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異世界と絆な黙示録  作者: 八神
第七章~夢の先へと往く者よ~
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第114話:彼と彼女と彼女の特別な日(前編)

「それではこれで、お手続きは完了致しました。おめでとう御座います、末永く御幸せに♪」


「ありがとうございます。それじゃあ二人共、行くぞ。」


「ええっ、うふふっ♪」


「うん、司羽……えへへっ……。」


ぎゅーっと両腕を抱き締められた状態で立ち上がると、ふにゃふにゃになったルーンとミシュナも同時に立ち上がった。


『戸籍課 婚姻お手続き窓口』


そう書かれた看板のあるゲートを出て、三人で街役所から出ると、まだ寒い外の空気を和らげる暖かい日差しが、三人を優しく包み込んでくれた。


そう。今日は此処に、三人の新しい一歩を刻みに来たのだ。


そして、なんとか無事に終わることが出来た。たった数枚の書類上の出来事だったが、とても素敵な時間だったのだと、隣に立つ二人の顔を見れば分かる。



「いやー……それにしても、戸籍がないなんて当たり前の事に気付かなかったなんて……俺、相当こっちに染まってるな。久し振りに焦って、なんか冷や汗が出たよ。」


そう言って、司羽は苦笑した。それは、受付が始まって直ぐの事だった。婚姻届を受理する際の手続きで、色々と基本的な事を聞かれたのだが、その中に本籍に関するものがあって、咄嗟に答えられなかったのだ。


「案外気付かないものだよな。まさか別の星から来ましたー、なんて言う訳にも行かないし。この街そういうの緩いから忘れてたよ。」


「うん、私も全然気付かなかったよ。お姉さんに本籍聞かれて、あれ? これ役所破壊した方が良いのかな? って迷っちゃった。」


「いやいや、止めなさいよ。私はうちの学生証が発効されてる時点で大丈夫だとは思ってたけど、後でちゃんとマスターにお礼に行きましょ。」


「そうだな。色んな報告も兼ねて、今度挨拶に行こうか。」


そのやり取りの結果だけを言うなら、学生証を見せたら何とかなった。どうもその辺りは学生証を作る際に必要との事で、マスターが良い感じに偽造してくれていたらしい。最近忙しくてあまり顔を出せていなかったので、今度改めてお礼を言わなければいけないだろう。


……さて、何はともあれ。


「それじゃあ、今日の予定も済んだし……。」


「デートしたいっ!! 司羽、私デートしたいなっ♪」


「デートか。あ、でも、もうそれなりの時間だけど、良いのか? あんまり色々行けそうにないけど。」


腕時計で時刻を見ると、もう既に3時を回っている。家ではトワとユーリアが夕食の支度をしている筈だ。今から行くとなると、それなりに限られた範囲になってしまう。


「うーん、三時間くらいかな……ねぇミシュナ、どうする?」


「ん……そうね。良いんじゃないかしら、三人で出掛けた事って、そう言えばないし。三時間くらい、商店街の方に行くだけでも楽しいわよ。」


「……そう言えばそうか。学園の帰りとかも、何だかんだ直帰してたしな。」


今思えば、三人だけで何処かに出掛けた記憶はない。もしかしたら、ルーンとミシュナがお互いに遠慮していた部分もあったのかも知れない。二人のどちらかと一緒の事はあっても、三人でと言うのは今日が初めてだ。

なら、今日は初めてに相応しいかも知れない。


「……商店街か、そうだな。よし、じゃあ行くか。」


「やったあ!! えへへっ、流石は私の旦那様っ……。」


「私たちの……でしょ? 私の夫でもあるんだから!! ねっ……あ、あの………あ、あなた……?」


「ぶっ、ごほっごほっ!? 美羽!? い、いきなりどうしたんだ?」


「ぅっ~……い、言ってみただけっ!! それに、つ、司羽は私達の夫になったんだから………い、一番特別なのよ?」


「………これは、今夜もミシュにゃんの予感がするにゃん。」


「し、しない!! しないわよっ!?」


「……ルーンも美羽も、此処街中だからな? 周りに人が沢山いるからな?」






ーーー

ーーーー

ーーーーー







「んー、ねぇミシュナ、これなんかどう? 意外に似合うかも。」


「え、何それ、穴が空いてるじゃない……人の着るものなの?」


「……あのさ……。」


「司羽は? これ、家用でミシュナに着けて欲しくない?」


「って、それ私のなの!? 自分の選びなさいよ!!」


「私は司羽が選んだものしか付けないし。」


「だからって私のを……って、あれ? ……じゃあ昨日のアレ、司羽の趣味なの?」


「……あーのーさーっ!!」


その司羽の声に二人の新妻が同時に振り替えると、そこには少々疲れた様子で項垂れる司羽の姿があった。その姿を見て、ルーンとミシュナは二人で顔を見合せ、揃って小首を傾げた。我妻ながらとても可愛いとは思うが、今はそうじゃない。


「「何?」」


「何って……なんで此処なのさ?」


そう言って、二人から視線を外して周りを見る。

色とりどり、フリルにレースにヒモに様々な下着達、勿論女性用。デパートの中で、恐らく男が最も用のない場所、『女性用下着売り場』である。

ルーンとミシュナがピッタリくっついているお陰で通報されずに済んでいるが、さっきから周りの少女、御婦人の視線が大変痛い。それと店員さんのクスクスと笑う声も。これは罰ゲームなんだろうか。


「良いじゃない。初めてじゃないんでしょ?」


「あははっ、司羽は慣れないねー♪」


「此処に慣れたら終わりだよ。今日は客も多いし、針のむしろ状態なんだけど……。」


そう言っている間にも、同じくらいの年頃の少女二人が、迷惑そうな視線を向けて来ながらひそひそ話をしているのが見えた。

いや、分かってるよ。邪魔だよね、落ち着かないよね。出来ることなら俺も早く退散したい。


「もう……でも、欲しいものを司羽が聞いたから此処にしたのよ?」


「だから、なんでそれでチョイスが下着……。」


「……そ、それは……。」


「ふふっ、そんなのミシュナも司羽に選んで欲しいからに決まってるでしょ? 司羽の好みに合わせて、もっと可愛がって欲しいんだよね?」


「ちょ、よ、余計な事言わないのっ。それは、確かに司羽の趣味とか……知りたいけど……。」


「ぐぅっ……。」


そんな事を言われたら断りづらいじゃないか。しかも、なんか周りからの視線が鋭くなってる気がするし……。

いや、もう今更恥ずかしがっていても仕方がないのは承知してるんだけどさ。


「ねぇ司羽、これとかどう? 最近は黒系が好きだよね? 勿論私もお揃い買うよ?」


「や、やっぱり、これくらい大人っぽい方が好きなの? ……え、遠慮しないでいいわよ? 恥ずかしいのは、家でだけ着けたりとか……く、工夫するから。」


「……う、うーん……。」


……もうここまで来たら、周りの目を気にしていても話が進まないだろうし……、ミシュナの要望通り幾つか選んで早くこの場を立ち去ろう。うん、それがいい。そうと決まれば、善は急げだ。


「……よし、そうだな、確かに大人っぽい方が、って、い、いやっ、それは流石に……美羽には過激すぎないか?」


「そ、そうよね!! ルーンの選ぶのって、えっち過ぎるのよ……。」


「えー……だって、司羽しか見ないんだよ?」


「司羽が見るでしょ!!」


改めて、ミシュナが手に取ったまま真っ赤になってしまった下着を見る。遠目には布地のそこそこある、ちょっと大人っぽい黒のショーツなのだが、近付いて見ると布地部分が完全に透けていた。家でしか着けないと言っても、ミシュナにはかなり難易度が高そうな代物だ。

……ちなみに、ルーンは似たような下着を持っていたりする。ちょっと前に、司羽が冗談半分の興味本位で勧めてしまった代物である……他意はない。ルーンも家では結構頻繁に着けてくれるのだが……本人が気に入っているだけだろう、きっと他意はない。


「せ、せめて透けてなくて、布地のあるのを選んでよ。着けてないのと同じじゃない……。」


「んー、そうかなあ。じゃあこれは? 司羽のものって感じがして、私は好きだけど。透けてないよ?」


「……まあ、ルーンにしてはまと……もじゃないわね。か、鍵付きって……どうなってんのこれ。鍵渡しちゃったら、お、お手洗いとかどうするのよ……。」


「そんなの、その度に司羽に開けてもらえばいいじゃん。家でしか着けないんでしょ?」


「それはそうだけど……恥ずかしいでしょ!! 脱ぐ度に、司羽に、その……。」


「それが良いんじゃん。何処に居ても司羽に支配されてるって感じが……えへへっ♪ ねぇねぇ司羽、どう?」


「うーん……洗濯の時にユーリアが熱出しそうだから、別のがいいかな。」


「……ふーん、そっか。あ、上は鍵ないんだ。」


ついでに俺もこの場で熱出しそうだ。視線が冷たくて気持ちいいなあ、あははっ。とはいえ、ルーンの潤んだ瞳と言葉にちょっとだけゾクッとしたのは内緒だ。

……でも多分ルーンとミシュナには内緒に出来てないんだろうなあ。ミシュナが下着をじっと見つめて真っ赤になったまま動かないし、ルーンは『そっか』って言いながら買う気満々でサイズ見てるし。


「後は……あ、これ凄いローライズ。可愛いけど、下手したら見えちゃうね。これなんかどうかな?」


「ルーン、前後の文脈おかしくない……? ……やっばり黒系で、ちょっとくらい、その……大胆なのが良いのかしら。服とは真逆だけど、司羽、ああいうの好き? ……割りと好きそうね。」


「……あの、返事する前に判別するの止めない?」


「だって、司羽分かりやすいし、素直じゃないし。」


「……ちゃんと好みを知っておきたいから。」


「わあ、察しが良くて献身的な素敵な奥さん達だなあ。」


うん、俺喋る必要ないね。口を開くより先に、もっと正確な情報が伝わってるし。いやー、視線が痛いなあ。早く選んで静かな場所で休みたい。



それと、さっきからニヤニヤしながら口元押さえてる店員。まじで覚えてろよ。

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