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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第二章~恋の矛先~
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第17話:クラス入れ替え試験

「んー……、おはよう。」


「あ、ミシュちゃんおはよー。」


「………珍しいわね、貴女がこんなに早く起きてるなんて。司羽はどうしたの?」


「……ミシュちゃん………確かに事実だけどそれはちょっと酷くない………? 今日は私が司羽に朝食を作ってあげたくなったの。司羽なら倉庫に材料を取りに行ってるよ。」


 何か特別な用事があるわけでもないのに(学園はあるが、ルーンは学園の日でも問題なく寝坊するため除外する)ミシュナより早く起きてキッチンにいたルーンに、ミシュナが驚きの視線を送ると、ルーンは少し不満そうにそう返した。別に不都合があるわけではないので、ミシュナもあまり気にした様子もなくルーンを見ていると、首に掛かった蒼い宝石細工に眼が止まった。


「………その首飾り……。」


「……ああ、これってミシュちゃんと買いに行ったんだよね? そうだよ、これは昨日司羽に貰ったの。本当に司羽って律儀だよね。わざわざミシュちゃんと買いに行った事も、本当はトワちゃんの契約に使う物を買いに行ったって事も教えてくれるなんて。」


「あー、言っちゃったのね。……もう、女心の分からない奴よね、本当。」


 ミシュナは呆れたようにそう言ったが、ルーンが特に気にした様子もなく朝食の準備を進めているのを見て、内心軽く驚いていた。


「……司羽の事なのに、貴女が気にした様子がないのは驚きかも。」


「うーん、多分嬉しい気持ちの方が大きいからなのかもね? 司羽は正直に話してくれたし、他の用事で行ったのに、私の事をずっと気にかけてくれてたって事だしね。………この宝石、司羽のいた所にも在った物なんだって。『アクアマリン』って言って、司羽の知ってる国では、航海の安全を祈って船の先に付けたりする事もあったみたいなの。司羽がこっちで暮らすようになって始まった、私達の新しい生活の幸せを祈ってっていう事みたい………昨日は沢山泣いたはずなのに、その話を聞いたらまたいっぱい泣いちゃって…………司羽はずるいよね。」


「そうね、あいつには女ったらしの才能があるわ。」


 ルーンが心底嬉しそうに自分の胸元に下がっている蒼い宝石を撫でると、ミシュナは皮肉と呆れの混じった言葉で答えた。それを笑ってルーンが受け流したのを見てまた驚いたが、ルーンも成長したのを感じて、ミシュナも今はルーンの前で司羽の皮肉を言うのを止めにした。恐らく、昨日までだったら司羽の悪口一つですぐに抗議の視線を送られていただろうが………まったくもってやりにくい。それに、何だが無言で惚気られた気がして少し腹が立たなくもない。後で司羽に責任を取って貰う事にしよう。


「………取り敢えず、これは貴女に渡した方が良さそうね。」


「そういえば、ミシュちゃんには指輪を渡したんだっけ。」


「そうよ。取り敢えず、指輪はまだ箱から出してないし、貴女が持っている方が自然よ。……指のサイズは………多分大丈夫でしょ、私と貴女なら。」


 ミシュナはそう言って自分の上着のポケットから昨日司羽に渡された指輪をルーンに差し出した。だが、ルーンは表情を少し険しくしただけだった。


「…………早くしまって……。」


「え……?」


「早くしまってって言ってるの。今は私が自制してるけど、それを渡されたらきっと自分で壊しちゃうから。せっかく司羽の想いが籠ってるのに、そんなことしたくない。」


「……そんなこと言われてもね……。」


「それにはミシュちゃんへの想いしか入ってないから、ミシュちゃんが持ってる方がずっと自然だよ。………それに私、そんなのを渡されたら本当にどうなっちゃうか分からないよ……? 指輪だけじゃなくてミシュちゃんも壊したくなっちゃうかもしれない。」


 ルーンは昨日僅かに垣間見せた、司羽やトワを責めた時と同じ様な瞳でそう言った。もしかしたら、ルーンは凄く危険な方向にも成長してしまったのかもしれない。小刻みにストレスを発散出来ないということは、それら全てを溜め込み続けるということで……。


「ミシュちゃんには、私と司羽の事をあんまり気にし過ぎないで欲しいの。司羽だって、私との指輪は、その時が来たら私だけの為に用意してくれるって言ってくれたし。だから、私の大事な司羽の想いを、誰かにあげたりするような事は二度としないで欲しいな。………勿論、司羽の好意が迷惑だって言うなら今すぐにこっちに渡してもらって構わないよ、粉々に砕くから……。」


「それは……遠慮しておくわ。」


「………そう? 心変わりしたらいつでも言ってね。」


 いつもと同じ調子で抑揚なく捲くし立てたルーンに、ミシュナは若干引き気味になりながらそう言った。

 ………指輪をくれた司羽には悪いが、どうやらこの指輪をつける為には色々と覚悟をする必要がありそうだ。


「はぁっ………準備、手伝うわ。」


「うんっ、ありがとう♪」


 取り敢えず全てを忘れて気持ちのいい朝食を取るべくミシュナがそう提案すると、ルーンはいつも通りの無邪気な笑みでミシュナのそれに答えた。トワも起きてくるだろうし、そろそろ司羽も戻ってくるだろう、ルーンの事が気にならないではないが、少しは自分のストレスも発散させてもらうことにしよう。ミシュナがそんな事を思っていると廊下からバタバタと騒がしい音が聞こえた。


「ミシュナ!! た、大変じゃっ!!」


「何よ、朝から騒がしいわね……。」


「どうしたの、トワちゃん?」


「る、ルーンは無事なのか!? 今主の部屋に入ったら寝具に沢山血がついっ……むぐっ……。」


「……トワ、私が良いって言うまで入っちゃ駄目っていったでしょ……。」


 キッチンに入ると同時に捲くし立てたトワの口を塞ぎ、朝になってトワに注意するのを忘れていた事を悔みつつ、ミシュナはルーンの様子を見た。


「…………ねぇミシュちゃん。一人にしちゃうのも可哀想だし、少しの間トワちゃんと一緒に寝てもらっても……。」


「……いい加減にしなさい!!」


予定変更、朝だけと言わずしばらくは司羽で日ごろのストレスを発散させてもらう事にしよう。具体的にはこのやり場のない感情が消え去るまで……。










「入れ替え試験……?」


「そうですよ、司羽君は初めてですよね。前にも説明したと思いますが簡単にいえばクラス替え試験です。実力順に並べるだけなので難しく考えないでいいのはいいんですが、準備なんかが凄く面倒なんですよねー。」


「だが、この時期になると皆の士気が上がるしな。教師としてはこれほどやり甲斐のある時はない。」


 朝のHRでミリクとシノハが温度差のある連絡をすると、クラスの雰囲気が変わったように感じた。そういえばこの学園に来た時にはムーシェが入れ替え戦をいきなり挑んできた事もあった。それから察するに、このクラスはここの学院生にしてみればかなり重要な物なのだろう。


「今回の試験はペアで行う。協調性が大事になって来るからな、個人プレイは厳禁だぞ。とはいっても、ペアはいつも通り同じクラス内で相性の良い者同士を選ぶ事になっているから、まったく知らない者と組むということはないので安心してくれていい。……一名男子がいるからそのペアはもしかしたらギクシャクしてしまうかも知れないが………お前達が兵士になった時、男も女も関係ない。ここを戦場だと思って挑むように!!」


「シノハ先生、私は研究者志望だから兵士に興味なんてないけど、司ぴーと組んでみたいなぁ。王子様に守ってもらうのって一度味わってみたかったんだよね。司ぴーは個人的に全然アリだったりするし♪」


「あ、ずるいよユラ!! 抜け駆け禁止!!」


「やるわね司羽、凄い人気じゃない。浮気の許可も出てることだし、主席とトワの他に三人目を狙ってみたら? このクラスはレベル高い子ばっかりよ?」


「ミシュ、その冗談は笑えない。昨日の今日でそれは殺されたって文句言えないぞ。」


 なんだか向こうの世界にいた時とはまったく違う大人気具合なのは正直悪い気はしないのだが、これで喜ぼうものなら完璧にルーンの嫉妬心を買うことになる。実際最初の発言の辺りから、珍しくこの時間からHRに参加しているルーンから発せられる空気が痛いのだ。


「私で満足出来ないっていうなら、体だけならいいんじゃないかな。私は司羽以外に体も心も触らせる気はないけどね? そうだ、心がぶっ壊れてていいなら今から………。」


「いや、怖いから。それと、痛い。ルーン、腕を掴むなら優しく頼む。」


「うぅ……ルーンよ、そろそろ交代して欲しいんじゃが……。」


「あ、ごめんね。はい、次はトワちゃんの番。」


「………愛されてるわね、司羽。」


 そう言ってルーンとトワは座っていた場所を入れ替えた。ルーンの席に座っていたトワがどこに移動したのか、答えは簡単俺の膝の上。ルーンとトワが昨日締結していたらしい『司羽相互甘え条約』(命名ミシュナ)は健在らしい。それより気になるのが、なんだかさっきからミリク先生がホクホク顔でこっちをみてることだ。後で絶対につつきまわされるな、これは。


「落ち着けお前らっ!! 相性次第だと言っているだろうが……。それに、なりたい職や夢があるなら上を目指せ。特にユラとアミリス、今回はお前が行きたがってる国立魔道遺跡研究所の人間もチェックを入れるんだからな。男にうつつを抜かしてる暇なんかないぞ?」


「大丈夫ですよー。司ぴーとドラマチックにアピールするから。」


「ええ、任せてください。研究所の方のハートも司羽さんのハートも射止めて見せますから。」


「分かってると思うが、今回も内容は戦闘だぞ……? お前ら、一体何をアピールする気だ……?」


 大きく溜息をついたシノハと何やらやる気が満ち溢れているクラスメイト二人に視線を移しながら、司羽はある可能性を見出しつつあった。……あくまで予測なのだが……これが真実だとしたら、少々不愉快だ。


「司羽? どうしたの? 何か不安な事でもあるの?」


「え? ああ、いやそういう訳じゃないんだけど………ルーンから見ると本当に顔に出やすいみたいだな、俺は。」


「だって司羽の事だもん。」


 分からない訳がないと言わんばかりにそう言ったルーンの頭をぽんぽんと叩きながら、取り敢えずその場は忘れる事にした。どうせ直ぐに確かめる機会がくるだろうし。


「さて、そういうわけで今日は定例の魔力検査を行う。ペアになりたいからってイカサマしないようにな。」


「取り敢えず男子は私、女子はシノハちゃんに任せましょう。早く終わって趣味に専念したいですし♪」


「職権乱用だ……。」


「まぁ、かんばりなさい。」


 その宣言の後、ミリクの瞳が光ったのを視界の端で捕えながら、司羽は大きく嘆息した。










「んー……相変わらず魔法はまったく使えないんですねー……。」


「まぁ、自分が元居た場所では必要ありませんでしたしね。」


「本当に不思議です、魔法無しで生活出来るなんて。司羽君の身体能力も十分に不思議ですけど。」


 ミリクと一緒に教室を移動したのは良いが、結局魔法の類がまったく使えないので魔力を計測することが出来なかった。まぁ、いきなり魔法が使えるようになるってのも都合よすぎるけど。


「でもどうしましょうか、魔力が測定出来ないと相性の問題も解決しません。……もう司羽君の好みで決めちゃいましょうか? ぶっちゃけA+クラスでは誰が一番好みなんです? 先生に教えてください。」


「あんたそれが聞きたかっただけだろ!? 職権乱用にも程があるぞ!!」


「いいじゃないですかー。ちゃんと一緒になるようにしてあげますよ? シノハちゃんは基本私の言うことに反対しません、というかさせませんし、あの子達の中に好みの子がいないっていう事はないでしょう? やっぱりルーンちゃんですか? あの子は司羽君にべったべたですもんね。あの子って凄いんですよ? あの歳で次元魔法学の独自の理論を打ち立てて発表した天才ですし、本気を私も見たことがありません。でも私的にはミシュナちゃんも司羽君には合ってると思いますよ? なんだかんだでいつも傍にいるのを見ますし。個人的にもあの子の事は前から気になってたんですよ。魔力も学力も下手すればルーンさん以上なのにいつも入れ替え試験の時はサボってましたし……ほら、あの子の時は司羽君の時ほど騒ぎにならなかったでしょ? あれは皆あの子の強さを知ってるからなんです。ただ、いつも一人でいましたから、この期に司羽君とくっついちゃえばいいかなーなんて思ったりもしてるんです。でも同い年がいいっていうならセリアちゃんとかもいい感じ……。」


 司羽の意見を無視して次々と言葉を並びたてるミリクに唖然としながらも、なんとかこの状況を切り抜ける方法を考えて………ある一つの方法が浮かんだ。


「おいで、トワ。」


「んむ? どうかしたのか、主。」


「なるほど、トワちゃんがいいんですか。でも、トワちゃんは使い魔扱いなのでパートナーは別に決めなければなりませんねー。……ここは年下とか狙ってみたらどうですか? 例えば……。」


「落ち着いてください先生。魔力を測る方法が見つかったんですよ。」


「……えー………。」


「なんでそんなに不満そうな顔するんですか……。」


 司羽がそう言うと、いままでキラキラと輝いていたミリクの表情がいきなり失望と絶望の色に染まった。なんていうか、本当に分かりやすい先生だなー……この人。


「トワは俺の魔力やらエネルギーを吸い取っているらしい事を言っていたので、トワに魔法を使ってもらえば全部解決です。」


「はいはい、そうですねー。分かってましたよそのくらい……はぁっ………。」


「……主よ、童は出てきて良かったのか? なんだか凄く罪悪感が沸き出てくるのじゃが。」


「ああ、トワがいてくれて助かったよ。ありがとな、トワ。」


「えへへっ、主がそういうなら。」


 というかこの人分かってて今まで黙ってたのか……本当に油断ならないな。まぁ、取り敢えずこれでなんとかなるな。


「司羽君の魔力とはいえ、トワちゃんは女の子です。女の子用の検査機はシノハちゃんの方にありますから、第三魔法室に行っていただけますか? それと、司羽君は残ってください。一応最低限の健康診断がありますから。」


「トワそういう事らしい、お願い出来るか?」


「うむ、わかった。ルーンやミシュナの魔力がある部屋に行けばいいのじゃな? 行ってくる。」


 司羽がそういうと、トワはその指示に頷いて窓から飛び去った。どうやらその第三魔法室は上にあるらしいな、行ったことないから知らないが。……さて、一つ気になった事をトワがいない内に聞いておくとしようか。


「ミリク先生、聞きたい事があるんですけど。」


「……私の質問は流したくせにですか?」


「……仕事してください。教師でしょうが。」


「しょーがないですねー。」


 健康診断の準備をしながら完全に拗ねてしまったミリクに呆れながら、司羽は苦笑した。


「ちょっとした事なんですけど、この入れ替え戦って毎回皆の何を試してるんですか? スカウトまで来るんですよね?」


「何って、魔法の熟練度とかですよ? 結果的には何らかの方法で優劣をつける訳ですが、大体が戦闘行動ですね、どこからスカウトが来ても一番能力を見やすいし、結果が分かりやすいですから。司羽君は学園に入るのは初めてとの事なので知らないと思いますが、基本的にどこも似たような物ですよ。国家の中心は魔法学ですから、そのスカウトさんにアピールするにはちょうどいい機会なんですよね、この試験って。だからクラス分けっていうよりそっちメインで考えてる人が多いです。特に上の方のクラスは注目度が違いますからね。クラス変え試験前でもスタートを少しでも上のクラスで切る為にどこもヒートアップしてますよ。」


「うーん、やっぱりそうなのか。そうなるとちょっと気になる事があるんですよね、この学園の入れ替え戦とクラス替えのシステム。」


「あら、なんです? 一通りは説明したと思うのですが……。」


「そんな大した事じゃありませんよ。………ただこのクラス替えがどこの命令で、スカウトなんかでカムフラージュしながら、本当は何の意図があってやってるのか気になっちゃいましてね。だって不愉快じゃないですか、こういうの。」


「……………。」


 司羽がなんでもない事を話す様にそういうと、ミリクは珍しく驚きの表情を見せた。そして、大きく息を吐き出すと、困ったような顔をして司羽に答えた。


「頭の良い子ですね、貴方は。流石に驚きました。」


「この制度は色々おかしいですからね。他の教科を全て省いて魔法学でのみクラス分けテストを行うのは……まだ魔法学を特化しているというなら分かります。ですが、シノハ先生の発言を聞く限りその内容は戦闘。さらにその結果を後から入れ替え戦なんて暴力的な手段で容易に覆せるようにしてある。それに、高々一つの学園のクラス替えテストを直接国家機関が見に来るのも気になる。そうやってクラス分けして優劣をはっきりさせれば、皆も上に上がるために戦闘技術を磨きますからね。傍目から見れば優秀な人材の輩出を目標とした魔法の専門学校なんでしょうが、内容があからさま過ぎますね。どこもかしこも戦闘技術を上げさせる為の機関にしか見えない。ここの学園以外でもやってるならなおさらおかしい、国家機関からのスカウトっていう餌までつる下げて………戦争でもする為の人材育成でもしてるんですか? ここの国は。」


「……貴方のような子を見るのは初めてです。たかがクラス替え試験の事でここまで色々な事を見抜くなんて。」


「じゃあ、俺の推測は当たってるんですか?」


 司羽が真剣な眼でミリクを見ると、ミリクはその視線を真正面から受け止め……優しく微笑んだ。


「うーん、半分正解って所でしょうかね。」


「半分………ですか?」


「ええ、表ではスカウト目的の品評会ですが、結論から言えばこのクラス替えテストは各国のパワーバランスを殺戮以外の方法で解決する手段として使われています。昔は戦争状態が長く続いた事もありましたが、各国共に疲弊が酷く、それを教訓にしましてね。各国共にこの形態の学園を規定数建設し、そこの生徒の能力を数値化することによって戦争の勝ち負けを決めているんですよ。新しい戦争の方法です、司羽君が思っている様な物ではありません。」


「そうだったんですか………でも聞いておいてなんですが、いいんですか? それって一応機密でしょ? 情報の重要さくらいは自分も分かるつもりですが。」


 司羽が聞いてしまった事を少し申し訳なく思いながらそういうと、ミリクはまったく気にした様子もなく笑った。まるで大したことじゃないとでも言うように。


「問題ありません、本来なら学園教師である私すら知っている筈のないことですから、私の妄想だと思っていただければ。昔私もここの学生だった時、司羽君と同じ事を考えて、独自のツテを使って調べたんですよ。まぁ確かにそんな事で各国のパワーバランスを決めていたなんて知れ渡ったら反対派も出てくるでしょうし、機密にしたいのはわかりますが………私もこれを知った時は失望したものです。もっと凄い組織が黒幕だったりとか、実はこの学園自体が何かの実験に使われてたら面白いのになーとか思って調べていましたから。」


「………凄い学生時代を送ってたんですね……。」


「ふふっ、でも司羽君は鋭い洞察力をお持ちですね。なにせ本来、学園というのは比べる為の機関なんですからね。テストによって実力を測るのは、成績としてその人間の能力を数字で出して、誰かに比べさせる為なのですから。普通、少し形態が分かりやすく変わったところで誰も不思議に思いません。……でも貴方には、この学園のテストがそれとは違う形に見えた。」


「あのー……勘違いだったんですし、恥ずかしいのであんまり言わないでください……。」


 確かに真相は近い部分にあったのかも知れないが、はっきり言って証拠も何もなかったし、そもそもミリクが事の真相を知っているとは限らなかったのだ。なんだか、少し暴走し過ぎた感じがする。どうもこっちに来てから人を疑う事をし続けてたせいか、疑り深くなっていたようだ。


「恥ずかしくなんてないですよ? 今日は司羽君の事見なおしました、私心の中では男の子なんて馬鹿ばっかりなんだろーなーって思ってましたから。貴方は私と同じ所に着目して、結果的に物凄いスピードで疑問を解決したんです。もっと誇るべきです♪ 間違っていたとはいえ、筋が通った推理でしたし。」


「……………。」


 さり気なく自分を褒めちぎったり、人類の半分に対して凄く失礼な事いったりしてるし、ここら辺は本当にミリク先生だなーと思う。


「んー、まぁ私を楽しませてくれたお礼にここらで止めてあげましょう。その代わりに二つ、私が質問に答えた分だけ、私からも質問があるんですけど、答えてくれます?」


「………答えられることなら答えます。」


「まったく、ずるいですねー司羽君は。まぁ、いいです。」


 何を聞かれるのかは知らないが、取り敢えずこの人が俺に有利な事を聞いてくるはずはない。取り敢えず何を聞かれてもスルー出来るように準備しておかないと………とはいえ、自分の無茶な質問に答えてくれた分はなんとか答えないといけない気もするな……。


「そんな難しい事じゃありませんよ。まず私が聞きたいのは、貴方が本当はどこから来たのか。」


「それ、言わなきゃ駄目ですか?」


「気になっちゃいます、夜も眠れません、代わりに司羽君が私を寝かしつけてくれますか?」


「………地球って場所から来ました。場所は知りません、座標なんざ調べたことないし。」


「ふーん、そんな国も地名もこのエーラには存在しないし、やっぱり別世界から来たみたいですね。魔法も知りませんでしたし、その線が濃厚です。」


 ……結構適当に答えたつもりだったのに完璧に読まれてる………あーもう、本当にやりにくいなこの先生……。


「ふふふっ、その顔は当たりですね?」


「いえ、呆れてるんです。」


「否定しないっと、確定ですね、これは。」


「……………。」


 あー、本当にもうヤダこの教師……。それに、なんだかこの秘密っていまいち守れてない気がする。結局最初の関係者以外にもバレちゃったし……。


「それでは二つめの質問です。」


「はいはい、もう勝手にしてください。後先に言っておきますけど好みのタイプとか聞かれても知りませんからね?」


「大丈夫ですよ、私が聞きたいのは……司羽君が経験した戦争について………で……。」


「……へぇ………?」


「………司羽君……?」


「成程、さっきの俺の反応から経験者だと思ったんですね? で、何を知りたいんですか? 経緯? 結果? それともどんな作戦が使われたかとか?」


「え、いや、あの……ですね? わ、私が聞きたいのはそういう事ではなくて……。」


「じゃあ、なんです? 軍事的な物以外ですか?」


 なんだ、はぎりが悪くなったな。ミリク先生らしくもない……。それより、なんで震えてるんだ、この人。


「あ、あ、えと、私が聞きたいのは……せ、戦争状態の国が……和解する方法………を……。」


「なんだ、そういう事ですか。俺のいた場所だと、負けてる国が賠償金を払ったりしましたね、他にも自国の持つなんらかの権利を相手に譲り渡す場合が多いです。あーでも、これって和解って言いませんよね? お互いが本当に理解、尊重し合ってっていうのは聞いたことないかな……すいません、俺が説明できるのはこのくらいです。」


「え? あ、ああ、はい、ありがとうございます!! 参考になりました。」


 なんだか、珍しくまともな事聞いてきたな。いや、そっちの方が助かるんだけどな。しかし……和解の方法とは、またなんでそんなの知りたがったんだろう。こっちの世界だと和解して終わったことがないのか? まぁ地球の歴史でもちゃんとした和解なんてないのかもしれないけど。司羽がしばらくそんな事を考えていると、視線を逸らしていたミリクが、いつもより表情を堅くして司羽に視線を送って来た。


「……あの、司羽君……? ……もう、怒ってませんか……?」


「……えっと、何がです?」


「い、いえ、分からないなら良いんです……。それなら、取り敢えず、向こうの世界の事とかもうちょっと教えて欲しかったりするんですけど……。文化とか、そういう事を。」


「……仕方ないですね……少しだけですよ?」


 司羽がそういうと、ミリクはホッとしたように胸を撫で下ろした。その一連の動作の意味は、司羽には分からなかったが、ミリクの質問攻めはトワが戻ってくるまで続いた。

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