表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第二章~恋の矛先~
16/121

第14話:始まりの鐘の音

前回までが『異世界隠れんぼ』のリメイクになりますので、その頃から見ていただいている方には今回からが続きという形になります。

初見の方や、久しぶりな方の為に説明やキャラ紹介に重点を置いているため、一話から御覧頂いている方は見ていただかなくても特に支障はありません。

「それで? 僕抜きで話は進んでいたわけかい?」


 場所は西洋の城の様な建造物の庭に設置されたカフェテラス。

ここは学院と呼ばれていて、魔法と学問を学ぶ場所である。

学院生の年齢にはかなり幅があり十二から二十ニ歳くらいまでの年の学生がいる。今話をしているのはこの学院の学生で少しパーマのかかった金髪に、同じ色の瞳、美形と言えなくもないが親しみやすい雰囲気がある少年だ。少年はつまらなそうにそう言いながら自分の向い側に座る少年を見た。まさに不満満点と言った感じだ。


「悪かったと思ってるよ。ムーシェの協力にも感謝してるって。」


 黒い髪に真紅の瞳を持つ調った顔の少年、萩野司羽はぎのつかばは向い側の金髪の少年、ムーシェに苦笑しつつ返す。

今の二人の会話と言うのは先日解決した騒動の事だ。司羽が科学により成立っていた地球から、魔法によって成立つ、このエーラと言う世界へと来る原因となった騒動である。司羽はこの世界で育ったわけではなく、少し前に起こった騒動によりこの異世界に魔法で飛ばされたと言うわけだ。


「だが、結局こっちに残る事にしたんだろう? 本当にいいのかい?」


「ああ、こっちで暮らすよ。学院にも今まで通り通う事にしてる」


「そうか、まぁ僕としてもあまり帰って欲しくはなかったし、安心したよ」


ムーシェがそう言って自分のカップを傾けた。

司羽は向こう側ではその容姿と、とある事情により友人と呼べる者がいなかったため、こういった言葉は素直に嬉しかった。

とある事情と言うのは家庭の問題で、司羽の父親が世界に名高い戦闘武術萩野流の師範であり、家が萩野流本家であったが為に司羽は嫉妬と奇異と期待の視線に晒され、人が寄り付かなかったのだ。

それもあり、司羽は萩野流から決別しようとしたが、父親は『それならば俺を倒してみろ』と言うのでケンカになり、司羽は最強の武術の師範である父親を自己流武術であっさりと倒してしまった。だがそれが原因で父親から『自己流武術の師範となれ』と言われ、困っている時に一人の少女が司羽をこの世界につれて来たのだ。


「あ、そろそろ時間だね。確か移動教室だったし、早めに行くとしようか。」


「次は混合クラスだったか?」


 学院のクラスにはAからE、更にそれぞれ『A+』『A』『A-』の様な物もあり計15クラスである。A+が最高、E-が最低で、入れ替え試験によりクラスが変わる。だが年齢がバラバラなため学問の授業に限り、同じアルファベットの同じくらいの年齢の生徒を集めるのだ。


「ああ、次は自然学だ。僕はどうも苦手だけどね」


「俺はそこそこ楽しいけどな。この世界の自然は意味不明で面白い。」


「まぁ司羽は魔法以外の成績は良いしね。なんでこの世界の歴史を僕達より詳しくなるんだか。」


 ムーシェはそう言って溜息をついた。司羽は魔法を使えない為に、現状魔法の実技系は全て0点だ。学科の成績はそこそこなので補習こそ免れているが、正直この世界の人間ではなく、適正もない司羽に魔法を使えと言っても無理な話だ。司羽がそう思っていると、後ろに知った気配を感じて振り向いた。


「あら司羽、こんな所で何してるの? もう授業始まるわよ?」


「ミシュ、お前こそ授業だろ?」


 司羽が振り向くと漆黒の長く豊かな髪を持った少女がクスリと笑った。

そのミシュと呼ばれた少女の本名はミシュナと言って、司羽より2つ下の15歳である。腰まで届く長い髪は小柄なミシュナの体の前や同じく漆黒の左目にも掛かっていて、とても美しい少女なのだが、人見知りが激しいのかいつも気配を消しているので目立たない。そのくせ司羽をからかって遊んだりする不思議な少女だ。だが、司羽が元の世界に帰る為に尽力してくれた一人でもあり、最も司羽の事を案じていた一人でもある事を司羽は良く知っていた。


「ふふっ、私はサボりだから問題ないわ。」


「いや、問題とする所が間違ってるな。シノハ先生に見つかったら説教されるぞ。」


「残念でした、あの無駄に熱血な教師は自然学の教師じゃないわ。ちゃんと教師は調べてあるのよ。」


「……ほぅ、私が教師じゃなければサボるのか。」


「……え………?」


 ミシュナはギクリと体を強張らせ、そして恐る恐る後ろを振り返る。するとそこには『くのいち』の格好をした黒髪ポニーテールの教師がニヤリと笑っていた。シノハと言う名前でA+クラスの担任の内の一人だ。格好を見るとどう見ても『くのいち』だがエーラの住人である。


「さてと、俺達は行くかムーシェ。」


「そうだね、授業に遅れたら色々と大変だしね。次はミリク先生だし。」


「なっ……ちょっと待ちなさい!! 司羽!!」


「ミシュナ、無駄に熱血で悪かったな……?」


「え、いや、それは……。」


 司羽とムーシェはシノハに掴まったミシュナの抗議の声を取り敢えず放って置いて教室へと向かった。










「それでは書物35ページの食肉植物を開いて下さいね、ちなみに実物はこれです♪」


「み、ミリク先生!! なに本物持って来てるんですか!?」


「だって実物あった方が分りやすいでしょ♪」


 生徒の一人がツッコミをいれるのにも関わらず、教卓でかなりヤバイ感じの植物をつついているのはミリクと言うA+クラスのもう一人の担任である。ピンク色のウェーブのかかったロングヘアーに抜群のスタイルと言うかなり綺麗な人なのだが、幼馴染みであるシノハやいたいけな生徒を苛めて遊ぶような人でもあり。実はかなり腹黒い人だと言う噂もある人である。夜中ミリクの部屋からシノハのあられもない声が聞こえてくるとかこないとか。


「ミリク先生危ないと思うのですが? 食肉植物は人を簡単に襲いますし……。」


「あらムーシェ君、どんな生物でも自分の命を粗末にするような行動は取らないわ。ちゃんと教育しておいたから大丈夫よ♪」


「利口ですね。なるほど……食肉植物には知性があるんですね。」


「いや、司羽。今教育って言葉をスルーしたよね? いや、そんな『何が?』みたいな顔しないでくれよ。僕はスルーしちゃいけないと思うんだけど。」


 司羽はムーシェの言葉の意味が分からないと言う様な顔をした。いや、本当はかなり危ないと思っているのだが今ツッコミを入れたら『後で生徒指導室で教えてあげます♪』とか『司羽君が家でやっている事ですよ♪』とか返されても困るので敢えて何も言わない、言えない、言いたくない。


「では食肉植物さん口を開いて下さいね♪」


パカッ


「はい、このように全ての部分が物をひきちぎるのに特化していて。特に顎の力は人間よりも強力です。しかし大した強度はなく、このように」


バキッ


「顎を壊せば全く怖くありません♪」


「先生、その顎はどれくらいで元に戻るんですか?」


「司羽君は相変わらず良い質問ね。大体一週間くらいで元に戻るんだけど食肉植物は二週間何も食べなければ死んでしまうの。だから一週間何も食べていないこの子は…。……さて、最初の行を番号八番の人が読んでくれる?」


「……はい……。」


 何とも気まずい空気の中食肉植物の生き方についての文章が読まれていく。そして時は過ぎて……。










「司羽ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「うわっ、ルーン!! 危ないから飛び付くな!!」


「けちー。」


「ケチじゃない。」


 授業が終わり、元の教室に戻った司羽に飛び付いて来たのは、この学院の首席であり、司羽の半永久的な居候先の主であり、司羽をこの異世界に連れて来た張本人であるルーンと言う少女だ。

とても小柄な十五歳で金髪碧眼、とても活発な印象を受ける美少女である。長い髪は今はツインテールにしているが、主に髪は司羽が整えており髪型が司羽の気分によって変わる。何故かと言うと理由は簡単。ルーンは朝がとても弱く学院にも司羽に背負ってもらいながら来ていて、放っておくとボサボサのまま一限目を受けてしまう。その為、司羽が髪を梳かして結っているのだ。最近朝食を含む家事も司羽がやっていて、半分お母さんの気分になっている。


「あのね司羽、今日はリアと一緒に用事があるから先に帰っててくれる?」


『委員会の仕事なんです』


「ああ、分かった。」


 筆談で話し、黒いローブで全身を覆ったリアと言う少女はルーンの親友であるが、正体は不明であり、司羽は前に髪の色だけ確認させてもらった事があるので髪の色が水色と言う事だけしか分かっていない謎な少女である。


「と言うよりも、俺もマスターの所に寄って行くから多分ルーンより遅くなるぞ?」


「うん、分かった。……ところで前から思ってたんだけど、マスターって誰?」


おとこだ。」


「え……?」


 ルーンはぽかんと口を開けて何言ってるのこの人みたいな顔で司羽を見た。


「マスターは男でありおとこでありマスターなんだ。」


「……ワケ分かんないよ……大丈夫、司羽?」


『ルーン、もう時間ですよ。遅れたらシノハ先生が怖いです。』


「あ、うん、そうだね。司羽、あんまり遅くならずに帰って来てね? お料理作る時間も考えると、お腹空いちゃうから。」


「今日はルーンの当番じゃなかったか……?」


「うん。でも、一緒に作りたいなーって……。あ、それじゃあ行くね?」


 ルーンの言葉に同じクラスの女子から黄色い悲鳴が飛んだのは取り敢えず気にしない事にする司羽だった。









「来たか。」


「……なんか最近ミシュがここに入り浸ってる気がするな。」


「気にしないの。」


 司羽が、外から見るとウェスタンな酒場風のバーに入ると何やら寛いでいるミシュナと安楽椅子に座ってグラスを拭いている眼の傷を眼帯で隠したダンディーなマスターを見付けた。


「ミシュナは最近毎日来ているな。」


「マスターは余計な事言わないで。……だって家に居ても退屈だし、私人付き合い苦手だもの。そう言う司羽だってかなり来てるじゃない。」


「俺もここくらいしか来る場所がないし、ここは人が居なくて落ち着く。」


「……俺の店に人が来ないみたいな言い方だな……?」


「事実でしょ。」


「俺も見た事ないな。」


 二人が口を合わせてそう言うとマスターは誤魔化すようにグラスを二つ並べた。それを見てミシュナの顔が引きつった。ミシュナはアルコールが嫌いなわけではないのだが、ミシュナはアルコールがかなり低い桃のカクテル一杯で倒れた程に酒に弱いので当たり前といっては当たり前だが。ちなみにこの世界には未成年と言う言葉すらないらしい。


「まぁいいわ、司羽もいるし。」


「倒れる気満々だな。その安心のしかたはどうかと思うぞ?」


「倒れたら司羽に泊めてもらうわ、襲われる心配は首席を見る限りは皆無だし。」


 そう言ってミシュナはグラスを手に取った。ミシュナの言葉を聞いてマスターはフッと笑った。


「……大丈夫だ、アルコールは前回の半分以下だから……。」


バタッ


「「…………」」


 台詞の途中でミシュナに倒れられてマスターは少々苦い表情になった。司羽は苦笑してグラスを傾ける。


「……アルコールの匂いがしませんね。どれだけ過敏なんだか……。」


「……まぁな………俺の失態だが、連れて帰ってくれるか?」


「……分かりました。」


司羽はもうルーンは帰って来ているかなぁ。と考えながら帰りに切らしている頭痛薬を買っていこうかと思案した。



おはようございます、こんにちは、こんばんは、八神です。前作の隠れんぼを読んでくれていた方に取っては久しぶりと言う事になりますね。何はともあれ新章開幕となります。出来るだけペースを上げて書いて行くので、皆様宜しくお願い致します。それでは感想や評価の方、作者の励みになりますので、宜しければお願い致します。それでは、次の話で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ