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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第一章~隠れんぼ~
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第2話:髭×眼帯×古傷

 窓から光がさして、小鳥らしき動物の鳴き声が響く。今までは獣の気配がそこら辺からしてたから、久しぶりにまともな睡眠を取った気がする。これぞ人間らしい生活だ。


「……起きるか。」


 司羽は眼をゴシゴシとこすって身体を起こし、取り合えずルーンを探すためにリビングに行こうとした………のだが。


「あれ………寝ぼけたか?」


 目の前の光景に、司羽はついつい信じられずに独り言を漏らしてしまった。なんか、居てはいけないモノがいる。隣に、ベットの中に。


「……ルーン、何してるんだ?」


「んぅっ……おはよ……司……羽…………くぅ……。」


 ルーンは少し眼を開けてこっちを見たかと思うとまた眼を瞑ってしまった。どうやら朝は弱いらしい。まぁ、若干混乱した頭で結果だけ言うと、いつの間にかルーンが隣で一緒に寝ている。というかいつ忍び込んだのだろうか、全く気付かなかった。どうやら自分も寝床が確保出来て相当安心していたらしい。これが実家だったら死んでいる。というかルーンに完璧に腕をホールドされているのにも今更気付いた。司羽は視線をずらして眠っているルーンを暫くジーっと見つめた。


「……柔らかそうだな……。」


ムニュッ


「ふにぇっ……!?」


 今の音は別に怪しい事をした音じゃない。ただ何だか柔らかそうなほっぺたを摘んで引っ張った音だ。無論起こす為に、いや、確かにやりたかったって欲望がなかったと言えば嘘になる。だって引っ張って下さいと言わんばかりなんだもの。プニプニなんだもの。ということで横にも伸ばしてみる。


「ふっ、ひゃ、ひゃにふるのっ!!」


「何するの、か。それはこっちのセリフだ。一体いつから一緒に寝てた?」


 ジーっとルーンを睨む。司羽の視線に、ルーンもやっと司羽が何を言いたいのか理解したらしい。


「えっと……司羽が御手洗いに行った後、直ぐ寝たから。その時にね?」


「殆ど一晩中だな。」


 なるほど、あれからずっと腕に纏わりついてたのか……。あの後、銀髪娘に会ってから直ぐに眠くなって、それで御手洗いに行ってなかったのを思い出して、行ってから寝たんだよな。……ふむ。


「だって全然寝付けなかったんだもん。」


「だからってなぁ……昨日から言ってるが俺は男なんだぞ? ちゃんと警戒しないと駄目だ。将来悪い奴に騙されるぞ。」


「うぅー……。司羽は悪い男なの?」


 ルーンは腕を取る力を強くして頬を膨らませた。ああ、今摘みたい、凄く摘みたい。いやいやマテマテ平常心を保つんだ。さっきはつい魔がさしたが、一応相手は年頃の女の子だ。勝手に男の布団に入って来たけど。上目遣いされても年上の威厳(昨日聞いたがルーンは15歳らしい)を見せるんだ。


「まぁ、過ぎた事は良いけどな。でも、明日からは自分の部屋で寝るんだぞ?」


「えー……あ、そうだ。朝御飯作らないと!!」


「………おい。」


 司羽がそう言うと、ルーンは手をポンッと叩いて唐突にそう言った。流したな? と言うような視線を送ったがルーンは気にした様子もなく、じっと考える様な仕草をした。


「司羽が居るし、今日は何にしようかなー…………って、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ど、どうしたっ!?」


「昨日、買い物行ってない……。」


「……買い物……?」


 ルーンが、忘れてた……、と溜息をつく。いつの間にか先程の添い寝の話題が完全に消滅しているが、まぁ今それは重要ではない。重要なのは近くに買い物を出来る様な場所があると言うことだ。


「ルーン、この近くに街でもあるのか?」


「あるある、この国でもかなり大きいよ。うーん、しょうがない。私は学院で何か買おっと。じゃあ、司羽の分は………って、どうしたの司羽?」


「んー、いや。ちょっと馴染みのある単語が出て来たからな。」


 いやまぁ、国で一番大きい街なら学校くらいあってもおかしくはないのかも知れないけど。まぁ取り合えず学校があると言う言葉で一気に親近感が増したなぁ、異世界。何だか森の生活に適応しつつあって感覚がおかしくなってるけど、どの世界も考える事は一緒なのかも知れない。……取り合えずそこの街で聞き込みでもするか。


「よし、俺も街に行く。一緒に連れてってくれ。聞き込みもしたいからな。」


「あ、そっか。そういえば司羽は銀髪の子を捜してるんだっけ。じゃあ、ついでにそこで何か食べてね。お金は………取り敢えず、これ使ってね。これで銅貨100枚分の価値があるから、足りなくはならない筈だよ。」


「ああ、わかった。……なんか、悪いな。」


「ふふっ、気にしないで。」


 ルーンから通貨らしき銀貨を手渡され、取り合えずの目標は掴めたな、と息をつく司羽の頭からは、ルーンが布団に入り込んで来た事などは綺麗さっぱり忘れ去られているのだった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「それじゃあ、私は行くからね? 帰りは学院前集合だから。先に帰っちゃ駄目だよ?」


「……ああ。」


 ルーンの言葉に呆然としながら返事をして、ルーンが学校の中に入るのを見送った。呆然とする理由はなんて事はない、ルーンの言う学院とやらがデカすぎる、まるで西洋の巨大な城だ。こんな物メルヘンな世界か、一部の国にしか存在しないと思って……ってここはメルヘンな世界だったんだよな。


「っと、ぼーっとしてる場合じゃない、とにかく調査だ。取り合えずはこの世界の事と、俺を飛ばした魔法についてだな、女の子の事は情報がなさすぎる。」


 なんだか先が長そうな調べ物だなーと思うが、取り合えずこの世界の常識くらい持ってないとこれから困るだろう。簡単な一般常識についてはルーンから少しずつ教わるとして、魔法の事を調べないといけない。これについてはルーンも良く分からないみたいだったし…………と、ここで思考中断。


「うーん、こういうのは図書館で調べるべきなんだろうけど………あれは、気になるなぁ……。」


 取り合えず散策をしてみた司羽の目の前にあるのは、なんかいかにも映画に出て来るウェスタンな感じの店の入口で、凄く酒場な感じがする店だった。なんと表現すれば良いのだろうか? こう、俺の心の奥深くで何かが叫んでいる。あそこで情報を集めろ、と。


「……うん、やっぱり情報は酒場だよなぁ。図書館とか無いよ。この世界には無い。うん、無い。」


 という事で司羽は早速入る事にした。外見はウェスタンっぽい作りなのに、入り口から階段になっていて、奥に入ると探せば我が国にも在りそうな感じのバーである。中にはまだ、如何にもな感じのマスター以外の人はいない。というかマスターがシブイ。なんか右眼の眼帯の下に傷があるし、風格がある。そしてこっちに脇目も振らずにグラスを拭いてる。……取り合えず、どうしよう、席に座るか。


「…………。」


「…………。」


 ……き、気まずい。取り合えずなんか魔法の事とか聴ける雰囲気じゃないし、なんて切り出すか何にも考えてなかった。くそっ、あまりに好みの雰囲気だったからつい先走ってしまったが……今更後悔しても遅いか。


「人探しか?」


「え? な、なんで……?」


「何となくだ。酒を飲みに来た訳じゃないな。」


「……ええ、その通りですが。」


 本当は魔法の事を聞こうとしてたんだけど、まぁ間違いではないし頷いておく。というかマスターの声渋い。予想通りだ。


「……そうか。」


「…………?」


 グラスにカクテルが注がれる。いや、注文してないんだけど。というかお金ないじゃん。ルーンに飯食べておけって言われたけど、どうしよう、酒って高いよな。ルーンから貰った貨幣で足りなかったら逃げるか? 異世界でいきなり無銭飲食とか最低過ぎる。いや、実際は俺が頼んだわけじゃないけどさ。


「あの、すいません。俺今……。」


「お前もこれくらいなら飲めるだろう。遠慮するな、俺の奢りだ。」


 ……なんというか、一発でこの人に惚れた気がする。いや、奢ってくれたからじゃなくて単純に感動した。本当にこんな人っているんだな……なんかもう雰囲気からして格好良いんだが。


「それで、写真や似顔絵はあるのか?」


 司羽が感動していると、マスターは自分用らしい安楽椅子に座りながら聞いた。安楽椅子か、腰痛持ちなのかなぁ、マスター。って、今は余計な事考えてる場合じゃなかった。


「いや、それどころか名前も分からなくて……。年齢は15歳くらいで、長くて綺麗な白銀の髪の女の子なんですけど。」


「……銀髪か、珍しいな。だが、情報が少な過ぎる。」


「ですよね……。」


 マスターは持っていたグラスの中に視線を落とした。なんか凄く絵になるなぁ、って俺はさっきから何を考えているんだ? っと、思考が逸れた。まぁ、このくらいであっさり見つかるとは思ってなかったけど、やっぱり時間かかりそうだなぁ。


「……その女の事は俺の知り合いにも聞いておこう。時間は掛かるかも知れないがな。だがあまり期待はするな。お前を見る限り、その女は少々特殊な存在の様だ。」


「……は?」


 あの銀髪の子が特殊っぽいのは同意見だが、俺を見る限りってどういう事だ……?


「お前、異常に戦い慣れているだろう? 俺はこれでも昔は色々と旅をして来たが、正直その年でそこまで力の底が見えないと思った奴は初めてだ。場慣れ、と言うだけでは説明し切れん。その女とやらを捜すにしても、そんな力を持ちながら捕まえられないとなると、俺も力になれるかわからん。……俺の言った事は何か間違っているか?」


「………いえ。」


 凄いなマスター、正直驚いた。実際は俺があいつを捕まえられないのは、魔法の事が良く分かってないからなんだけど、一応力は隠す様にして生活してるからバレるとは思ってなかった。まぁ元の世界じゃ隠し切れてなかったけど。というかこの人、さっきから普通は気付かない程度のレベルで警戒してるし、この人にはちゃんと事情を教えて協力してもらった方が良いかもしれない。凄く良い味方になると思う。……俺が人探しをしていることも、見抜かれたくらいだ。


「正直、こっちに来て早々に貴方のような人にあった事に運命すら感じますよ。……この際、話した方が都合が良さそうですね。」


「話す? 何だ?」


「信じられないと思いますが……実は俺はこの世界の人間じゃないんですよ。その銀髪娘に、恐らく魔法で連れて来られました。数日前に。」


「……唐突だな、確かに信じられん話だ。」


 ……だよなぁ、俺もいきなりそんな事言われたら黄色い救急車を呼ぶよ。落ち着いて話を聞いてくれるこの人は、やっぱり大人なんだろうなぁ。そしてそれ以上に、普通じゃないんだろう。


「自分自身、今でも信じられない話なんですけどね。そういう理由から、俺には力があっても、この世界の知識が絶対的に足りなくて、探すことが出来ないんです。恐らく世界を跨ぐ魔法ってのは凄いんだろうって分かりますから、その娘も特殊なんでしょうけど。それしか分からない。」


「………成る程、事情は分かった。だが何故、その話を俺にした? お前は客だ、酒は頼まなくてもな。だから俺も最低限の協力はしただろう。これから会う人間全員にそうするつもりか?」


 沈黙し、グラスを傾けた。マスターはグラスを磨いていた手を止めた。まぁ確かに人間ってのは何処でどんな方法で人を利用しようとするか分からないからな。むやみに人を信用するといけない事も分かる。だがまぁ、何となくの勘と言うのも信じてやらないと身動きが取れなくなるからな。親身になってくれる奴くらいは信じてみたい。マスターはじっと見つめて来た後、溜息を着いた。


「よし。」


 そう言ってマスターは立ち上がる。ん、なんか言いたい事が伝わったみたい。こういう人は本当に凄いなぁ、そしてそういう所も渋い。カッコいい。惚れる。


「聞いてしまったのだから仕方ない。坊主、女の事は今は俺に任せろ。お前はこれからは学院に行って学べ、魔法の事もこの世界の事もな。そして考えるんだ、自分がこれからどうするのか。」


「へ……? 学院ですか? また、なんで?」


「坊主くらいの年では行くのが、この世界での普通だ。坊主の世界の事は知らないがな。」


 マスターはグラスに再びカクテルを注いだ。平静を装ってはいるが、実は今かなり動揺してる。しかし、俺が学院に……か。誰も俺の肩書き何てしらない場所で新しい気持ちで……。確かに一個人としては凄く魅力的だ、行きたい、凄く、今までが今までだったし。今の俺の状況からしてそう悪い話でもないし……。


「で、でも、どうやって? 俺はツテも金も戸籍もないですし、特殊な制度があったりするんですか?」


「……ツテならここにいるだろう。俺が言い出したんだ、学費や入学届けはいらん。全て俺に任せろ。」


「い、いや。それは凄くありがたいんですが……なんで……。」


「ならば拒否をする必要はない。今は遠慮をしている余裕なんてないだろう。」


 確かにそうなんだよな……。魔法や常識を習いつつ、自分の欲望っていうか願望も満たせるのは凄く魅力的だ。正直、行きたい。


「決まりだな。」


「……お願いします。」


「ふう、しかしもう少し子供らしくしたらどうだ?」


「うっ……。」


 なんか喜んでるのバレバレっぽい。そして俺とマスターはルーンとの約束の時間まで語り合い、特製カクテルとマスターが棚から取ったワインっぽい飲物を飲んだのだった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「ごめんごめん!! ちょっと、知り合いと話込んじゃって……って、どうしたの司羽?」


 ルーンが訝しげに顔を覗き込んでくるが気にしない。俺には目標が出来たんだ。高い高い……目標が。


「ルーン、俺もマスターの様な本物の男になってみせるぜ……。将来はバーのマスターになって、安楽椅子に座りながらウクレレっぽいの弾くんだ。」


「は、はぁっ? いきなりどうしちゃったの……? 何かおかしい物でも食べた?」


 訝しげにそう言ったルーンの言葉など気にせず、司羽はマスターの様な男になろうと誓った。そして明日からの学園生活に思いを馳せるのだった。

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