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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第三章~エーラの気術士~
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第48話:悩みと迷走

「………すみません教官。またお花、枯れちゃいました。」


「そうか。それじゃあ、訓練が終わるまでに次の腕輪を用意しておくよ。気にするのは分かるけど、今はそっちに集中しろ。」


「………はい、分かりました。」


 持久訓練に入る前の軽い個別の準備体操の最中、ナナは司羽に少し落ち込んだ様子でそう報告した。今回ナナが世話した花の腕輪は今までよりも明らかに寿命が延びていて、ナナも、もしかしたらと思っていたのだが………、やはりそう甘くはないらしい。


「はぁっ………。」


「…………。」


「………うーん、ナナちゃん何だか落ち込んじゃってますね。こればかりは直ぐに結果が出ると言う物ではないのでしょうけど。」


「そうだな。」


 溜息までついてしまっているナナに心配する様な視線を送りながら、ユーリアは司羽の表情をチラッと見た。取り合えず司羽の表情からは、ナナを心配している様な様子は読み取れない。恐らく今日する予定の訓練内容を頭の中で反芻でもしているのだろう。そんな司羽の袖を、トワが引いて言った。


「主よ、ナナにさせていると言う訓練。あれは一体、どういう意図なのじゃ? 気を感じる訓練だと言う話じゃが……。」


「んー、秘密だ。もしナナの耳に入ったら意味がなくなるしな。」


「むむっ、信用ないですねー。誰にも言ったりしませんよ、秘密は守ります。」


 ユーリアは司羽の言葉の意味を理解すると、少し面白くなさそうな表情になってそう言った。司羽から見て自分はそんなに口が軽そうに見えるのだろうか? だとしたらその印象を払拭しなくてはならない。


「そうじゃないけど、ユーリアもトワも、ネネ辺りに泣き付かれたら教えちまうだろう? 二人共押しに弱そうだからな。そしてネネはナナに甘い。」


「うっ……、でもやっぱりそれって信用ないって事じゃあ……。」


「むぅ、それはないと断言出来ぬのが痛い所じゃな。主の決めた事ならば仕方ないのじゃ。」


「二人共悪いな。見てるのも歯痒いだろうが、これもナナの為と思ってくれ。」


「そりゃあまぁ、司羽様がそう仰られるなら従いますけれど……。」


 何だか納得がいかない様な表情のユーリアと、素直に納得してくれた様子のトワの対比を横目に見つつ、司羽はそっと苦笑して、手元にある枯れた花の腕輪に視線を移した。想像以上に花の腕輪を交換するスパンが長くなって来ている。それだけ本気で取り組んでいると言う事だろう、かなり良い傾向だ。もっとも、その結果が実を結ぶのがいつかまでは分からない、こればかりはナナ次第だ。


「……さて、じゃあそろそろ始めますか。ふふっ、一日多く休んじまったからな、少しくらい厳しくしても問題ないよな。」









ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー










「…………うっ……う………。」


「………ユーリアちゃん……水……かけて……。」


「あ、はい!! 今参ります!!」


「いやぁ、今日は良い感じに力を出し切れてるじゃないか、優秀優秀。」


「…………くっ、鬼め………。」


 いつもより三割増し長めの持久走を終え、疲労困憊気味の面々の前で満足そうに頷いた司羽に、ルークは口の中で毒吐いた。今回は終了五分前と言うコールをしたにも関わらず、実際に終わるのはその三十分後という司羽の突発的な思い付きから、全員ぐったりと地に伏している。結果、今回最後まで走り切れたのはアレンとジナスのみで、他は全員リタイアしてしまった事になる。


「うーん。アレンとジナスさんには、もっと体力ギリギリまで走ってもらいたいんだけどな。」


「………ば……かを……言え…………。」


「…………望む………所だ………。」


「ふむ、これはまた対照的じゃの。」


 どうやら前よりは大分自分に掛けたリミッターを外せるようになってきている様だが、なまじ体力がある分、力を使い切らせることは難しいようだ。……さて、そろそろ倒れているメンバーも少しは動けるようになっただろう。


「じゃあ、今回は直ぐに次の訓練に移るぞ。」


「………も、もう……ですか……?」


「ああ、苦しいだろうが頑張ってくれ。」


「………また、さらっと………言いやがるぜ。」


 司羽の言葉にマルサも表情を引き攣らせているが、反抗する気はないようで、気合いを入れて体を起こした。それを見た他の面々もそれぞれに身を起こし始める。いままでの訓練のかいもあった様で、疲労困憊の状態に体が慣れてきているようだ。そんな中、頭から被った水をぬぐいながらリアが司羽の前に立った。


「ふぅ……それで……次は? また司羽さん相手に模擬戦を……?」


「いいや、今回は魔法と武術の訓練だ。持久力の訓練ばかりで待ちかねたやつもいるんじゃないか?」


「……え? ……と、と言う事は、持久走は……。」


「勿論これからも続けるから安心していいぞ、メール。」


「うう………やっぱり………もうハリセンはやだよぅ……あれ結構痛いんだよぅ……その上言葉責めしてくるから心も痛いよぅ………。」


 当然の様にそういった司羽の言葉に、メールはそう言ってがっくりと項垂れた。リタイアした順番的に早い方だったのもあり、どうやらメールも無駄口を叩ける程度には体力が回復している様子だ。そんな中、トワが不思議そうな顔で司羽に尋ねた。


「主よ、武術の訓練はともかくとして、魔法の訓練は何をするのじゃ? 主は魔法が使えなかった筈じゃなかったかの?」


「ああ、それについては心配いらない。別に魔法の技術的な部分を教えるわけじゃないからな。そんなもの個人でやってもらった方が捗るだろう。」


「ふむ、確かに。では、今回の訓練の狙いはなんじゃ?」


「まぁ、簡単に言えば集中力の強化だ。持久走と大元の理念は変わらないさ。……実は、俺も魔法の事は良く分からなかったからルーンに色々聞いてきたんだ。魔法に必要なのは、魔力の質と量、そして集中力だ。」


 魔法と言うこの世界独特の技術、こればかりはこの世界の住人ではない自分には分からない部分だ。とは言っても、この部分を強化しないわけにもいかない為、ルーンから色々と魔法についての原理を聞いてきた。基礎中の基礎である為、授業でも取り扱ってくれないし、個人的にも有益な情報だったと思う。


「質に関しては魔力を精錬する事が必要だ。方法はお前らも知ってるだろうが、断食なんかがいい例だな。とにかく、自分が魔法を使う為だけの存在になりきる事、それによってその者の魔力はより精錬され、複雑な魔法に対応できる。そして魔力の量はそのままの意味だ、扱える量が多ければ多いほど大きな魔法が使える事になる。」


「魔法の鉄則ですね。難しい魔法になればなるほど質が求められ、大規模な魔法になればなるほど量が必要になってきます。そして魔法のコントロールの為には集中力が不可欠です。」


 司羽の言葉に補足を加えるように言ったユーリアに、司羽も頷いた。星間魔法の事を調べている時にも魔力の精錬と魔力量の重要性は良く眼についた。それ程に基礎的で、大事な事なのだろう。


「だが前者二つは先天的な個人差が大きいから、いきなり魔力の量を増やせと言っても不可能だし、魔力を精錬させろと言っても、断食で体力を落とすなんて戦闘では墓穴を掘る様なものだ。」


「だから、集中力の強化ですか?」


「そうだ。魔法の発動速度を上げ、魔法を高いレベルで発動させる。単純な光弾だって、集中力さえあれば自在にコントロールする事だって出来るんだ、立派な武器になる。難しい魔法を使わずとも、単純な魔法を一撃当てれば致命傷になりかねない戦闘時なら、そっちの方が有効だろう。少しばかり魔力を精錬させ、総量を増やすよりもな。……ユーリア、それを取ってくれ。」


 ルーンが使ってきたあの円柱の光弾もそうだ。複数を同時にコントロールして相手に同時攻撃を仕掛ければ、それだけでやっかいな武器になりえる。武器に複雑さはいらない。必要なのは扱いやすさと最低限の威力、そして汎用性だ。司羽はそこまで言って、ユーリアからあるものを受け取った。


「それで肝心の訓練内容だが………これだ。」


「それは………蝋燭か?」


「そう、蝋燭だ。ただのな。」


 司羽が手に取って見せた物に、身を起こしたアレンが目を向ける。司羽が持っているのは蝋燭、先日リアの屋敷に沢山あったので、訓練に丁度良いと確保していた物だ。


「これに火をつける補習を学園でも偶にやらされるよ、初歩中の初歩なんだってな。無論、俺は一度も出来た試しがないんだが。」


「………まさか、それをやるんですか? いくらなんでもそれくらい私達皆出来ますよ?」


「そうなのか? じゃあやって見てくれ。」


「え? い、良いですけど……。」


 そう言われたファムは司羽に蝋燭が立った皿を渡され、魔法で火を付けた。しかし火が付いた次の瞬間、直ぐにその火は消えてしまう。


「あれ? 付いたと思ったんですが。」


「ああ、それはちょっと別の魔法を掛けてもらっててな、魔法が切れると勝手に消えるんだ。魔法をかけ続ければ大丈夫だから、取り敢えず俺が良いというまで火を付けててくれ。それと、手を放しても大丈夫だと思ったら俺にその蝋燭を渡してくれ。」


「は、はい、分かりました。」


 司羽がそう言うと、ファムは再び継続して蝋燭に魔法を掛け、火を灯す。全員がその様子に注目している中、司羽はファムから蝋燭を受け取ると、そのまま地面に置いた。


「まだ余裕そうだな? それじゃあ後ろを向いて、蝋燭から目を離してくれ。」


「こうですか? このくらいでしたら、まだ離れても大丈夫ですけれど。」


「取り敢えず、そのままでいてくれ。………所でファム。お前さっきハリセンで叩いた時に変な声上げてたが、そういう趣味なのか?」


「なっ!? ち、違います!!」


「あ、火が消えたのじゃ。」


 司羽の言葉にファムが真っ赤になって振り向くと、地面で燃えていた蝋燭からフッと火が消えた。その一連の流れで、皆もこの訓練の内容が掴めたらしい。ファムは相変わらず顔を赤くして司羽を恨めし気に睨んでいたが。いやはや、視線が痛い。


「まぁ、そういう事だ。皆には蝋燭に火を灯しながら訓練に当たってもらう。その内容は……これだ。」


「これは………水鉄砲ですか?」


「そうだ、魔力を込めると結構な勢いで色の付いた水が出てくる魔法具らしい。商店街で売ってて面白そうだから買ってみたんだけど、役に立ちそうだから持ってきた。」


「騎士の皆様はともかく、女の子に水を掛けさせあって喜ぶなんて………司羽様、変態っぽいですよ?」


「別に喜んでないし、仕方ないだろう。リアや他の仲間に攻撃魔法使えないって言うんだから。俺だって精一杯考えた末の案なんだ。」


「それはまぁ、確かにこれなら安全ですけど。」


 水鉄砲を各自に配った司羽は、ユーリアから変態宣告をされて嫌そうな顔でそう弁明した。人数分の水鉄砲を一か所でまとめ買いしたせいで、店主には何かのイベントでもやるのかと聞かれ、ミシュナにも見つかって、こんなに沢山何に使うのかと訝しまれたりもした。勿論両方とも曖昧に誤魔化したのだが、ミシュナのその時の目が変態を見る目だったのだけは納得がいかない。一体何に使うと思われていたんだろう。


「とにかく、形式はバトルロイヤル、自分の蝋燭の火が消えるか、水鉄砲の水が当たったら失格だ。遠くに逃げれば逃げるほど、蝋燭に火を灯し続けるのが難しくなるって事だな。」


「………そう聞くと、なんだか難しそうだね。火に対して集中力を持続させつつ、水鉄砲を避けたり当てたりしなきゃいけないんだ。」


「そういう事だ。だが、これだと直ぐに終わっちまうからな。制限時間内の撃墜数と失格数の差で順位を決める。つまりは失格者も復帰可能だ。………勿論、失格毎にペナルティはあるけどな、ふふっ。」


 そう言って、司羽がチラリと鞭の方を見ると、その場に居た全員が表情を青くした。それだけでペナルティの内容が理解出来たらしい。皆がやる気を出してくれたようで何よりだ。やはり訓練と言うのは罰があった方がやる気が向上して良い。


「まぁ、あまりこうして居て体力を回復されても困るからな、疲労が溜まっている内に直ぐに始めるぞ。時間は十分後から一時間だ。蝋燭に火を付けたら全員早々に配置に付けよー。」


 司羽がそういうと同時に、ユーリアとトワから全員に蝋燭が配られ、火が灯された。そして、鞭とハリセンの風切り音が飛び交う銃撃戦が開始されたのだった。









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「うぅ………ぐすっ。お尻痛いよぅ……あのドS教官めぇ………。」


「……あの鞭捌き……何だか日に日に鋭くなってきている気がするんだが………それに、痛みも一瞬の大きさはあるが、直ぐに収まるようになってきたし……あれは熟練者だな。」


「………わ、私、なんか変な衝動に目覚めちゃいそうです……。」


「あはは……、えっと、皆さんもお疲れ様です………。」


 訓練終了後、疲労感と、何か別の物に打ちのめされた集団が出来上がった。リンに関しては何だか色々と危なそうな言葉を漏らしている有様である。既に解散は言い渡されたのだが、全員その場に残って反省会モードに入っていた。


「しかし、魔法に関してはフィリア様やネネさんには敵わねーな。アレン隊長やジナスさんですら蝋燭の火を持続させられない所まで逃げてたし。」


「それはまあ………アレンもジナスさんも持久走でかなり体力を失っていましたし、周りを警戒しつつ遠距離に魔法を使うのは辛いでしょうからね、仕方がありません。」


 マルサの発言にフィリアが苦笑気味にそう答えると、ジナスが首を横に振って否定した。


「いやいや、フィリア様方も条件は変わりません、私の完敗です。……しかし司羽の奴、分かっていたとは言えフィリア様にも容赦がないとは……。」


「そ、それはまぁ、司羽さんなりの教育観念があるのですから………確かに恥ずかしかったですけれど。」


「………ふふっ、フィリア様もきっとその内癖に……。」


「……こ、こら、リン、やめなさい………。」


 顔を赤くしていたリアの耳元でリンがクスリと微笑みながらそう呟いた。リンのそんな様子に姉妹であるユリも無言だが若干引き気味である。リンは最近訓練を楽しみにし始めている節まである為、これは本格的に司羽側に染まって来たのかも知れないと、妹としての悩みは尽きない。そんな中、ユリはソワソワと辺りを見回していたネネに気が付いた。


「ネネさん、どうかしました?」


「えっ? あー、うん。気が付いたらアレンがいないのよ……司羽さんとナナは何となく分かるけど……どこに行ったのかしら。」


「先に帰ったのではないのかの? もう主は解散と言ったのじゃ。」


「うーん……フィリア様や私達を置いて行くとは考え難いけど……まぁ、いいわ。」


 ネネはそう言って溜息をついた。まぁ良いと言いつつまだ気にしている辺り、アレンの事だから大丈夫だろうと思いつつ、ちょっと心配なのだろう。そんなネネに気付いたアリサが、ネネにそっと耳打ちをした。


「そういえば先程、アレンさんが教官とナナちゃんの後をついて行った様に思いますよ。あの二人と一緒なのでは……。」


「………ちょっと、それって………。」


「ふむ、バレた……かも知れんのじゃ。」


「………あーもう、本当に訓練馬鹿なんだから………。」


 ネネは、アリサとトワの言葉に溜息をつきながらうなだれると、一言だけ、悪態をついたのだった。










−−−−−−

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「いや、だからさ、本当にこれだけなんだよ。」


「そ、そうですアレンさん。それにこれは、まだ訓練の前段階の話の様ですし……。」


「…………嘘は言っていない様だな。」


「いや、嘘ついたって仕方ないだろ。」


 訓練の後、いつもの様に司羽とナナが腕輪にする花を取りに行く途中で、アレンがついて来ている事に気付いた。司羽が何か用かと聞いた所、どうやらナナが特別にしている訓練を嗅ぎ付けた様で………。


「前段階でも何でも良い、俺にもやらせろ。これは気とかいうやつの訓練なんだろ。」


「いや、やらせろって言われてもな……確かに気の訓練だが、確実にアレンには合わないぞ。」


「そんなもの、やってみないと分からないだろう。」


「……アレンさん………。」


 やけに饒舌になって食い下がるアレンに、ナナは困った様な、ばつの悪い様な表情になる。ネネもアレンの事は心配していた様だし、ナナも気をつけていたのだが、やはり訓練の事は隠し通せなかった。


「アレン、お前には魔法と剣があるだろう。何故それを伸ばそうとしないんだ。」


「………その魔法と剣で、お前に負けたからだ。」


「………はぁっ、まあそんな事だろうと思ったけどな。」


 苦々しい表情を隠そうともせずに言ったアレンに対し、司羽は考えるように片目を閉じ、そんな様子をナナは居心地悪そうにしながら見て、耐え切れ無くなって口を開いた。


「で、でも、アレンさん、剣の訓練頑張ってたじゃないですか!! 司羽教官と最初に会った日から訓練の時間も増やしてるってお姉ちゃんも心配していましたし……。」


「………ナナは黙っていろ。」


「うっ……。」


 何とか場をもたせようとしたナナだったが、アレンには逆効果だった様だ。アレンに淡々とした声で制され、ナナは何も言えなくなってしまった。そんな様子に司羽はまた大きく溜息をついて、アレンを睨んだ。


「アレン、お前にははっきり言った方が良いだろうから言うがな………そんなんじゃ、フィリアやネネに護られるぞ。」


「何……?」


「二人だけじゃない、後輩の騎士や侍女連中にもな。………少し、頭を冷やせ。俺はお前の事なんか大して知らないけどな、お前を一番近くで見てる奴が、無理し過ぎだと言ってるんだとよ。もっと心に余裕を持て。お前がそんな状態じゃ、周りの奴らはどうなるんだ。お前は周りから一番頼られる人間だ。そういう奴は、一番余裕の表情をしてなきゃいけないんだよ。」


「…………。」


 司羽はそれだけ言うと、無言のアレンをおいて歩き出した。ナナも司羽とアレンを交互に見た後、躊躇いながらもそれに続く。……暫くして、司羽が立ち止まって手近な野花を摘むと、ナナの腕に掛けた。


「………司羽教官。アレンさんは……大丈夫でしょうか。」


「どうかな。」


「ど、どうかなって……私、心配です。お姉ちゃんもきっと……。」


 ナナは、そう言って俯いた。ネネは本当にアレンの事を良く見ている。アレンの前では表情に出さないけれど、最近は心配そうにアレンの事を見つめていたり、上の空な事も多いのだ。いつもネネと一緒にいるナナだから分かる。本人も気付いていないのかも知れないが……。


「……なら、大丈夫じゃないのか。」


「へっ?」


 考え込んでいる最中の司羽の言葉に、ナナは間の抜けた声を上げてしまった。そんなナナに、司羽は苦笑しながら言う。


「ナナの姉さんがいるなら、大丈夫だろうよ。道を外れそうになっても、正しい道に引き戻してくれるだろうからな。」


「…………教官がそういう事を言うの、なんか……意外です。」


「悪かったな、似合わなくて。」


「…………ふふっ、いえ。」


 司羽はナナの腕に花の腕輪をつけ終えると、皆の方へと足を向けて歩き出した。ナナはその後ろについて歩きながら、時たま思い出した様にくすりと微笑むのだった。




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