第29話:王女の願いと信念と
「……こちらへどうぞ。」
「ありがとう、ナナ。……司羽さんとユーリアさんは、紅茶で宜しいですか? それともコーヒーに?」
「俺は紅茶でいい。ユーリアは?」
「それでは、司羽様と同じ物を。」
ナナと呼ばれた小柄な赤毛の少女が案内した先は、応接間らしき部屋の対面式ソファーだった。案内に従い、リアと体面になる方へ司羽とユーリアは座った。あの後リアが指示を出し、家臣と思われた人達は司羽達を迎える準備を始めた。司羽とユーリアに対する警戒はまだ完全に解けた訳ではないようだったが、リアの一喝が効いているらしく、皆何も言わずに準備を進めてくれた。もしかしたらユーリアのあの態度も良かったのかもしれない。
「司羽さん、ユーリアさん、申し訳ありません。皆心配性なもので。」
「いいや、構わないさ、さっきユーリアが言った通りだ。………そこで見てるあんた達もこっちに来たらどうだ? リアの近くに居た方があんたらも安心だろ?」
「………そうさせてもらおう……。」
「……ふんっ……。」
司羽がそういうと、先程先陣を切り、リアにアレンと呼ばれたの茶髪の男と、先程リアに一喝を受けた張本人である赤髪の女がリアを挟み込む様に座った。
「紹介しますね。こっちの茶髪の男性がアレン、赤髪の女性がネネと言います。アレンは親衛隊長、ネネは侍従長をしてくれています。」
リアがそう言って紹介すると、アレンの方は沈黙を守ったまま軽く会釈をしたが、ネネの方は鼻を鳴らして視線を逸らした。アレンは茶髪を短く切りそろえ、目鼻立ちのハッキリした、かなり整った顔立ちをしている青年だった。背も高く、少なくとも司羽と同じかそれ以上。モデルと言われれば納得してしまう容姿だ。
一方ネネの方は、赤い髪を肩の辺りでバッサリと切り揃えており、髪よりも薄い赤をしている瞳はツリ目がちでキツイ印象を与える。美人ではあるのだが、周りを威圧するような雰囲気を漂わせている女性だ。そしてリアは、ネネのそんな様子を見て困ったように肩を竦めた。
「ごめんなさいね、ちょっと気が立っているみたいで。普段は本当に気の利く、良いまとめ役なのですが………。」
「フィリア様、こんな何処の者とも知れない者に気を利かせる必要はありませんよ。そもそも一体なんなのですかこの司羽という男は。それはアレンを倒した程ですから、多少は腕が立つのかも知れませんが、一度助けられたくらいで簡単に信用するのは危険です。それに、正体がバレてしまったのですから、それなりの対処をするべきとも思います。万が一この男から敵対勢力にフィリア様の事が漏れれば………。」
「もう、ネネは頭が固いですね。大丈夫ですよ、万が一でも起こりえません。司羽さんが信用出来るかどうかは私が自分で判断したのです。無論、ユーリアさんの事も。」
「うう……ですが、ですねぇ………。」
「諦めろ、フィリア様はこうなったら動かん。」
必死にリアに詰め寄って説得を試みたネネだったが、リアには全く聞き入れてもらえず、協力を求めてアレンに視線を送った。だがそのアレンも無表情に諦めろと言うばかりで戦力にならない。そんなネネが頭を悩ませていたそんな時、斜め前から小さな笑い声が聞こえて来たので、ネネは咄嗟に視線を自分の斜め前、司羽が坐っている方に向けた。少しの羞恥を湛えた表情で。
「おい、何がおかしい……?」
「いいや、何も。ただ、仲がいいんだなーと。」
「………くっ、今のは私に対する侮辱と取るが構わないな?」
「はぁっ、ネネ、貴方はまたすぐそうやって司羽さんに喰ってかかって……。別に何もおかしな事は言われていないでしょう?」
睨みを利かせたネネに、司羽がそう嘯くと、ネネは拳を握りしめて視線を更に鋭く研ぎ澄ました。そんな二人を見てリアが深く溜息をついたが、ネネにはどうやら見えていないらしい。
「アレンさんとやら、まとめ役がこれじゃあ苦労も多いだろうな。同情するよ。」
「………ふぅ。」
「………アレン、その溜息はなに? 同意? 同意したの?」
「ああもう!! いい加減にしなさいネネ。何度も言いますが司羽さんは敵ではありませんし、大事なお客様です。あまりに酷い様ですと、この部屋から追い出しますよ?」
「うっ……。」
主君の声色に本気を感じたのか、ネネはリアにそう言って睨まれると、バツが悪そうに視線を逸らした。それを見て、司羽もちょっとからかい過ぎたかと反省した。反省したのは決してユーリアに肘で突つかれたからではない。そしてリアは、やっとの事で落ち着いたその場の人間を見回すと、佇まいを直し、真面目な表情になった。
「………さて、本題に入りましょうか。今日私がユーリアさんを此処に呼んだ理由、御二人にはもう分かっていますよね?」
「………はい、分かっています。」
「ああ。続けてくれ。」
リアが確認の意味を込めてそう言うと、ユーリアと司羽はそれに同意した。つい一昨日出会ったばかりのリアが、ユーリアから聞き出したい事など一つしかない。そしてそれはユーリアにも分かっている様で、律儀にも一度司羽の方へ確認を取る様に視線を送ってきたので、司羽は頷いてそれを承諾した。つまりは、リアを狙った組織の事だろう。今回直接手を出したのはユーリアが長を務めていた傭兵団『道化』だが、それは反シーシナ共和国のレジスタンスグループ『蒼い鷹』の差し金によるものだ。そこで気になって来るのはやはり、リアに対してレジスタンスが掛けてくる次の行動の事だろう。
「単刀直入に聞きます。ユーリアさん、私を狙っている組織……反シーシナ共和国レジスタンスの『蒼い鷹』でしたか? そこの組織はユーリアさん達が失敗したら、次はどの様な行動を取ることにしていたのでしょうか、わかりますか?」
リアがそう言ってユーリアに問うと、ユーリアは暫く考えるように目を閉じた。リア達は何も言わずに答えを待つ。暫く沈黙が続いた後、ユーリアが口を開いた。
「そうですね………本来ならば、別の者を送り込んで作戦を続行という事になっていたのでしょう。その様な事は、依頼された時に向こうの仲介人も言っていましたし。ですが詳しい事となると………正直良く分からないんです。私達も反シーシナ共和国ではありましたが、あくまでも立場は傭兵でしたから、多くの情報は与えられていませんでした。私達『道化』は、レジスタンスの様な一つの意志として動くのが嫌な人間が集まっていましたので。あくまで目的は、個々の恨みによる共和国に対しての復讐ですし。レジスタンスの一部には、そんな目的で動く私達を良く思っていない方もいました。そういう理由もあって、私は確実な情報を持っていないんです。申し訳ありませんが。」
「………そう、でしたか……。」
「……ユーリア、反共和国のレジスタンスってのはどれくらいいるんだ? 『蒼き鷹』とか言う奴等もそうだが、別の組織だってあるだろう? 昨日ルーンから聞いた限りでは、共和国ってのはそうとうデカイ国なんだろう? ならそれに対抗する為の組織が複数あっても不思議じゃない。」
「そうですね……えっと。」
落ち込むリアを見兼ねてか、司羽がユーリアにそう聞くと、ユーリアは唇に指を当てて自分の記憶を探った。
「『蒼き鷹』は首都を中心とした10万人規模の大きなレジスタンス組織です。とはいえ、その殆んどが民衆に紛れていますので、全体を把握するのは難しいですね。他のレジスタンスも確かに沢山ありますが、はっきり言ってそこまで強い力はないと思います。実際に私が見た他の組織は、自分で動くというよりも『蒼き鷹』の補助をしていましたから。ライバル組織みたいな所もありませんし、恐らく警戒するのは『蒼き鷹』だけで十分でしょう。」
「なるほどな。その『蒼き鷹』がレジスタンスの中枢みたいになってる訳だ。だとしたら、やっぱりリアって存在は喉から手が出るほど欲しいだろうな。結束力を強めるチャンスだろうし。自分達のレジスタンスとしての地位を確固たる物に出来る。都合が良過ぎる程の存在だ。」
「そうですね。リア様の遺体でも良いと言ったのにはそういう意味が込められていると思っていいでしょう。」
「相手は10万人規模のレジスタンス……ですか。」
司羽とユーリアがする会話の中で、リアは表情を歪めてそう呟いた。いくら相手が一つに絞れたと言っても、やはり個人と組織では分が悪すぎる。今回の一件で諦めてくれればいいが、向こうの組織にとって、この作戦の価値はとてつもなく大きい。だからこそ諦められる筈がないと、リアにもその事が分かっているのだろう。ネネは、拳を握りしめて俯いてしまったリアを痛ましげな瞳で見つめて、瞳を逸らした。
「くそっ、信念の為なら人をも殺すか……それでは自分達も共和国と同じだろうに。」
「信念の為………ですか。」
そう言ったネネに反応して、ユーリアが呟いた。何故だかそのユーリアの放った言葉に、全員の視線が集中する。
「信念って言葉、怖いです。段々と他の事がどうでも良い事みたいに思えて来てしまう。私も人を殺した事がある訳ではありませんでした。だから正直今回の傭兵団での仕事は凄く怖かったです。でも、両親の仇の為と思ったら、そんな事は小さい事だって思えてきて………仲間が死んだ時だってそう、あの二人は今回の仕事で一緒になったばかりだったけど、それでも仲間が死んだって言うのに、私は何も感じなかった。もしあのままリア様を殺していたら………司羽様と一緒に来なかったら、私はどうなっていたんでしょうか。」
「………。」
そういって小さく身を震わしたユーリアの頭を、司羽はポンポンと優しく叩いて、ユーリアはそれを何も言わずに受けた。それを見ていたネネは、悲しげに眼を伏せてユーリアから視線を逸らした。アレンとリアも同様に瞳を伏せる。
暫くの沈黙ののち、最初に口を開いたのは意外にもネネだった。
「その………ごめんなさい……。」
「………え?」
「私、貴方に酷い事言ったし、酷い事したわ。今回貴方を全員で襲ったのだって、私が主導したんだもの。貴方が言った、私達の気持ちが分かるって、今更、やっと意味が分かったの。だから、ごめんなさい………。私も、『蒼き鷹』と同じだったのね。」
「ネネさん……。」
顔を赤らめて、照れ隠しに髪を弄りながら言ったネネの言葉に、暗かったユーリアの表情が明るくなる。リアもそんなネネの様子が嬉しいらしく微笑んでいる。無表情なアレンも微笑を浮かべるくらいに、ネネの言葉はその場の空気を明るい物にした。
そしてそんな空気の中、司羽はリアに切り出した。これからの行動を決定する為に、リアの意思を確認しなくてはならない。
「………リア、今回の事で向こう側の行動もある程度把握出来る。まず傭兵を5人送って不意打ちしても駄目なくらいにはリアの警備が固いと思われてるだろうし、交渉の余地はないと思われてる。だから次は、少なくとも前回以上の戦力で来るはずだ。だがそれと同時に、『蒼き鷹』が動いてる事をこっちが察知しているとまず分かってるだろうから、それなりに慎重にもなる筈だ。共和国に政府があるんだかなんだか知らないが、そういう目もある筈だから何度も兵を送ってもいられないだろうしな。兵だって、多くなればそれだけ目立つ。」
「………はい。」
「慎重に行動しなければならない相手は、今はまだこちらについて調べてる最中だろう。だからもし、今この街を出て行けば、容易にはこちらの居場所を掴めなくなる筈だ。相手も迂闊に動けば共和国に知られるかもしれないリスクがあるからな。もしかしたらそうなれば向こうも諦めるかもしれない。リスクの方が大きくなるからな。これは決して希望的観測じゃない。ユーリア達の様な傭兵団を、学園にスカウトと一緒に潜り込ませるってのは、それなりに難易度の高い作戦だ。だから今の『蒼き鷹』はそれをしなければならない程に大人数をこっちに送れない立場にあるんだろう。恐らく共和国の目が厳しいんだろうな。5人で最大の効果を挙げようとしたんだ。」
ついでに言うなら、『道化』はそこまで実績のある傭兵団じゃない筈だ。ユーリアが人を殺したことがないと言っていたのはそういう事だろう。レジスタンスがあくまで反共和国の思想を持ってる人間しか雇わないとしているなら。更にリアを見逃す可能性は高くなる。とはいえ、こちらの想像以上にリアに価値を見出しているとなれば話は別だが。
「つまり、今直ぐにこの街を出て新しい住む場所を探す方法が有効だと思う。出来るだけ共和国から離れた場所に。そうすれば長い間、かなり高い確率で安全になる。それでも警戒は必要だけどな。」
「なるほど。確かに司羽が言った理由なら、今回の相手の行動も納得出来る。そうだとするなら、今ならまだ、そこまで状況は絶望的でもないのか。」
「………共和国側も馬鹿じゃないって事かしら。今はそれが助かるけど。」
「………それよりも私は、司羽様の分析力の方が驚きなんですけど……。本当に一昨日、共和国の事を知ったばかりなんですか………?」
深刻な、しかし少し安堵も混ざった顔になり考え込むアレンとネネ、そして疑惑の視線を向けるユーリアを尻目に、司羽は安全な可能性を提示したにも関わらず、依然として浮かない顔をしているリアへと向き直った。当然これからの行動は、今司羽が言った様に行動するのがベストだろう。そもそも普通に考えれば、居場所が敵に知れているにも関わらず此処に居続ける理由がないのだ。
………だが、浮かない顔をしているリアを前にして、司羽は全く別の事を言おうとしていた。
「だけどまあ、それはあくまでリアが取ることが出来る方法の一つだ。最良だけど、絶対じゃない。だから勘違いするなよ?」
「え……?」
「言ってる意味が分かるか? 危険だが、この街に残るかどうかはリアが決めろって事さ。誰も俺に従って街から出ろなんて言ってない。」
「ちょ、ちょっと司羽さん? 何を言って………。」
「ネネ、お前は主の決定に従うか? アレン、お前はどうだ?」
「司羽様、ですがそんな事………!!」
「ユーリア、これはリアの問題だ。そうだろ? ネネとアレンも、嫌なら逃げればいい、誰も責めないよ。だがまずリアの事を決めるのはリアだ。」
自分が提示した最良の方法を、一つの可能性でしかないのだと即座に言った司羽に、ネネは戸惑い、アレンは呆然とし、ユーリアは咄嗟に反論した。だが司羽は、その三人の事を気にも留めないかの様に、リアだけを見つめて、リアの問題だと言い切った。
そんな司羽に三人は咄嗟に言葉を失い、リアは司羽の前で身じろぎひとつせずに硬直していた。
「リア、ユーリアが言った通り、信念は人をおかしくしちまう事もあるかもしれない、だけどな。」
「……司羽さん……私は………。」
「お前がどうしても叶えたいなら、それを我慢する事はないんだ。その道にいくら死体が転がっても、誰を傷つける事になっても、リアには絶対に叶えたい事があるんじゃないのか? 此処に居たい理由があるんじゃないのか? いや、正確には此処に居なくちゃならない理由か。」
「っ…………。」
司羽がそう言うと、リアは眼を見開いて動揺を顕わにした。そんな事を言われるとは予想していなかった、何故司羽にそんな事が言えるのかと、そう言うかの様に。
「な、なんで………。」
「さあな。俺は推測で物を言ってるだけだ。偶然会話が噛み合ってるだけかも知れない。」
「……………。」
「多分な、リアは皆を巻き込むのが嫌なんだろう? 確かにこんな事に巻き込んで死なれた日には、罪悪感も酷いだろうな。自分の我儘に巻き込んで、人が死ぬかも知れないんだ。それに、相手だって殺す事になるかも知れない。ユーリアの仲間を二人殺した時みたいにな。」
ユーリアの仲間を殺した、と司羽が言った瞬間にリアの肩が小さく震えた。それを見て、自分の思っていた事、リアに対して感じていた事が間違いではなかったと確信した。内容については、今はまだおぼろげだが。
「リア、お前の願いはきっと、誰の平和も脅かさない。もしお前の願いの為に誰かが傷ついて死ぬとするなら、それは勝手に巻き込まれたそいつの責任だ。リアが悩む必要はない。」
「でも、そんな事……そんな勝手な事出来ません……私が残りたいと言えば、結局皆だって巻き込むに決まってるんです。もしそうなれば、それはやっぱり私の責任で………。」
「そう思うなら諦めれば良いさ。それも一つの選択だ。どっちかって言うと皆そっちを望んでるんじゃないか? 皆リアの安全が一番の心配の種みたいだし。」
「……でも、でも私………。」
司羽があっさりと言ったその言葉に、リアは顔を伏せてしまった。もしかしたら泣いているのかも知れない。きっとその理由は、ネネにもアレンにもユーリアにも分からないだろう。リアが何故こんなに悩んでいるのか、それは当然だ。リアは自分の望みを誰にも話さなかったのだから。でもそれは、非難される事でもなんでもない。願いなんてものは結局は我儘なのだ。それを誰かに言うのをリアが嫌がっただけの話。
「でもな、リア。」
「………は…い……。」
「どうしてもその願いを叶えたくて、それのせいで周りを巻き込んで傷つけたくないのなら、俺が手を貸してやる。」
「…………えっ?」
そんな言葉に、リアが驚いた様な声を上げた。一方で困惑した声の様にも聞こえるが、そんな事は司羽にはどうでもよかった。重要なのは、リアがその事に興味を示したと言う事なのだから。
「両方実現したいなら努力をすればいい。もしくは誰か別の人間に頼ればいいんだ。簡単な事だろ?」
「そ、それは、確かにそうですが……司羽さんまで巻き込んでしまう訳には………貴方に何かあったら……ルーンが……。」
「俺に何かあったらって……それ本気で言ってるのか? 自分の身くらい自分で守れる。それに俺としてはリアが居なくなる方が損失だ。言っただろ? ルーンの親友に居なくなってもらう訳にはいかないって。」
「……司羽さん……。」
そこまで言ってもリアはまだ決めあぐねているようだった。まあ無理もない、自分一人協力した所で、此処に残ってリアが何かしたいと言うならば、当然付いて来るであろう家臣に危険が及ぶことには変わりないのだから。
「まあ取り敢えず、さっきから何も言わないそこの二人と、そこのドアの向こう側に居る九人はリアの意志を尊重するだろうよ。リアが俺に家族って言った、この十一人ならな。」
「え、ドアの向こうって………。」
司羽は、気付いていなかったのかとでも言う様に嘆息すると、部屋の入口のドアに近づいてドアを開いた。そこに居たのは、先程玄関先で見たばかりの使用人達、計9名。そして、そこで聞き耳を立てていた人達を見ながら、リアを含む、部屋の中に居た人間は驚いた様に声を上げた。
「あ、貴方達………。」
「えっと、ナナちゃんだっけ? もらうよ。」
「あっ、は、はい。」
司羽はリア達の反応も気にせず、御盆を持ったまま呆然と立ち尽くしていた赤毛の少女の手元からティーカップを取ると、その場で口を付けて、紅茶を一口飲む。
「ちょっと温いかな。でも、ありがとね。」
「あ、あぅ……。」
司羽が素直にお礼を言うと、ナナはお礼を言われたからか、それとも立ち聞きがバレたからか、真っ赤になって俯いてしまった。司羽は紅茶を啜りながら、そのまま視線をリア達へと移した。
「選ぶのは君だよ、リア。まあ、まだ時間はあるからゆっくり考えるといいさ。……ユーリア、そろそろ帰るぞ。」
「え? あ、はい。」
ユーリアは家臣が隠れていたドアの方を見て呆然としていたが、司羽の声が掛かると我に返って立ち上がった。司羽がそれを見て苦笑し、身を翻してティーカップを元の位置に返すと、後ろから声が掛かった。
「あ、あの、司羽さん!!」
「ん? なんだ? 後悔しない様にちゃんと考えた方が良いぞ。」
「いえ、あの………ありがとう……ございます……。」
「いいや、礼を言われる様な事はしてないよ。」
司羽はそれだけ言うと、司羽に寄り添うように傍に来ていたユーリアを携えて部屋を出た。なんだかユーリアの視線が、この気障野郎とか言っている気がしたが、取り敢えず無視。その真偽は後程確かめられるだろう。恐らく屋敷を出たら直ぐにでも。そんな事を思いながら、司羽の初、リア宅訪問は幕を閉じたのだった。