第33話:彼と彼女の初デート(前編)
長くなりそうなので分けて投稿します。
尚、誤字に関する指摘を沢山頂いて要るので、ちょっとずつ見直してはいるのですが、時間がない為に修正に手間取ってしまっています。
前々から言われていた事なので早く直したいとは思っているのですが………皆様には御迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。
「ルーン様、搭乗ゲートはこちらでございます。」
「おいお前達!! 野次馬を近付けるな、邪魔だ!!」
「こちら5−1番航次元ゲート、5−2番航次元ゲート応答せよ。そろそろ、そちらに向かわれるぞ。」
『5−2番航次元ゲート了解。付近に危険無し。安全確保部隊はこれより15分間、第一種排除体制で待機する。』
「うわぁっ、何だこれ。何処かの国の王室でも来るのか?」
「取り敢えず、此処で働く人間にとってはそんな人達よりも重要人物である事は間違いないわね。」
休日になり、ルーンとのデート当日。どうやらミシュから宿泊券を貰ったホテルと言うのは目茶苦茶遠い場所にあるらしいので、司羽達は以前学園の課外学習でも利用した次元ゲートという装置を使う事にした。この装置はエーラでは飛行機に当たる様な存在らしく、司羽達はそれを利用できる『航次元空港』と言う施設に来て居るのだ。……それはともかく、先程から思いっ切りVIP待遇なのは、どうやらルーンに原因があるらしい。
「んー、結構前の話なんだけどね? 次元ゲート絡みの事故で大変になった事があって、助けてあげた事があるの。」
「あー……成る程な。」
「あの時は確か、次元ゲートが暴走して結構な人数が次元の狭間に取り残されたのよね。首席ちゃんが有名になるきっかけになった事件だわ。」
………まぁ、飛行機で言う制御システムの暴走って所かな。そういう事ならこの騒ぎも納得出来るか。この会社と人間を丸ごと助けた訳だし。これからも同じ様な事がないとも限らないしな。
「そっか、立派な事をしたんだな、偉い偉い。」
「えへへ〜♪ 司羽ぁー、もっと撫でて〜♪」
「………ちょっと、そういうのは私の居ない所でやってよ。周りからの視線が恥ずかし過ぎるわ。」
「え? ああ、悪い。つい手が動いちまって。」
「あら………、そう。」
あれ、何だかミシュの視線が凄い冷たくなった気がする。仕方がないだろ、俺だってデートなんてした事ないから浮かれちゃったりするんだよ。ルーンも当社比二倍くらいにベッタリしてくるし。うん、これは不可抗力なんだよ。
「司羽の今の顔、絶対に馬鹿な事考えてる顔ね。」
「………何を根拠にそんな事を。」
「その態度がそのまま根拠になるわよ、このバカップル。」
「ミシュナちゃん、司羽は馬鹿じゃないよ? 優しくて、格好良くて、頭も良くて、素敵だもん。」
「……はいはい、そうねー、あんたの旦那は素敵だわ。………はぁっ、見送りになんて来るんじゃなかった。」
ルーンが大真面目に発っした惚気を心底後悔している様な疲れた表情で受け止めたミシュナは、溜息混じりに一言そう呟くと、恨みが篭った視線で司羽を睨みつける。そして司羽は、若干の理不尽を感じながらその刺々しい視線を渇いた笑みで受け止めた。
「ふぅ、もう別に良いけどね………。さて、私は帰るわ。私達も今日は出掛けようと思ってるから。」
「………ああ分かった。二人の事、頼んだぞ。」
「ミシュナちゃん、見送りありがとね。それと、今回の事も。」
「………はいはい、分かったから楽しんで来なさい。さっきのを見る限りは、大丈夫そうだけどね。」
ミシュナは一言そういうと、身を翻して司羽達から離れて帰って行った。ミシュナが身を翻す寸前に、彼女の頬が仄かに赤くなっていたのを司羽は見逃さなかった。ミシュナにそれ言えば即座に否定されるだろうが。
取り敢えず、家の事はミシュナに任せておけば何も問題はないだろう。この後は、ルーンと今日のデートを楽しむ事だけを考えれば良い。
司羽がそう思いながらルーンに視線を向けると、ルーンもまた、司羽と同じ様に視線を向けて微笑んでいた。司羽はその視線から眼を逸らすことが出来ず、暫く二人で見つめ合った後、何だかいたたまれなくなって照れ隠し気味にルーンの手を取った。
「……デートは良くわからないけど……、手を繋いだりするらしいな。」
「…………うん。」
司羽がそういってルーンの手を握ると、ほんのりと顔を赤くしたルーンも、それに答えるように手を繋いだ。
「なんだか……、変な感じだね。凄く嬉しいのに、恥ずかしくなって来ちゃった。普通に手を繋いでるだけなのにね?」
「………そうだな。さっきの方が余程恥ずかしい事をしてた気がするんだけど……、不思議だな。」
ルーンの言葉にそう言って応えた司羽の照れ隠しとも取れる笑みを、ルーンはこそばゆい気持ちで見つめながら、繋いだ手に込める力を強くした。
「ルーン様、司羽様、ゲートの準備が完了しました。どうぞこちらへ。」
スチュワーデスの様な立場らしい女性が微笑みながら司羽とルーンに声を掛けると、ゲートの前に居たスタッフ達が道を作るように端に寄った。モーセ、と言うほど大層な物でもないが、かなりの人数が道を開くために動いたのだ。かなりの迫力がある。
「本当にVIP待遇なんだな。………それじゃあ、行こうか。」
「うん。今日は宜しくね、司羽。」
「こちらこそ宜しく、ルーン。」
二人は見つめ合ったまま微笑み合うと、手を繋いで、目的のゲートを潜った。
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「こちらのお部屋がルーン様、司羽様が御宿泊されますお部屋になります。お食事は無料の屋内レストランがございますが、もしお部屋でお召し上がりになる場合、都合の良い時間になりましたら内線をお使い頂きお知らせ頂けますと、私どもがお部屋の方にに準備を致します。お召し上がりの後の食器はコールをして頂ければ………。」
「……………。」
何と言ったら良いのか。次元ゲートを潜ってからと言う物、司羽はまるで異世界に迷い込んだ気分であった。いや、実際ここは異世界なのかも知れないが、そういう意味ではない。
先ず先程のゲートを出ると同時に案内役のスタッフに恭しく傅かれ、そのまま別の、このホテル直通のゲートに案内された。
ホテルに着いたら着いたで数十名程になるホテル従業員からの歓待を受け、朝食がまだだと言ったら部屋に案内される前にそのまま屋内レストランで朝食、軽めな朝食の筈なのにやたらと美味しかった気がする。と言うのも、柄にも無くホテルの雰囲気に呑まれてしまい、あまり覚えていないのだ。ホテルは想像通りかなり大きく、とにかく横に広く建てられている。外から見た感じ、縦の大きさもかなりの物だったのだが、よくこんなに広く建てたものである。雰囲気としては、ホテルと言うよりも西洋式の旅館と言ったところだろうか?
取り敢えずこのホテルの主観はそこまでにして、現在は自分達の部屋に案内して貰らい、ホテルの説明を受けて居るのだが………。
(こりゃあ、本当にVIPクラスだな。向こうに居た時だって、こんな待遇受けた事ないぞ。)
「………と、以上で当ホテルの御説明を終わらせて頂きます。私は内線の前で待機しておりますので、有事の際はそちらで御連絡下さい。最後になりますが、何か御質問等はございますでしょうか。」
「そうだな………ルーンは何か聞きたい事あるか?」
「え、私? う、うん、大丈夫………だと思う。」
案内役のボーイの説明が終わると、司羽はルーンに視線を振った。……どうやら、流石にルーンも緊張しているらしい。ルーン程の有名人ならば、こういうハードル高めの場所にも慣れているかと思っていたが、今まで研究漬けだったらしいルーンにはあまり縁のない場所だった様だ。
「それなら、この辺りに景色の良い遊歩道なんかはありませんか? これから出掛ける予定なので、出来れば地図なんかも貰えると嬉しいんですが。」
「遊歩道にございますか。それでしたらこのホテルを出て直ぐの道を左に行かれますと、整備された並木道がございます。暖かい今の時期でしたら、多種の草花を御覧になれるかと。只今地図を御用意致しますので、ルーン様と司羽様は暫くお部屋でお待ち下さい。」
「ああ、どうも。………それじゃあ、これ。」
「……それは………。」
司羽の質問に的確に答えると、ボーイは地図を取りに行く為に身を翻そうとして、司羽が取り出したこの世界の紙幣に気付いた。ボーイは司羽の意図に気付いてその紙幣を受け取ると、今までの流れるような堂々とした動作とは違い、若干緊張を含んだ表情で頭を下げた。
「申し訳ございませんでした、司羽様。」
「いや、気にしてないですよ。ルーンと一緒じゃ仕方ない。予約も別の名前で取られてる筈ですし、自分は元々そういう人間じゃないですから。」
緊張した面持ちで謝罪するボーイに、心の中で苦笑しながら司羽はそう答えた。ルーンにはこのやり取りの意味が分からないらしく、疑問符を浮かべて司羽の顔を見上げて来ているのが、司羽からも分かった。
「ありがとうございます。司羽様、ルーン様、直ぐに地図をお持ちいたしますので、それまでお待ち下さい。」
「お願いします。」
「…………?」
ボーイが一礼して部屋を出て行くと、説明を求めている様な視線をルーンが送って来た。一応ルーンにも説明をしておいた方が良いかも知れない。
「司羽、今のって何でお金渡してたの? それに謝られてたし、もしかしてあの人が何かやったの?」
「ああ、そうじゃないんだ。今のやり取りはこういう業界でのルールみたいな物なんだよ。さっきあの人に渡したお金はチップって言って、高級なレストランやホテルとかだと、さっきのボーイなんかを使った時に料金とは別に、個人的にあげたりするお金なんだ。特別必須って訳じゃないんだけど、こうすれば向こうも喜んでサービスしてくれる訳だ。」
特にこういう場所では何かとスタッフを使う事が多いからな、あまり威張り散らしてると相手も気分を悪くし易いし。ただ、その解決策がお金ってのが何とも言えないんだが。
「あ、それは聞いた事あるかも。………でも、あの人が謝ってたのはどうして?」
「ああ、それは単純にルーンが今回の旅行のホスト………えっと、つまりは主催者側の人間だと思われてたって事だよ。例えば、ボーイさんが俺達の名前を呼ぶ時には毎回ルーンから先に呼んでただろ? あれにもルールの様な物があって、家族ならば家長、今回みたいなケースだと基本的に主催者側の人間を先に呼ぶんだ。でもさっきチップを出したのが俺だったから、その間違いに気付いて俺に対して謝って来たって訳だよ。………まぁ、こっちの世界だと女性の方が社会的地位が高い事は全然珍しくない見たいだから、女性がホストのケースも多いって聞いたけどな。それに事実ルーンは有名人だから、そう思われても仕方ない。………男としてはちょっと複雑だけどな。」
「へー、そうだったんだ………。でも何だか司羽って、最近私よりもエーラの事に詳しくなって来てるよね? お金だっていつの間にか貯めてるし。………こっちに連れて来た時にも思ったけど、やっぱり適応力高いんだね、司羽って。」
司羽の上流階級の慣習についての説明を受けて、ルーンは感心した様にそう言った。
今回はルーンに恥をかかせない為に色々と調べたからな。とは言え、ここら辺のマナーとか慣習を調べるのは、それ自体が元居た場所とあんまり変わらなかったからそこまで苦労しなかったけど。お金に関しても、暇な時に森に入ったりして稼いでたから、今回のデートでルーンに不自由させる事はないと思うし。………苦労した事と言えば、調べ物してる時にミシュに色々茶化された事くらいだな。と言うかミシュの奴、それが目的で此処をデート場所に推したんじゃないかと疑うくらいに生き生きしてたな。まぁ、感謝はしてるんだけど。
「俺だって何時までもルーンに金銭面や社会面で依存する訳にはいかないだろ。だからさっきのやり取りは俺なりのケジメだと思ってくれ。それに、周りからもちゃんとルーンに相応しい男だって思われたいしな。なんたって俺はルーンの恋人なんだから。」
「……うん……大好き、司羽。」
司羽がそう言って、自然にルーンの頬を撫でると、ルーンは司羽を熱っぽい視線で見詰めた後、キスを求める様に瞳を閉じた。背伸びをして寄り掛かってくるルーンを支えながら、司羽もルーンの唇へ近付いていく。
「んっ………。」
コンコンッ
「司羽様、ルーン様、地図をお持ち致しました。」
「「…………。」」
唇が触れ合う直前、扉を叩く音が二人を現実に引き戻しす。司羽はついつい苦笑を漏らしてしまい、ルーンは不満そうに顔を離した。
「……もうっ……。」
「ははは……えっと、どうぞ。」
司羽が扉越しに声を掛けると、扉が開き、地図を持った先程のボーイが一礼した。そのボーイも、何とも不満そうに司羽に寄り添っているルーンを見て、自分が微妙なタイミングで声を掛けた事に気付いた様子だったが、やはりそこは一流ホテルのスタッフらしく見て見ぬフリを決め込むつもりらしい。司羽はボーイから若干口早な感じのする説明を受けながら、今日のデートはこの不満気なお姫様の機嫌を直す所から始めよう、と心の中で呟いたのだった。