第18話:明日の天気は嫉妬ハリケーン
ビリッ、ビリッ、グシャッ
「先生、冗談が笑えない。本物はどこにあるの?」
「……あ、あのな、ルーン? そういうのは出来れば破く前に言って欲しいんだが……。というか、お前にそれを破かれると私は凄く困ってしまう。仕事的な意味ではなく………主に、個人的な反応で。」
「でもこんなの納得出来ない。今の私と司羽の相性はこれ以上なく良いはずです。まさか、本当に私以上に相性の良い人が居たんですかっ!?」
「………ルーン落ち着け、皆驚いてる。」
女子の方の検査も終わり、トワが帰って来たので司羽も教室に戻ると、シノハが教室に結果を張り出して………それをルーンに破かれ、破棄されている所だった。……何となく、結果が予想出来るが……。取り敢えず、唯一この場の雰囲気に呑まれていないらしいミシュナに、説明を求める視線を送った。
「………俺とルーンは誰と組む事になったんだ?」
「司羽はリアと、あの子は私とよ。……どうやら、あの子は完全に司羽と組めると思っていたみたいね。特に貴方達は付き合い始めたばかりだし、あの子がそう思っても何も不思議じゃないけど。」
「どういうことだ?」
司羽がそう聞くと、ミシュナは司羽が魔法について詳しくない事を思い出した。昔から傍にいるような気がして、たまに忘れそうになるが司羽はこちらの世界の人間ではなかったのだ。
「簡単に説明すると、魔力の相性ってお互いの事を深く意識してたり、同じ気持ちを抱いていれば自然と良くなる物なのよ。こっちに疑似召喚みたいな事出来てる時点でかなり魔力の相性はいいんでしょうけど、今はそれだけじゃない。あの子がちょっと病的なまでに貴方の事を好きなのは今更言わなくても分かってるでしょうし、貴方だって恥も外聞もなく私の部屋にトワを押しつけてくるくらいにはあの子の事を愛してるんでしょ? 苛立って当然よ、あの子にしてみれば二人の間にある物を侮辱された様な感じでしょうから。特に貴方が待たせてたせいで喜びも凄く大きかったでしょうしね………そういう意味では司羽にも責任があると思うわ。」
「なるほど、正直そういわれると俺も思うところがあるな、俺はまだルーンの相手がミシュだったからいいけど、もし別の男とかだったらかなりムカつくだろうし、ルーンも似たような感じなのか。…………ところで、なんだかミシュの言葉に凄く棘を感じるんだが………もしかして怒ってるか……?」
「………割と、かなり、昨日の夜くらいから。今の発言もなんだか惚気られたみたいでイラっときたわね………何か言うことは?」
「あー………その……すまん。」
司羽がなんと言っていいかわからず、取り敢えず素直に謝ると、ミシュナは深く溜息をついて視線を逸らした。……なんだろう、俺はまた何かやってしまったのだろうか? ………よし、取り敢えずこの話題は危険だ、早急に逸らそう、うん。
「………ま、まぁ、取り敢えずよろしく、リア。組んだからには頑張ろうな?」
『あ、はい、よろしくお願いします。……ですが、本当に宜しいのでしょうか……? 正直私も司羽さんとルーンが一緒の方が自然な気がするのですが……。』
リアはルーンの方を見ると、そういった(書いた?)。ルーンはリアの視線に気付いたのか、こちらを振り向くと、優しく微笑んで………直ぐにシノハに冷たい視線を送った。理由の説明を求めるという事だろう。それを受けて、シノハは若干押され気味になりながら口を開いた。
「あー………た、確かに、お前達の魔法的な相性は一番良かったし、仲が良いのも分かってはいる。私も、本来ならルーンと司羽を組ませようと思っていたのだが………いつもの二人を見ている限り、リアと司羽の相性が妙に良いのが気になったんだ。ルーンやミシュナ程ではないのだが、ルーンとリアがよく一緒にいる事を考慮しても、それほど接点があるようには思えないのに高い値を出していたのがな……。やはり色々と試してみるべきだと判断したんだ。」
「………リアにミシュちゃんとも相性良いんだ、司羽。」
「………流石タラシね。」
「………俺が責められるのは理不尽過ぎやしないか……?」
ミシュナが呆れた様に、ルーンが睨むように、リアからも表情は分からないが視線が飛んで来ているのが分かった。それを見て楽しそうに笑っているミリクが凄く恨めしい。
「ごめんなさいね、ルーンさん。シノハちゃんは教師として貴方達の事を考えただけで悪気はなかったの。司羽君とルーンさんはいつも一緒にいるから新しい発見もあるかもしれませんし。シノハちゃんには乙女心をしっかりと教え込んでおくから、今回は許して?」
「………実際は、私と司羽の相性が一番良かったんですよね?」
「ええ、これ以上ないくらい。先生としては、何がどーなってるのか凄く興味あるんだけど。」
「……うん、分かりました。ミシュちゃんと組むのも面白そうですし♪ ミシュちゃんは放っておいたら試験サボってクラスが離れかねないし。その為に私が組む事になったんでしょ? シノハ先生。」
「確かに、お前達の相性の良さもあるが………実はそういう意図もある。ミシュナも、ルーンと司羽を自分で離れさせたくはないだろう。」
「………成る程ね。私がサボったら司羽とルーンを引き裂いちゃう訳か。………この前のトワを見てる限り何されるか分からないし…………まぁ、頼んだわよ。楽させて貰うから。」
……こうして、ミシュナの溜息と共に、波乱の組分けが終わったのだった。
「なるほど、それは羨ましい状況だったね司羽。」
「……話をちゃんと聞いてたのか?」
「聞いてたよ。君が別の女子と組むのにルーン嬢が嫉妬してたんだろ?」
「……まぁ、確かにそうなんだが………俺が凄く女にだらしない男って感じがしないか、それ。」
組みわけが終わり、通常授業に戻ると授業クラスが同じであるムーシェと、先程の話になったのだが………どうやら自分は凄く幸せ者らしい。いや、自覚してないわけじゃないんだけど。
「ルーンから嫉妬される事自体は嬉しいんだけど………後が怖いんだよなぁ……。ちょうど今は通常授業に戻ってるし、帰りまでには機嫌直ってればいいんだけど。」
「でも、ルーン嬢も納得したんだろ? なら大丈夫じゃないか?」
「うーん、どうだろうなぁ。あの場には自分と組むミシュに、俺と組むリアがいたから、二人に気を使ったのが大きいと思うんだよ。」
ルーンは何だか無理矢理自分に納得させてた感じだったしな。まぁ確かに、暴走しかかってたのは魔力の相性云々の話もあったからだろうし、ルーンも常識がないわけじゃないから教師としてのシノハの言い分も分からなくはなかったんだろうけど…………昨日の今日だしなぁ……。
「たかがクラスの入れ替え試験だし、組むのがルーンの親友とはいえ、まだ付き合い始めなのにいきなり他の女と………だからな。」
「まぁ、もう決まった事なのだし、仕方あるまい。それにいくら付き合ってるとはいえ、今回は事故の様な物なのだしルーン嬢が司羽に辛く当たる事はお門違い…………。」
そこまで言いかけて、ノートを見ていたムーシェは呆然として司羽に向き直った。
「……って、ちょっと待ちなよ司羽。僕は今、君がルーン嬢と付き合っていると聞こえたんだが?」
「………ああ、そういえば言ってなかったな。俺ら昨日から付き合いだしたんだ。」
「……………それは本当かい?」
「嘘をついてどうする。」
おかしな奴だな。まぁ、友達同士が付き合い始めたと聞いたら多少驚くかもとは思ったが。でもムーシェはルーンとそんなに話すわけではないし。………これはあれか? 俺がルーンて付き合うのが信じられないってのか? 俺はそんなにモテそうにない感じの奴なんだろうか。それはちょっと凹む……。
「………入れ替え戦は気をつけた方が良いかも知れないな……。」
「……まぁ確かに今までモテたためしはないわけだが…………って、どういう事だ?」
「………去年最後の入れ替え戦で、ある女子と付き合っていた男子がAマイナスのクラスからEマイナスまで落とされたんだ……。僕のライバルみたいな奴だったんだけど………あんな人数に囲まれたら無理もないね。今回も多分バトルロイヤル形式だろうし………この事はあまり口外しない方が身のためだよ? なんせ、そいつは今だにEマイナスクラスだからね。入れ替え戦を申し込んでクラスが上がる度に他の男子が結託して入れ替え戦を申し込み、波状攻撃を仕掛けて疲労させ、最後にはまた一番下まで叩き落とされてる。波状攻撃の途中で負けた奴らも下に落ちるんだけど………何故か凄くやり切った顔をしてるんだ。」
「………最悪だな。」
ムーシェは遠い目をして窓の方を見た。まるで亡きライバルを回想する様に……。
「………まさか、恋人がいるだけでか?」
「いや、ちゃんと理由があってね。我が学園では年に一度お祭りをやるんだけど、その時に学内人気投票があるんだ………秘密裏にだけどね。」
「なるほど、そこの上位に食い込んだ人だったわけか。」
「ああ、その年の三位だった。司羽は実感ないかもしれないけど、この学園はEに行くほどクラスの人数が増えるから千人くらい生徒がいるんだ。その中の三位なんて、人気のレベルが違うんだよ。」
「へぇ………なんかこの言い回しだと、ルーンもその人気投票で結構人気があるみたいだな? まぁ、正直言って俺もルーン以上の美少女って言われると出てこないし……ミシュナ辺りなら張り合えると思うけど……。」
身内の贔屓目……というとなんだかおかしいかも知れないが、それを抜きにしてもミシュは美人だ。ルーンと年齢も同じだし、身長もあまり変わらないが、あの独特の雰囲気は人を惹き付けてしまう物がある。………顔見知りが激しく、あまり人付き合いをしないせいで暗い印象を持ちがちだが、かなり良い性格してるし………色々な意味で。
「それで、結局ルーンの人気はそんなに凄いのか? 前に人気があるとは聞いてたから多少はやっかみがあるとは思ってたけど。」
「………結果だけ言えば、ルーン嬢は前回二百票以上を集めて堂々一位、ミシュナ嬢も百八十票くらい集めて二位だった。確か二位と三位の間に百票差以上あったよ。もしミリク先生を投票対象にしてたら結構面白そうだったんだけど………一位と二位は出来レースだったね。あの二人が入ってきてから順位が変わらないし。」
「………多少のやっかみじゃ済まないわけか……。」
「ルーン嬢はずっとAプラスクラスで恋人どころか男友達すらいないような存在だった上、放課後も次元系の魔法の研究ばっかりしてて、クラスで普通に話してるような女の子が遊びに誘ってもまるっきり無駄だったみたいだし。さらに年齢が上がるにつれて人気も上がって手がつけられなくなってたしね。そんな手の届かない、皆完全に諦めモード入るような状態のルーン嬢と付き合えば、暴動が起きてもおかしくないよ。さらに言えば司羽はミシュナ嬢とも仲いいわけだし、これはいつ殺されてもおかしくないレベルだね。」
「………つまり、これ以上の男友達は出来そうにないってことか……。」
司羽がそういって溜息をつくと、ムーシェは苦笑しながら司羽に同情の視線を送った。そんな時、司羽は膝の上に、柔らかい重みを感じた。
「主、童がおるぞ。童はどんな時でも主を一人にせぬ。よってそんなもの不要じゃ。」
「………司羽、その子は?」
「………えっと……使い魔のトワだ。」
「初めましてというんじゃったかの? 主の所有物のトワと申すものじゃ。」
「…………司羽、自重しなよ?」
「……善処する。」
この後、突然現れたトワに教室中から好奇心でいっぱいの視線が集められ、授業は中断。司羽の使い魔トワの名はAプラスクラスだけでなく、学校中に広がっていくのであった。