第20話:入れ替え試験の始まり
あけましておめでとうございます。今年も絆録を宜しくおねがいします。
「えーそれでは今回の入れ替え試験の説明に移らせていただきましょう、シノハちゃん。」
「今からお前達をペアごとに二つに分ける、司羽がいるから一応説明するが、これは人数が多すぎる為だ。これについてはいつも通りペアの中で学内順位の高い者を基準に高い方からAとBに分かれてもらう。………ルーン、そう睨むな。私も悪気があってこうしているわけじゃないんだ…………おい、司羽、なんとかしろ、冷や汗が止まらん………。」
「無理です。」
入れ替え試験当日、今日はルーンもちゃんと目覚めたようで、元気にシノハ先生へと不平の視線を送っている。だが、ルーンとはとことん離される様だ。まぁミシュもいるし、ルーンは心配いらないだろう。心配なのは八つ当たりされるであろう犠牲者だ。
「取り敢えず場所は訓練所の五番と六番を使用します。あそこは天然の樹海になってますからねー、迷わないように気を付けてくださいよー?」
「おいおい、大丈夫なのかそれ。」
「大丈夫ですよ、最悪の場合でも直ぐに救助出来るようにしてますから。」
「えー、今回のルールだが、面倒なのでプリントに纏めてきた。アリエス、配布を頼む。」
「はーい。」
回ってきたプリントの詳細に眼を通す。……なんだかかなり本格的なサバイバルになりそうだ。
入れ替え試験概要
・今回の試験は数日をかけて行う。(夜間有り)
・フィールドは訓練所五番六番の樹海を使用する。
・試験中は個々に専用の腕輪をする。防御フィールドを発生させる腕輪ではあるが、あくまで試験中の重大な怪我を防止する為の物である為魔法や物理ダメージを減少させる事は出来ない。
・腕輪は体の表面にフィールドを展開し、ダメージが蓄積されると腕輪の安全装置によって失格判定がなされる。尚、ハンデとして上位のクラスになるに従い失格の耐久度が下がる。
・腕輪が外された場合失格とする。
・ペアの内で片方が失格となった瞬間に試験を継続する資格が消滅する。
・失格後は各自指定の控室へと集まること。
・試験開始時刻は十時を予定している。尚、これはフィールドへは十時から入る事が出来る為その間に散策やターゲットのマークなどの行動は各自の自由であるという事である。この時は腕輪のフィールドが強化されている為、魔法や物理攻撃は無効化される。この強化が解除されるのは十時三十分を予定している。
・失格の順にクラスが決定される。
・食糧等は支給エリアで教員から受け取る事。二十四時間体制で受け付けているが支給するのはその日一日分のみである為、長期に渡る生存者は何度か取りに来ること。
・人数が規定数まで減少したら試験終了とする。
と、まぁこんなことに加えてシノハの熱弁が書かれていたが、それは別にいいだろう。
「大まかな事はこれに書かれてるんですが、何か皆さんから質問はありますか?」
「はい。」
「はい、なんでしょう司羽君? スリーサイズは95・60・93ですよ?」
「…………数日に渡ってとありますがその間外部との連絡は取れないんですか?」
「照れ屋さんですねぇ、司羽君は。ちなみに外部との連絡はフィールドから出ないという条件化でならいいですよ。例えば緊急の用事やラブコールなんかは支給エリアの教員あたりを使って伝える事は出来ます
。」
さらっとスルーした司羽に不満そうな表情になりながら、ミリクは答えた。余計な答えも一緒について来たが。
「他にはありますか?」
「あと一つ。この十時から三十分の間のフィールド強化されてる時間は攻撃自体はしてもいいんですね?」
「………まぁルール上は可能ですけど………無駄ですよ?」
「いえ、可能ならいいんです。それが聞きたかっただけなので。」
なるほど、可能なのか。フィールドの強度ってのはどんなものなんだろうか?
「えーっと、取り敢えず他に質問はありませんね? ならそろそろ十時なのでA班B班共に各選手控室へどうぞ。」
ミリクがそういうと、全員が一斉に動き出す。視線を振ると、教室の後ろの方でリアが待っていた。今日から何日かは一緒に行動する事になる。前の覗き騒動の時から少しギクシャクした感じがあったので出来ればこの数日で仲良くしたい物だと思う。あれは完全にこちらに非があったのだし、もう一度期を見て謝っておいた方がいいのかもしれない。司羽がそんな事を思いながらリアの方に向かうと隣にいたルーンが服の袖を引っ張った。
「司羽、頑張ってね。私も私の体には誰にも触れさせないから。」
「ああ。ミシュと仲良くやるんだぞ? ミシュも、ルーンの事頼むぞ。」
「………仕方ないわね。主席に迷惑を掛けるわけにはいかないし、司羽と同じクラスに入れてくれたマスターにも悪いから、少しは真面目にやってあげるわ。」
「ああ、そうしてくれ。ミシュともまた一緒に授業受けたいからな。」
「………まぁ、主席がいるんだから大丈夫でしょう。」
司羽がそういうと、ミシュナはふいっと顔を背けてしまった。なんだかちょっと顔が赤い。照れてるのが丸わかりだ、その代わりに嫉妬オーラを出し始めたのが一人いるが。
「ルーン、頑張れよ。ルーンとはずっと一緒にいたいからな。」
「………うん、頑張る。…………司羽……。」
「なん………っ。」
「ん………んっ、ちゅっ……………大好き………。」
不意打ちで飛びついて来たルーンを受け止めると、ルーンがそのままキスを求めてきた。周りからの好奇の視線が痛いが、もう遅い、後の祭りだ。
「はぁっ………行くわよ、主席。」
「うんっ。それじゃあ司羽、頑張ってね。」
ミシュナが呆れた声でそういって教室を出るのに応じて、ルーンも一緒についていく。………さて………。
「リア、俺達も行くか。」
『………刺激が強すぎます………。」
「すまん………。」
やっぱり自重を覚えた方がいいのかもしれない。入れ替え戦の前だというのにそんな事を考えている司羽だった。