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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第二章~恋の矛先~
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第25話:試験終了?

『これは一体何事なのですか?』


「フィ………リア様、おはようございます。」


『ユーリア、出来ればあまりボロを出さない様にして欲しいのですが。』


「………申し訳ございません、以後気を付けます。」


『いえ……それより。』


 リアは視線を少し離れたところにいる司羽へと向けた。リアとトワが朝早く司羽とユーリアの洞窟まで来てみると、司羽とユーリアは二人揃って外へ出ていた。それだけならば特に問題はなかったのだが、司羽の傍にいる人間と、その行動にリアとトワは揃って首を傾げてしまったのだ。ちなみにリアの装備は最初と同じで、ちゃんとローブも纏っている。


「あれは………確か主の友人のムーシェと言ったかの? もう一人は………。」


「その妹様のリンシェ様です。なんでも、司羽様に稽古を付けてもらうとかで。」


『稽古って…………試験中に何故そんな展開になるのですか。』


 リアが呆れた(様に感じる)様に肩を竦めると、トワはその隣で少し離れたところにいる司羽達を眺めた。試験に使っている三人のフィールド発生装置のセンサーに司羽の気を感じる。恐らくリアにしたのと同じ様にセンサーを妨害しているのだろう。理屈は分からないが、あの稽古とやらが原因で試験に影響を与える事はなさそうだ。トワはそれだけ確認すると、ユーリアの方へと視線を戻した。


「昨夜はあの二人と一緒だったのかの?」


「ムーシェ様は存じませんが、リンシェ様は私と一緒に居られましたよ。司羽様が夜番をしてくれていたので、恐らくムーシェ様も同じ様に夜番をしてくれていたのでしょうが。」


「なるほど………主と二人っきりにはならなかったという訳じゃな。」


「はい、そうなりますね。とはいえ、リンシェ様は早々に御休みになられましたし、ムーシェ様は何処かへ行ってらした様ですので殆んど二人っきりと同義な状態でしたが。」


「…………まぁ、主に限ってお主にしてやられる事はないとは思っておったがの。」


 トワはそう言って少し不満気に息をついた。昨夜に比べてユーリアへの警戒度が少し下がっているのがトワの口調からなんとなく分かった。どちらかと言えば嫉妬心の様な物が強く出ている気がするとユーリアは察知し、その表情を笑みへと変えた。


「トワ様は司羽様の事が好きなのですね。」


「当たり前じゃ、そうでなければ魂契約は結ばん。主は少なくとも童には優しいお方じゃ。夢の中で触れ合った時にそう分かった。だから童も安心して傍について居られるのじゃ。」


「……魂契約? それに夢の中って………どういう……?」


「ああ、二人共来てくれたのか。そろそろ迎えに行こうと思ってたんだ。」


 ユーリアがトワへ質問しようとしたが、少し離れたところから司羽の声が聞こえたのでそれを中断した。トワは見るからに表情をぱぁっと華やがせると、司羽の方へ駆け寄って行った。本当に仲が良いらしい。色々気になる事はあったが、トワへの質問は取り敢えず保留だ、後で聞く機会は何度でもあるだろう。ユーリアはそう思考すると、トワへ続くようにリアと一緒に司羽へ近づいた。司羽の直ぐ傍では先ほどまで司羽に武術を習っていたムーシェとリンシェが地べたに座っていた。


「ううっ、疲れました。武術っていうのは難しいですね………前見た時からやってみたいと思っていたんですが。」


「だから言っただろう、一朝一夕で身に付くものじゃないって。下手に使うなら魔法だけを使ってた方がまだましだよ。」


「やはりそうなのですね、簡単に強くなれると思った私が浅はかでした。」


「………僕はもうごめんだね、肉体労働より頭脳労働の方が性に合ってるよ。」


「なるほど、稽古というのは武術の稽古じゃったのか。遠目に見て踊りの稽古でもやっておるのかと思ったぞ。」


「なんとも辛辣な評価だな、それは。まぁ、最初は皆こんなものさ。」


 ムーシェとリンシェの動きを酷評したトワに司羽は苦笑した。二人共元々こういう動きには慣れてないのだろう。生活の中でも魔法を多用しているのだろうし、体に力を入れるという事すらあまり無いのかも知れない。とはいえ気を使いこなせる様にさえなれば後は集中力の問題が大きくなる為、筋力はあまり問題ではなくなるのだが。


「二人共、こっちの女の子はムーシェの妹のリンシェちゃんだそうだ。」


「あ、初めまして。トワさんにリアさんですよね? お話は聞いています。」


「宜しくじゃ。」


『初めまして。』


 司羽がトワとリアにリンシェを紹介すると、リンシェは立ち上がって二人に向かって綺麗にお辞儀をした。二人もそれに合わせる様に軽く挨拶をする。そこで司羽はリアから視線が来ている事に気が付いて、リンシェについて捕捉した。


「この子が俺とユーリアの身の潔白の証人になってくれるって言うから、取り敢えず和睦が成立したんだ。」


「はい、御二人が隣で何かしていれば私が気付きましたから。司羽さんは浮気なんてしてませんよ?」


『ああ………なるほど、そうでしたか。そういう事でしたら安心ですね。実はちょっとそういう意味でも心配していたんです。』


「………リア、それはどういう意味だ?」


『そんなに深い意味はありませんよ? ユーリアの事について本当の事をルーンに言う訳にも行きませんし、隠す事は隠すつもりですが万が一と言う事があります。もしルーンにバレた時に司羽さんが困るんじゃないかなーと思いまして。ユーリアと二人になると言い出したのは司羽さんですから。』


 リアのちょっと棘のある言い方に司羽は表情を引き攣らせながら視線を逸らした。まぁ、昨日ちょっと強引に話を進めたのをリアも根に持っているのだろう。リアはどうもルーン贔屓らしいし、ユーリアの事をまだ完全に信用出来ていないのもあると思う。まぁ、それはその内時間が解決してくれるだろうと思い返し、司羽は本題に入るべくユーリアへと目配せをした。


「ユーリア、そろそろ試験が終わると思うんだが。」


「………そうですね。此処にこのまま私が司羽様と一緒に居る訳にも行きませんし、なんとか脱出しなくてはいけません。」


「………どういう事じゃ?」


「簡単な事だよ。今は試験中、ユーリアは本来は此処に居ちゃいけないって事さ。」


 首を傾げたトワに、司羽は苦笑しながらそう答えた。本来此処には生徒と監視、サポート役の教師しか居ない筈なのだ。それだというのにユーリアがいる。見つかったら確実に何故此処にいるのか、どうやって入ったのかを聞かれ、納得のいく説明を求められるだろう。それはなんとしても避けたい。その為にユーリアには司羽達とは別に此処から脱出してもらわなくてはならないのだが、それには色々と問題がある。


「第一にユーリアを一人に出来ないんだよなぁ。」


「はい、司羽様が私から離れれば恐らく直ぐに魔法で見つかってしまうでしょうね。仲間が居る時ならまだしも、皆既に撤退してしまっている筈ですから………。」


 今現在、スカウト達の為の魔法による監視の目は司羽が妨害している。その為ユーリアが此処に居ても気付かれる事はないのだ。元々ユーリアは傭兵団として此処に送り込まれ、外からのサポートを受けて行動していたが、今となってはそれも受けられない状態だ。だからと言ってこのまま此処に居ても試験が終われば司羽達は控室に戻らなくてはいけない。一緒にユーリアを連れていけば入口に居る教師に見つかるだろうし、ユーリアを此処に置いていっても魔法で探知されておしまいだろう。


「まぁ結論から言えば、俺がユーリアを一人にせずに入口にいる教師数人を何とかすればいいんだけどな。選手控室は入口を抜けて直ぐだから一度バレないように選手控室にユーリアを連れて行っちまえば、後から来たんだと言い張れるし。」


『…………でも、暴力で教師を気絶させたりとかは止めた方がいいでしょうね。そうなれば後からそんな事をしたのは誰かと追求が激しくなりますし、そもそもそんな事が出来る人物は限られてますから確実に疑われますね。特に今回はミリク先生が監視に付いていますから、あのミリク先生を気絶させられる人なんてルーンと司羽さんくらいでしょうし。』


「そうだな………ムーシェ達と違って口封じも出来そうにないし………。」


「口封じ………? 口止めじゃなくてかい?」


「ああ間違ってないぞ、口封じだ………この意味、分かるよな? あ、リンシェちゃんも頭の良い子だからそんな事しないよね?」


「はい、神に誓って。ルーン様の大事な方に害を加えるなどありえない事です。」


「………なんだか若干扱いに差を感じるんだが……。」


 ムーシェに視線を送ってそう言った後、司羽がリンシェに諭すように言うとリンシェは微笑みながらそう答えた。ムーシェは不満そうにしているが、このくらいの差は妥当だろう。そんな事よりも今はこの問題を解決する術を見つけなくては。


「うーむ………そうじゃ、童が魔法でこの試験会場を吹き飛ばして何もなかった事にするのはどうじゃ? 主の力を使えばその程度簡単じゃ。それにムーシェを攻撃しようとしたらやり過ぎたと言い訳も出来るぞ?」


「ああ、なるほど。それは良いかもしれませんね。ついでにこの馬鹿兄を他の国まで飛ばしてしまっても構いませんよ?」


「酷い、酷いよリンシェ!? 昔はあんなにお兄様お兄様って慕ってくれていたのに!!」


「え? 記憶の捏造は止めてくださいキモイですお兄様。司羽さんが私のお兄様だったらよかったのに………そうすれば私はルーン様の妹になる事でしょうし。」


「そんな………もう僕は生きていけない…………。」


 リンシェの言葉に打ちのめされてガクッと膝をついたムーシェに憐れみの視線を送りつつ、司羽はあるヒントを得ていた。その様子に気付いたのか、ユーリアは司羽の方に視線を送ってきている。


「どうかなさいましたか?」


「いや………そんな事したら試験妨害で無条件失格くらうかもしれないし、トワのは流石にやり過ぎとしても、パニックを起こすってのは案外良い作戦だと思ってな。監視員が直接こっちに状況を把握しに出向かないといけない様な対処に困るトラブルが広範囲で発生すれば、入口付近の監視員も出払うだろうし。」


『なるほど、道を塞いでいる教師をおびき寄せるわけですね。』


「ああ、でも肝心の内容が思いつかない。本気で試験をやり直しにさせるようなレベルのパニックや不自然過ぎるトラブルは、ミリク先生辺りなら俺が何かしたって気付くかもしれないんだよな………どうもあの先生は苦手だ。誤魔化しきれる気がしない。あんまり暴力的手段に出たくはないしな。」


 そんな問題だったら確実に原因究明をしてくるだろうしな。昨日問題を起こしたばっかりなのにそんな事になったらまず俺が疑われるし。俺がやったってバレたら混乱させた責任をとって試験失格もありえる。ぶっちゃけ俺が落ちても入れ替え試合で上がってくればいいだけなんだが、リアにも付き合わせる訳にはいかないし。でもそう考えると浮かばない、先生をおびき出す事が出来て、笑い話で済みそうなトラブルとなると………。


「駄目だ、思いつかないな。」


『そうですね………一応外につながっている非常用のワープゲートを使う手もありますが、普段は魔法で施錠されて解放されていませんし。あそこの魔力強度は此処に来ていない他の先生達が逐一見ていますから、無理矢理開ければ確実に分かります。そんな事が出来る人間はやはり少ないですから、結論からいえばバレますね。』


「なるほどな。外に直接通じてるなら利用できそうだけど………俺は魔法は良く分からないからな。そこは反則に使われやすそうな所だからジャミングしても寧ろそれで気付かれるだろうし。でも、時間もないしな………。」


ピンポンパンポン


「えー、連絡します!!」


 司羽が危険を覚悟で強行突破で行こうと本気で考え始めたその時、樹海にミリクのアナウンスが響いた。司羽は試験終了の合図だと思い、つい舌打ちをしてしまった。だが、ミリクから次に発せられた言葉は司羽の予想とは全く違う言葉だった。


『司羽君、司羽君、至急こっちに戻ってきてください。お姫様が限界みたいです。私もあれをどうにかする勇気はないですから。非常用のゲートが近くにあればそれ使ってもいいので速やかに控室まで戻ってきてください。ちょっと本当に急いでくださいね? 私の責任になりかねないんですから。試験とかどーせ誰とも戦う気ないんでしょ? だから早くしてください、十分以内に来なかったら失格にしますからそのつもりで。繰り返します……。』


「…………は?」


 ミリクのアナウンスが繰り返される中、司羽は呆気に取られた様にユーリアに視線を送った。ユーリアも驚いた様に司羽を見ている。まぁ、何はともあれ。


「理由は分からないけど、助かったみたいだな。」


『司羽さん、取り敢えず急ぎましょうか。ゲートは学園の外につながっているのでユーリアにはそこで待っていてもらいましょう。』


「………分かりました。」


「では、私とお兄様はここで。」


 ユーリアがそう答えると、リアは樹海の奥の方を指差した。確かにあっちの方に何か魔力を感じる。恐らくそこがゲートなのだろう。司羽は頭を下げるリンシェに微笑みかけた後、三人を連れてワープゲートへと向かった。十分とは無茶な要望だが、取り敢えずはこの偶然に感謝する事にしようと、司羽は一人笑ったのだった。

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