第47話:無償の信頼
「ふぅっ、これでお終いっと。」
休日の昼下がり、今日の空は眩しいくらいの快晴だった。そんな気持ちの良い日差しの中、ミシュナは風に靡く洗濯物を見回して、満足気に頷いた。今日は洋服だけではなく、毛布やマットの類もまとめて洗ってしまったので中々の壮観だ。
「んーっ!! やっぱり労働後の充足感って良いものだわ。ねっ、侍従さん。」
「そうですねー、やっぱり気持ちの良いものです。でもありがとうございます、本当なら私の仕事でしたのに。お陰様で午前中に仕事が終わってしまいました。」
「いいのよ、別に。私もこういう家事って嫌いじゃないもの。休みの日に部屋で本を読んでるだけっていうのもどうかと思うし、良い気分転換よ。それ程重労働でもないしね。」
ミシュナに向けて頭を下げて礼を言ったユーリアに対し、ミシュナはそう言ってクスリと微笑み返した。事実まとまった洗濯と言ってもそれほど疲れる物ではない。そこら中の部屋から洗濯物を掻き集めた後は、洗浄に関してはユーリアの魔法で速攻で終わってしまったし、除菌兼脱水の為に干しているのだって、二人でやれば一人当たりそれ程の量にはならない。
「ミシュナ、ユーリア、こっちも終わったのじゃ。」
「あらトワ、早かったじゃない、お疲れ様。」
「トワさんもありがとうございます、本当に助かりました!!」
「ふふん、礼など良いのじゃ。これしきの事、主の手を煩わせるまでもないしの。」
そう言って家の中から出て来たトワも、一仕事終えてきたばかりだ。ちなみにトワには屋敷の風呂掃除を任せていた。実はこの家の風呂は結構な大きさがある為、トワ一人で大丈夫かとミシュナは密かに心配していたりしたのだが、しっかりと仕事を終えて戻ってきた様だ。
「ふふっ、トワは偉いわね。まったく司羽ったら、最近は侍従さんに頼りっきりじゃない。トワの方が余程仕事が出来てるわ。」
「あはは……司羽様の場合、ルーン様が何もさせないのが原因の様な気がしますが。あれで居て、結構家事の様な細々とした事をするのもお好きなようですし。……それに、司羽様は実質この屋敷の主も同じですから、寧ろあまり家事をされても私の立つ瀬がありませんし。」
「……あー、そういえば侍従さんは司羽の侍従さんだったわね、忘れてたわ。」
「わ、忘れてたって……。」
思い出した様にそう呟いたミシュナを見て、ユーリアは苦笑とも取れる様な笑みを浮かべた。まぁ確かに自分と司羽はあまり主従っぽくないかもしれない。付き従う事は多いが、司羽の意向で常に隣に立つ様に言われているし、あまり頭ごなしに命令されたりもしないのだから。
「でも、あの子も随分変わったものよね。」
「あの子……? 誰の事じゃ?」
「主席ちゃんよ、主席ちゃん。少なくともこの前までは司羽に我儘を言うような子じゃなかったじゃない。」
「んー、そうなんですか? 私は昔のルーン様を知りませんから何とも言えませんが……でも我儘と言っても司羽様と一緒に居たいだけじゃないですか。とても可愛らしいと思います。」
「ふふっ、そうね……。」
ユーリアのその言葉に、何か含むところのある様な、そんな笑みでミシュナは応えた。そして、軽く溜息を吐くと、屋敷の中へと身を翻す。
「さってと、それじゃあ私達は昼食と一緒に美味しいケーキでも食べに行きましょうか。どーせあの二人は夜まで帰って来ないんだし。」
「あ、良いですねーそれ!!」
「うむ、早速支度をして行くのじゃ!!」
ミシュナの提案にトワとユーリアは飛びつくように反応すると、目を輝かせながらそう言った。前回の旅行の際に、二人の好きな物は既に分析済みである。ミシュナはそんな二人の様子に表情を緩めると、先に中へと戻っていった二人に続いて屋敷へと戻っていった。
「美味しい物食べて、すっきりしないとね。」
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー
「それでね司羽、ミシュナちゃんったら酷いんだよ? この前一緒に御飯を作ってる時だって、あんまり司羽を野放しにしてると他の女に寝取られちゃうぞーとか脅かしてくるの!!」
「おいおい、あいつはまたそんな事言ってるのか……。もしかして最近門限が厳しくなったのはそのせいなのか……?」
「え……? あ、あはは、やだなー司羽。私は司羽の事信じてるよ? 門限は、えーっと、その……ほら!! 司羽が夜遅くに変な人達に絡まれたりしないか心配で……。」
ルーンはそう言って若干表情を固くしながら視線を逸らした。ミシュナ達がイソイソと外出の準備を進めている調度その頃、ルーンと司羽は家から少し離れたデパートで腕を組みながらデートの真っ最中だった。本来今日はリア達の訓練の日なのだが、ルーンが昨日、そろそろ二人用のベッドを買うべきだと熱弁した為に急遽予定が変更された。どうやらルーンがミリク辺りに何か言われたのが原因らしいのだが、何にしろ司羽としてはルーンのお願いを拒否するつもりはない。ルーンが今日行きたいと言うならば今日行くのだ。さもなければルーンの寂しそうな視線の中、一晩を過ごす事になる。だが断じて、ルーンのオネダリを耐える自信がないからリア達への迷惑を承知の上、速攻で自分の予定を取り消したわけではなく、彼女であるルーンを優先するのはある意味男として当然の………。
「司羽? 何ぶつぶつ言ってるの?」
「ああ。男は時として自らを鼓舞し、男としての矜持を保たなくちゃいけないんだ。」
「ふーん……? 何だか男の人って大変なんだね?」
司羽の言葉を良く理解出来ずにルーンは首を傾げたが、取り合えずは納得した様だ。そんなルーンの様子に司羽は溜息を漏らす。どうも最近ルーンが甘え上手になって来ている気がするのだ。初めてのデート以来、ルーンから司羽に対し遠慮がなくなってきたのは良い事だと思う、以前の依存する様な態度よりも余程安心出来る。しかし………。
「………それに伴って、ルーンの頼みが断れなくなってる気がする………彼氏の威厳ゼロだな。」
「あ、ほら見て司羽。あのペアカップ可愛いよ!! ふふっ、やっぱりお揃いの小物って恋人っぽくて良いよね? 今度ユーリアさんに頼んでお揃いのお洋服とかも作って貰おっか?」
「お、お揃いの……か。それはまた………恥ずかしい事を。」
「……ダメ、かな? 私、司羽と一緒のお洋服を着てデートしたいなー………ねっ? お願い、司羽ぁ〜。」
ルーンはそう言うと、司羽の腕を離して、体に直接抱き着いた。そしてそのままスリスリと甘えるような上目遣いを武器に、司羽に対しておねだりに掛かる。歩きながらそんな事をすれば当然歩きにくい筈なのだが、ルーンは腕を組むよりこっちの方が好みらしく、家でもこんな感じで歩くので正直慣れてしまった。それと同時にミシュナからの冷たい視線にも慣れてしまったのは余り喜べない事だが。
「………ちなみにそれ、デートの間だけだよな? 学園に着て行くとか言い出さないよな?」
「…………あ、ほら司羽、赤ちゃんのお洋服が安売りだって。私達にもそろそろ出来るかも知れないから、見ていこっか?」
「話を逸らすな………学園にペアルックで行く気だったな? ………って、サラッと物凄い事言うなよ!? 個人で生計立ててるとは言え、俺達はまだ学生だぞ、学生!!」
「大丈夫だよ。その、ペア……ルック? で学園に通ってれば、私達の事にも皆慣れちゃって、司羽と私の子供が出来ても何か言ったりしなくなるから!!」
「いやいやいや、そう言う問題じゃないから!! 周りの目の問題以前に責任の問題だから!!」
何やら自信満々な顔で高らかにそう言い放ったルーンに、司羽は冷や汗を流しながら答えた。正直ペアルックも恥ずかしいが、子供だとかはそんなレベルの話じゃない。何だか周りに居る客も自分達に注目している様だ。まぁ、階のど真ん中でそんな話をしていれば嫌でも注目を集めてしまうのだが。
「責任の問題って……司羽、私の責任取るの……嫌、なの?」
「はい? ちょっと落ち着け、別にそんな事……。」
(ひそひそ)
「うわっ、あの子可愛そう……。あんな可愛らしい子を泣かせるなんて……。」
(ひそひそ)
「妊娠させた挙句に捨てるなんて……。最低ね、あの男。」
(ひそひそ)
「………………。」
何だろう、ルーンの視線と周りの声に心がズタズタに引き裂かれていく感じがする。痛い、痛いよ……。そんな司羽の心の内を知ってか知らずか、ルーンが止めの一撃を繰り出す。
「……司羽、お願い。一日だけでいいの………。」
「うぐっ………。」
「ねーねー、司羽ぁ……。」
「………仕方ない、一度だけだぞ。」
「本当っ!? ありがとう司羽、大好きっ!!」
ルーンと司羽の戦いの決着は、ルーンの必殺『擦り寄り上目使いダダ甘えビーム』(命名:司羽)の前に、司羽が溜息混じりに了承するという事で着いた。まぁ司羽は初めからこうなるだろうと予想していたのだが、少しは抵抗しておかないといけない気がしたのだ。あんまり甘やかしてしまうと、その内に大変な事になりそうな気がするし。司羽は上機嫌でベッタリとくっついてくるルーンに歩幅を合わせながら、そう一人で納得した。取り敢えず、ペアルックの服はユーリアになるべく地味な服にする様に言っておかないといけないだろう。と、そこで今日の目的でもある店について足を止めた。それと同時にルーンが瞳を輝かせる。
「あ、此処だよ此処、シノハ先生が言ってた寝具屋さん!! 枕からベッドまでなんでも揃えてるんだって!!」
「へー………って、えっ? シノハ先生……?」
「そうだよ? この寝具屋さんってシノハ先生の行きつけなんだって。特性の安眠枕がオススメらしいよ?」
「……いや、なんか色々と突っ込みどころが満載なんだが。」
シノハ先生って枕とかすっごい拘る人だったのか、なんか意外だ。いやまあ、どうでも良い情報って言えばそうなんだけど。でも何故ルーンがシノハ先生からこの場所を教えて貰うに至ったんだろう。
「実はね、私がベットの大きさの事でリアと話してたら、丁度シノハ先生が通りかかって。シノハ先生もミリク先生のせいで寝不足になったらしくて、睡眠の質を高めようとしてたら自然とこういう店に詳しくなってたんだって。」
「あ、ああ、成程。……それ以上は聞かないでおくよ。」
あの人も大変だな。最初に会った時は余程の変人だと思ったけど、ミリク先生の実情が酷すぎて憐みすら感じる様になったよ。って、それは流石に失礼かも知れないが。司羽が、シノハが安眠枕を吟味している風景を思い浮かべていると、ルーンが近くで仕事をしていた女性の店員を呼び止めた。
「あ、すいませーん!! ちょっとベッドの事でお聞きしたい事があるのですが。」
「はーい、只今参りま……す………え?」
「ぶっ!?」
「司羽、いきなり吹き出したりしてどうしたの? この店員さん知ってる人?」
「え? い、いや、そんな事ないぞ。そもそもこっちの方には滅多に来ないしな。」
「ふーん?」
自分が噴出してしまった事に対してルーンに突っ込まれ、咄嗟にポーカーフェイスで返したが、司羽は内心表情が引きつっていた。そしてそれはその女性店員も同じ様で、アチャーとでも言いたげな視線を司羽に向けていた。肩のあたりで揃えられた赤茶髪のセミロングは極最近に見覚えがあるもので、更に言ってしまえば自分が今訓練を付けている者の一人。そう、そこに居たのはリアの侍従の一人、メールだった。ルーンは腑に落ちない様な視線を司羽に一瞬送ったが、直ぐに疑うのを止めてメールの方へ視線を移した。
「まあいっか。すみません、ダブルベッドってありますか? 出来れば普通より大きいやつが欲しいんですけど。」
「だ、ダブルベッドですか。二人以上用のベッドでしたらカタログがありますのでそこから注文して頂く形になりまして。えっと、こちらがそのカタログになります………。」
「うわー、いっぱいある。流石シノハ先生が進めるお店って感じ。ねぇ、司羽はどんなのが良い?」
「そ、そうだな。やっぱりベッドの材質的には木が良いかな。」
「ふむふむ。えっと、木材で作ったのは……。」
カタログを熱心に見始めたルーンの疑問に答えながら、司羽はメールの方に視線を移す。そして、ルーンに聞こえないように、空笑いをしているメールに耳打ちをした。
「……おい、なんでこんな所でバイトしてるんだ。大丈夫なのか?」
「そんな事言っても仕方ないじゃないですか、私達にだって固定の収入が必要なんです。騎士の方々は森で魔法材の採取、アリサさん達も週に何度かパートに出てくれてます。だから私もそろそろ働いていてもおかしくない年齢ですし、協力しているんです。」
「な、なるほど……確かに、言われてみればそうだよな。」
リア達にだって金は必要だ。メイド達や騎士達がそういう事をしていてもなんら不思議じゃない。特に主であるリアがあの状態なのだから、なんらかの手段で稼ぎを出さなくてはならないだろう。司羽が妙に納得してしまっていると、今度はメールの方から司羽に耳打ちをしてくる。
「と、ところで司羽教官? この方が………。」
「え? ああ、ルーンだよ。リアやユーリアから話くらいは聞いてるか?」
「………話は、少し………ですが………。」
「……どうかしたか?」
メールは直ぐには応えず、楽しそうにカタログを見ているルーンに視線を移す。そして、溜息を吐いた。
「次元魔法学の天才と言う他に、とにかく凄い美少女だとは聞いてましたけど、予想の遥か上を行きますね。って言うか、足綺麗過ぎ、腰細過ぎ、肌白過ぎです。胸だって人並みには有りそうですし、容姿に至っては完璧過ぎますよ。美少女って呼ばれる人は何人か見てきましたが、世の中には居るんですね、格の違う美少女って。年下で可愛いではなく、純粋に綺麗だと思ったのはフィリア様を除いて初めてです。司羽教官が逆らえないのも分かる気がします。」
「……おいおい、別に俺は逆らえない訳じゃ……。」
「ふふっ、良いですって。美少女に弱いのは、男性なら仕方ないと思いますよ? こんなに美人な子は彼女にする所か出会える事すら珍しいんですから、大事にして当然です。成程ねぇ、今だユーリアちゃんに手を出してないのもそういう事か♪」
「はあ………メール、お前絶対に楽しんでるだろ。」
何やら一人で納得してニヤニヤと笑い始めたメールに、司羽は嫌そうな表情のまま溜息を吐く。その後、メールに何か言い返そうとした司羽だったが、自分の袖を引かれる感覚にそれを遮られた。どうやら、カタログを見る振りをして聞き耳を立てていたらしい。内容までは聞こえていないだろうが……。
「司羽……やっぱりその女の人と知り合いなの?」
「え? あー、いや、別にそういう訳じゃ……。」
「隠したって駄目だよ。私、司羽の事だったらなんでも分かるもん。」
ルーンはそう言うと、司羽の体にギュッっと抱き着いて、そのまま眼を閉じた。いきなりのルーンの行動に、司羽もメールもヘビに睨まれたカエルの様に硬直してしまう。だがルーンはそんな二人の様子も気にした様子はない。
「……うん、ドキドキしてるよ、司羽。私に何か隠し事しようとしてる。」
「い、いや、それはルーンに抱き着かれたから………。」
「嘘吐いてもダーメ、このドキドキはそういうんじゃないって分かるもん。それに司羽の体温上がってないし。私が抱き着いて司羽がドキドキする時は、ちょっとだけ体が温かくなるの。」
「た、体温って………。」
ルーンのピンポイントな嘘発見法で断言され、司羽は何とも言えない表情で乾いた笑みを零した。チラと隣を見ると、メールも同様に微妙な表情をしている。抱き合っている所を見ているからか、顔が若干赤くなっているが。そんな中、ルーンは眼を閉じたまま聞いた。
「司羽………言えない?」
「そうだな………今はちょっと言えないかな。」
「んー………うん、分かった。」
司羽に一言だけ聞いたルーンは、司羽が一言だけ答えると、納得した様に頷いた。そしてちょっと名残惜しそうに司羽の胸板の辺りに頬を擦ると、そのままカタログを見る作業に戻った。司羽はそんなルーンに苦笑の様な笑みを送っただけだったが、メールの方はその様子にポカンと口を開けている。そして、つい言葉が口を滑ってしまう。
「えっと………ルーン……さん? それだけで宜しいんですか?」
「え? 何が?」
「いや、あの、追及といいますか………。」
「うん、別に意味ないし。」
そう言ったルーンの表情には、何かを抑え込むような感じが全くしなかった。本心からそういったのだろうか、だが、実際内心穏やかではないのではないか、そう言った疑念がメールの中に生まれる。ルーンはフィリアの関係者からして見れば、フィリアの視点から見ても、司羽の弟子的な位置の人間から見てもVIPにも等しい存在だ。これからの事に支障が出てはならないと、メールは内心考えていた。司羽との本当の所を独断で話すわけにはいかないが、上手く欺けばと。しかし、その必要はないと言わんばかりにルーンはさっきと変わらない様子で微笑んでいた。
「言っておくけど、司羽が一番に愛してるのは私なの。司羽は最後には私を最優先して考えてくれる。だから司羽が話せないって言うなら私は聞くべきじゃない。今私が問い詰めたのだって、司羽に嘘を吐かれるのが嫌なだけ。司羽は正直に話せないって言ってくれたしね。そもそも私と司羽の間に入れる人なんていないよ。居るとしたら、隣に立つ事が出来るくらい。」
「は、はぁ………。」
もしかして自分は今、釘を刺されつつ惚気られたのだろうかとメールは思った。そしてなんとなく、司羽がルーンを凄く大事にしている理由が分かった気がした。こんな風に一途に想ってくれる存在なんて、一生の内、一体どれほどの人間が得る事が出来るだろうか。そんな事を思っていると、ルーンが付け加えるようにもう一言だけ言った。
「それにね、私と司羽は家族なの。家族が家族の事を信じてあげないで、一体誰が信じてあげるっていうの?」
「そ、それは………。」
「特に、私は司羽の奥さんになるんだから。夫である司羽の事を信じるのに理由なんていらないの。……あ、司羽、これ良い感じだと思わない? 色合いとか、今使ってるのに似てるし。」
ルーンはそう言うと、その話はもう終わりだと言う様に司羽に話を振った。メールはそのルーンの言葉に、フィリアが何故ルーンの事を大事にしているのかも理解出来た様な気がした。そう、この少女はフィリアが大事に思うに相応しい少女なのだ。自分達の主、その親友に相応しい。
「んー、いっその事ベッドに合わせて部屋のインテリアまで変えちまうか? ベッドってああいう部屋の中心みたいな印象あるし、変えるなら今かも。」
「それもいいなぁ……あ、こっちは5人用ベッドだって!! 一、二年後には二人くらい増えてるだろうし、やっぱりこれくらいで良いと思う!!」
「ふ、増えてるって……気が早すぎ以前に俺達まだ学生だって言っただろ?」
「司羽の方じゃ早いのかも知れないけど、学院生にも子持ちの子居るよ? 私と同じくらいの年の子でも既婚者とかいるし。………あ、そうだ、これから私に一回嘘ついたら、私も一回だけ危険日を安全日って嘘吐いても良い事にしない?」
「うぐっ………いや、その、嘘吐いたのは謝るから………ゆ、許してください。」
「うーん、いいアイデアだと思ったんだけどな。早く司羽の奥さんになりたいし。」
「………くすっ。」
楽しそうに笑いながらカタログを吟味するルーンと、そのルーンにたじろぎながらも笑っている司羽。その二人を見ながらメールは以前のユーリアの言葉を思い出した。ルーンの前では司羽は人が変わったように甘くなると言っていたが、確かに今なら納得出来る。そして、この司羽ならば自分は間違いなく信用出来る。メールはそう思う事が出来た。