第19話:ある放課後と花言葉
一か月オーバーしてしまいました、申し訳ありません。
もう少し早く投稿する予定だったのですが、編集に時間がかかってしまいました。
さて、こちらの作品は今年最後の投稿になるでしょう。皆さん、良いお年を
「あ、泣いてる時にずっと抱きしめててくれる司羽君が戻ってきた!!」
「本当だ、優しくていつもルーンちゃんの事考えてる司羽君だ、おかえりー♪」
「…………。」
授業を終えてクラスに戻ってきた司羽は、クラスメイトから『歓迎』の言葉を受けて、絶句した。教室の空気が異様なピンク色をしている様にも見える。そしてその空気の中、全員の視線が司羽へと送られていた。
「………ミシュ、これはなんだ?」
「ああ、これ? 首席がミリク先生につつかれて、あんたと付き合ってる事を吐いた上に皆に司羽との事をノロケまくった結果よ。『優しくて強くてかっこよくて料理や家事が出来て、私をいつも気にかけてくれて、泣いてる時には優しく抱きしめてくれて、いけない事をした時にはちゃんと怒ってくれて、我が儘を言っても何だかんだで全部聞いてくれるくらい私に甘くて、一番辛い時に慰めてくれて、私の心を救ってくれて、私を自由に出来たのにそれよりも私の本当の幸せを一番に考えて優しく撫でてくれて、いままでの全部を捨てても私の傍にいる事を選んでくれて』…………後なんだったかしら?」
『途中に、『私の髪を綺麗だって言って褒めてくれて』と、『私といつも添い寝をする時にベッドから落ちない様に気をつけてくれて』が抜けてます。他は………すいません、覚えていません。』
ルーンが言ったらしい恥ずかし過ぎる発言を真似る口調で言ったミシュナと、訂正を加えたリアに、なんだか司羽は頭が痛くなり帰りたくなった。………先程、ルーンとの事で面倒な事になるだろうとは思っていたが、まさかこんな形で恥ずかしい思いをするとは司羽も思っていなかった。
「あら、『初めてで怖かったけど、司羽がずっと優しく抱きしめてくれて凄く嬉しかった』っていうのも言ってましたよ? ………ふふふっ、まさか二人がそんなに進んでいたなんて思いませんでした。見直しましたよ、司羽君♪」
「………ミリク先生、怨みますよ? というかそんなギリギリアウトな事まで言ったんですかルーンは。」
「本当はあのルーンさんが恥ずかしがる所を見てみたかったのですが、私にも予想外な反応をしてくれました。………ふふふっ、司羽君からはどんな話が聞けるのか、いまからもう楽しみで先生息を荒げちゃいます♪」
そういって心底楽しそうな笑みを浮かべながら本当に息を荒げるミリクのSっ気の強さにかなり引き気味になりつつ、ミリクを出来る限り無視してこの噂の元凶を捜す。
「………おい、ミシュ。ルーンは何処に行った?」
「噂を聞き付けた耳聡い子達にノロケながら足止めを喰らってるわ。……まぁ、でもそろそろ来るんじゃないかしら? 取り巻きは多いでしょうけど、あの子に簡単に声を掛けられる人なんてそうそうにいないでしょうし。………私は人混みが嫌いだから抜け出して来ちゃったけど。」
『すいません、私もです。』
「………いや、謝らなくてもいいよ。もう手遅れなのが分かったし。」
司羽が溜息を着くと同時に廊下が騒がしくなったのを感じた。気配からして、恐らくルーンが戻ってきたのだろう。そう考えるのと同時に、廊下からルーンの物らしき気配が単独でこちらに近付いて来た。
「司羽!!」
「うわっ、いきなりどうしたんだ!?」
「司羽の気配がしたから走ってきただけだよ? それより聞いて聞いて、私と司羽がお似合いだって!! 今年のベストカップルかもですね、だって♪」
教室に入って来るなり飛び付いてきたルーンを真っ正面から受け止めると、ルーンはそのまま司羽に抱き着きながら、ふにゃふにゃの笑みを向けた。………あまり言い触らさない様に注意しようとしていたのだが、そんな気が一瞬で無くなってしまった。………もしかすると、自分も結構ルーンの事を言えないのかも知れない。
「そうか、それは朗報だな。」
「うんっ、でも新聞部の記者さんが来て司羽の良いところ聞いてきたから戻ってくるの遅くなっちゃった。」
「………さっきのやつか………話してきたのか?」
「うん、全部は話しきれなかったけどね? えへへっ、ギュッってして司羽。」
一目を憚らずに愛情表現を繰り返すルーンのお願いを聞くかどうか一瞬迷ったような迷わなかったような、そんな感じでルーンの要望に応えた。……やっぱり、結局は自分もルーンと何も変わらないのだろう。
「司羽、新聞部の記者の人が居心地悪そうにしてるわ。そろそろ貴方も戻って来なさい?」
「え? ああ、ごめんごめん。………でも、俺インタビューとかされても………。」
「………い、いえ、もう充分ですっ。ルーンさんの言葉がありますし、インタビューはいりません。それではっ。」
ミシュナの言葉に司羽が視線を移すと、記者らしき人は赤くなっていた顔を更に真っ赤にしながらそういって去って行った。
「ルーンの言葉って………色々まずくないか?」
「貴方の行動もね。手遅れよ、諦めなさい。」
冷たく言い放つミシュナの呆れ混じりの視線を受けて、羞恥が戻って来た気がしたので、急遽話題を変える。
「………まぁ今更言っても仕方ないし、これ以上人が集まらない内に帰ろうか? そろそろルーンとトワを連れていって紹介しないといけないって思ってたし。」
「………? 司羽が行くなら私は何処にでも行くよ。一緒に連れてって。」
「………司羽いい加減にして、聞いてて私まで恥ずかしくなるわ。」
「…………俺のせいか。」
ミシュナがそういったのを聞いて、司羽はルーンが来る前より教室が静かになっているのに気付いて、非常にいたたまれなくなった。そして、隣から服を引っ張っているトワに気付いた。今日は暖かいのでお昼寝の時間にしていたのだが、どうやら名前が出たので呼ばれたと思ったらしい。
「……んっ、主………呼んだかの……?」
「いや、寝てて良いぞ。後で起こすから。」
「………そうか、主に必要になったらいつでも呼んでいいからの?」
わざわざ起きて来てくれたトワを軽く撫でてやると、幸せそうに司羽に抱き着いて、そのまま心の中へと戻って行った。
「………本当に………タラシ。」
「…………すいません。」
顔を赤らめたミシュナのその一言に、抗い難い物を感じて、司羽は素直に謝った。
「初めまして、司羽の妻のルーンです。司羽がお世話になっています。」
「トワじゃ、宜しく頼む。」
「ああ、宜しく。………ところで司羽、お前いつ結婚したんだ?」
「結婚はしてません、付き合ってますけど。」
お互いの挨拶が終わり、マスターからの疑問にさらっと受け答えをする。……別に嫌じゃないんだが、何だか今朝からルーンが暴走してる気がするな、彼氏の責任としてはしっかり言い聞かせないといけないのだろうか? ………決して、ミシュの視線が痛いからではない。
「ルーン、俺達の関係をちゃんと知らない人には誤解されやすいからちゃんと真実を……。」
「………司羽は……私と結婚したくないの………?」
「……はい? ……いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて………。」
「……はぐらかすなんて、やっぱり嫌なんだ………司羽の物になれない私なんて要らない……次は司羽好みの女の子に生まれて来るから、待っててね………?」
うん、言い聞かせるとか無理。てか、ルーンの口から赤い物が……………あれはヤバい。
「ちょっと待てっ、舌を噛み切ろうとするな!! っ……本気で噛みやがった……。」
「むーっ……はにふるのふはば。」
「何するのは俺の台詞なんだが……。」
咄嗟に口に手を入れて阻止したが………指が凄く痛い。まさか本気で『要らない』と思っているとは………何だか迂闊な事が言えなくなってきたな………。
「マスター、何か飲むもの頂戴。喉渇いちゃったわ。」
「………あれは、止めなくていいのか?」
「いいのよ、止めたところで司羽の言うことしか聞かないし。目の前でイチャつかれると鬱陶しいから見ないことにしてるの。………ほら、トワもこっち来て何か飲みなさい?」
「………あのピンクなのはなんじゃ……?」
「ああ、あれね。マスター、お姫様のご注文よ。……確か、何かの花のエキスを抽出したお酒だったかしら?」
「………ああ。」
マスターはミシュナとトワから、一瞬視線を司羽とルーンに移し、溜息とも取れる息を吐いた後に視線を戸棚のピンク色の酒に移した。どうやら三人とも司羽とルーンの事は無視をする事にしたらしい。
「ふふふっ、ここにあるお酒の事は大分覚えたわ。まぁ、味に関して諸事情により責任持てないけど。」
『俺もルーンと結婚する気がないわけじゃないんだぞ? 寧ろばっちり責任を持つつもりだ。』
「………相変わらずどんなアルコールの薄い酒でも一口と飲めないようだからな。」
『本当……? もし嘘だったら私が口移しで司羽に毒を飲ませるよ?』
「ミシュナは酒が苦手なのか。妾は主が酔っている所を見たいのぅ………ふふふっ、今度一緒に飲んで貰おうかの。」
『あ、安心してね? 司羽がいない世界に興味なんてないし、私も一緒に飲むから。キスしたまま一緒に死のう?』
「…………あああああああっ、もう!!! 後ろで怖い会話しないでくれない!?」
「………ふぅ、やはり我慢出来なかったか。」
「いや、無理じゃろう。妾達の会話に微妙に同調しとるのが余計に気になるしの。」
段々と瞳の色が危なくなり始めたルーンにミシュナの我慢が断ち切られた。司羽も正直一人ではかなり心細い。………前々からルーンは黒くなる事があったが、どうやら方向性が固まってきたらしい。更に言うなら威力(?)も上がっている様な気がする。これは……一つの誤解で物凄い被害につながったりするかもしれない。
「主席ちゃん、こっちに来てこのお酒を司羽と飲むといいわ。これはフルメントって花のエキスを抽出したお酒なんだけど、フルメントの花言葉が面白くてね、『束縛』、『依存』、『永遠の繋がり』なんていう花言葉があるの。」
「へー私達にぴったり。司羽、あれ飲もう?」
「………了解。」
「ミシュナ………お前よくそんな事知ってたな………。」
「ミシュナは博識じゃのぅ。」
その後、フルメントの酒をルーンが満足するまで口移しで飲まされ、トワにちょっと羨ましそうな眼で見られながらミシュナの嫌味を長々と聞かされた。マスターから貰ったちょっと強めのアルコールがちょうどよく感じてしまう、そんな放課後だった。