(2-3)救出作戦だ!
あちゃー、と子供たちはやってしまった顔をしていた。かなり高い木だ、太い幹で揺すってもびくともしない。木を見ればバルルはふと、木登りをしていたあの頃を思い出す。もっと動きやすい服だったら、助けてやれたんだけどな・・・。
「悪い悪い、取ってくるよ」
ふとシュートした子供が、笑いながら木に登りだした。全身をしっかり使いつつ、ひょいひょいと登っていく様子に、思わずバルルは「おぉ~」と声を出してしまう。買い出しもそっちのけで、子供たちの様子を観察していたのだ。
少年は何事も無くボールまで辿り着き、そのままボールを地面に落とす。そこで安心しきったのか、「お疲れー」「早く再開しようぜー」と呼ばれたからか、急いで下りようとして・・・彼はバランスを崩してしまった。
「あっ!!」
少年はなんとか、左手で枝を掴めたようだ。だがここまで登って疲れたのか、腕の力が上手く入らず、乗っていた枝に戻れない。それに彼がいるのは枝の先端部分、下手すれば枝が折れてしまう。
数メートルはくだらない高さだ、このまま手を離せばそのまま固い地面に叩きつけられるだろう。バルルも幼少期、それなりに木から落ちる経験はしている。その時、下はフカフカの草っ原なので、そこまで大怪我していない。だが、地面が固い今は・・・。
このままじゃ、アイツが危ない!バルルは買った大きめの布を引っ張り出して、すぐさま子供たちの元へ駆け寄った。
「お前ら、下でコレ広げてろ!」
「え、お姉さん・・・誰!?」
「いいから!このままじゃアイツ、大怪我どころじゃすまねぇぞ!!」
女声でありつつ、乱雑な言葉遣いで決死に呼びかけるバルルに戸惑いながらも、少年たちは慌てて言うとおりに動く。その間にもバルルは動きにくい靴を脱ぎ、袖まくりをして、ヒョイと木登りを始めた。枝の痛みなど気にせず、葉っぱをかき分けて、少年の半分の時間で登っていく。そして少年の少し下まで近寄れると、彼に対して呼びかけた。
「おーい!聞こえるかー!!」
だが少年はパニックになっているようで、バルルの声に何1つ応じられない。枝は今にも折れてしまいそうだ。どうしようと焦っていると、ふと・・・前世で似た経験をしたことを思い出した。登りすぎたが故に、高くて怖くなりパニックになってしまった自分を。
(だったら・・・落ちたところを、上手くキャッチするしかねぇ)
その時はそうやって、兄に助けられた。パニックになる自分に、兄はただ全身で受け止めてくれたんだ。2人で母からこっぴどく怒られたが、そうして助けられたから。同じ方法で、救えるかもしれない。
下に布が広がっていることを確認したバルルは、その時を今か今かと待つ。正直不安と恐怖で震えるが、それでも何も出来ずに指をくわえてなどいたくない。ここまで来られたことを自信にして、準備をするだけ。
そして、遂にバキッ!!と鈍い音が響いた。悲鳴を上げて頭から落ちてくる少年、バルルは意を決して少年の真下に飛び込んだ。
頭が下のままでは、頭からぶつかる。命が危ないと、本能が瞬時に察知した。なんとか方向転換しようと、バルルは民家の壁を無理矢理蹴り飛ばし、自分の背中側を地面に向けていく。必死に少年を胸に抱きしめる内に、子供たちが準備をしてくれた布にドシン!と落下した。思ったより大きな音が出たが、互いにそこまで怪我をせずに済んだ。
ギャンギャンと泣いている少年を、大丈夫かよ~と笑いつつも、懸命に慰めるバルル。本当は注意する場面だろうが、彼女には既に安心感で頭がいっぱいだった。叱るのは、別の大人に頼むとしよう。
「し、尻が痛てぇ・・・でも良かった、助かって」
「う、うぅ・・・ゴメンなさい。本当にありがとう」
「さっきの木登りとか、凄かった!」
「キャッチとかも格好良かったよ!」
格好いいと直接言われて、バルルは心が躍る。言われたかった言葉を何度も投げかけられて、嬉しくないわけが無い。
買ったばかりの布をヨレヨレにしても、全身を葉っぱまみれにしても、道草を食って帰りの時間が少し遅れても。自分の力で誰かを助けられたことを、誇りに思うバルルだった。