ろうと思っていたのだが、ドリンクと昼食の袋を持っていたのでは流石にこんな言い訳はバレるか、と司羽は少し後悔した。そんな司羽の咄嗟の切り返しを、男は鼻で笑う。
「はっ、スカシやがって。警備班に配属された上位クラスの優等生さん達は大層優雅でいらっしゃる。少なくともミシュナさんにはとても似合わないランチだなあ?」
「……なんだ、名前言ったのか?」
「いいえ、でも……彼等、学院の生徒みたいね。」
なるほど、ミシュナは元々有名人だったみたいだし学院関係者か生徒なら知っててもおかしくはない。言動から察すると……どうやら下のクラスの人間のようだが……。
「とにかくさ、お前もう少しどっかで飯食ってろよ。俺らミシュナさんと一緒に店入るから。」
「貴女達には悪いですが、彼女にその気はないそうですよ?」
「ええ、お断りしますわ。何度も言いましたが、仕事中ですし。」
「なら、仕事が終わったらどう? そこの男邪魔だしさ、今夜とか暇でしょ?」
「…………。」
流石にしつこい。それに心なしか、段々とミシュナの機嫌が悪くなっていくのを司羽は隣で感じていた。でも何故か、しつこい男に対してと言うよりも、司羽の事を邪険にするような発言に比例しているような気がしないでもない。司羽も自分で思っていて、それはないかと直ぐに考え直したが。
「それでさ、どうよ今夜……。」
「お断りします。すみませんが、貴方達に僅かの興味もありません。これだけ断っているのだからいい加減に諦めてください。さっきから司羽を邪魔だなんだと……はっきり言って不愉快なんです。」
「………何?」
ミシュナはもう不機嫌を隠しもしなかった。このままだといつまで経ってもキリがなさそうだったし、柔らかく断って伝わるほどの品性が相手に無い事も充分に分かった。あまりにしつこいので司羽もそろそろ実力行使も仕方ないかと思っていたところだ。だが、どうやら相手の男は今の一言でプライドに傷が付いたようだった。
「ははっ、俺らみたいな落ちこぼれは眼中にありませんか。流石は男にくっついて成り上がった女だ。自分の男くらい優秀な奴からいくらでも選べるって訳か!! 本当は強いって噂も疑わしいしなあ!? 裏では何やってるか分かったもんじゃねえ!!」
「てめえ、言って良い事と悪い事が……。」
下衆な笑い声と共に放たれた暴言に、司羽は思わず一歩前に出た。ミシュナはそんな人間ではない。ミシュナとまともに話したこともない人間にはそんな事は分からないだろうし、マスターによって下位のクラスから引き上げられたミシュナを妬む人間は確かにいるだろう。そしてその事実を知らない人間からすれば、ミシュナと司羽の仲の良さから勘ぐる人間も当然居る。客観的に見れば、司羽がいきなり最高クラスに編入され、それから直ぐに司羽と仲の良いミシュナが唐突にクラス替えをされたのだから。そんな疑念が表面化しなかったのは、ミシュナの実力を周りが認めているからだとムーシェが言っていたが、それでも今までも噂はあった。何より、その実力を示す場にもミシュナは出ていないのだから仕方がないのかも知れないが。
「いいのよ司羽、自分がどう思われてるかくらい分かってるわ。司羽だって自分がどう思われてるか分かって、受け止めてるでしょう?」
「だが、こいつにこうまで言われる筋合いもないだろう。」
「司羽、駄目よ。ただでさえ司羽は目立つんだから……彼女の、ルーンの評判を落としたいの?」
「ぐっ……。」
ここでルーンの名前を出されると……正直弱い。確かに自分が立場上目立つ人間であるとは司羽も自覚している。その上でルーンが自分の評判なんて気にしない性格であることも分かっているが、司羽としては、自分のせいでルーンが悪く思われるのは避けたいと思っていた。ルーンと約束した、ルーンの全てを守るとはそういう事だと思っているから。
司羽がミシュナに制止されて堪えていると、今まで黙っていた方の男が何やらブツブツと呟いて考え込んでいた。
「司羽……司羽……そうだ、思い出した!! こいつ例の転入生だ。確か転入生が司羽って名前だった筈だ!!」
「はっ? 転入生って……なんだ、この女が寄生した当人様かよ。」
「間違いない、入れ替え試験の時に一瞬だけ見た顔だ。その後直ぐに俺はリタイヤさせられたがな。主席のルーンのファンをスゲエ勢いで倒して回ってた。……二人でも無理だ。」
「ちっ、マジかよ……クラスで話だけ聞いた事があったが……。」
どうやら、男達は司羽を知っているようだった。それまでは今にも殴りかかってきそうな雰囲気だったのが、シラケたように溜息をつき、忌々しいものを見るような視線を司羽に向けていた。ハッキリ言ってミシュナだけでも男達が戦うには力の差があり過ぎたのだが、先程の発言からするとミシュナの力を侮っているらしい。何にせよ、暴力沙汰になるのだけは避けられそうだ。
「アンタも良いご身分だよなあ。主席に加えてそこの女まで囲って、まだ他にも居るんだっけか?」
「教師連中も手懐けてるって聞いたな。まあいきなり最上位クラスに入った時点で何か裏があったんだろうが。」
「ははっ、美人揃いの最上位クラスの中でもトップレベルの女を食い放題ってか!! いいねえ、羨ましいよ。飽きたら二、三人こっちに回してもらえませんかねえ、司羽クン?」
「ふん、お前らに紹介出来るような低俗な女は知らないな。素直に壁に穴でも空けてろ下衆が。人間の相手なんて贅沢言ってんじゃねえよ。」
「なっ、て、てめぇ!! いきなり手の平返しやがって!!」
「おい、やめろ。」
「………ちっ、クソが。」
ワナワナと震える男を見て、司羽は少し溜飲が下がった。さっきの反応で完全に理解した。こいつはもうこちらと暴力でことを構える気はない。いくらいきがったところで吠えるのが精一杯だ。そう気付いてしまえば、必死にプライドを保とうとする姿勢のなんと可愛らしいことか。
「なんだ、結局吠えるだけか。」
「っ……ははっ、さっきまでは優等生の仮面を被ってたって訳か。……はーん、なるほどな。そうやって女に取り入ってるって訳ね。」
「貴方、司羽の事を知ったような口聞かないでもらえる? 私もルーンも馬鹿じゃないの、男を見る目くらいはあるのよ。」
「どうだかな。前回見たそいつの動きは……いや、正直見えなかったんだけどよ。ありゃあ人間じゃねえよ、バケモンだ。あんなバケモンなら、人間を洗脳するくらいわけねえんじゃねぇの?」
「っ……何ですって……!?」
「なるほどな。」
なるほど、当てずっぽうにしては核心を突いている。司羽が抱いたのはそんな淡白な感想だけだった。事実として、司羽はそれが出来るのだ。尤も、人格を事細かに作り変える事は出来ないので、ある程度の限界はあるし、ミシュナの様に自分で自分の気の流れを弄れる様な気術士や、ルーンの様に誰かに気を正常化されている人間は無理だが、それを言っても出来る事には変わりなく、隠している以上は騙している事にもなる。そんな事は誰に言われるでもなく、とっくに分かっている事だ。
「司羽をアンタ達みたいなクズと一緒にするんじゃないわよ。そんな事しなくても司羽の周りには大勢の人が集まるわ。アンタ達と違ってね。」
「そりゃあそうだ。最上位クラスの優等生様はさぞおモテになるでしょうよ。しかもアンタや主席様、教師まで味方に付けてれば誰も逆らえない!! 好き放題出来んじゃねぇの? それに気に入らなければ司羽は自分の力で無理矢理気に入る様にしちまえばいいんだから!! 良いよなあ、才能のある優等生様ってのはよお!! 実はこいつ見た目や何もかも本物のバケモノなんじゃねえの!? 実際そうなら見た目くらい変えられてもおかしくねえしな!! 司羽の使うっていう得体の知れない力が証拠ってやつだ!!」
「……っ………。」
「ミシュナさんよお、気を付けた方がいいぜ? いつの間にか司羽に何かされてたとしても誰も気付かないんだ。お前らのやってる事は、何を食ってもおかしくない獣の前に無防備で立つって事だ。ただの獣ならアンタらは怖くないかも知れないが、バケモノ相手じゃどうなることやら。」
「……………。」
ミシュナは、何も言い返さなかった。そして司羽もそれに対して何も口を挟まなかった。ここに来てこの下衆どもの発言は概ね的を射たものだと、司羽自身が関心しているくらいだった。むしろ、その意見を参考にこの威圧的な赤い瞳をどうにかした方が良いのかなんて考えてしまう。
「なんだなんだ、急に黙り込んじまってよ。おいおい司羽クンよお、どうするよこの女、遂にアンタの危険さに気付いちまったみたいだぜ? 洗脳し直さないとなあ!?」
「そうだな、でもまずは……お前達からやっておくか、いい加減に目障りだ。丁度良いからもう少し利口な頭にしてやるよ。そのゲロ塗れの汚い言葉遣いも直してやる。俺は優しいから今の内に希望を聞いておくがどんなのがご希望だ? 女が好きなようだから、語尾に『にゃ』でも付けてみるか? きっとウケると思うぞ? ……ほら、こっちに来い。」
「……はっ、気味がわりぃ野郎だ。まあ精々その不気味な力で好き放題やるんだな。……おい、行こうぜ。」
「ああ。………ふん、バケモノが。」
男達は吐き捨てるように言った。そしてそれを捨て台詞に司羽達から背を向ける。やはり思った通りの小物だったか、と司羽は内心で溜息をついていた。最初は腹がたったものだが、真実とは言え根拠のない暴論だけを武器に必死にプライドを守る様は見ていてそれとなくスッキリした。少し時間を食ってしまったが、ミシュナにも何とか気分転換をして貰って休憩を………と、思った時だった。
「………何処に行くの?」
深く、深く、何処までも深い憎悪のみを凝縮した様な声が響いた。
「は、はあ?」
間の抜けた声と共に男達が振り返る。公園からは先程まであったはずの活気が完全に消え失せていた。恐らくこの男達との言い合いのせいで、元々居た人達も何処かへ逃げてしまったのだろうが、今は、完全に静かだ。公園の外から聞こえるはずの喧騒すらも静まり返っているような気がする。
「ミシュ、どうした?」
「んだよ。もうてめえに用はねえんだよ。」
「……そう。」
全員の視線が、声を発したミシュナへと集中した。その声は、公園全体に響いているようにも思えた。囁くような声量で、なんとかミシュナの声だとは分かるものの、今まで聞いた事が無い程に低い声だった。そしてそれにも関わらず、その声はハッキリと全員の耳へ届いていた。その時のミシュナの表情は、俯き加減で司羽からは見えなかった。
「おい、気にすんな。イカレ野郎にくっついてるイカレ女の戯ご……と……。」
「……私もね、貴方達なんかに用はないの。ただ、耳障りだから。」
「っ……!?」
ミシュナの声が別の場所から聞こえる事に気付いた時には、既に男達の目の前に立っていた。そしてそのミシュナの右手の人差し指が、まるで汚いものに触れるかのように僅かに、男の一人の胸の辺りに触れていた。もう一人の男がそれに気付いた時には、ミシュナの指は男から離れて……。
「…………。」
ドサッ
仰向けに、真後ろに倒れた。
「お、おい、どうしたんだよ。冗談はやめろ!! おいお前、一体何をした!!」
「貴方達の言う不気味な力を使ったのよ。ふふっ、ふふふっ、少しは静かになったわね。」
「こ、この……っ。」
ミシュナが視線を残った男の方へ向け、司羽はそこで初めてミシュナの横顔を見た。目が完全に据わっている。唇が微笑を作っていても、他が全く笑っていない。完全にキレている。
「なんでだよ!! もう終わっただろうが!! くそっ、バケモノの女がっ……!!」
「っ……。」
そんなミシュナに対し、男は何やら魔法を使うべく腰から杖を引き抜こうと手をかけた。……しかし、それはあまりにも遅すぎた。
「っ……待っ……」
既に言葉を交わす必要はないのだと、男の額に僅かに触れた指先が物語っていた。男がそれに気付いた時にはもう、男の顔からは表情が抜け落ち、ゆっくりと、真後ろに、仰向けのまま倒れていった。
ドサッ
「……ミシュ。」
「…………。」
全ては一瞬の出来事だったようにも思えた。当のミシュナは、静かに汚物を見るような目で動かなくなった男を見下ろしている。その両手を握り締めて、怒りのやり場がもうない事を悔やむようでもあった。
……そして、その唇が僅かに動いた。
「…………じゃない。」
『おーい!! こっちだ!!』
「……あちゃー、誰かがヤバイと思って人を呼んでくれたのか。」
そんなミシュナの言葉を遮る様に遠くから声が響いた。恐らくそれは自分達を気遣っての事だったのだろうが、今のこの現状をどう説明すればいいのか判断に苦しむ。警備班の腕章も見られてるだろうし、流石に逃げるわけにもいかないだろう。
「まあ、仕方ないか。」
ミシュナを止めなかった自分にも責任がある。それに、あの優しいミシュナに対し我を忘れる程に怒らせた向こう側が全面的に悪い。どんなに不利でも、司羽としてはそう証言するにやぶさかではない。
「だ、大丈夫ですか!? って……あれ?」
「あ、あははっ……すいません、態々来てもらったのに……。」
まあ何にせよ、ゆっくりと休憩を取ると言う訳にはいかなそうだ。司羽はそう考えながら、助けを呼んでくれた人と来てくれた人に対して、お礼を言いつつ現状を説明し始めた。それにしても、ミシュナがこんなに怒るのは司羽に取っても本当に意外だった。確かに常識に外れた奴らだったが……ミシュナが最後に呟いた言葉……『バケモノじゃない』、そう聞こえたのだが……。司羽はそこまで考えたものの、結局深く考える時間もなく、ただただ説明に追われる事になったのだった。
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「あのー……ミシュナ、さん?」
「…………。」
「おい、ミシュナ。黙っていたのでは分からないだろう。」
その後、男達が病院に運ばれ、司羽とミシュナは警備班担当のミリクとシノハに呼び出されていた。ある程度の顛末は司羽が説明し、相手の男達も命に別状はないと説明したのだが……当のミシュナは、一言も今回の件を喋ろうとはしかなった。
「ミシュ、別にお前を責めてる訳じゃない。あいつらに非があるのは明らかだし、正直俺は結構スカッとしてる。本音をいえば自分がやりたかったくらいだ。」
「………ちょっと司羽くん? そういう本音は二人っきりの時だけに言いましょうよ……私達今は指導員なんですからねー? 分かってますかー?」
「分かってますよ。ですが証言も意見も変えるつもりはありませんよ。どちらに非があるか、それが問題じゃないとしてもです。ああいうのは誰かが無理矢理にでも矯正しなければならない。放っておいても被害はいずれ出ます、ならあいつらが最後の被害者になればいい。」
「……お前は……意地っ張りだな。」
司羽の発言にシノハが呆れた顔で溜息を吐いた。一方のミリクはクスクスと笑いを堪えきれていない様子だが。
「まあ今回は相手も学院生ですしねー、仕事をサボって中傷紛いのナンパしてた罰って事で締める事も出来ますが……そうするにしても、せめて攻撃した理由くらい教えてくれないと困るんですよー。」
「何も大真面目な理由が必要な訳じゃない、鬱憤を晴らす為とか、なんとなくムカついたって理由でもなければ何でもいい。相手の影響が強かったという事さえ分かれば、後は『業務上の制裁行為』でかたを着けてやる。」
「セクハラ紛いの事も言われたんですよね? 相手が挑発気味だったって目撃者の証言もありますし、ついカッとなってやった、今は後悔している。とかでも全然構いませんよ?」
「だ、そうだ。ミシュ、なんか言ってやれ。」
「………嫌よ、あんな奴らの事思い出したくもない。」
「ミ、ミシュナさん……。」
シノハが司羽の事を意地っ張りだと言ったが、ミシュナ程ではないだろうと司羽は感じていた。そしてそれは司羽だけではないだろう、ミリクもシノハも、穏やかで優しいミシュナの気質を知っているだけに大分戸惑っている様子だ。無理もない、半年間以上も同じ家に住んでいる司羽ですら驚いているのだ。
確かにミシュナは授業をサボる事も多かったし決して真面目な生徒ではなかったかも知れないが、最近ではそんな事も無くなっていたのだ。
「……だが、それでは私達はお前に何らかの処罰を下さねばならないんだ。」
「そうですよー? 学院側も体裁と言うものがあります。相手の親御さん達もちゃんとした理由もなしに、どちらかだけ処罰するなんて認められないでしょうし。今回の相手への攻撃を『業務上の制裁』にしない場合、学院側だけで責任を取れなくなる可能性が高いです。外部の司法機関に厄介になると、結構融通効きませんよ? 一応周りからの証言が有利なものばかりですし、精神的暴力による判断能力の低下とかを理由にすれば無罪になるでしょうけど、やっぱり発言の内容について聞かれますし……。最悪、『ナンパがしつこかったからぶっ飛ばしちゃいました、てへぺろ』でも許されるとは思いますが。」
「ふむ……え? そんな理由で無罪になるの?」
「なりますよ? 可憐な乙女はしつこいナンパに対して自己防衛をすることが許されると言うのがこの国の名物法なんです。ちなみに私も2回くらいお世話になってます。大体が裁判にもなりませんが、たまに他国から来た人が勘違い起訴をしてくるんですよねー。」
「えー……。」
まあ、そんな法律があるならルーン達も安全だろうから何も言わないけど。凄い国だな、ここ。
「でも、相手ともまた会うことになっちゃいますし……ミシュナさん、何でもいいから理由を言ってくれませんか?」
「……何でもいいなら、都合のいい理由を作ってくれますか? 私はそれでいいです。もう一瞬でも早く忘れたいの。」
「………そ、そう言われましても。」
もうどれだけ繰り返したか分からない堂々巡りを続けながら、ミリクとシノハ、そして司羽は顔を見合わせて溜息を吐いた。手強いとかそういう次元じゃない、これはもう、恐らく聞き出そうとしても無駄だろう。何故こんなにミシュナが意固地になるのか、その理由が分からない限りは……。
「………まあ、本当の理由はなんとなく想像が付きますけどね。」
「なっ………!!」
「え、分かるんですか?」
「ええ、まあ。でも大体ってだけなので、中途半端で余計な事は言いたくありません。」
「……ああ、そうですか。」
でも、それじゃあどうにも議論が纏まらない。……もういっその事、自分がやった事にして何か適当な理由を考えようかなーと司羽が考え始めた時の事だった。
コンコンッ
「あ、はいはい少しお待ちくださーい。…………え、手紙? 誰から………理事長!? ミシュナさんにですか!?」
「………理事長……?」
「………まさか……。」
そういえば、この学院の理事長にはあった事がない。マスターの知り合いか何かっぽいのだが、マスターに挨拶したいと言っても、あいつにそんな必要はないとか、いずれ会えるとか言われてしまって未だに顔を見れていないのだ。でも、その理事長がミシュナに手紙……? まさか、今回の件で処罰か何か決めたのか?
「あー……えっと、ミシュナさん、お手紙が。」
「はぁっ………ありがとうございます。」
「おいミシュ、理事長って……。」
「大丈夫、司羽の心配してるような事じゃないと思うから。」
ミシュナはそう言って、ピンクの可愛らしい封筒から手紙を取り出した。……なんていうか、ラブレターでも入っているのかってくらいラブリーな封筒だ。確か理事長は女性だと聞いているのでラブレターの線はないと思うのだが……。
「えーっと……。」
「どれどれ……。」
「っ、司羽は見ちゃダメ!!」
「そうですよー、女の子の秘密を覗くなんていけません!!」
「うむ。機密の文書だったら大変だからな。」
「……シノハちゃん、そうじゃないでしょう?」
シノハが真面目な顔で、うんうんと頷くのを見てミリクは深く溜息を吐いた。その一方で、司羽は手紙を広げるミシュナを見て葛藤していた。やっぱり気になる……いや、ダメだ、親しき仲にも礼儀ありだと言うし……。司羽がそんな事を考えながら葛藤を繰り返していると、手紙に視線を落としたミシュナの顔が真っ赤になって、グシャリと手紙を握り潰した。
「っ……み、てっ……!!」
「どうした、ミシュ!! なんか……顔が赤くないか?」
「えっ!? そ、そんな事はないわ!!」
「いや、そんな事あるだろ。……何が書いてあったんだ?」
「………今回の件、もういいそうよ。」
「はい? それって……大した理由もなしにお咎めなしになった、ってことか?」
(コクン)
司羽の言葉にミシュナは素直に頷いた。……しかし、解決したと言うのにこのミシュナの表情はどういう事だろう。手紙を握り潰しながら、苦虫を噛み潰したような表情で真っ赤になってプルプル震えている。
「……どういう事だ? 理事長が直々に手を回してくれるって事なのか?」
「え、ええ……多分ね。そういう事なので、ミリク先生、シノハ先生、お騒がせしました……。」
「あ、は、はい……そういう事でしたら……。」
「……腑に落ちないが、問題はないな。」
「……それでは、私は『大切な』用事が出来てしまったのでこれで失礼します。司羽、悪いんだけど今日は少しだけいつもより遅くなるわ。」
「あ、ああ、分かった。」
「それでは、ご迷惑をお掛け致しました……このっ!!」
バタンッ!!
ミシュナは真っ赤な顔のまま席を立ち、グシャグシャに丸めた手紙をゴミ箱に勢いよく投げ込むと、そのまま生徒指導室を出て行った。そして、後には茫然とそれを見送った三人が残った。
「………と、取り敢えず、なんか良く分かりませんけど……俺もちょっと用事があるんで。」
「え? あ、ああ、明日も警備班の仕事はいつも通り頼む。お前ら二人に抜けられると厳しいしな。」
「……分かりました、ミシュにもそう伝えておきます。」
……どうやら、最初から今回の事は不問にしてくれるつもりだったらしい。一日でも休みが出れば、ミシュナはそれを自分のせいだと気にしてしまうだろうし、こういう気遣いは本当にありがたい。……あんな奴らのせいでミシュナが気負う様な事は……許す訳にはいかない。
「それでは。」
「あ、司羽くん。」
「なんです?」
「彼等の病院は市立病院ではなく、学院病院です。」
「……………。」
そんな、聞いてもいない事をさらっと言ってくる。ミリクと言う教師がそういう人間だと言う事は、司羽も充分理解していた。
そして、ミリクの言葉を最後に、司羽はシノハにも一礼して指導室から立ち去った。扉が閉まる音が指導室に響くと同時、ミリクが疲れたように大きく息を吐く。シノハは、そんなミリクを胡乱げな瞳で見つめていた。
「なんだ、今のは。」
「んー? ふふっ、シノハちゃんはー、知らなくていいことよ?」
「……ミリクは最近本当に司羽のやつと仲がいいな。まあ確かに、今日言い合った相手の見舞いに行くくらいだし、悪い奴ではないのは私も知っているが。」
「ふふっ、お見舞いですか。ええ、良い子だと思いますよ。ルーンさんやミシュナさん達の事を、本当に大切にしていますし。」
「ああ、そうだな。」
シノハは、そんなミリクの反応に満足した様に微笑んだ。真面目だし、恋人も友人も大切にしている男だと言うのは自分の抱いていた評価と一致する。女性関係はしっかりした方がいいと思っているが。
「……でも、シノハちゃんはあんまり関わって欲しくないかも知れません。」
「むっ、何故だ。」
「んー……私にとってシノハちゃんが、司羽君に取ってのルーンさん達だからですかねー。」
「……良く分からない例えだな。達ってなんだ達って、誰かに絞れ。」
「分かりやすく言えば、星読み祭の四日目は絶対に予定を空けておかないと私が暴れるって事です。」
「………良い加減に彼氏くらい作れ。一生独身貫くつもりか?」
「ふふっ、私にはシノハちゃんがいるから良いんです!!」
そう言って唐突に抱きついてくるミリクを、シノハはいつもの調子で抱きとめる。こういうスキンシップは日常茶飯事だ、昔からずっと変わらない。
「あ、そういえば………あったあった。」
「………おい、司羽には見るなと言っておいて……。」
「私達は乙女だから良いんです。乙女の秘密は乙女皆の秘密でーす。」
「…………ったく。」
恥ずかしげもなくゴミ漁りをやってのけたミリクに、シノハは呆れたと言わんばかりに溜息をついて抗議した。……とはいえ、実は理事長の事は自分もあまり知らないのだ。その手紙とあっては正直凄く気になる。一体どんな機密が書かれているのか。
「えーっと……なになに。」
『ミウちゃんへ。
今回の件はもう片付いたから気にしないで良いわよ? でも良く我慢したわね、殺さないなんて偉いぞ!!
PS.ミウちゃんぐっじょぶ!! ブチ切れミウちゃんも可愛い!! そんな可愛いミウちゃんをビデオに撮ったのでデートの記念にどう? 初日分から全部あるわよ?』
「………ミシュナさんって……一体何者?」
「……なんか、見てはいけない物を見てしまった罪悪感が……。」
そのなんとも軽すぎる手紙を見て、二人はそれぞれの反応を見せながらも、超絶プライベートな手紙を見てしまった罪悪感に見舞われるのだった。
そしてその後、学院の粉砕室でメソメソ泣く女と、鬼の形相で大量の何かを破壊するミシュナの姿が確認されたらしいが……それはまた、別のお話。