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(2-2)自分を見せたい、けど

ガバッと飛び起きたのは、目標時刻の5分前。服だけ着替えて、ドタバタと集合場所に駆け出していくバルル。無事に時間通りに来られたとはいえ、ボサボサ髪が相変わらず目立つ。サリーは「はぁ~」と大きなため息をしつつ、バルルに指示を出した。


「バルル・カーブ、今日は買い出しを頼むわ。買うモノは全て指定するから、無駄遣いや油を売らないように。勿論、外に出るときは身だしなみを整えなさい」


「承知しました!」と元気に返事をした後、バルルは簡単に髪をとかし、近くの町へと向かった。屋敷に来てから初めて外に出る。久々の外で、とにかく体を動かしたくて堪らない。だがキチッとされたメイド服が、大胆に動くことを拒む。


「あーぁ、どうせなら私服で行きたかったなぁ。確かにフリフリじゃないし、着やすいけどさぁ」


自分が着やすいようにと、バルルがメイド服を破ったことに頭を抱えたサリー。「古いデザインだからいくらでもやりなさい」と、飾りないモノトーンのモノを用意してくれたのだ。スカートであることを除いて、とても動きやすくて気に入っている。


(ま、用意してくれただけ感謝しないとか。自分じゃ絶対服の仕立てとか出来ないし)


そう考えると、自分は人に恵まれているのだろう。前世を羨んではその日々を懐かしんでいたが、今もそうではないらしい。ちゃんと見てくれる人がいるのだから。もしかしたら、強くなることもワンチャン許してくれる・・・とは、おめでたいだろうか。なんて考えている内に、町に着いた。


「えっと、アレとコレと・・・うへぇ、思ったよりいっぱいあるなぁ。これを1度で?まぁトレーニングがてら頑張るかぁ」


もしかしたらあの有り余る体力を見込んでくれたのかも?なんてまた良い方に解釈しつつ、買い出しを始めたバルル。やはりメイド服ともあってか、店員からは「スイーパー公爵家で働く使用人」であることは、すぐに分かるらしい。


「おや、スイーパー公爵家の使用人でしたか!こちらの布、最近入荷したモノでね。若い貴族を中心に流行しているのですよ」


「使用人さん、いつもご贔屓に。この香辛料、今王都で話題の輸入品ですのよ。よければどうでしょうか?」


何か買おうと近寄る度に、店員は「使用人様!」とへりくだり、さらに商品を勧めてくる。いわゆる商人魂というやつか。


しかし何を言われても、こちらの知識が追いついていないバルルには響かない。むしろ「頼まれてないので良いです」と率直に断り、ただただ決められたモノを買っていく。こうした素直さで買い出し役に抜擢された、なんて気付けば軽くショックだろうか。まぁ当の本人は、全く気付いていないが。


買い出しは済んだがもう少し歩いてみようと、路地裏を進んでいくバルル。ふと辿り着いた空き地で、子供たちがきゃあきゃあと遊んでいる様子に立ち会った。この世界には野球やサッカーといったスポーツは無いが、それらしい遊びは色々ある。薄汚れた服も気にしない少年たちは、オンボロなボールを蹴って遊んでいるようだ。


バルルはうずうずした。やんちゃが許された前世や幼少期を思い出し、やっぱ遊ぶのは楽しいよなとしみじみする。でもあの頃は、ずっと1人で駆け回ってばかり。あんな風に誰かと遊ぶことは、前世での記憶しか無い。


15歳は、この世界ではそれなりの年だ。既に侍女として働いている以上、もう自由に遊んで良い立場ではない。それでも、どこか体の奥が疼くのだ。幼少期の心残りが、まだしぶとく支配しているのだろうか?


(・・・いや、これがオレなんだ。オレが好きで、本気になれて、本当の自分でいられるのが、あぁやってはしゃいでいる時なんだよ)


成長は「我慢すること」だけじゃない。「変わりたくないモノを探すこと」でもあると、バルルは信じたかった。やっぱりオレ、もっと明るくいたいよ。借りてきた猫のように、大人しくするなんて、性に合わないし・・・。


そんな考え事をしている間に、バシュ!と大きなシュートの音がする。とある子供によって蹴られたボールは、バルルの頭を遙かに超えて天を仰ぎ・・・3階建ての家の高さはある、木の枝に引っかかるのだった。

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